人材獲得競争の中で中小企業ができること——「条件」以外の魅力をどう伝えるか
この記事でわかること
本記事では、正社員不足を訴える企業が7割に達し、人手不足関連倒産が過去最多を更新している現状を解説します。採用計画の充足率50%未満の企業が4割を超え、内定辞退率67%という厳しい採用環境の中、求職者が企業選びで重視するポイントの変化と、「パーパス」への関心が低いという意外なデータを紹介します。条件競争で大企業に勝てない中小企業が、どのような情報発信で差別化できるか、経営者の「人となり」を伝えることが採用活動にもたらす可能性について考察します。
「求人を出しても応募が来ない」
「やっと採用しても、すぐに辞めてしまう」
「大企業に条件で負けて、内定辞退が続く」
中小企業の経営者や採用担当者から、こうした声を聞く機会が増えました。人手不足はもはや一部の業界だけの問題ではなく、企業規模を問わず多くの企業が直面する構造的な課題となっています。
深刻化する人手不足——数字が示す現実
帝国データバンクが2025年1月に発表した調査によると、正社員が「不足」と感じている企業の割合は53.4%に達し、コロナ禍以降で最も高い水準となりました。東京商工リサーチの調査(2024年4月)でも、「正社員不足」の企業は約7割(69.3%)に上り、前年からさらに悪化しています。
特に深刻なのは中小企業です。日本商工会議所の調査(2024年)では、人手が「不足している」と回答した企業は6割超(63.0%)。そのうち6割以上が、事業運営に支障が出る「深刻」な状態にあると答えています。
この影響は倒産件数にも現れています。人件費高騰や採用難を原因とする「人手不足倒産」は2024年に342件発生し、2年連続で過去最多を更新しました。人材を確保できないことが、企業の存続そのものを脅かす時代に入っています。
採用活動の現場で何が起きているか
東京商工会議所が実施した「2024年新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」によると、採用計画人数に対する充足率が50%未満の企業は41.5%に達しました。前年同時期の33.0%から大幅に増加しており、企業が新卒採用に苦戦している状況がうかがえます。
さらに厳しいのは、内定辞退の問題です。同調査では、内定・内々定の辞退者がいると回答した企業は67.4%に達しました。採用活動にコストと労力をかけても、最終的に入社に至らないケースが7割近くに上るという現実があります。
なぜ、これほどまでに採用が難しくなっているのか。その背景には、求職者の意識変化があります。
求職者が企業を選ぶ基準は変わった
リクルートマネジメントソリューションズが発表した「2025年新卒採用 大学生の就職活動に関する調査」では、興味深い傾向が示されています。
入社の決め手として最も多かったのは「やりたい仕事(職種)ができる」で、選択率は過去最高を記録しました。次いで「入社後のキャリアをイメージできる」「労働時間や勤務スタイルが魅力的」といった、働き方に関する項目が上昇しています。
一方で、「社員や社風が魅力的である」は減少傾向にあり、「企業理念やビジョン」(2.3%)、「経営方針や戦略」(1.7%)、「その会社ならではの強み」(1.7%)といった企業特性に関する事柄の選択率は低下しています。
これは企業にとって、複雑なメッセージを含んでいます。「パーパス経営」が注目される中、実際の求職者は企業理念よりも「自分に合った仕事・働き方」を重視している。企業側が発信したい情報と、求職者が求める情報との間にギャップがある可能性を示唆しています。
中途採用でも同様のギャップが
この傾向は新卒に限りません。ベイジ社が2024年に実施した「中途採用における採用サイト利用実態調査」では、求職者が転職先に期待することとして「収入が増えること」が45.0%、「人間関係がうまくいくこと」が34.5%と上位を占めました。
注目すべきは、「やりがい」「パーパスやミッション」「社会的意義」への関心が相対的に低かったことです。調査レポートでは、「このあたりは企業と求職者との認識に、ギャップがあるように思えます」と指摘されています。
企業が採用サイトで押しがちな「やりがい」や「社会的意義」は、必ずしも求職者の最優先事項ではない。この認識のズレが、採用活動を難しくしている一因かもしれません。
では、中小企業は何を伝えるべきか
条件面で大企業に勝つことが難しい中小企業にとって、この状況は一見厳しく映ります。しかし、見方を変えれば、条件以外の要素で勝負できる余地があるとも言えます。
同じリクルートマネジメントソリューションズの調査では、志望度向上に影響が大きかった要素として「自分のことをよく理解しようとしてくれた」(22.0%)が上位に挙げられています。選考プロセスにおいて「自分を見てくれている」という実感が、求職者の心を動かす要因になっているようです。
また、面接や最終選考において「対面のみ経験あり」の比率が大きく増えているというデータもあります。お互いを見極める重要な局面では、対面での接点が重視されている。これは、「人」と「人」との関係性が採用において依然として重要であることを示しています。
経営者の「人となり」を伝えるという選択
中小企業の強みの一つは、経営者との距離が近いことです。大企業では社長の顔を見る機会すらないことが多いですが、中小企業では経営者が直接採用に関わることも珍しくありません。
この特性を活かし、経営者の「人となり」——何を大切にしているのか、なぜこの事業をしているのか、どのような経験を経て今に至ったのか——を伝えることは、一つのアプローチとして考えられます。
求職者が「企業理念」そのものへの関心を示していなくても、「この人と一緒に働きたい」「この人の下でなら成長できそう」という感覚は、入社を決める際の重要な要素になり得ます。理念を抽象的なスローガンとして掲げるのではなく、それを体現している「人」を見せること。経営者インタビュー映像は、その手段の一つとして機能する可能性があります。
映像が伝えられること、文字では伝わらないこと
採用サイトに経営者メッセージを掲載している企業は多くあります。しかし、文字だけでは伝わらない情報があります。経営者の表情、語気、間の取り方、視線の動き——これらの非言語情報は、その人の「本気度」や「人間性」を伝える上で大きな役割を果たします。
求職者にとって、入社は大きな決断です。条件や仕事内容だけでなく、「どんな人がこの会社を率いているのか」「自分はこの組織に馴染めるか」という不安を抱えています。経営者が自分の言葉で想いを語る映像は、その不安を軽減し、入社後のイメージを具体化する助けになるかもしれません。
ただし、映像を制作すれば自動的に応募が増えるわけではありません。どのような内容を語るか、どのように活用するか、そして採用プロセス全体をどう設計するかによって、効果は大きく異なります。映像はあくまで一つのツールであり、採用活動全体の中で位置づけを考える必要があります。
採用から定着へ——長期的な視点で考える
採用活動のゴールは、単に人を集めることではありません。入社後に定着し、活躍してもらうことが本来の目的です。
日本商工会議所の調査では、人材確保に向けた取り組みとして「賃上げの実施、募集賃金の引上げ」(72.5%)が最も多く挙げられていますが、次いで「ワークライフバランスの推進」(38.1%)が続いています。条件面の改善だけでなく、働き方や職場環境の整備も重要な施策として認識されています。
また、採用段階で企業の実態を正しく伝えることは、入社後のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。経営者の想いや企業文化を事前に理解した上で入社した社員は、入社後のギャップを感じにくく、定着率が高まる傾向があると言われています。
採用と定着は切り離せない関係にあります。短期的な採用数だけでなく、長期的な人材の確保・育成という視点で、採用活動を設計することが求められています。
おわりに——「選ばれる企業」になるために
人手不足が深刻化する中、採用活動は「人を選ぶ」から「選ばれる」へと変化しています。特に中小企業にとって、この環境変化への対応は喫緊の課題といえます。
条件面で大企業と競争するのは難しい。しかし、経営者の想いや企業文化、働く人の姿など、条件以外の魅力を伝える余地はまだ残されています。その伝え方の一つとして、経営者インタビュー映像という選択肢があります。
もちろん、映像制作は採用課題を解決する万能薬ではありません。採用活動全体の設計、入社後のフォロー、職場環境の整備など、多面的な取り組みが必要です。しかし、自社の魅力を「伝える」という観点で、何ができるかを考えるきっかけにはなるのではないでしょうか。
求職者が求めているのは、必ずしも立派な企業理念や美しいスローガンではありません。「この会社で働く自分」をイメージできる、具体的な情報です。経営者の声を通じて、そのイメージを提供すること。それが、「選ばれる企業」への第一歩になるのではないでしょうか。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表 纐纈がこれまで200社以上の経営者インタビュー映像を制作してきたノウハウとインタビュースキルを軸として、BtoBマーケティング視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた、各種クリエイティブをご提案・制作します。

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