「アパートは家族」という哲学 – スターフィッシュクリエーションが描く稲沢のまちづくり

愛知県稲沢市で不動産管理業を営む株式会社スターフィッシュクリエーション。代表取締役の岩田周作氏が語る経営哲学には、業界における既存の常識を覆す熱のこもった視点があります。「アパートはその人のオーナーさんの家族だっていう風に捉えて喋る」。この一言に込められた想いは、単なる収益物件として不動産を扱う従来の発想とは根本的に異なります。築30年以上の古いアパートを専門とする同社の取り組みからは、地域に根ざした持続可能なまちづくりの可能性が見えてきました。

築古物件を取り巻く環境

不動産管理業界では現在、築20年を超えた物件の空室率上昇が深刻な課題となっています。入居者からは「古い物件」という目で見られ、同時に建物の老朽化による維持コストも増大していきます。多くの管理会社が敬遠する領域において、スターフィッシュクリエーションは敢えて築30年以上の物件に特化しています。2025年現在、人口減少と空き家問題が加速する中で、この取り組みの意義はより一層重要性を増していると考えられます。

「思いつくことを全てやっておく」という基本スタンス

岩田氏の仕事への姿勢には、徹底した品質への追求があります。「誰も見ない天井の中に入っている配管や電線もやる。正直言って、誰も気づかない。傷んでないから大丈夫だよと言ってしまえば、それは嘘ではないかもしれないけれど、何かあった時にということを考えた時に、やっぱり思いつくことを全てやっておくというのが僕は基本スタンスだと思っています」。

この言葉からは、表面的な修繕に留まらない、物件やオーナーに対する深い愛情と責任が感じられました。同社のリノベーションでは、解体段階から徹底的に手を入れ、一戸建て用の1坪風呂を導入するなど、他社がやる修繕内容とは大きく違うものを実現しています。こうした姿勢の背景には、アパートを「家族の一員」として捉える哲学が隅々に宿っていると感じました。

「消極的な理由で手放すことはないような存在」への志

印象的なエピソードを本編に入れました。9部屋中5部屋が空いていた困った物件を引き受けた岩田氏は、オーナーに「半年以内に満室にします」と約束。前の管理会社では難しいと言われていた物件でありながらも、結果的に4ヶ月で満室に至ったというものです。

「本当は手放したくないけど、家古いから無理だから手放すっていう消極的な理由で手放すんだったら、いや、スターフィッシュに任せれば大丈夫だから、もうちょっと頑張ってみよう、できたら息子に残してあげたいっていう人がいるなら、そういう人にこそ力になりたい」。この使命感こそが、同社の存在意義を明確に示しています。

「街を作っていくのは行政ではなく市民」という信念

岩田氏の視線は、個々の物件管理を超えて稲沢のまちづくり全体に向けられています。「最終的には街を作っていくのは、僕はね、行政ではなく市民だと思っている」。この言葉には、地域の未来を本当に描くべきは、その土地に根ざし資産を持つ地域の人々自身であるという強い信念が込められています。

同社は10年ビジョンを描き、3つのステージで段階的に地域貢献を拡大していく計画を立てています。第1ステージの築古物件満室化から始まり、第2ステージでは地主への新しい土地活用プラン提案、そして第3ステージでは駅前再開発への直接的関与を目指すということです。渋沢栄一のように「複数のことを同時進行できた」ことを理想とし、「500色のカラーの違った新しいものを同時進行で作る」ことで、地域の魅力の幅を広げようとしています。

時代を超える価値

スターフィッシュクリエーションの取り組みは、短期的利益追求が主流となった現代において、「搾取」ではなく「スチュワードシップ(=財産や資産を預かる者が、長期的な価値創造を促進するために果たすべき責任)」を重んじる経営の在り方を示しています。古いものであっても愛情と適切な手入れを施すことで持続的な価値を生み出すという信念は、地域のアイデンティティが失われがちな時代に、場所ならではの魅力を守り育てる具体的なアプローチとして注目されるのではないでしょうか。「アパートは家族」という哲学から生まれる市民主体のまちづくりは、全国の地方都市が直面する課題への一つの解答となるかもしれません。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。