12席の美食空間で繰り広げられる「エビづくし」の一夜——後藤シェフが語る、枠に囚われない料理の醍醐味

三重県松阪市に、不定期で開かれる12席限定の食のイベントがあります。「twlv club」と名付けられたこの空間は、毎回異なるシェフを招き、一夜限りのコースを提供する実験的なキッチンスタジオです。

2024年10月、この特別な空間に招かれたのは、シャトー ラ・パルム・ドールのグランシェフ・後藤雅司氏でした。テーマは「エビづくし」。前菜からメインまで、すべてをエビで構成するという挑戦的なコースが披露されました。

限られた席数、一夜限りという条件。この制約が、シェフの創造性を解き放つ装置として機能しています。


「料理の鉄人」を経た料理人の矜持

後藤シェフには、20数年前に「料理の鉄人」に出演した経歴があります。その時のテーマ素材がテナガエビでした。今回のコースでも、そのテナガエビ料理が登場します。お煎餅のようなパリッとした大きなフィアンティーヌを上に乗せ、ナイフで割ると、テナガエビのプリッとした食感が現れます。食感の対比を楽しむ一皿です。

20年以上の時を経て、テレビ番組で魅せた技術は、今もなお進化を続けています。その研鑽の継続性こそが、後藤シェフの料理人としての厚みを物語っています。


「フランス料理の枠に囚われない」という自由

映像の中で、後藤シェフはこう語ります。

「遊び心もあっていろんなこともさせてもらいますけども、フランス料理の枠に囚われず、自分自身の料理ができるのがこの良さであったり、メリットかなと思っています」

twlvという空間は、レストランとは異なる自由度を持っています。定番のコース構成に縛られることなく、シェフ自身の発想で料理を組み立てることができます。今回のエビづくしも、シャトー ラ・パルム・ドールで開催中の伊勢フェアとの連動から生まれた企画です。「どうせなら全てエビでやってみましょうか」という対話から、この一夜限りのコースが形になりました。


三重の食材を活かす技法の多彩さ

コースは、小さなアミューズブーシュから始まります。続いてボタンエビのカクテル。ウニやキャビアをふんだんに使い、エビで取ったコンソメジュレでさっぱりと仕上げています。

メインの前菜は、ボタンエビのナポリ風。バジルの香りを効かせ、爪の部分はエビのジュースでアクセントをつけています。そしてテナガエビ、伊勢エビと続きます。

特に印象的なのは、伊勢エビの調理法です。350グラムから400グラムという最も美味しいサイズを厳選し、瞬間スモークで仕上げます。「クシュと言いまして、パカッと開くスモーキーな感じ」と後藤シェフは表現します。視覚と嗅覚に訴える演出が、食べる前から期待を高めます。

締めくくりは、ボタンエビ、テナガエビ、伊勢エビ、オマールエビの4種類のエッセンスを効かせたスープです。和食の具足煮をフレンチバージョンに仕立てた一品で、「お客様がほっとする味」を狙っています。フランス料理でありながら、日本人の味覚に寄り添う配慮がそこにあります。


「印象に残る料理」への執念

後藤シェフは、料理人としての信念をこう語ります。

「料理というのは、何か印象に残らなければいけないと思うんですよ。今日食べていただいた中で1つでもいいので、あれが今まで食べた中で一番伊勢エビの料理で美味しかったとか、またあの一品を食べてみたいと、そこまで言っていただけるような料理を提供できれば、料理人として本望ですよね」

数あるコースの中から、たった一皿でいい。記憶に刻まれる料理を届けたい。この言葉には、華やかな経歴を持つシェフの謙虚さと、同時に揺るぎない自負が込められています。


アストライドのミッション

「印象に残らなければいけない」

後藤シェフのこの言葉に、私は深く共感しました。

料理も映像も、受け手の記憶に何かを残すことが本質的な価値です。どれだけ技術が高くても、どれだけ手間をかけても、心に届かなければ意味がありません。後藤シェフが追求する「印象に残る一皿」は、私がインタビュー映像を通じて目指しているものと重なります。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、さまざまな「想い」に触れてきました。twlvという空間で繰り広げられる一夜限りの饗宴もまた、シェフと主催者の想いが凝縮された表現の場です。

本映像では、後藤シェフの料理に対する姿勢——フランス料理の枠に囚われない自由さ、そして「記憶に残る一皿」への執念——が、調理の手元や語りの表情を通じて伝わってきます。レストランの公式紹介では伝えきれない、料理人の息遣いがここにあります。

アストライドは、こうした「想い」を映像として記録し、より広く届けることに取り組んでいます。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。