ポッドキャストを紹介する記事では、「音声は距離が近い」という説明がよく使われます。この感覚には、実験で確かめられた機序があります。
鍵になるのは、頭内定位と呼ばれる現象です。イヤホンやヘッドホンで音を聴くと、聴き手は音の出どころを外側の空間に置けなくなり、頭の中で鳴っているように感じます。この定位の変化が、話し手との心理的な距離を縮めます。
この記事では、2022年に発表された事前登録の5実験を軸に、周辺の研究を並べます。音量の大小では説明できない部分がどこにあるのかを、数値とあわせて書いていきます。
頭内定位とは何か
スピーカーから流れる音は、部屋のどこかで鳴っています。聴き手の耳には、左右で少しずつ違う時間差と音量差が届き、脳がそこから音源の位置を計算します。
イヤホンやヘッドホンの場合、この計算がうまく働きません。音が左右の耳へ直接入りますので、聴き手の脳は外の空間へ位置を割り当てられなくなります。聴き手が感じるのは、頭の内側で音が鳴っているという感覚です。この現象を、音響の研究では頭内定位と呼びます。
日常では、聴き手がこの感覚を意識することはほとんどありません。ところが、話し手をどう感じるかという評価には、この定位の違いが入り込みます。
4,000人超の実験で出た数値
Lieberman、Schroeder、Amir の3氏が、2022年に5つの実験を発表しています。掲載は Organizational Behavior and Human Decision Processes 第170巻104133番です。実験には事前登録があり、参加者はのべ4,000人を超えます。
研究1の有効な標本は797人でした。研究チームは同じ音声メッセージを、ヘッドホンとスピーカーのそれぞれで聴かせています。
| 聴取の条件 | 話し手への近接感(平均) |
|---|---|
| ヘッドホン | 4.65 |
| スピーカー | 4.21 |
2つの条件の差は d=0.28 にとどまります。小さい値にとどまるものの、この差は聴く機器を変えただけで生じています。
研究チームが媒介分析で確かめたのは、この差の経路でした。ヘッドホンで聴くと頭内定位が起こり、その定位が話し手との近さの感覚を高めます。近さの感覚は、その先で温かさの判断や共感、説得の受け入れまで変えています。
支援行動が30%と14%に分かれた実験
同じ研究には、行動を測った実験も含まれています。
研究チームは、CEOからのメッセージを参加者に聴かせました。そのうえで研究チームは、参加者が支援の意思を示す手紙を書くかどうかを観察しています。
| 聴取の条件 | 支援の手紙を書いた割合 |
|---|---|
| ヘッドホン | 30% |
| スピーカー | 14% |
聴いた内容は同じです。それでも、実際に手を動かした人の割合は2倍以上に分かれています。
この実験の設計には、注意すべき点もあります。研究チームが扱ったのは一般的な音声メッセージであり、長期にわたって同じ番組を聴き続けた場合の結果には届きません。ヘッドホンで聴くことと話し手を信頼することを、私たちは同じものとして扱えません。
声の自然な揺れが消えると、効果も消える
近さの感覚を決めているのは、機器だけにとどまりません。声そのものの性質も関わります。
Schroeder と Epley の両氏が2016年に発表した実験は、この点を示しています。掲載は Journal of Experimental Psychology: General 第145巻9号です。人が書いた同じ文章を音声と文字で提示したところ、「人が作った」と判断された割合は音声80.8%、文字53.6%になりました(d=.42)。
重要なのはその先です。音程や速度といった自然な変動を取り除いた条件では、この差が消えています。聴き手が手がかりにしているのは、声で伝えられたという事実そのものより、その声に含まれる音程と速度の揺れのほうです。
平板に読み上げた音声をイヤホンで流した場合、近さの感覚が同じように生まれるとは限りません。
親密さを作る4つの条件
ポッドキャストの親密さを、制作の側から分析した枠組みもあります。
Berg 氏が、2023年から2024年にかけて Convergence で4つのパラメータを提示しています。
| パラメータ | 内容 |
|---|---|
| 聴取の状況 | イヤホンで聴くか、一人で聴くか |
| 何を言うか | 聴き手にとっての関連性と、共感できる度合い |
| どう言うか | 声の質と、情動の出し方 |
| 番組の外での交流 | SNS、コミュニティ、聴き手とのやりとり |
この枠組みは、効果量を測るための研究から外れます。それでも、聴取の状況を制作の変数として最初に置いている点が、Lieberman らの実験と重なります。
移動しながら聴くほうが没入する条件
「ながら聴き」は集中を欠くと言われがちです。ところが、逆の結果を示した研究があります。
Scherer と Cohen の両氏が、2025年に条件付きの間接効果を報告しています。掲載は Mobile Media & Communication で、標本は165人です。オンライン公開は2024年でした。
研究チームが確かめたのは、移動中の聴取が物語への没入を通じてホストとの関係の強さに結びつくという経路です。さらに、メディアの同時利用が中程度から高い水準にあるとき、移動が没入へ与える正の働きは大きくなります。
歩きながら、あるいは運転しながら聴くという状況は、注意を奪うだけの条件にとどまりません。身体が動いていることと物語に入り込むことは、両立する場合があります。
ただし、この研究は記憶に頼った横断の調査です。反復して聴くことの因果的な働きまで、研究チームは検証していません。
聴き手がホストに求めているもの
近さの感覚が何から生まれるのかを、聴き手の側から聞き取った研究もあります。
Heiselberg と Have の両氏が、2023年にフォーカスグループの分析を発表しています。掲載は Journalism Studies 第24巻5号631〜649頁です。20組のオンライン・フォーカスグループに、89人が参加しました。
聴き手がホストに向ける期待は、知識、ストーリーテリング、そして関係性の3群に分かれます。このうち関係性に関わる条件として、参加者は次のものを挙げています。
- 魅力のある人格
- 情熱と関与
- 自己開示
- 日常の言葉づかい
- 一定したムード
- 明瞭で力のある声
- ゆっくりしたテンポ
参加者が挙げた条件は、話す内容の外側にも広がります。テンポや声の張り、そして回ごとにぶれない人格が、関係の手がかりとして働いています。
この研究は、期待を聞き取ったものです。実際の関係の強さを、研究チームは定量的に検証していません。デンマークの公共放送の聴取者に偏っている点も、読むときの前提になります。
聴取時間の長さは、関係の強さと結びつかない
「たくさん聴けば親しくなる」という言い方も、そのままでは支持されていません。
Tobin と Guadagno の両氏が、2022年に事前登録した横断調査を発表しています。掲載は PLOS ONE 第17巻4号 e0265806 です。参加者は306人で、ポッドキャストの経験者は240人でした。国籍は英国22%、米国14%、ポルトガル14%ほかに分かれます。
ホストとの関係の強さは、聴取の年数と正の関連を示しています。すでに知っている人物がホストを務める番組を聴くことも、関係の強さと結びついています。
一方で、週あたりの聴取時間そのものは、心理的なつながりや意味の感覚と有意な関連を示していません。関係を作っているのは、1週間に何時間聴いたかという量よりも、何年にわたって同じ声を聴き続けたかという継続のほうです。
関係の尺度は15項目で、項目のまとまりを示す α は .93 です。横断の調査ですので、因果の向きは決まりません。
日本の聴き手が音声を選ぶ理由
日本の実態も見ておきます。ここからは査読を経ていない調査ですので、証拠の強さを分けて扱ってください。
オトバンクが2024年に、20歳から29歳の会社員500人へWebの調査を行っています。今後重視したい社内コミュニケーションの手段として、音声を挙げた人は58.2%、文字を挙げた人は41.8%でした。
社内ラジオを聴きたい理由として挙がったのは、次の3つです。
| 理由 | 割合 |
|---|---|
| ながら聴きができる | 38.2% |
| 時間・場所を選ばない | 32.0% |
| 熱量・想いが伝わる | 31.1% |
3つ目に挙がった「熱量・想いが伝わる」は、ここまでの研究が扱ってきた近さの感覚と重なります。ただし、この調査は音声配信のサービスを提供する企業が行ったものです。導入後の行動や理念の理解までは測られていません。
この研究をどう見るか
ここまで並べた研究は、実験室で用意した音声メッセージと、海外の聴取者への調査が中心です。社員や取引先に音声を届けようとする会社から見ると、離れている点が3つあります。
1つ目は、聞き手と話し手の関係です。Lieberman らの実験で参加者が聞いたのは、自分の知らない話し手の声でした。御社の社員が聞くのは、毎日会っている社長の声になります。
2つ目は、聴取の長さです。実験で使われたのは、一度きりの短い音声です。同じ番組を何か月も聴き続けたときに近さの感覚がどう変わるかを、研究チームは追っていません。
3つ目は、聴く場所です。研究の参加者は、実験の指示に従ってヘッドホンを着けています。御社の社員が自分からイヤホンを着けて聴くかどうかは、別の問題として残ります。
一方で、規模を問わず残る部分もあります。同じ音源であっても、会議室のスピーカーで流した場合と、聴き手が個人のイヤホンで聴いた場合とでは、話し手への近さの感じ方が変わる、という点です。
御社の日常にも、この差は現れます。社内の音声を朝礼の場でスピーカーから流すという運び方と、社員がそれぞれの通勤時間にイヤホンで聴くという運び方があります。同じ音源でも、届き方はこの2つで分かれます。
アストライドの考え
私たちは、ここまでの研究を次のように読んでいます。声の近さは、話し手の話し方だけで決まるものというより、聴き手がどの機器でその声を聞くかによっても決まります。
聴き手が個人のイヤホンで聴くことを前提にした音づくりと、会議室のスピーカーで流すことを前提にした音づくりは、別のものになります。私たちは、この読み方を制作の3つの場面に当てています。
1つ目は、収録の方法です。Lieberman らの実験が示したのは、聴き手が個人のイヤホンで聴くことを前提にした設計の重要さでした。私たちが近接マイクで収録し、過度な処理を避けているのは、声の近さを壊さないためです。会議室のスピーカーで再生することを想定した音作りでは、この近さが失われます。
2つ目は、編集の方針です。Schroeder と Epley の2016年の結果に沿えば、音程と速度の自然な変動を平らにする処理は避けるべきものになります。私たちが取り除くのは「えー」「あのー」といったつなぎ言葉であり、話し手の呼吸や強弱はそのまま残します。
3つ目は、番組を続けるという前提です。Tobin と Guadagno の結果は、1週間の聴取時間より聴取の年数が関係と結びつくことを示しました。私たちが最低の契約期間を6か月に置き、週1回の配信を基本にしているのは、この継続の側に重心を置いているからです。
御社だけで確かめられることもあります。同じ音源を、会議室のスピーカーと、社員のイヤホンの両方で聴いてもらってください。聴いた直後に「話し手はどれくらい近くに感じたか」を7段階で答えてもらうと、御社の音源で差が出るかどうかが分かります。
まとめ
イヤホンやヘッドホンで音を聴くと、聴き手は音の出どころを外の空間に置けなくなります。頭の中で鳴っているように感じるこの現象を、研究の側は頭内定位と呼びます。
事前登録の5実験(のべ4,000人超)では、ヘッドホンで聴いた条件のほうが話し手への近接感が高くなりました。研究1(有効 n=797)の平均は、ヘッドホン4.65に対してスピーカー4.21です(d=0.28)。媒介は頭内定位でした(Lieberman ほか 2022)。
同じ研究のCEOメッセージ実験では、支援の手紙を書いた割合がヘッドホン30%、スピーカー14%に分かれています。
近さの感覚を決めているのは、機器だけにとどまりません。音程や速度の自然な変動を取り除くと、音声の優位は消えます(Schroeder & Epley 2016)。移動しながら聴く条件では、物語への没入を通じて関係が強まりました(Scherer & Cohen 2025、n=165)。
関係の強さと結びついていたのは、週あたりの聴取時間より聴取の年数のほうです(Tobin & Guadagno 2022、n=306)。御社の音源を、スピーカーとイヤホンの両方で社員に聴いてもらい、近さの感じ方を7段階で答えてもらってください。
この記事からわかるQ&A
頭内定位とは何ですか
イヤホンやヘッドホンで音を聴いたとき、聴き手が音の出どころを外の空間へ割り当てられず、頭の内側で鳴っているように感じる現象です。左右の耳へ音が直接入るため、聴き手の脳は音源の位置を計算できなくなります。Lieberman ほかの実験は、この定位が話し手との近さの感覚を媒介することを示しています(2022、Organizational Behavior and Human Decision Processes 170巻104133)。
ヘッドホンで聴くと、どれくらい近く感じますか
研究1(有効 n=797)では、話し手への近接感の平均がヘッドホン4.65、スピーカー4.21でした(d=0.28)。効果量としては小さいものの、この差は聴く機器を変えただけで生じています。同じ研究のCEOメッセージ実験では、支援の手紙を書いた割合がヘッドホン30%、スピーカー14%に分かれています。
平板に読み上げた音声でも、同じ効果は出ますか
出るとはかぎりません。Schroeder & Epley の実験(2016、Journal of Experimental Psychology: General 145巻9号)では、音声と文字の差が消える条件が見つかっています。音程や速度といった自然な変動を取り除いた条件で、80.8%対53.6%(d=.42)という差が消えました。聴き手が手がかりにしているのは、声に乗る揺れのほうです。
「ながら聴き」だと、内容は届かないのですか
そうとはかぎりません。Scherer & Cohen (2025、Mobile Media & Communication、n=165)では、移動中の聴取が物語への没入を通じてホストとの関係の強さに結びついています。メディアの同時利用が中程度から高い水準にあるとき、この経路は強くなります。ただし記憶に頼った横断の調査ですので、因果の証明にはあたりません。
たくさん聴けば、それだけ親しくなりますか
Tobin & Guadagno (2022、PLOS ONE 17巻4号 e0265806、n=306)では、週あたりの聴取時間と心理的なつながりに有意な関連が出ていません。関係の強さと結びついていたのは、聴取の年数のほうです。1週間の時間量より、何年にわたって同じ声を聴き続けたかが関わります。
出典
- Lieberman, A., Schroeder, J., & Amir, O. (2022). “A voice inside my head: The psychological and behavioral consequences of auditory technologies.” *Organizational Behavior and Human Decision Processes*, 170, 104133. 事前登録を含む5実験、のべ4,000人超。研究1の有効 n=797。近接感はヘッドホン4.65/スピーカー4.21(d=0.28)、媒介は頭内定位。CEOメッセージ実験の支援レター行動は30%対14% https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2022.104133
- Schroeder, J., & Epley, N. (2016). “Mistaking Minds and Machines: How Speech Affects Dehumanization and Anthropomorphism.” *Journal of Experimental Psychology: General*, 145(9). 4実験。「人が作った」と判断した割合は音声80.8%・文字53.6%(d=.42)。音程・速度など自然な変動を失わせると差は消える https://doi.org/10.1037/xge0000214
- Berg, F. S. (2023/24). “Analysing podcast intimacy: Four parameters.” *Convergence*. 親密性を①聴取状況(イヤホン・単独聴取)②何を言うか③どう言うか④番組外の交流 の4つで読む分析枠組み https://doi.org/10.1177/13548565231220547
- Scherer, H., & Cohen, E. L. (2025; online 2024). “Ear buddies: A moderated mediation model of the effect of mobility on parasocial relationships with podcast hosts.” *Mobile Media & Communication*. n=165。移動中聴取から物語への没入を経てホストとの関係の強さへ至る条件付き間接効果。メディア同時利用が中〜高水準のとき効果が大きい https://doi.org/10.1177/20501579241264485
- Heiselberg, L., & Have, I. (2023). “Host Qualities: Conceptualising Listeners’ Expectations for Podcast Hosts.” *Journalism Studies*, 24(5), 631–649. 半構造化オンライン・フォーカスグループ20組、N=89、デンマーク。関係性に関わる条件として自己開示・日常語・一定したムード・明瞭な声・ゆっくりしたテンポが挙がった https://doi.org/10.1080/1461670X.2023.2178245
- Tobin, S. J., & Guadagno, R. E. (2022). “Why people listen: Motivations and outcomes of podcast listening.” *PLOS ONE*, 17(4), e0265806. 事前登録・横断調査、N=306(経験者 n=240)、英国22%・米国14%・ポルトガル14%ほか。関係の強さは聴取年数と正の関連。週当たり聴取時間は心理的つながりと有意な関連なし。尺度15項目・項目のまとまりを示す α は .93 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0265806
- Vilceanu, M. O. (2025). “Parasocial Intimacy, Change, and Nostalgia in Podcast Listener Reviews.” *Media and Communication*, 13, Article 9059. Apple Podcast レビュー N=12,105(Radiolab 5,910/This American Life 6,195)、投稿期間2006–2023年の自動意味ネットワーク分析。声・人格・内容の一貫性が評価に結びつく https://doi.org/10.17645/mac.9059
- Kuchinsky, S. E., Razeghi, N., & Pandža, N. B. (2023). “Auditory and cognitive contributions to listening effort.” *Journal of Speech, Language, and Hearing Research*, 66(10), 4066–4082. 被験者内二重課題、米国の正常聴力の若年成人 N=26。雑音下の聴取努力は語の低頻度性と副課題の複雑さに依存する https://doi.org/10.1044/2023_JSLHR-23-00169
- オトバンク「20代社員の社内コミュニケーション調査」2024年。20〜29歳の会社員 n=500、日本、Web調査。今後重視したい手段は音声58.2%・文字41.8%。社内ラジオを聴きたい理由はながら聴き38.2%・時間や場所を選ばない32.0%・熱量や想いが伝わる31.1% https://prtimes.jp/main/html/searchrlp/company_id/3565
- Acast “Podcast Pulse”(Edison Research 実施)2024年8月14〜20日、米国13歳以上 N=1,031。毎日聴取する人の53%がホストと情緒的につながると回答、63%がホストを信頼と回答 https://www.acast.com/en/podcastpulse
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

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