非財務情報の時代に、経営者の想いを記録する意味

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この記事でわかること

  • 企業価値に占める無形資産の比率が米国では90%に達している現実
  • AIが企業評価に活用され始めている具体的な事例
  • 経営者の想いが「非財務情報」として評価される可能性
  • 映像という形式で経営者の想いを記録することの意味
  • 中小企業にとっての現実的な選択肢

「うちの会社の価値は、数字だけでは測れない」

こう感じている経営者は多いのではないでしょうか。財務諸表に表れない価値——経営者の想いや企業文化、顧客との信頼関係。こうした「目に見えない資産」の重要性は、近年ますます高まっています。

日立総合計画研究所の分析によると、米国S&P500銘柄の企業価値に占める無形資産比率は2020年時点で90%に達しています。一方、通商白書2022によると、日本企業の無形資産比率は約30%程度にとどまっています。この差は何を意味するのでしょうか。

本記事では、企業評価における非財務情報の重要性と、経営者の想いを記録することの意味について考えます。


企業評価を取り巻く環境の変化

無形資産の時代

経済産業省の通商白書2022では、先進国の中でも経済規模が大きい主要国において、無形資産投資の対GDP比が長期的に上昇傾向にあることが報告されています。無形資産投資には、ソフトウェア・データベース、研究開発、ブランド、組織改革、人的資本などが含まれます。

電通が提供する「非財務価値サーベイ」の説明によると、企業の競争力の源泉が有形資産から無形資産にシフトしており、米国市場(S&P500)の企業価値における無形資産比率は90%(2020年)を占めているとされています。一方で、日本企業においては、企業価値に占める無形資産の割合が欧米と比べて相対的に低いという課題があると指摘されています。

この差の要因として、多くの日本企業が「非財務活動と業績の関係性」を認識できていないことや、数百ともいわれる多種多様なESGテーマの中から有望なものを見いだせていないことなどが挙げられています。

AIによる企業評価の現実

AIを活用した企業評価は、すでに一部の分野で実用化が進んでいます。

野村資本市場研究所の報告によると、AI技術を活用するESG評価機関として、RepRiskは2006年よりAI技術をアナリストの知見と組み合わせてリサーチ、分析、リスク指標の算出に活用しています。また、Truvalue Labsなどの機関も、自然言語処理技術(NLP)を通じて、メディアニュースの内容からESGとの関連性を判断したり、不祥事情報を抽出したりする取り組みを行っています。

2024年7月には、ニッセイアセットマネジメントがナウキャスト社と協力し、生成AIを活用して統合報告書を分析する取り組みを開始したと日本経済新聞が報じました。統合報告書をAIが読み込み、ESGに関する項目などを自動で抽出し、投資判断を迅速にする目的とのことです。

また、九州大学発のベンチャー企業であるaiESG社は、AIを活用したESG分析サービスを提供しており、商品やサービスを3,290項目で評価し、人権侵害や環境破壊のリスクを洗い出すサービスを展開しています。

これらの事例は、企業評価においてAIが活用される領域が広がっていることを示しています。ただし、現時点では主に開示情報やニュースなどのテキストデータが分析対象となっており、経営者の表情や語気といった映像の非言語情報をAIが分析して企業を評価するという段階には至っていません。

ESGと企業業績の関係

三菱総合研究所が2024年に公表した分析では、企業のESGへの取り組みが全要素生産性(TFP)の向上を通じて、中長期的に財務パフォーマンスを向上させることが示されています。ただし、その効果が現れるには時間を要するとも指摘されています。

アビームコンサルティングが発表した「日本企業の企業価値を高めるESG指標トップ30(2024年度)」では、前回の分析調査から21指標が継続してランクインしており、企業価値向上への中長期的な寄与が改めて明らかになったとされています。

これらの調査結果は、非財務的な取り組みが企業価値に影響を与える可能性を示唆しています。


経営者の想いを「記録」することの意味

現時点での価値

経営者インタビュー映像が持つ現実的な価値は、以下のような点にあると考えられます。

言語化の促進 インタビューを受けることで、経営者自身が普段は言葉にしていない想いや価値観を整理する機会になります。質問に答えようとする過程で、漠然と感じていたことが明確な言葉になっていく。この「言語化」のプロセス自体に価値があります。

非言語情報の伝達 経営者が語る際の表情、声のトーン、間の取り方。こうした非言語的な情報は、テキストでは伝えることができません。「お客様を大切にしています」という言葉を、真剣な表情で語るのを見るのと、テキストで読むのとでは、受け取る印象が大きく異なります。

アーカイブとしての機能 経営者の想いを映像として記録しておくことは、社内での理念浸透、採用活動、事業承継など、様々な場面で活用できる資産となります。特に、創業者や現経営者の想いを次世代に伝える手段として、映像は文字では得られない臨場感を持っています。

将来の可能性

AI技術の進化により、映像の非言語情報を分析する技術は発展しています。神戸大学の國部克彦教授らによる『AIによるESG評価』(2023年)では、「経営トップのナルシズム判定モデル」や「画像認識AIモデルを利用したESG情報の分析」などの研究が紹介されています。

こうした研究の発展を踏まえると、将来的に経営者の映像が企業評価の材料の一部として活用される可能性は否定できません。ただし、これはあくまで将来の可能性であり、現時点で「経営者インタビュー映像を制作しておけばAI評価で有利になる」と断言することはできません。


中小企業にとっての現実的な選択

大企業では、統合報告書の作成やESGへの取り組みが進んでいます。しかし、中小企業にとって、これらに本格的に取り組むことはリソース面で難しい場合が多いのが現実です。

そうした中で、経営者インタビュー映像は、比較的取り組みやすい「非財務情報の可視化」の手段と言えるかもしれません。統合報告書を作成するほどのリソースはなくても、経営者自身が語る映像を一本制作することは、多くの企業にとって現実的な選択肢です。

ただし、映像を制作すれば自動的に企業価値が向上するわけではありません。映像はあくまで「伝える手段」であり、伝えるべき独自性や想いがなければ、効果は限定的です。また、制作した映像をどのように活用するか——ウェブサイトへの掲載、採用活動での活用、社内研修での利用など——を事前に検討しておく必要があります。


おわりに

企業価値に占める無形資産の比率が高まり、AIを活用した企業評価が広がりつつある現在、「数字に表れない価値」をどのように可視化し、伝えるかは、多くの企業にとっての課題となっています。

経営者インタビュー映像は、その課題に対する一つのアプローチです。経営者の想いを言語化し、非言語情報も含めて記録し、様々な場面で活用できる形で残しておく。それが将来どのような形で評価されるかは未知数ですが、少なくとも現時点で、採用活動や理念浸透、事業承継といった場面で活用できる資産となることは確かです。

貴社では、経営者の想いをどのような形で記録していますか。そして、その記録は、伝えたい相手に届いているでしょうか。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。