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音質が悪いと、話し手まで低く評価される。PNASの6実験が示したこと

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音質が悪いと、話し手まで低く評価される。PNASの6実験が示したこと

この記事でわかること

  • 音質で採用可能性が7.5ポイント動いた実験
  • 内容の伝わり方は変わっていないという事実
  • 合成音声で差がさらに広がる条件
  • フィラーが何回から評価を下げるか
  • 決算説明会28,515件で確かめられたこと

オンラインの打ち合わせで、相手の声がこもって聞こえることがあります。このとき聞き手の側に起きているのは、聞き取りにくさだけにとどまりません。

2025年、米国科学アカデミー紀要に6つの事前登録実験が掲載されました。研究チームが確かめたのは、同じ言葉を明瞭な音声と安価なマイクのような音声で聞かせたときに、話し手への評価がどう分かれるかという点です。

この記事では、その実験を軸に、音質と準言語の研究を並べます。音質が何を変えていて、何を変えていないのかを、数値とあわせて書いていきます。

同じ言葉でも、音質で採用可能性が変わる

Walter-Terrill らの研究チームが、2025年に6つの実験を発表しています。掲載は米国科学アカデミー紀要(PNAS)第122巻13号で、論文番号は e2415254122 です。すべての実験に事前登録があり、参加者は実験ごとに600人または1,200人です。

研究チームは、あらかじめ録音した発話を2つの条件で提示しています。1つは明瞭な音声で、もう1つは安価なマイクを通したような、こもった音声です。話している内容は完全に同じです。

評価の項目こもった音声明瞭な音声効果量
採用の可能性68.5076.04d=.35(N=600)
信頼性63.4666.90d=.16(N=1,200)

採用の可能性は、7.5ポイント以上に分かれています。研究チームが変えたのは録音の質だけであり、話し手の能力も経歴も言葉も同じままでした。

内容の伝わり方は、変わっていない

この実験でとくに注目すべきなのは、変わらなかった指標のほうです。

研究チームは、参加者が発話をどれだけ正確に書き取れるかも測っています。逐語の転記の正確性は、2つの条件で概ね同等になっています。

つまり、言葉そのものは同じだけ届いています。届いていないのは、話し手が有能で信頼できるという印象のほうです。聴き手は音質の悪さを機材の問題として切り分けず、話している人の評価に持ち込んでいます。

音量を上げれば解決する問題として扱えない理由が、ここにあります。聞こえているかどうかという判断と、話し手をどう評価するかという判断は、別に働きます。

合成音声だと、差はさらに広がる

同じ研究には、合成音声を使った条件も含まれています。

条件こもった音声明瞭な音声効果量
合成音声での採用可能性59.5769.30d=.43

この差は、人間の声のときより大きくなっています。合成音声を使う場面では、音質の管理がいっそう重要になる可能性があります。

この研究の限界も書いておきます。実験の刺激は英語の短い録音であり、参加者が行ったのは仮想の判断にあたります。実際の会議のやりとりや、長時間の接触、そして本当の採用の結果までは検証されていません。

決算説明会28,515件で確かめられたこと

音質の働きは、実験室の外でも測られています。

Baik らの研究チームが、2025年に決算説明会の音声を分析しています。掲載は Journal of Accounting and Economics 第80巻1号101763番です。対象は2008年から2020年までの米国市場時間中に行われた説明会で、音声は28,515件、データ量は858ギガバイトにのぼります。分析には Wav2Vec 2.0 という音声モデルが使われています。

研究チームが測ったのは、流暢さ、発音、語法といった音声の伝達品質です。この品質が低いほど、利益のニュースに対する市場の反応の強さは弱まります。会計学では、この現象を「日中の利益反応係数が下がる」と表します。利益反応係数とは、発表された利益に対して株価がどれだけ動いたかを示す数値です。

内容として開示された数字は同じです。それでも、聞き取りやすさが下がると、市場がその情報を織り込む度合いが変わります。

この研究の対象はCEOにかぎらず、経営陣全般です。音声の品質が経営者の特性や企業の情報環境、通話の環境を反映している可能性を、完全には取り除けていません。

フィラーは何回から評価を下げるか

音質と並んで、話し方そのものも評価に入ります。

Laske と DiGennaro Reed の両氏が、2024年に評定の実験を報告しています。掲載は Journal of Applied Behavior Analysis 第57巻3号574〜583頁です。研究チームは、作成済みのスピーチに含まれるフィラー音とフィラー語を、1分あたり0回、2回、5回、12回に操作しました。

結果は明快です。頻度が上がるほど、とくにフィラー音が増えるほど、話し手の有効性の評定が有意に下がります。低下がはっきり現れたのは、1分あたり12回の条件です。

一方で、1分あたり5回以下の条件では、悪影響が確認されていません。フィラーをゼロにすることが必要という結果には、なっていません。

この研究が測ったのは話し手の評価です。メッセージの記憶や理解を、研究チームは測っていません。自然な会話のなかでフィラーが果たす談話上の働きや、言語による違いも検討されていません。

フィラーの位置と話速が、自信の見え方を変える

フィラーは、回数だけで見るものにもとどまりません。

Kirkland らの研究チームが、2022年に被験者内の聴取実験を報告しています。掲載は Interspeech 2022 の4990〜4994頁で、査読つきの国際会議録です。参加者は Prolific で募集した35人で、最終の分析は34人です。研究チームは、フィラーの位置(なし・文頭・文中)、話速の3水準、平均の基本周波数の3水準を操作しています。

自信があるかどうかの評定について、結果は次のとおりです。

操作した要素F値
フィラーの位置598.35
平均の基本周波数99.23
話速52.18

3つの要素は、いずれも p<.001 です。最も自信があるように聞こえたのは、フィラーがなく、声が低く、話す速さが速い条件です。最も不確実に聞こえたのは、文の途中にフィラーが入る条件です。

刺激は合成された自発的な発話であり、話者は1人の男性です。実在の話し手の信頼性や理解への働きは、別に検証する必要があります。

声から感情を読むモデルは、経営者の声では当たらない

音声の分析について、注意を促す研究もあります。

Ewertz らの研究チームが、2025年に測定の妥当性を検証しています。掲載は Journal of Accounting Research 第63巻1号229〜277頁です。研究チームは、俳優の音声で訓練した既存の感情認識モデルを、実際の経営者の音声に当てはめました。

結果は厳しいものになっています。俳優のデータの内側では、モデルはほぼ完全に感情を当てます。ところが実際の経営者の音声では、精度が偶然の水準まで落ちています。

声のトーンから何かを読み取ったという分析を目にしたときは、測定の妥当性が先に検証されているかを確かめてください。妥当性の検証がないまま出された結論を、私たちは根拠として扱えません。

この研究が測っていない範囲

ここまでの研究を、私たちは万能なものとして読んでいません。測られていない範囲が3つあります。

1つ目は、長時間の接触です。Walter-Terrill らの実験で使われたのは、短い録音です。数十分の番組を何か月も聴き続けた場合に、音質の差がどう働くかは検証されていません。

2つ目は、日本語です。音質の実験もフィラーの実験も、対象は英語の話者です。フィラーの談話上の働きは言語によって違いますので、私たちは1分あたり12回という閾値をそのまま日本語へ持ち込めません。

3つ目は、実際の結果です。採用の可能性は仮想の判断であり、本当に採用されたかどうかを測ったものにはあたりません。市場の反応については実データで測られていますが、こちらは因果を完全に切り分けにくい設計です。

この研究をどう見るか

ここまで並べた研究は、短い録音を使った実験と、上場企業の決算説明会の分析です。社員や取引先に向けて話す経営者の立場から見ると、離れている点が3つあります。

1つ目は、聞き手が下した判断の種類です。Walter-Terrill らが測ったのは、採用したいと思うかどうかという仮想の回答でした。実際に採用されたかどうかまでは、研究チームは追っていません。

2つ目は、聞き手と話し手の関係です。参加者が評価したのは、初めて聞く相手の声です。すでに何年も付き合いのある取引先が社長の声を聞く場面とは、条件が違います。

3つ目は、接触の長さです。実験で使われたのは短い録音です。数十分の番組を何か月も聴き続けた場合に音質の差がどう働くかを、研究チームは検証していません。

一方で、規模を問わず残る部分もあります。同じ言葉を話しても、こもった音で届いたときには、話し手その人への評価まで下がる、という点です。聞き手が内容を書き取れる正確さは変わっていないのに、その人を採用したいかどうかの判断だけが下がっています。

御社の日常にも、この差は現れます。オンライン会議でパソコン内蔵のマイクを使って話すとき、聞き手が受け取っているのは話の内容だけにとどまりません。相手はそこから、この会社が場をどれだけ整える会社なのかもあわせて読み取っています。

アストライドの考え

私たちは、ここまでの研究を次のように読んでいます。音質は、聞き取りやすさの問題にとどまりません。話し手が信頼できる人物かどうかという判断まで動かしています。

経営者に時間をいただいて話していただく以上、機材が原因でその評価を下げる状態を、私たちは避けます。私たちは、この読み方を制作の3つの場面に当てています。

1つ目は、収録の機材と環境です。私たちは AKG C414 XLS というコンデンサーマイクを使い、収録の場では反響と空調の音を先に処理します。Walter-Terrill らの結果が示すのは、こもった音が話し手その人の評価まで下げるという点です。経営者に時間をいただいて話していただく以上、機材で評価を下げる状態を私たちは避けます。

2つ目は、編集でフィラーを取り除く作業です。フィラーとは「えー」「あのー」「まあ」といったつなぎ言葉を指します。私たちはこれを1本ずつ取り除き、あわせて言い直し、話題の立ち返り、散漫になった会話を整理します。Laske と DiGennaro Reed の結果に沿えば、1分あたり12回の水準は評価を下げる側へ働きます。Kirkland らの結果に沿えば、文の途中に入るフィラーがとくに不確実な印象を作ります。

3つ目は、ラウドネスの基準です。私たちは配信する音源を -14 LUFS、トゥルーピークを -1 dBTP に収めます。この数値を外した場合、再生する側で音量が自動的に調整され、聴き手は意図した聞こえ方から離れた音を受け取ります。

御社だけで確かめられることもあります。同じ内容を、パソコン内蔵のマイクと外付けのマイクで録ってみてください。2つの音源を別々の社員に聴いてもらい、「この人にどれくらい仕事を任せられそうか」を10段階で答えてもらうと、御社の場合の差が見えます。

まとめ

事前登録の6実験(実験ごとに600人または1,200人)で、同じ発話を明瞭な音声とこもった音声で提示したところ、採用の可能性は68.50対76.04(d=.35)、信頼性は63.46対66.90(d=.16)に分かれました(Walter-Terrill ほか 2025、PNAS 122巻13号)。

同じ実験で、逐語の転記の正確性は概ね同等でした。言葉そのものは同じだけ届いており、下がっているのは話し手への評価のほうです。

合成音声を使った条件では、採用の可能性が59.57対69.30、効果量は d=.43 とさらに大きくなっています。

決算説明会の音声28,515件を分析した研究では、音声の伝達品質が低いほど、利益のニュースに対する市場の反応が鈍くなっていました(Baik ほか 2025)。

フィラーは1分あたり12回で評価を有意に下げ、5回以下では悪影響が確認されていません(Laske & DiGennaro Reed 2024)。文の途中に入るフィラーは、最も不確実な印象を作ります(Kirkland ほか 2022)。

御社の音源を、内蔵マイクと外付けマイクの2通りで録り、別々の社員に聴いてもらってください。話し手への評価が動くかどうかは、その比較で分かります。

この記事からわかるQ&A

音質が悪いと、具体的に何が下がりますか

Walter-Terrill ほか(2025、PNAS 122巻13号 e2415254122)の6実験では、こもった音声のほうが採用の可能性で68.50対76.04(d=.35、N=600)、信頼性で63.46対66.90(d=.16、N=1,200)と低くなりました。話している内容は同一です。下がっているのは、話し手が有能で信頼できるという印象のほうになります。

内容の伝わり方も下がるのですか

同じ実験では、逐語の転記の正確性が2つの条件で概ね同等でした。言葉そのものは同じだけ届いています。聞こえているかどうかと、話し手がどう評価されるかは、別に動く場合があります。

合成音声でも同じことが起きますか

同じ研究の合成音声の条件では、採用の可能性が59.57対69.30、効果量は d=.43 でした。この値は、人間の声のときの d=.35 より大きくなっています。合成音声を使う場面では、音質の管理がいっそう重要になる可能性があります。

フィラーは何回まで許容されますか

Laske & DiGennaro Reed (2024、Journal of Applied Behavior Analysis 57巻3号)では、1分あたり0回・2回・5回・12回に操作した結果、12回の条件で話し手の有効性の評定が有意に下がりました。5回以下では悪影響が確認されていません。ただし対象は英語話者であり、日本語へそのまま持ち込むことはできません。

声のトーンから感情を分析した記事は、信用してよいですか

測定の妥当性を確かめてからお読みください。Ewertz ほか(2025、Journal of Accounting Research 63巻1号229〜277頁)は、俳優の音声で訓練した感情認識モデルが、実際の経営者の音声では偶然の水準まで精度を落とすことを示しています。妥当性の検証がないまま出された結論を、私たちは根拠として扱えません。

出典

  • Walter-Terrill, R., Ongchoco, J. D. K., & Scholl, B. J. (2025). “Auditory quality and the perception of speakers.” *Proceedings of the National Academy of Sciences*, 122(13), e2415254122. 事前登録済み6実験、英語母語話者 Prolific 標本、実験ごとに N=600 または N=1,200。採用可能性 68.50 対 76.04(d=.35)、信頼性 63.46 対 66.90(d=.16)、合成音声での採用可能性 59.57 対 69.30(d=.43)。逐語転記の正確性は概ね同等 https://doi.org/10.1073/pnas.2415254122
  • Baik, B., Kim, A. G., Kim, D. S., & Yoon, S. (2025). “Vocal delivery quality in earnings conference calls.” *Journal of Accounting and Economics*, 80(1), 101763. 2008〜2020年の米国市場時間中の決算説明会音声28,515件・858GB。Wav2Vec 2.0 で流暢性・発音・語法を測定。伝達品質が低いほど日中の利益反応係数が弱まる https://doi.org/10.1016/j.jacceco.2024.101763
  • Laske, M. M., & DiGennaro Reed, F. D. (2024). “Effects of filler frequency on speaker effectiveness ratings.” *Journal of Applied Behavior Analysis*, 57(3), 574–583. クラウドソーシング標本による評定実験。フィラー音・フィラー語を1分あたり0・2・5・12回に操作。12回で話者有効性の評定が有意に低下、5回以下では悪影響が確認されず https://doi.org/10.1002/jaba.1076
  • Kirkland, A., Lameris, H., Székely, É., & Gustafson, J. (2022). “Where’s the uh, hesitation? The interplay between filled pause location, speech rate and fundamental frequency in perception of confidence.” *Interspeech 2022*, 4990–4994. 被験者内聴取実験、Prolific 募集 N=35(最終分析34)。自信の評定に対しフィラー位置 F=598.35、F0 F=99.23、話速 F=52.18(いずれも p<.001) https://doi.org/10.21437/Interspeech.2022-10424
  • Ewertz, J., Knickrehm, C., Nienhaus, M., & Reichmann, D. (2025). “Listen Closely: Measuring Vocal Tone in Corporate Disclosures.” *Journal of Accounting Research*, 63(1), 229–277. 俳優音声で訓練した感情モデルは、実際の経営者音声では精度が偶然水準まで落ちる。企業開示向けの測定方法を提示 https://doi.org/10.1111/1475-679X.70015
  • Schroeder, J., & Epley, N. (2016). “Mistaking Minds and Machines: How Speech Affects Dehumanization and Anthropomorphism.” *Journal of Experimental Psychology: General*, 145(9). 4実験。「人が作った」と判断した割合は音声80.8%・文字53.6%(d=.42)。音程・速度など自然な変動を失わせると差は消える https://doi.org/10.1037/xge0000214
  • Gong, X. (2023). “AI voices reduce cognitive activity? A psychophysiological study of the media effect of AI and human newscasts in Chinese journalism.” *Frontiers in Psychology*, 14, 1243078. 中国語ニュース、EEG・ERP 測定、N=30。人声はAI声より信憑性 d=-1.265、流暢さ d=-1.225 が高い。理解可能性は有意差なし https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.1243078
  • Ischen, C., Araujo, T. B., Voorveld, H. A. M., Van Noort, G., & Smit, E. G. (2022). “Is voice really persuasive?” *Internet Research*, 32(7), 402–425. 事前登録・被験者間3条件、N=450、オランダ成人パネル。人間らしさはテキスト4.20/音声のみ3.59、F(2,444)=7.05, p<.001, ηp²=.03 https://doi.org/10.1108/INTR-03-2022-0160
  • Do, T., McMahan, R. P., & Wisniewski, P. J. (2022). “A New Uncanny Valley? The Effects of Speech Fidelity and Human Listener Gender on Social Perceptions of a Virtual-Human Speaker.” *CHI ’22*. 3(標準TTS/ニューラルTTS/人声)×2 の被験者間実験、N=79、米国。ニューラルTTSは人声より有意に低い信頼性 https://doi.org/10.1145/3491102.3517564
  • Kuchinsky, S. E., Razeghi, N., & Pandža, N. B. (2023). *Journal of Speech, Language, and Hearing Research*, 66(10), 4066–4082. 被験者内二重課題、米国の正常聴力の若年成人 N=26。雑音下の聴取努力は語の低頻度性と副課題の複雑さに依存する https://doi.org/10.1044/2023_JSLHR-23-00169

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

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