専門性は何回語れば伝わるのか。1本では届かない理由

この記事でわかること
- 意思決定者が専門的な発信に使っている時間
- 読まれた内容が評価されている割合
- 「何回で伝わるか」の調査の現状
- 受容を分けている条件
- 年間の本数をどう決めるか
業界の中ではよく知られているものの、その外側の場になると社名が出てこない。この状態を変えるために、専門的な知見を発信しようとお考えになる会社があります。
ここで最初に出てくるのが、どれくらいの量を出せばよいのかという問いになります。1本の記事で足りるのか、月1本で足りるのか、それとも毎週出す必要があるのか。
この記事では、公開されている調査から答えられる範囲のことを並べます。あわせて、いまの調査で答えの出ていない範囲も示します。
意思決定者は、週1時間を専門的な発信に使っている
EdelmanとLinkedInの2社が2024年に、調査の結果を公表しています。対象は7か国の管理職以上3,484人で、実施期間は2023年11月30日から12月14日でした。
| 対象 | 週に1時間以上を使っている割合 |
|---|---|
| 意思決定者 | 52% |
| C-suite(経営層) | 54% |
同じ2社が2017年に公表した調査のほうでも、近い数字が出ています。米国の意思決定者1,329人が対象で、50%が週1時間以上と回答しています。内訳は1〜3時間が38%、4時間以上が12%です。C-suiteでは49%が週1時間以上で、1〜3時間が33%、4時間以上が16%になります。
意思決定者の側には、週あたり1時間ほどの専門的なコンテンツを読むための枠があります。
ただし、その枠は奪い合いになっている
問題になるのは、この1時間をどれだけの発信者が取り合っているかという点です。
2024年の同じ調査では、読んだコンテンツを「非常に良い」または「優れている」と評価した意思決定者が15%にとどまっています。残る85%の意思決定者のほうは、読んだ内容のことをそこまで評価していません。
週1時間という枠そのものは存在しています。ただしその枠に入ったとしても、記憶に残る側へ回れるのは一部だという結果でした。
「何回で伝わるか」を測った調査は乏しい
何回発信すればBtoBで成果が出るのか。この問いを直接に検証したという調査のほうを、私たちはどこにも見つけられませんでした。接触の回数を3回、5回と操作して結果を比べた実験は、この領域には見当たりません。
心理学には、単純接触効果という知見があります。ロバート・ザイアンス以降の研究が示したのは、繰り返し接した対象に人が親しみを持ちやすいという傾向です。ただしこれは態度や親近感を扱った実験の知見であって、BtoBの購買の因果をそのまま示すものとは違います。
「3回接触すれば覚えられる」「7回で購買につながる」といった数字が流通していますが、BtoBの文脈で検証された根拠を確認できません。
分かっているのは、一貫性のほうが受容を分けること
回数について直接の答えがない一方で、調査から確かめられていることもあります。
EdelmanとLinkedInの2024年の調査では、「高品質な発信を一貫して行っている企業」への評価が扱われています。この条件に当てはまる企業ほど、意思決定者の側で検討の対象に入り、提案依頼書の送付先になり、営業からの接触を受け入れる度合いが高くなっています。
質の高いソートリーダーシップに触れた意思決定者のうち、75%が以前は検討していなかった製品やサービスを調べ始めたと回答しています。約90%は、発信した企業からの営業やマーケティングに好意的になったと答えました。
ここで受容の度合いを分けているのは、回数そのものというより一貫性のほうです。
「一貫して」とは、どういう状態か
この一貫性という語には、2つの意味が含まれています。
1つ目は、間隔の一貫性です。この語が指すのは、月1回なら月1回、週1回なら週1回で出し続ける状態です。3か月ほど止まってから再開したような発信は、この1つ目の条件を満たしません。
2つ目に挙げるのは、扱う範囲についての一貫性になります。毎回まったく違う話題を出す発信は、聞く側にとって専門性の像を結んでくれません。1つの領域について、切り口の角度を変えながら語り続けていくという形が要ります。
この2つを守った場合に、聞いた側の頭の中で「この領域といえばこの会社」という結びつきが作られていきます。
年間の本数をどう決めるか
では実務として、御社はどれくらいの本数を出すべきなのか。
直接の根拠がありませんので、ここから先は設計の考え方としてお読みください。私たちが目安にしているのは、話せる題材の在庫です。
年48本の番組であれば、48個の題材が要ります。必要になる数は、年24本の番組で24個、年12本の番組で12個です。1つの領域について、この数だけの角度を出せるかどうかが最初の判断になります。
出せる角度が5個しかない領域で年48本を組むと、10回目あたりから同じ話が繰り返されます。一貫性のうち2つ目の条件、つまり扱う範囲の一貫性は保てても、中身が薄くなっていきます。
差の示し方については、同業他社と同じに見えてしまう会社が、違いを示す方法で詳しく記載しています。
1本では届かない理由
なぜ1本では足りないのか。ここまでの数字から、2つのことが言えます。
1つ目は、確率の問題にあたります。意思決定者の週1時間という枠に、たまたま自社の1本が入る確率は高くありません。回数を重ねることで、枠に入る機会そのものが増えます。
2つ目に挙げるのは、評価の問題です。読んだ内容を優れていると評価したのは、わずか15%でした。1本で当たりを引ける見込みは低く、複数の角度から出すほうが確からしくなります。
ただし、質の低いものを回数だけ増やしたとしても、上位15%の側へは入れません。回数と質は、どちらか一方で代替できる関係にありません。
音声という形の位置づけ
専門的な発信を運ぶための形として見た場合、音声というメディアには向いているところがあります。
週1時間というこの枠は、机の前に座っている時間だけを指すとも限りません。移動や作業の時間へ回していただける形であれば、その枠の外側にも届きます。
Demand Gen Reportが2018年に、BtoBのバイヤーへ調査を行っています。BtoBのバイヤーの64%が、認知から初期検討の段階で好むメディアとしてポッドキャストを挙げています。
日本国内では、オトナルと朝日新聞社が2025年12月に実施した調査があります。全体10,000人、利用者800人が対象で、月間の利用率は18.2%です。決裁権者が占める比率は、主要な7つのメディアの中で2位という結果でした。
まとめ
EdelmanとLinkedInの2社が2024年に、7か国の管理職以上3,484人へ調査を行っています。意思決定者の52%、経営層の54%が、専門的な発信に週1時間以上を使っていました。
ただし、読んだコンテンツを「非常に良い」または「優れている」と評価した意思決定者は15%にとどまります。週1時間の枠に入ったとしても、記憶に残る側へ回れるのはその一部だけです。
何回発信すればよいのかという点を直接検証した調査は、見つかりませんでした。単純接触効果の研究は態度や親近感を扱った実験であり、BtoBの購買の因果を示すものとは違います。
分かっているのは、高品質な発信を一貫して行う企業ほど、検討の対象に入り営業からの接触を受け入れる度合いが高いという点です。この一貫性という語には、間隔と扱う範囲という2つの意味が含まれます。
もし発信を始められるなら、まず1つの領域について語れる角度を数えてみてください。数え上げたその数が、年間で出せる本数の上限になります。
この記事からわかるQ&A
意思決定者はどれくらい専門的な発信を読んでいますか
EdelmanとLinkedInの2社が2024年に、7か国の管理職以上3,484人へ調査を行っています。意思決定者の52%と経営層の54%が、週に1時間以上という時間を使っていました。2017年に米国の意思決定者1,329人へ行った調査でも、50%が週1時間以上と回答しています。
何回発信すれば専門性が伝わりますか
この問いを直接に検証したという調査のほうを、私たちはどこにも見つけられませんでした。接触の回数を3回、5回と操作して結果を比べた実験は、この領域には見当たりません。「3回で覚えられる」「7回で購買につながる」といった数字はBtoBの文脈で検証された根拠を確認できませんので、そのまま使わないほうが安全です。
単純接触効果は使えませんか
ロバート・ザイアンス以降の研究が示したのは、繰り返し接した対象に人が親しみを持ちやすいという傾向です。ただしこれは態度や親近感を扱った実験の知見であって、BtoBの購買の因果をそのまま示すものとは違います。反復の心理的な基盤としては参照できますが、回数の根拠としては使えません。
何が受容を分けていますか
一貫性です。EdelmanとLinkedInの2024年の調査に、その結果が出ています。高品質な発信を一貫して行っている企業ほど、意思決定者の側で検討の対象に入り、提案依頼書の送付先になり、営業からの接触を受け入れる度合いが高くなっていました。一貫性という語には、間隔の一貫性と扱う範囲の一貫性という2つが含まれます。
年間の本数はどう決めればよいですか
話せる題材の在庫から決めてください。年48本の番組であれば48個、年24本であれば24個、年12本であれば12個の題材が要ります。出せる角度が5個しかない領域で年48本を組むと、10回目あたりから同じ話が繰り返されます。
出典
- Edelman × LinkedIn「B2B Thought Leadership Impact Report 2024」7か国、LinkedIn上で管理職以上の3,484人が対象(2023年11月30日〜12月14日実施)。意思決定者の52%、C-suiteの54%がソートリーダーシップを週平均1時間以上読む・視聴する。読んだコンテンツを「非常に良い/優れている」と評価した意思決定者は15%。質の高いソートリーダーシップに触れた意思決定者の75%が以前は検討していなかった製品・サービスを調べ始め、約90%が発信企業からの営業・マーケティングに好意的になると回答 https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/2024-02/_2024%20Edelman-LinkedIn%20B2B%20Thought%20Leadership%20Impact%20Report%20Final.pdf
- Edelman × LinkedIn「B2B Thought Leadership Impact Study 2017」米国の意思決定者1,329人、LinkedIn上のオンライン調査(2016年10〜11月実施)。意思決定者の50%が週1時間以上(1〜3時間38%、4時間以上12%)、C-suiteは49%(1〜3時間33%、4時間以上16%) https://www.edelman.com/research/2017-b2b-thought-leadership
- Zajonc, R. B. (1968). “Attitudinal effects of mere exposure.” *Journal of Personality and Social Psychology*, 9(2, Pt.2), 1–27. 繰り返し接した対象に人が親しみを持ちやすいという単純接触効果を示した研究。態度・親近感を扱った実験であり、BtoB購買の因果を示すものではない https://doi.org/10.1037/h0025848
- Demand Gen Report「2018 Content Preferences Survey Report」BtoBバイヤーの64%が、ポッドキャストを認知から初期検討の段階で好むメディアとして挙げた https://www.demandgenreport.com/resources/2018-content-preferences-survey-report/4979/
- オトナル×朝日新聞社「PODCAST REPORT IN JAPAN 第6回ポッドキャスト国内利用実態調査」2025年12月5〜6日実施、全体10,000人/利用者800人・15〜69歳。月間利用率18.2%、決裁権者比率は主要7メディア中2位 https://otonal.co.jp/news/2955
- Gartner「The B2B Buying Journey」BtoB製品の購買グループには6〜10人の意思決定者が含まれ、それぞれが独立して4〜5点の資料を集める。買い手が購買にかける総時間のうちベンダーとの直接接触は17% https://www.gartner.com/en/sales/insights/b2b-buying-journey
- ワンマーケティング「2025年度版 BtoB購買プロセス白書」2025年。全国の仕入・購買・契約関与者600人(うち意思決定者195人)が対象。意思決定者が重視する上位3項目は製品・サービス内容・品質45.6%、会社概要・信頼性33.3%、費用・見積金額32.8% https://box.onemarketing.jp/
- アストライド「ポッドキャスト制作・運用代行 月15万円〜|収録は月1回|三重・全国対応」配信頻度別の年間本数・番組尺15分(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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