経営者インタビュー映像を、採用やPRの用途だけで理解していませんか?企業と相手のあいだにある情報の差に目を向けると、映像は経営者の考えや人柄を知る材料の一つとして捉えられます。
この記事では、情報の非対称性とビジネスで生じる情報の差、映像で確認できる非言語の情報について取り上げます。パーパスを伝える可能性と佐伯氏の評価を通じて、自社と相手のあいだで見えていない情報や、映像で伝えたい経営者の判断を考える視点もお伝えします。
この記事でわかること
- 情報の非対称性の考え方とビジネスで生じる情報の差
- 情報の差を埋める映像の価値と非言語情報の役割
- パーパスを伝える可能性と佐伯氏による映像の評価
「情報の非対称性」とは何か
「私は知っている、あなたは知らない」という情報格差
「情報の非対称性」とは、取引や関係性において、一方が他方よりも多くの情報を持っている状態を指します。経済学者のジョージ・アカロフは、この概念を用いて中古車市場の問題を分析し、2001年にノーベル経済学賞を受賞しました。
「私は知っている、あなたは知らない」という情報格差は、ビジネスのさまざまな場面で生じる可能性があります。売り手が知っている商品の情報を、買い手が十分に把握しているとは限りません。企業が自社の文化について知っていても、求職者が同じ情報を得ているかは状況によって異なります。
情報の非対称性から生まれやすいのが、不安や不信です。買い手は「本当にこの商品は良いのか」と疑い、求職者は「本当にこの会社は良い職場なのか」と不安を抱きます。
ビジネスにおける情報格差の問題
ビジネスにおいて、情報の非対称性はさまざまな問題を引き起こします。
採用活動では、企業と求職者の間に情報格差が生じることがあります。企業が「良い職場環境です」「成長できる環境です」と説明しても、求職者がその実態を十分に確認できるとは限りません。入社前の理解と実際の職場環境に差があれば、ミスマッチが生じ、早期離職の一因となる可能性があります。
営業活動では、企業と顧客の間に情報格差が生じる場合があります。「品質には自信があります」「アフターサービスも万全です」と説明しても、顧客がその内容を確かめる根拠を得られるとは限りません。品質やサービスの違いを判断する材料が不足していれば、価格を中心に比較される可能性があります。
投資・取引では、企業と投資家・取引先の間に情報格差があります。財務諸表や事業計画書からは、経営者の人柄や本気度は読み取れません。結果として、本来であれば成立する取引や投資が、不安を理由に見送られることがあります。
情報の非対称性を放置すると、本来持っている価値が正しく伝わらず、機会損失が生じます。
情報の差を埋める映像の価値
「情報の非対称性を解消すること」という価値定義
経営者インタビュー映像には、企業と相手の間にある情報の差を埋める材料としての価値が考えられます。
経営者インタビュー映像は、「私は知っている、あなたは知らない」という情報格差を埋めるためのツールとして捉えられます。
企業が「社員を大切にしています」と説明するだけでは、相手がその考えを十分に判断できるとは限りません。経営者自身が顔を出し、自分の言葉で語る映像では、相手は発言の内容に加えて、語る様子も確認できます。表情、声のトーン、言葉を選ぶ際の間は、その発言をどう受け止めるかを考える手がかりです。
企業と相手の間にある情報の差を埋められれば、求職者、顧客、投資家が企業や経営者を判断する材料は増えるかもしれません。ただし、その材料をどう受け止め、働くことや取引、投資を選ぶかは、相手の判断基準や状況によって異なります。
テキストでは伝わらない非言語情報
経営者インタビュー映像が情報の非対称性を解消できる理由は、テキストでは伝わらない「非言語情報」を含んでいるからです。
心理学者アルバート・メラビアンの研究で示された言語7%、声38%、表情55%という割合は、話し手が自分の感情や態度を伝え、言葉と非言語の情報が一致しない場面に関する結果です。メラビアン本人のウェブサイトでも、感情や態度を扱わない場合には、この割合を適用できないと説明されています。この割合を、コミュニケーション全般における言語情報と非言語情報の比率に当てはめないよう注意が必要です。
経営者がホームページに「社員を大切にしています」と書いても、その言葉だけで考えの確かさを判断するのは難しい場合があります。経営者が実際に語る映像で確認できるのは、目の輝き、声の震え、言葉を選ぶ際の間などです。こうした様子は発言を受け止める手がかりになり得ますが、本気度を確かめられるとは限りません。
文章では発言の内容を確認できますが、映像では語り方や表情も確認できます。相手が経営者の考えを理解する際に、こうした非言語の情報も参考にするなら、映像は企業と相手の間にある情報の差を埋める材料の一つです。
企業のパーパスを広く伝えることの可能性
ステークホルダーとの共感創出
企業のパーパス(存在意義)を広く伝えることで、求職者、顧客、投資家が、企業の目的や社会に対して提供したい価値を判断材料にできる可能性があります。
パーパスとは、「なぜこの企業が存在するのか」「社会に対してどのような価値を提供したいのか」という根本的な問いに対する答えです。財務諸表や事業計画書だけでは把握しにくい、企業が事業を営む目的や、社会に対して目指す価値を示します。
経営者がインタビュー映像を通じてパーパスを語り、その目的や価値観を相手が肯定的に受け止めた場合には、共感が生まれる可能性があります。
求職者が職場に求める条件や、企業の目的をどの程度重視するかは、人によって異なります。顧客も、品質や価格のほかに、企業を応援したい気持ちを判断材料にする場合と、しない場合があるのが実情です。投資家が利益と社会に対して提供する価値をどう評価するかも、投資方針や場面によって変わります。
経営者が映像を通じてパーパスを語ることは、ステークホルダーが企業の目的を理解する機会の一つです。その目的への共感が生まれた場合には、企業との関係を考える材料として役立つ可能性があります。
企業文化戦略の中核を成す経営資源
経営学者の佐伯陽介氏は、経営者インタビュー映像を「企業文化戦略の中核を成す経営資源」と評価しています。
佐伯氏の「企業文化戦略の中核を成す経営資源」という評価は、経営者インタビュー映像を、企業文化の形成、発信、浸透を考えるための資源として捉える見方です。宣伝の用途に加えて、経営者の考えを社内外で共有する役割にも目を向けています。
企業文化を考える際に検討したいのは、文章による定義に加えて、経営者の言葉が社員やステークホルダーにどう受け止められるかです。その言葉への共感が生まれた場合には、共有された考えが企業文化として根付く過程を支える可能性があります。
経営者の想いを映像として記録し、社内外に発信することは、企業文化についての考えを共有する機会の一つです。語られた考えを社員やステークホルダーが理解し、共有した場合には、企業文化の一貫性や浸透を支える可能性があります。
また、佐伯氏の分析によれば、現代社会は「混沌を乗り越える努力が求められている時代」で、その中で浮上している価値観が「共感」です。佐伯氏は、経営者インタビュー映像を、この共感を形にするデザインとして、企業文化のデザインにもつながると位置づけています。
企業文化の戦略としての位置づけは、企業文化戦略としての経営者インタビュー:学術的視点からの分析で取り上げています。経営者インタビュー映像の制作を検討する場合は、アストライドの「経営者インタビュー映像制作」をご覧ください。
まとめ
経営者インタビュー映像は、経営者の考えや語る様子を相手が確認し、企業との間にある情報の差を埋めるためのツールとして捉えられます。
本記事のポイントを整理します。
- 「情報の非対称性」とは、一方が他方より多くの情報を持っている状態であり、ビジネスにおいて不安や不信を生み出す
- 経営者インタビュー映像は、企業と相手の間にある情報の差を埋める材料となる可能性があります
- 非言語情報(表情、声のトーン、間)は、経営者の発言をどう受け止めるかを考える手がかりです
- 経営者が映像を通じてパーパスを語り、相手がその目的や価値観を肯定的に受け止めた場合には、共感が生まれる可能性があります
- 経営者インタビュー映像は、企業文化戦略の中核を成す経営資源として位置づけられる
経営者インタビュー映像は、「採用動画」や「PR動画」という用途に加えて、企業と相手の間にある情報の差を埋める材料としても捉えられます。自社の考えや経営者の人柄について、相手に何が見えていないかを挙げ、映像で伝えたい経営者の判断を書き出すことが、内容を考える出発点です。
この記事からわかるQ&A
「情報の非対称性」とは何ですか?
「情報の非対称性」とは、取引や関係性において、一方が他方よりも多くの情報を持っている状態を指します。経済学者のジョージ・アカロフは、この概念を用いて中古車市場の問題を分析した、2001年のノーベル経済学賞受賞者です。「私は知っている、あなたは知らない」という情報格差は、ビジネスのさまざまな場面で生じる可能性があり、相手が判断に必要な情報を得られない場合には、不安や不信の一因となり得ます。
ビジネスにおいて情報の非対称性はどのような問題を引き起こしますか?
採用活動では、求職者が職場環境を十分に確認できず、入社前の理解と実態に差があれば、ミスマッチや早期離職の一因となる可能性があります。営業活動で起こりうるのは、品質やサービスを確かめる情報が不足し、顧客が価格を中心に比較する状況です。投資・取引では、財務諸表や事業計画書だけで経営者の人柄や考えを十分に把握できるとは限りません。判断に必要な情報が不足した場合には、取引や投資が見送られる可能性があります。
経営者インタビュー映像が情報の非対称性を埋める材料となるのはなぜですか?
発言の内容に加えて、表情、声のトーン、言葉を選ぶ際の間も確認できるためです。心理学者アルバート・メラビアンの研究で示された言語7%、声38%、表情55%という割合は、話し手が自分の感情や態度を伝え、言葉と非言語の情報が一致しない場面に関する結果で、コミュニケーション全般には適用できません。経営者の語り方は、その発言をどう受け止めるかを考える手がかりとなり得ます。ただし、非言語の情報だけで発言の真意を確かめられるとは限りません。
企業のパーパスを映像で伝えることにはどのような可能性がありますか?
経営者が映像を通じてパーパス(存在意義)を語ることで、相手が企業の目的や社会に対して提供したい価値を知る機会を設けられます。求職者、顧客、投資家がそうした情報をどの程度重視するかは、人や場面次第です。その目的や価値観を相手が肯定的に受け止めた場合には、共感が生まれ、企業との関係を考える材料となる可能性があります。
佐伯陽介氏が経営者インタビュー映像を「企業文化戦略の中核を成す経営資源」と評価している意味は何ですか?
佐伯氏の「企業文化戦略の中核を成す経営資源」という評価は、経営者インタビュー映像を、企業文化の形成、発信、浸透を考えるための資源として捉える見方です。経営者が自らの言葉で語り、その考えを社員やステークホルダーが共感を持って受け止めた場合には、企業文化として根付く過程を支える可能性があります。また佐伯氏は、現代社会を「混沌を乗り越える努力が求められている時代」と捉え、経営者インタビュー映像を共感を形にするデザインとして分析しています。
引用・参考資料
- ジョージ・アカロフ「レモン市場:品質の不確実性と市場メカニズム」(1970年)
- アルバート・メラビアン『Silent Messages』(1971年)
- 佐伯陽介氏(経営学者)による経営者インタビュー映像の学術的評価