生産農家の想いを一皿に——2026年新春、twlvで紡がれた食の原点回帰

三重県松阪市に、不定期で開かれる12席限定の食のイベントがあります。「twlv club」と名付けられたこの空間は、毎回異なるシェフを招き、一夜限りのコースを提供する実験的なキッチンスタジオです。

2026年1月18日、新春最初のtwlv clubに集結したのは、「TAVERNA Kenta」の平生健太・良太兄弟と、「すし貫」の宮原健輔シェフ。そして、強い想いを持って食材を育てる3組の生産農家たち。テーマは「その食材が一番おいしいと思う食べ方」でした。

キャベツ、ネギ、椎茸、イチゴ——普段は脇役になりがちな食材たちが、この夜は主役として輝きます。生産者の想いとシェフの技術が交差する、twlvの原点ともいえる一夜が幕を開けました。


生産者とシェフが出会う場所

今回のイベントには、3組の生産者が参加しました。さかのした農園の小田博子氏が育てるキャベツ、C’s farmersの松島駿介氏が手がけるネギ、そして小さな農園髭苺の金谷元貴氏が丹精込めて育てるイチゴ。さらに、田上きのこ園の原木椎茸も加わり、三重の大地が育んだ食材たちが一堂に会しました。

料理を担うのは、TAVERNA Kentaの平生兄弟とすし貫の宮原シェフ。イタリアンと和食という異なるジャンルのシェフが、生産者の想いを受け取り、それぞれの技法で食材の魅力を最大限に引き出していきます。


「一番おいしい食べ方」という問い

映像の中で、平生シェフはこう語ります。

「熱意を持って作ってる農家さんたちと一緒に、リッチな食材じゃなくて、本当に身近にある食材を、一番おいしいと思う食べ方でお届けしたい」

twlvという空間だからこそ成り立つ試みです。高級食材ではなく、日常の食材を主役に据える。その食材が最も輝く瞬間を、生産者とシェフが一緒に追求する。2026年最初のイベントは、twlvの原点に立ち返る企画となりました。


三重の食材が主役のコース

コースは2部構成で展開されました。第1部では、さかのした農園のキャベツをカニと合わせた一皿からスタート。甘みの強いキャベツの持ち味を、カニの旨みが引き立てます。さらに2種類のキャベツの食べ比べも登場し、品種による味わいの違いを楽しめる趣向が凝らされていました。

C’s farmersのネギは、芯の部分をマグロと合わせたネギ巻きに。ネギの甘みとマグロの旨みが絶妙に調和する一品です。田上きのこ園の原木椎茸は、牛ステーキと組み合わせ、肉厚な椎茸の存在感が牛肉に負けない力強さを見せていました。

デザートには、小さな農園髭苺のイチゴが登場。メインの品種は「四つ星」、そこに「雪桜」や「ベリーポップスズ」といった希少な品種も加わります。甘くて香り高いイチゴを、クリームチーズの茶碗蒸しにイチゴソースを合わせるという意表を突く仕立てで提供されました。

和とイタリアン、ふたつのジャンルの技法が交差しながら、すべての料理に共通していたのは「食材そのものへの敬意」。シェフの技術は、食材の魅力を引き出すための手段に徹していました。


食材を作る人、料理する人、食べる人

映像には、生産者たちの表情が印象的に映し出されています。自らが育てた食材が、シェフの手で料理へと昇華されていく過程を、生産者の皆さんは目の前で見届けます。

食材を作る人、料理する人、そのすべての想いが一皿に込められる。twlvが目指しているのは、そうした「つながり」が生まれる場所です。生産者がただ食材を納品するのではなく、同じテーブルを囲みながら、自分の食材がどう料理されるかを見届ける。この距離感こそが、twlvならではの価値です。

12席という限られた空間だからこそ、食材を作る人と料理する人と食べる人の距離が近い。その親密さが、食体験をより深いものにしています。


制作ノート

この撮影で印象に残ったのは、生産者たちの表情の変化でした。自分が育てた食材がシェフの手元で姿を変えていく工程を、生産者の方々は普段ほとんど目にすることがありません。

「一番おいしいと思う食べ方は?」——この問いを投げかけたとき、即答した生産者はいませんでした。毎日その食材に触れている人ほど、答えるのに時間がかかります。この数秒の間合いが、撮影を通じて最も密度の高い瞬間になりました。

イタリアンと寿司。同じ食材でも、シェフが変われば切り方も火入れもまるで違います。同じキャベツがまったく別の一皿になる過程を、育てた農家本人が目の前で見ている——この構図は、twlv clubでしか生まれません。

4分の映像に収めきれなかった場面の方が多くあります。ただ、残ったものだけでも、この夜に何が起きていたかは伝わるはずです。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。