220日間の長期肥育が生む「松阪豚」——生産者とシェフが届ける、一期一会のドラマ

三重県松阪市に、不定期で開かれる12席限定の食のイベントがあります。「twlv club」と名付けられたこの空間は、毎回異なるシェフを招き、一夜限りのコースを提供する実験的なキッチンスタジオです。

2024年6月、この特別な空間で開催されたのは「まつぶたづくし」。津市のフレンチレストラン「ソプラノ」のシェフ・嶋野司氏と、松阪豚の唯一の生産者「まつぶたPIG FARM」の橋本妃里氏がタッグを組んだ、松阪豚をメインにした挑戦的なコースが披露されました。


「特産 松阪豚 220デイズ Pork」——唯一の生産者が育てる希少な豚

松阪牛は全国的に知られていますが、「松阪豚」という存在はまだ広く認知されていません。橋本氏は、この松阪豚の唯一の生産者として、その普及に取り組んでいます。

「松阪豚『特産 松阪豚 220デイズ Pork』っていうことで商標を取らせていただいてるんですけども、今松阪豚の唯一の生産者をさせていただいてるんです」

特産松阪牛と同様に、220日間の長期肥育で育てられた松阪豚。その肉質は、通常の豚肉とは一線を画します。


牛のような赤身、きめ細かいサシ——松阪豚の特徴

松阪豚の最大の特徴は、その肉質にあります。

「非常に大きく、牛のように赤々としておりまして、腿とか腕にもきめ細かいサシが入っているっていうのが特徴になります」

通常、豚肉の腿や腕にサシが入ることは稀です。220日間という長期肥育が、この特別な肉質を生み出しています。

脂の質も独特です。「透明感のある油というか、イベリコ豚や鹿児島の黒豚のような香りと比べると穏やかな方だと思います。脂身だけ食べても苦にならない」と橋本氏は語ります。


「こんな食べ方があるの」——内臓料理への挑戦

今回のコースでは、松阪豚の内臓も料理に使われています。

「豚の内臓ってあんまり皆さん食べないと思うんです。こんな食べ方あるのっていうお料理に変わっておりますので、そこを楽しんでいただければなと思います」

普段は口にする機会の少ない部位を、驚きのある一皿に変える。それが、このイベントならではの醍醐味です。


「今手に入る部位を使って」——シェフの緊張感

シェフの嶋野氏は、このイベントに臨む姿勢をこう語ります。

「今手に入る部位を使って、その部位を引き出すような調理法で構成立てにしていく。不安というか緊張感はありますね」

決まったメニューを提供するのではなく、その時に手に入る部位から逆算してコースを組み立てる。この即興性が、料理人としての成長につながると嶋野氏は感じています。

「料理人としてはちょっと成長できる場かなとは思います。そこに面白みっていうのは感じました」


「エンターテイメントとしての食事空間」

twlvという場所には、単なる食事を超えた目的があります。

「エンターテイメントとしての食事の空間を演出されたいという思いがあるっていう話はしていただきました。チャレンジングな要素がかなり強いです」

美味しい料理を提供するだけでなく、食べる人を楽しませ、驚かせ、感動させる。その演出を可能にする場として、twlvは機能しています。


「ドラマがある場所」——一期一会の価値

橋本氏は、twlvという場所を一言でこう表現します。

「一言で言うとドラマがある場所っていう。美味しいっていう味だけじゃなくて、エンターテイメント、楽しみがあって、感動があって、しかも1回しかないっていう、その日その時だけの一期一会があって、そういうドラマかなって思います」

同じコースは二度と提供されない。その日、その場所、その人たちだけの体験。それが、twlvが生み出す価値です。


アストライドのミッション

「ドラマがある場所」

橋本氏のこの言葉に、私は深く共感しました。

一期一会の体験を記録し、伝えること。それは、私がインタビュー映像を通じて取り組んでいることと重なります。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、さまざまな「想い」に触れてきました。twlvという空間で繰り広げられる一夜限りの饗宴もまた、生産者とシェフの想いが凝縮された表現の場です。

本映像では、松阪豚という希少な食材への敬意、内臓料理への挑戦、そして「その日その時だけ」の体験を届けようとする姿勢が、調理の手元や語りの表情を通じて伝わってきます。

アストライドは、こうした「想い」を映像として記録し、より広く届けることに取り組んでいます。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。