光絶縁のエッジデバイスが製造業のIoTを底上げする ― スリーアップ・テクノロジー三上典秀社長の描く未来
AIについて語る時の三上典秀社長の目の輝きには、単なる技術への関心を超えた深い情熱が宿っています。株式会社スリーアップ・テクノロジーを率いる三上氏は、日本の製造業が直面する根本的な課題に、IoTとAI技術で挑む稀有な経営者といえます。19年間で500社の製造現場を渡り歩いた経験と、40歳での大胆な独立を決断させたAIへの確信—この二つが交差する地点に、同社の独自性が生まれました。取材を通じて最も印象的だったのは、先見性に満ちたビジョンを抱きながらも、その価値を広く伝えることの難しさを率直に認める誠実な姿勢でした。
IoTが照らし出す日本製造業の現在地
2025年現在、日本の製造業界はデジタルトランスフォーメーション(DX)の真っ只中にあります。
しかし、三上社長が指摘するように、多くの工場では「昭和に作られた設備」が現役で稼働し続けているのが実情です。30年、40年選手の機械が付加価値を生み続ける一方で、その技術は操作する人のノウハウとしてのみ蓄積され、組織的な継承が困難になっています。この状況こそが、スリーアップ・テクノロジーが解決を目指す構造的課題の根本的な価値です。
「機械が目が見えるようになった」という転換点
2015年、Google Photoでイチゴの写真が自動的に選別される体験をした瞬間、三上社長は「これは来たなと見えた。機械が目が見えるようになった」と直感しました。長年のプログラミング経験から画像認識技術の困難さを理解していたからこそ、この瞬間の衝撃は計り知れないものがあったに違いありません。40歳を目前にした時期での独立は、単なるキャリアチェンジではなく、時代の転換点を捉えた戦略的判断だったといえます。
この先見性は、現在の事業展開に如実に表れています。当初描いていたロボットとAIの事業から、IoTを軸とした現実的なアプローチへの転換も、市場の成熟度を的確に読み取った結果でした。「AIでビジネスをやりたい」という想いを、まずIoTで基盤を築き、その先にAI活用を見据える段階的戦略に昇華させた判断力には、多くのスタートアップが学ぶべき要素があると思われます。
「一級品の仕事をしたい」現場主義の真髄
三上社長の強みは、IT分野と現場設備の両方を深く理解している点にあります。15年間で500社を「じゅんぐりじゅんぐり回って」きた経験は、単なる営業活動を超えた現場学習の蓄積でした。「どんな機械でも改造できるように工具は全部揃えている」という姿勢からは、一級品の仕事への飽くなき追求が伝わってきます。
この現場感覚が、独自のソリューションである「光絶縁技術によるエッジデバイス」を生み出しました。古い設備にIoTを後付けしても「ちょっとおかしくなった」という事態を避けるため、設備に影響を与えない安全なデータ取得を実現する技術です。
インタビュー後の雑談の中では、この光絶縁技術について、「光絶縁を搭載しようとすると大手なら桁が一つ変わるところ、驚くほど低コストで提供できている」と語っていました。IT企業では理解困難な製造現場の繊細さを知り尽くしているからこそ、真に実用的な解決策を提供できると感じさせられる印象的なエピソードでした。
「暗黙知の民主化」が拓く技術継承の道
最も印象深いのは、三上社長が掲げる「暗黙知の民主化」という思想です。「人のノウハウにしかなかったものを、データをすべて記録することによって全員が共有できるような状態を作っていく」—この発想は、日本の製造業が抱える技術継承問題の本質を突いています。
品質の高さゆえに20年以上壊れない日本の機械は、皮肉にも技術者育成の機会を奪ってしまいました。機械を設計した世代が引退し、修理やメンテナンスの技術が属人化したまま失われつつある現状に対し、IoTによるデータ化は根本的な解決策となり得るのかもしれません。
「日本を良くしてやろうという子を増やしたい」次世代への継承
三上社長の視線は、技術継承にとどまらず人材育成にも向けられています。年間多くのインターン生を受け入れ、これまで16名を教育してきた実績は、単なる労働力確保を超えた社会貢献の意識から生まれているといえます。「少子高齢化で暗くなるんじゃなくて、AIを使って楽しくなるような社会にしよう」という言葉には、悲観論に陥りがちな現代日本への力強いメッセージが込められています。
デジタルネイティブ世代の能力と生成AIを組み合わせることで、「結構企業内の業務システムも構築できちゃう時代」が到来している現実を、経営者は理解すべきだと三上社長は指摘します。この認識こそが、企業の競争力を左右する重要な要素になっていくと考えられます。
時代を超えて響く「現場力」の価値
三上社長が追求する事業の本質は、AIが進化しても決して代替できない「現場力」の価値を再認識させることにあります。コンピューターがAIによって自動化されていく時代だからこそ、物理的な現場での仕事と、それを支える人間の技術と判断力が、ますます貴重な資産となっていくのではないでしょうか。
興味深いのは、三上社長が「めちゃくちゃ賢いAI」に自身の事業計画を評価させ、「めちゃくちゃいいです」という回答を得ているという事実です。AI自体が、現場力の重要性を認識し、それを支援する事業の価値を認めているという状況は、技術と人間の共生という理想的な関係を示唆しているように思われます。
この取り組みが示すのは、AIに代替される仕事と、AIに支援される仕事の違いといえます。三上社長の事業は後者の典型であり、人間の経験と直感を技術で増幅し、より高い価値を生み出すモデルを提示しています。日本の製造業が世界で戦い続けるために必要なのは、このような人間と技術の調和なのかもしれません。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。





























