取引先と会う機会が少ないまま、連絡の回数を増やすことだけで関係を保とうとしていませんか?接触の回数と満足の関係を考えるには、担当者への満足や、相手と個別に話す対話の中身にも目を向ける必要があります。
この記事では、接触と満足に関する研究の範囲、広く出回る数字の扱い、番組のゲスト回で取引先との対話の場を作る方法について取り上げます。最初に取材を申し込む相手を選び、自社でその後の変化を測るための考え方もお伝えします。
この記事でわかること
接触の回数と企業全体への満足に関する調査結果
満足との関連が確認された個人的な接触
広く流通する「無関心68%」の数字の扱い
自社で記録する失注・解約の理由と個別接触からの日数
新規獲得と既存顧客維持のコスト比の読み方
取引先との個別の対話を月に一度作る方法
番組のゲスト回で取引先と向き合う年間計画
出演後の発注・紹介・社内共有の変化と比較方法
目次
接触の回数そのものは、企業全体への満足に直接つながっていなかった 接触の回数と満足の関連が確認されたのは、電話などの個人的な接触だった 「無関心が68%」という数字について 自社で測るなら、何を分けるか 新規獲得と維持のコスト比 月1回の接点をどう作るか 番組のゲスト回という形 効果をどう測るか まとめ この記事からわかるQ&A 出典
接触の回数そのものは、企業全体への満足に直接つながっていなかった
韓国の延世大学の Lia Jung 氏と済州大学の Seolwoo Park 氏は、2020年に、企業からの接触の回数と顧客の満足の関係を調べた論文を発表しています。掲載誌は Global Business & Finance Review の第25巻3号(75〜83頁)です。
調査対象は、直近6か月以内に、顧客との関係を築くための接触を韓国のサービス企業から受けた人です。企業の例には、銀行、保険、クレジットカード、百貨店、スキンケアの店などが挙がっています。調査員が街頭で声をかけて225人から回答を得ており、論文が結果を報告している回答者は199人です。
接触の回数は、「サービス企業からの接触の回数」を7段階で尋ねる1つの項目で測定されています。
結果は、「接触の回数を増やせば、企業全体への満足も高まる」という単純な想定と食い違うものでした。
経路 係数 有意かどうか 接触の回数 → 企業全体への満足(直接効果) β = −.006(信頼区間 −.093〜.080) 有意でない 接触の回数 → 担当者への満足 → 企業全体への満足(間接効果) β = .165(信頼区間 .056〜.276) 有意
接触の回数が企業全体への満足に直接及ぼす影響は、統計的に確かめられませんでした。一方で、担当者への満足を経由する間接的な経路は有意でした。著者らは、担当者に対する満足が、接触の回数と企業全体への満足の関係を媒介する可能性があると述べています。
接触の回数と満足の関連が確認されたのは、電話などの個人的な接触だった
同研究では、接触手段を個人的な接触と非個人的な接触に分けた分析も行われています。
電話などの個人的な接触では、回数が担当者への満足を高める経路が有意でした(β = .197, p < .01)。企業全体への満足に至る経路も有意です(β = .182, p < .05)。
これに対して、一斉配信のメールなど、非個人的な接触では、どちらの経路も有意になりませんでした(担当者への満足 β = .142、企業全体への満足 β = .074)。
著者らは、対面や電話による個別の情報提供は、一斉送信のテキストやメールよりも、顧客関係に対する満足を高めやすいと考察しています。
この調査の範囲では、一斉に送る連絡の回数を増やしても、満足が高まるとは確かめられていません。満足との関連が確認されたのは、担当者が顧客と直接やり取りする個人的な接触でした。
顧客の愛着傾向によっても、接触の回数との関連は異なっていました。愛着不安の高い顧客(人との関係で不安を抱きやすく、相手に頼る傾向のある人)では、接触の回数と担当者への満足(β = .204, p < .05)、企業全体への満足(β = .257, p < .01)の関連が有意でした。愛着回避の高い顧客(人と距離を置き、人に頼らない傾向のある人)では、どちらの関連も有意になっていません。
著者らは、信頼関係が十分に形成されていない初期段階では、頻繁な接触がかえって満足を下げる可能性にも言及しています。
なお、この研究の対象は、金融を中心としたサービス業の利用者です。論文自身も、製造業やBtoBへの拡張を今後の課題として挙げています。この結果を、自社のBtoB取引先にそのまま一般化することは避けるべきです。
担当者個人に依存した顧客関係を、組織の資産としてどう引き継ぐかについては、関連記事「営業担当が辞めると顧客も離れるのはなぜか 」をご覧ください。
「無関心が68%」という数字について
顧客離反の理由として、「顧客の68%は、企業が自分に無関心だと感じたために取引をやめる」という数値が広く引用されています。米国の CXL が公開した記事(2019年公開、2024年更新)も、この数値を図とともに紹介している例の1つです。
ただし、原調査の報告書、標本の設計、調査対象の業種などを直接確認できる公開資料は、CXL の記事を含め、確認できませんでした。この数値を、BtoB全般に当てはまる一般的な比率として引用するのは避けるべきです。
使用する場合は、出典の追跡に限界があることを明記し、一般化できない参考値として扱うのが妥当です。自社の取引先にそのまま当てはまるかどうかは、自社のデータで確かめる必要があります。
自社で測るなら、何を分けるか
放置の害を自社で確かめる場合、失注と解約のアンケートを設計する方法があります。
解約や失注の理由は、価格、成果不足、担当者の交代、競合への切り替え、連絡不足や理解不足、予算や組織の事情の6つに分けて記録します。
あわせて、最後の個別の接触から解約や失注までの日数も集計してください。理由別の比率と、連絡が途絶えていた期間を並べれば、その期間と解約や失注との関係が、自社のデータで確かめられます。
一斉配信の指標をどう読み直すかは、メールマガジンに音声を足すと、何が変わるか をご覧ください。
新規獲得と維持のコスト比
もう1つ、広く流通している数字に、「新規顧客の獲得には、既存顧客の維持の5倍のコストがかかる」というものがあります。
Harvard Business Review は2014年10月29日に、Amy Gallo 氏の記事「The Value of Keeping the Right Customers」を掲載しました。Gallo 氏はこの記事で、どの研究を信じるか、どの業界にいるかによって幅があるとしたうえで、新規顧客の獲得にかかるコストを、既存顧客の維持の5倍から25倍と紹介しています。
「新規獲得は既存顧客維持の5倍のコストがかかる」という定説そのものにも、疑問が示されています。Ipsos Loyalty の研究者らは、2005年の著書『Loyalty Myths』で、この説を顧客ロイヤルティの思い込みの1つとして取り上げました。著者らは、この比率の正確な起源を特定することは難しいとしつつ、追跡できた最も古い出典として、1980年代後半の TARP(Technical Assistance Research Project)による研究を挙げています。
著者らが挙げた問題点は3つあります。1つ目は、広告や販促の費用を新規獲得の側に偏って数えている点です。広告費には、新規顧客の獲得だけでなく、既存顧客にブランドを想起してもらう役割にかかる分も含まれます。2つ目は、製品や事業のライフサイクルによって費用構造が変わる点です。立ち上げ・成長期には獲得コストが、衰退期には維持コストが大きくなり、成熟期にはどちらに傾くかが定まりません。3つ目は、顧客ごとに獲得と維持の費用が違う点です。利益貢献の大きい顧客ほど、競合からの誘いも多く、高いサービス水準を求めるため、維持コストが高くなることがよくあります。
したがって、稟議の資料では「新規獲得は既存維持の約5倍」という書き方を避けるほうが堅実です。Harvard Business Review の記事も、研究や業界によって5倍から25倍という幅で紹介していました。自社で比較する際は、顧客獲得コストと既存顧客維持コストを、同じ費用範囲・同じ測定期間・同じ顧客区分で算定しておくと、出典の面でも経営の面でも説明が通ります。
月1回の接点をどう作るか
ここまでの研究から言えるのは、接触の回数を増やすだけでは企業全体への満足に直接つながらず、担当者を通した個人的な接触で満足との関連が確かめられた、という点です。この記事の後半では、取引先と個別に向き合う機会を、年に1回から月に1回へ増やす具体策を示します。
普段の営業の訪問は、自分を売り込みに来たものとして相手に受け取られやすく、相手は身構えた状態で迎えることになる、と私たちは考えています。
これに対して、番組のゲストとしてお招きする形に切り替えると、相手の受け止め方は大きく変わると思います。相手にとっては、自社の話を語る場が用意され、その内容が記録として残るためです。
取材の依頼が受け入れられやすい理由については、取材の依頼はなぜ通るのか で詳しく記載しています。
いったん途切れた相手との再開については、連絡が途切れた顧客と、もう一度つながる にまとめています。
番組のゲスト回という形
ポッドキャストの番組を持っている会社は、この取材の場を定例で作れる、と私たちは考えています。番組を持つことで、お招きしたい方と話す場を月に1回作れるからです。
週1回配信で年48本の番組であれば、番組を持つ側はそのうち12回をゲスト回に充てられます。ゲスト回は全体の25%で、4本に1本の割合です。番組を持つ側は、1年で12社の取引先と個別に向き合えます。1社ごとに見れば、ゲストとして向き合うのは年に1回です。
公開した回は、KOEGURA、Spotify、Apple Podcasts、Amazon Music の4媒体で配信します。
効果をどう測るか
この形で継続率が何ポイント上がるという数字は、私たちも持ち合わせていません。
Jung 氏と Park 氏の研究が測っているのも、満足のほうです。継続率や解約は、この研究では測られていません。
自社で確かめる場合は、次の3つを見てください。1つ目は、ゲスト回に出た取引先からの発注が、出演の後にどう変わったかという点です。契約の更新や発注の周期に合わせて、見る期間を決めてください。2つ目は、その会社から別の会社を紹介いただけたかどうかです。3つ目に、公開後に先方の社内でその回が共有されたかどうかも見てください。
ゲスト回に出る取引先は、もともと関係の深い会社であることも考えられます。出演していない取引先の、同じ期間の変化と並べて見てください。
取引先をゲストに招く番組を始めたい場合は、アストライドの「既存顧客との関係づくりに音声を活用する」 をご覧ください。
まとめ
接触の回数そのものは、企業全体への満足へ直接つながっていませんでした(β = −.006、信頼区間 −.093〜.080)。有意だったのは、担当者への満足を経由する間接的な経路のほうです(β = .165)。
接触の種類でも差が出ています。電話などの個人的な接触では回数の効果が有意でしたが(β = .197, p < .01)、一斉配信のメールなど、非個人的な接触では有意になりませんでした。
顧客の離脱理由として広く引用される「無関心68%」は、原調査の設計や母集団を確認できる公開資料が見当たりません。この数字は出どころを明示したうえで、参考値として扱ってください。
新規獲得と維持のコスト比について、Harvard Business Review の記事が示しているのは、5倍から25倍という幅です。この比率は、自社の基準で測り直すことをお勧めします。
もし取引先との接点を増やしたいのであれば、まず1社を選んで取材を申し込んでみてください。営業の訪問と違い、相手の側にも受ける理由が生まれます。
この記事からわかるQ&A
取引先への連絡を増やせば関係は保てますか
回数を増やすだけで、企業全体への満足が高まるとは確かめられていません。韓国のサービス利用者199人を対象にした2020年の研究では、接触の回数が企業全体への満足に直接つながる経路は有意になりませんでした(β = −.006、信頼区間 −.093〜.080)。有意だったのは、担当者への満足を経由する間接的な経路です(β = .165、信頼区間 .056〜.276)。
メールマガジンでは足りませんか
同じ研究では、接触手段を個人的な接触と非個人的な接触に分けた分析が行われています。電話などの個人的な接触では、回数が担当者への満足を高める経路が有意でした(β = .197, p < .01)。一斉配信のメールなど、非個人的な接触では、どちらの経路も有意になっていません。研究が比べたのは接触の種類で、メールマガジンの中身や配信の頻度は比較の対象外でした。
「顧客の68%は無関心でやめる」という数字は使えますか
出典の追跡に限界があることを明記し、一般化できない参考値として扱ってください。この数値は海外のマーケティング記事で広く紹介されていますが、原調査の報告書、標本の設計、調査対象の業種などを直接確認できる公開資料は確認できませんでした。BtoB全般に当てはまる一般的な比率として引用するのは避けるべきです。
新規獲得は既存維持の5倍のコストがかかりますか
Harvard Business Review は2014年の記事で、この比を5倍から25倍と紹介し、その幅は研究と業界によると書いています。Ipsos Loyalty の研究者らは2005年の著書で、5倍説について追跡できた最も古い出典を1980年代後半の TARP の研究とし、広告費の数え方、製品や事業のライフサイクル、顧客ごとの費用の違いという問題を挙げました。自社の基準で測り直してください。
番組のゲスト回で年に何社と会えますか
週1回配信で年48本の番組であれば、番組を持つ側はそのうち12回をゲスト回に充てられます。ゲスト回は全体の25%、4本に1本で、1年に12社の取引先と個別に向き合う計算です。月に1回、取引先のどこか1社と個別に向き合う場が定例でできます。
出典
Jung, L., & Park, S. (2020). “The Effect of Contact Frequency with Customers on Relationship Satisfaction.” Global Business & Finance Review, 25(3), 75–83(2020年9月25日受理)。直近6か月以内に韓国のサービス企業から関係を築くための接触を受けた人(街頭で225人から回答を得て、回答者199人)を対象に、接触の回数と、担当者への満足・企業全体への満足の関係を分析。接触の回数→企業全体への満足の直接効果は有意でなく(β = −.006、信頼区間 −.093〜.080)、担当者への満足を介した間接効果は有意(β = .165、信頼区間 .056〜.276)。電話などの個人的な接触では回数→担当者への満足(β = .197, p < .01)・回数→企業全体への満足(β = .182, p < .05)がいずれも有意で、一斉配信のメールなどの非個人的な接触では有意でなかった。愛着不安の高い顧客では有意(β = .204、β = .257)、愛着回避の高い顧客では有意でなかった https://doi.org/10.17549/gbfr.2020.25.3.75 (全文:EconStor https://hdl.handle.net/10419/253307 )
CXL「You Only Need These 4 Customer Retention Strategies」2019年6月3日公開、2024年10月30日更新。顧客の68%が、企業が自分に無関心だと感じて取引をやめる、という数値を図とともに紹介している。原調査の報告書・標本・対象業種は、記事にも公開資料にも見当たらない https://cxl.com/blog/customer-retention-strategy/
Gallo, A. (2014年10月29日). “The Value of Keeping the Right Customers.” Harvard Business Review. 新規顧客の獲得は既存顧客の維持より5倍から25倍のコストがかかると紹介。ただし「どの研究を信じるか、どの業界にいるかによる」と書いている https://hbr.org/2014/10/the-value-of-keeping-the-right-customers
Keiningham, T. L., Vavra, T. G., Aksoy, L., & Wallard, H. (2005). Loyalty Myths. Ipsos Loyalty による抜粋「Loyalty Myth #8: It Costs Five Times More to Acquire a Customer than to Retain a Customer」(© 2005 Ipsos)。5倍説について追跡できた最も古い出典を1980年代後半の TARP(Technical Assistance Research Project)の研究とし、広告・販促費の配分、製品と事業のライフサイクル、顧客ごとの獲得・維持費の違いという3つの問題を挙げている https://www.ipsos.com/sites/default/files/publication/2003-08/Ipsos_Loyalty_Myth_8_Excerpt.pdf
アストライド「ポッドキャストで新規開拓に取り組む|取材依頼から商談までの設計」CBN伴走支援の運用条件(2026年10月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/networking/
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