口の中でとろける松阪牛ホルモン——平尾兄弟が挑む、地元食文化とイタリアンの融合

三重県松阪市に、不定期で開かれる12席限定の食のイベントがあります。「twlv club」と名付けられたこの空間は、毎回異なるシェフを招き、一夜限りのコースを提供する実験的なキッチンスタジオです。

2024年8月、この特別な空間に招かれたのは、松阪市のイタリアン「TAVERNA Kenta」を営む平尾健太・良太兄弟でした。テーマは「松阪牛ホルモン」。地元の食文化を、イタリアンの技法で再解釈するという挑戦的なコースが披露されました。


「トロホルモン」の科学——口の温度で溶ける理由

松阪牛のホルモンは「トロホルモン」とも呼ばれます。その名の通り、口の中でとろけるような食感が特徴です。

映像の中で、平尾兄弟はその理由をこう説明しています。

「松阪牛の特徴は、不飽和脂肪酸を含んでいること。それによって融点が下がるんですよ。食べた時の口の温度で溶けるので、とろけるような食感になる」

癖がなく、思った以上に柔らかい。だからこそ「使い回しはいくらでもできる」と平尾兄弟は語ります。ホルモンという食材の可能性を、科学的な視点から捉え直す姿勢がそこにあります。


松阪の食文化を伝える——味噌で食べるホルモン

コースの冒頭に登場するのは、松阪の味噌で食べるホルモンです。

「松阪の人にはごく当たり前なんですけど、初めて聞くと関東の方とか関西の方とかはびっくりされるんです」

地元では当然のように行われている食べ方が、外から来た人にとっては新鮮な驚きになる。平尾兄弟は、この「インパクトのある、松阪ならではの食文化」を伝えることを、今回のコースの軸に据えています。

味噌で食べるホルモンに合うワインをマリアージュする。地元の食文化を大切にしながら、イタリアンの文脈で再構築する。その姿勢が、コース全体を貫いています。


イタリアンの技法で広がるホルモンの可能性

コースは、松阪の味噌で食べるホルモンから始まり、多彩な展開を見せます。

フォアグラを調理したものを生春巻き仕立てで。魚の内臓をペーストにして添える一皿。そしてパスタにホルモンを入れてみたり、イタリアン風にアプローチしてみたり。締めくくりは、和の要素を取り入れた「ホルモンひつまぶし」です。

「うちらしさを出しながら」と平尾兄弟は語ります。イタリアンという自分たちの軸を持ちながら、ホルモンという食材の可能性を広げていく。twlvという空間が、その実験を可能にしています。


兄弟の連携が生む「ライブ感」

twlvのカウンターは、客との目線が近い。その距離感が、独特のライブ感を生み出します。

「今回は弟が僕の分以上に喋ってくれるんで」と兄の健太氏は笑います。兄がつくり、弟が語り、ワインを合わせる。この役割分担が、料理を味わうだけでなく、理解し、楽しむ体験を生み出しています。

「来てよかったってまず思っていただきたい。楽しんでいただきたい。全力で兄弟でこの12という空間で素敵な1日にできたらなと思っています」

この言葉に、平尾兄弟のもてなしの姿勢が凝縮されています。


「普段できないことに挑戦できる場所」

平尾兄弟は、twlvという場所についてこう語ります。

「twlvっていう場所は、普段できないことにチャレンジしたり、新たな店の可能性を広げてくれる場所だなって。すごく刺激的な会です」

自店では提供できないメニュー、試したことのない組み合わせ、新しい表現。twlvは、シェフにとっての実験場であり、同時に成長の場でもあります。限られた席数、一夜限りという条件が、挑戦を後押ししています。


アストライドのミッション

「インパクトのある、松阪ならではの食文化を伝えたい」

平尾兄弟のこの言葉に、私は深く共感しました。

地元では当たり前のことが、外から見れば驚きになる。その価値を再発見し、伝えていくこと。それは、私がインタビュー映像を通じて取り組んでいることと重なります。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、さまざまな「想い」に触れてきました。twlvという空間で繰り広げられる一夜限りの饗宴もまた、シェフと主催者の想いが凝縮された表現の場です。

本映像では、平尾兄弟の料理に対する姿勢——松阪の食文化への敬意、イタリアンの技法による再解釈、そして兄弟で届けるもてなしの心——が、調理の手元や語りの表情を通じて伝わってきます。

アストライドは、こうした「想い」を映像として記録し、より広く届けることに取り組んでいます。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。