社内報を出しているのに、読まれている手応えがなく、経営者の考えも社員に伝わらないままにしていませんか?読まれない原因を分けたうえで、制度や数字は文字に残し、決定に至った思考は声で話すという振り分けが考えられます。
この記事では、閲覧率と接触率の違い、読まれない原因、文字と声で思考の受け取られ方が変わる実験について取り上げます。音声にしても変わらないことと、自社に向くかを判断する確認点もお伝えします。
この記事でわかること
「読まれていない」の判断を左右する調査の数字の違い
トヨタが紙の社内報を終刊しても残した役割
社員が社内報に求める内容と掲載内容のずれ
時間・内容・当事者性に分かれる読まれない原因
同じ文章でも声で聴くと思考の評価が変わる実験結果
意見が食い違う相手への評価を分ける文字と声の違い
紙・Web・朝礼・チャット・音声で受け取れるものの違い
社内音声を聴いている社員が求めるテーマと調査の限界
音声にしても変わらない課題と文字で残すべき情報
認知・共感的理解・行動で捉える理念の浸透
社内音声配信が自社に向くかを判断する確認点
目次
「読まれていない」は、どの数字を見るかで変わる トヨタが紙の社内報をやめたとき、何を残したのか 社員が求めている内容と、載っている内容のずれ 読まれない原因は、3つに分かれる 同じ文章でも、声にすると書き手の思考が伝わる 意見が食い違う場面で、文字と声はどう受け取られるか 紙・Web・朝礼・チャット・音声で、社員が受け取れるもの 社員は、社内音声で何を聴きたがっているか 音声にしても変わらないこと 理念の浸透は、再生数だけでは測れない 自社に向くかを判断する4つの確認点 まとめ この記事からわかるQ&A 出典
「読まれていない」は、どの数字を見るかで変わる
社内報の届き方を示す調査には、少なくとも3つの異なる切り口があります。それぞれの調査が違う質問をしているため、得られた結果も分かれました。
産業編集センターは、自社のクライアント企業を対象に、社内報の閲読状況を定期的に調べています。2022年11月から2023年1月に155社から得た回答では、Web社内報の閲覧率のボリュームゾーンが4割で、5割以上と答えた企業は約3分の1にとどまりました。同社はこの状態を「4割の壁」と呼び、2025年7月に公開したコラムで、閲覧率を左右する要因の1つに、1人1台の端末があるかといった閲覧の環境を挙げています。この調査が質問した相手は、社内報を出している側の会社でした。
いっぽう、株式会社タンシキの経営・広報研究所が、全国の常勤役員と正規雇用者1,113名に聞いた調査では、まったく違う絵が出ています(2026年2月25日に調査、4月1日に速報、6月1日に最終版を公表)。勤務先で実施されている社内広報の施策について、「毎回必ず見る」と「たまに見る」を合わせた接触率は、主要な施策でおおむね8割前後でした。「全く見ない」と答えた人は、どの施策でも1割を切っています。最終版によると、示した10の施策のうちどれか1つでも勤務先で実施されていると答えた人は、回答者全体の56.8%でした。この調査が質問した相手は、受け取る側の社員です。
3つ目に、電通PRコンサルティングの企業広報戦略研究所が、従業員100人以上の上場企業で働く1,000人に聞いた調査があります(2023年6月に調査、11月13日に公表)。自社の理念を知っていると答えた769人に企業理念を目にする機会をたずねた設問(複数回答)で、最も多く挙がったのは社内報の60.6%でした。企業ウェブページが52.5%、社長のプレゼンテーションやメッセージが46.6%、動画が31.3%と続いています。理念を知っている社員が理念に触れる入り口として最も多く挙げたのは、社長のプレゼンテーションやメッセージよりも社内報のほうです。
3つの数字は矛盾していません。会社側が測ったWeb社内報の閲覧率は4割前後にとどまり、社員側の自己申告による接触率は、施策が実施されている職場の主要な施策でおおむね8割前後に達し、理念を知る社員が理念に触れる機会としては社内報が最も多く挙げられている、という状態です。ただし3つ目の調査の対象は上場企業に勤める人であり、中小企業がそのまま当てはまるかどうかまでは、この調査から分かりません。
閲読率だけを理由に社内報を廃止すると、会社は、理念を知っている社員にとって主要な接点だった媒体を、代わりの手段を決めないまま失うおそれがあります。社内報が読まれないという悩みの答えを、発行をやめる方向にだけ求めるのは、考え直したほうがよいかもしれません。
トヨタが紙の社内報をやめたとき、何を残したのか
紙をやめる判断を実際に下した会社もあります。トヨタ自動車は2023年11月、社内報「トヨタイムズMagazine」を終刊しました。Business Insider Japan は読売新聞オンラインの報道(2023年11月24日)を引いて、73年にわたって発行してきた紙の社内報だと伝えています。トヨタ自身は2023年11月27日のトヨタイムズの記事で、名前と内容を変えながらおよそ90年にわたって社内報を編んできたと説明し、トップの想いや仲間たちの活動を伝える役割はトヨタイムズが引き継ぐとしました。
この判断から読み取れるのは、媒体の廃止よりも機能の移し替えです。トヨタは、トップの想いや仲間たちの活動を伝える役割を残したまま、発信する媒体を切り替えました。
同じ判断が中小企業にそのまま当てはまるとは限りません。トヨタが役割を移した先は、社内外へ発信するオウンドメディアのトヨタイムズでした。移し替える先の体制を用意しないまま紙だけをやめた会社では、社内へ情報やメッセージを届ける接点が単純に1つ減ります。
社員が求めている内容と、載っている内容のずれ
社員が社内報に期待している内容は、同じタンシキの調査から読み取れます。調査は、社内広報の施策を1つでも見ている556人に、閲覧する理由をたずねています(複数回答)。第1位は「会社の経営方針やビジョンを知りたいから」の35.8%で、僅差の第2位が「業務に必要な情報が得られるから」の35.1%でした。「社長や経営層の考えを知りたいから」も25.7%あり、「気分転換・コンテンツとして面白いから」を挙げた人は15.1%にとどまります。
音声配信サービスを運営する株式会社Voicyが、自社のリスナー1,987名に実施した調査は、社内報に求める改善点も聞いています(2023年9月20〜22日に調査、10月5日に公表)。第1位に挙がったのは「業務連絡だけではない、親しみやすい内容になること」で、次いで「場所を選ばず、どこでも確認できるようになること」が続きました。同じ調査では、7割を超える人が社内報を重要だと答える一方、3割を超える人が社内報をあまり開いていないか、全く開いていないと答えています。
2つの調査は、同じ方向を指しています。社員が社内報を開く理由の第1位は経営の方針を知ることで、社内報への改善要望の第1位は業務連絡だけではない内容でした。この2つの調査からは、社内報が業務連絡中心になっている場合、社員が求める経営方針や経営層の考えとの間にずれが生じやすいと考えられます。
ここで、紙面に何が載っているかを見直してみます。経営方針そのものは、社内報に載せやすい題材です。一方で、その方針に至るまでに経営者が何と何を比べ、どちらを諦めたのかという過程は、紙面に載りにくくなります。決定の結果は通達の書式で書けても、決定に至った思考はその書式に収まりきりません。
朝礼で伝えた方針が現場でどう薄まっていくのかは、朝礼で話した方針は、なぜ薄まるのか で整理しています。
読まれない原因は、3つに分かれる
紙面を作り直す前に、原因の切り分けが要ります。2つの調査で回答者が挙げた理由は、主に「時間」「内容」「当事者性」の3つに整理できました。
原因1:時間
Voicyの調査で、社内報を「あまり開いていない」「全く開いていない」と答えた人の理由の第1位は「社内報を開く時間がないから」で、4割以上がこう答えています。タンシキの調査で、社内広報の施策をあまり見ない、または全く見ないと答えた194人に理由をたずねた設問では、「とくに理由はない」の31.4%に次いで、「業務が忙しく、見る時間がないから」が30.9%でした。
レイアウトを整えても、写真を大きくしても、社員が1日に使える時間そのものは増えません。時間が原因で読まれていないのであれば、紙面の見た目を磨く手だけでは、閲読率を押し上げにくくなります。
原因2:内容
タンシキの同じ設問では、「内容がつまらない・興味が持てないから」も30.9%あり、時間と同じ割合でした。Voicyの調査でも、社内報を開かない理由の第2位に「企業の取り組みに興味がないから」が挙がり、改善要望の第1位には業務連絡だけではない内容を求める声が来ています。2つの調査の数字が示すのは、同じ現象の別の側面です。
内容に原因があるなら、先に見直すべきなのは、文章表現よりも取り上げるテーマです。人事異動と表彰と行事の告知だけで埋まった紙面では、社員が読み続ける理由をつくりにくくなります。
原因3:当事者性
タンシキの同じ設問では、「内容が自分には関係ないと感じるから」を挙げた人も18.6%いました。この層に届くのは、分量の削減でも読みやすさの改善でもありません。自分の仕事が会社の方針とどう関係しているのかを、社員が具体的に理解できる形にする必要があります。
Voicyの改善要望の第2位に挙がった「場所を選ばず、どこでも確認できるようになること」は、この3つとは別の軸です。タンシキの調査でも、「情報にアクセスするのが面倒・方法が不明だから」を挙げた人が14.4%いました。工場や配送、施工の現場で働く社員は、勤務時間の多くをパソコンの前から離れて過ごしています。
同じ文章でも、声にすると書き手の思考が伝わる
内容と当事者性の問題に、媒体の選択がどう関わるのか。この点を考えるうえで参考になる心理学の実験があります。
2015年の Psychological Science(第26巻6号、877〜891頁)に、シカゴ大学のジュリアナ・シュローダーとニコラス・エプリーによる実験が載っています。2人は、同じ内容を読んだ場合と聴いた場合で、評価がどう変わるかを比べました。実験では、求職者が「なぜ自分を採用すべきか」を売り込むピッチを用意します。評価者はそのピッチを、映像で見るか、音声で聴くか、文字で読むかのいずれかで受け取りました。
結果は一貫していました。評価者は、同じ内容を文字で読んだ場合よりも音声で聴いた場合に、候補者をより有能で、思慮深く、知的な人物だと評価し、採用への関心も高くなっています。実験3では、候補者が書いたピッチを、候補者本人に代わって、訓練を受けた俳優や訓練を受けていない一般の成人が読み上げました。それでも同じ結果が出ています。音声だけの条件と、音声に映像を加えた条件の間では、候補者への評価に差は見られませんでした。実験4では、職業として採用に携わるリクルーターが評価者となり、同じ方向の結果が出ています。
差を生んだのは、内容そのものよりも声の有無のほうです。研究チームは、人の知性は外から直接は見えないため、聴き手は実際の思考と結びついた手がかりから推し量っていて、その手がかりが最も強く表れるのは声だと予測していました。文字だけでは、間の取り方や抑揚といった声の手がかりは伝わりません。その結果、読み手は、同じ内容を本人の声で聴いた場合に比べて、発信者の思考の深さを受け取りにくくなる可能性があります。
この結果を社内報に当てはめると、次のような場面が考えられます。社長が時間をかけて考えた方針を、文章にして社内報に載せた場面です。読んだ社員には、その方針に至るまでの熟慮や判断の背景が伝わりにくく、社員はその紙面を「また通達が来た」と受け取るおそれがあります。
意見が食い違う場面で、文字と声はどう受け取られるか
シュローダーとエプリーは、マイケル・カルダスとともに、意見が食い違う場面で何が起きるかも調べています。論文は2017年に Psychological Science の第28巻12号、1745〜1762頁に載りました。
最初の実験の参加者は、中絶、アメリカのアフガニスタン戦争、カントリー音楽とラップ音楽の好みといった、意見の割れる話題について自分の考えを述べます。別の参加者は、その主張を映像で見るか、音声で聴くか、書き起こしで読むかのいずれかで受け取りました。2つ目の実験では、2016年のアメリカ大統領選の予備選挙で、なぜその候補者を支持するのかを有権者に話してもらっています。
自分と反対の意見を受け取ったとき、音声で聴いた参加者は、文字で読んだ参加者よりも、相手を思慮深く、人間らしい心を持った存在として評価しています。文字で読んだ参加者のほうが、相手の知性を低く見積もりました。研究チームは4つ目の実験で、声の抑揚と間の取り方が、この差を少なくとも一部説明することも確かめています。
論文は結論で、反対側にいる相手の心を見くびってしまう傾向は、文字どおりその相手に声を与えることで和らげられるかもしれない、と述べています。
この結果は、社内コミュニケーションの最も難しい場面に重なります。全社員が方針に納得している場合でも、媒体ごとの到達性や記録性を考える必要はあり、とくに媒体選択が重要になるのは、方針に疑問や反発を抱く社員が一定数いる場合です。実験の結果を当てはめると、意見が割れる場面では、文字だけの発信よりも声を伴う発信のほうが、発信者の熟慮や人間性を伝えやすいと考えられます。文字だけで説明を重ねると、情報量が増え、かえって要点が埋もれかねません。
声と文字で受け取られ方が分かれる理由は、なぜ声だと理念が伝わるのか にまとめています。
紙・Web・朝礼・チャット・音声で、社員が受け取れるもの
社内へ言葉を流す手段は複数あります。それぞれ運べるものと運べないものが違うため、経営者は置き換えよりも組み合わせで考えるほうが実際的です。
紙の社内報は、一覧性と保存性で優れています。数値と図表、制度の改定、人事の発令といった情報を残す場所として、社員が手元で読み返せる紙は確かめやすい媒体です。タンシキの調査の最終版は、冊子の社内報は廃止される傾向にある一方で、ほかの施策より接触率が高い傾向にあると報告しています。紙で伝えにくいのは、発信者の間合いや声の調子とともに伝わる、判断の背景のほうです。
Web社内報は、更新頻度と検索性の点で紙より優れています。産業編集センターの調査が示した4割の壁は、この媒体で測ったものでした。社員が自分からアクセスする必要があるため、1人1台の端末がない職場や、日々の動線の外にいる職種には、この媒体が届きにくくなります。
朝礼は、発信者の声色や間合いを直接伝えられる点で、文字だけの発信にはない利点があります。制約になるのは再現性です。その場にいた社員にしか同時には届かず、録音や要約を残さない限り、交代勤務や外勤の社員は対象の外に置かれます。記録を取らなければ、話した内容は翌週まで残りません。
チャットやグループウェアは、速度で他を圧倒します。流れる量が多いため、経営の方針は日々の業務連絡に押し流されがちです。固定表示やまとめの場所を決めておかないと、数日前に流れた方針の投稿を社員が探し出すのは手間がかかります。
音声配信では、発信者の声を届けながら、配信した内容をアーカイブとして残せます。朝礼の持つ利点を保ったまま、その場にいなければ届かないという制約を外せる媒体です。社員は通勤中や休憩時間などにスマートフォンで聴けるため、パソコンを使う時間が限られる職種にも、情報を届けやすくなります。音声だけでは、複雑な数値や表、図表を正確に理解し、比べるのに向きません。桁の多い数字や複雑な表を耳で追うと、正確さが落ちます。
この5つを並べると、経営者が何をどこへ載せるかの判断がつきます。制度の改定と数字は文字へ、決定に至った思考は声へ。社内へ何をどう載せるかを決めるときは、この振り分けから始めてください。
社員は、社内音声で何を聴きたがっているか
社内向けの音声配信について、利用中の社員に聞いた調査があります。オトバンクが、社内ラジオを導入した企業の社員のうち、再生実績がある144名に実施した自社調査です(2025年6月16〜19日に調査、7月10日に公表)。
満足していると答えた人が95%、月5回以上聴いている人が78%を占めました。会社への親しみが増したと答えた人は93%、今後も続けてほしいと答えた人は99%です。
数字の読み方には注意が要ります。この調査の対象は、すでに社内ラジオを聴いている社員に限られていました。この調査は再生実績がある社員を対象にしているため、まだ聴いていない社員を含む全社員の評価や、導入した会社全体の定着の度合いは示していません。これから始める会社がこの水準を見込むときの根拠としては、使いにくい数字です。
この調査で参照する価値が高いのは、満足度よりも次の設問です。社内ラジオで取り上げてほしいテーマを聞いた結果、業界情報やニュースが81%で首位に立ちました。経営陣の考えや今後の方針が69%で第2位、他部署の仕事紹介が60%で第3位です。
タンシキの調査で「会社の経営方針やビジョンを知りたいから」が閲覧理由の首位だったことと、この69%は同じ方向を指しています。媒体が紙であれ音声であれ、社員が求めるものの上位に入るのは、経営者の考えです。
音声にしても変わらないこと
音声へ移して変わる範囲には、限りがあります。この節で挙げるのは、音声では変わらない点と、音声が紙の社内報に及ばない点です。
たとえば、発信内容そのものへの不信が強い場合、媒体を音声に変えても、社員に十分届かないおそれがあります。紙面の記述と社員が日々見ている現実が食い違っているとき、社員が重く見るのは目の前の現実のほうです。この状態で音声を足しても、聞き流される媒体が1つ増えるだけになりかねません。
数値と図表が中心の内容は、音声に向きません。決算の説明や制度の新旧対照、複雑な手順といった情報については、文字のまま残すほうが社員にとって確実です。
話し手が話すことに強い抵抗を持っている場合、収録は続きにくくなります。整いきっていない自分の言葉を社内に出すことを、経営者自身が受け入れられるかどうかは、制作の技術では補えません。
社員の大半がデスクにいて、社内報を開く時間が実際に取れている会社では、音声を足す優先度が下がります。この場合に必要な施策は、媒体の追加よりも題材やテーマの入れ替えのほうです。
理念の浸透は、再生数だけでは測れない
社内音声配信の効果を再生数で測ると、経営者は続ける理由を社内へ説明しにくくなります。再生数で把握できるのは、再生が始まったかどうかといった接触の一部にとどまり、理念が判断に使われているかどうかまでは分かりません。
理念の浸透そのものを測る尺度は、研究の側から提案されています。廣川佳子と芳賀繁は、運輸会社2社での予備調査で17項目の試作版を作り、経営理念のある会社に勤める正社員521名へのWeb調査で検証しました。その結果、経営理念の浸透を測る尺度は、認知、共感的理解、行動の3因子・12項目にまとまっています(『産業・組織心理学研究』第36巻2号、173〜187頁、2023年)。
この尺度の実務上の利点は、「知っている」と「行動している」を別々に測れる点にあります。論文では、理念を知っている・覚えているという「認知」は、仕事への内発的な動機づけに有意な影響を示しませんでした。一方で、「共感的理解」と「行動」には、動機づけを高める正の影響が見られました。知っている段階と、行動に使っている段階のずれが見えれば、経営者は打ち手をどちらへ向けるかを決められます。
たとえば半年に1回、この3つの観点で社員に聞けば、浸透の度合いの変化を追えます。再生数は、そこへ至るまでの途中の数字として扱うほうが正確です。
自社に向くかを判断する4つの確認点
社内向けの音声配信を検討するかどうかは、次の4点で判断できます。
読まれない原因は、時間と内容と当事者性のどれにあるか。時間と動線が原因であれば、経営者には音声へ移す余地があります。内容が原因であれば、先に題材を入れ替えてください。社員が書かれた内容そのものを疑っているのであれば、媒体の話は後回しです。
社員がパソコンの前にいない時間は、1日にどれくらいあるか。工場、配送、施工、店舗。パソコンの前を離れて働く時間が長い職種ほど、文字の社内報は届きにくく、通勤や休憩の時間に聴ける音声へ経路を通す意味が大きくなります。
社長が、作り込みすぎない自分の言葉を社内へ出せるか。外向けの広報として作り込むほど言葉は整っていきますが、作り込みすぎた言葉は、現場で判断に迷った社員の助けになりにくくなります。
続ける体制を組めるか。月1回か隔週かの頻度を決め、収録と編集と公開を誰が担うかまで決める必要があります。音声配信は、始めることよりも、続けることのほうがはるかに難しい施策です。
この4つに自社の言葉で答えられる会社であれば、社内向けの音声配信は検討に値します。答えられない項目が残る会社にとっては、そこを先に片づけるほうが早道です。
社内報が読まれていても組織が変わらない場合は、社内報は読まれているのに、なぜ組織は変わらないのか で理由を確かめられます。社内で音声配信を始める前に決めることは、社内音声配信を始める前に決める5つ で取り上げました。自社で聞く社内報を始めたい場合は、アストライドの「社内ポッドキャストの導入と運用」 をご覧ください。
まとめ
社内報が読まれないという悩みは、3つの調査を並べると、どこに課題があるかが見えてきます。会社側が測ったWeb社内報の閲覧率は、4割前後です。いっぽう社員側の自己申告では、施策が実施されている職場の8割が何かしら目にしており、理念を知る社員が理念に触れる機会としては、社内報が社長のプレゼンテーションやメッセージを上回り、最も多く挙げられています。これらの調査を見る限り、閲読率だけを理由に社内報を廃止する根拠はありません。
読まれない原因は、社員の時間と紙面の内容と当事者性の3つに分かれます。時間が原因であるなら、経営者が紙面を磨いても社員の1日に空きは増えません。内容が原因であるなら、書き方の改善よりも題材の入れ替えのほうが先に来ます。
心理学の実験が示しているのは、同じ文章でも声で聴くと、書き手の思考の深さが伝わりやすいという結果です。評価者は聴いたときのほうが話し手を有能で思慮深いと判断し、意見が食い違う相手についても、音声で聴いた人のほうが相手を心ある存在として評価しました。
ただし、音声で変えられる範囲には限りがあります。数値と図表は文字のまま残り、発信内容そのものへの不信は、媒体を変えるだけでは解消しません。制度と数字は文字へ、決定に至った思考は声へ。社内へ言葉を流す設計は、この振り分けから始まります。
最初にやることを1つだけ挙げるなら、直近の社内報を1号だけ手に取り、載っている記事のうち「なぜそう決めたのか」が書かれているものを数えてみてください。その数がゼロに近ければ、経営者が判断の背景を社員に伝える機会は、紙面の上ではほとんど無いことになります。
この記事からわかるQ&A
社内報をやめて、音声配信に切り替えたほうがいいですか
社内報は残したまま、音声を足すことを勧めます。企業広報戦略研究所の2023年の調査では、自社の理念を知っている上場企業勤務者769人が理念を目にする機会として、社内報が60.6%で最も多く挙がり、社長のプレゼンテーションやメッセージの46.6%を上回りました。制度の改定や数字の告知は文字のまま残し、決定に至った思考のほうから音声へ移してください。
社員が聴いてくれるか不安です。業務命令にする必要がありますか
業務命令にしなくても、番組は始められます。Voicy の「社内ラジオ白書2023」によると、利用企業の多くは、聴くかどうかを従業員の判断にゆだねていました。義務にせずに聴取率が伸びるかどうかを見れば、経営者は番組の中身の良し悪しをそのまま判断できます。全員に確実に届ける必要がある制度や安全の連絡は、音声とは別に、文字で残る経路で伝えてください。
社長が話し慣れていません。それでも作れますか
作れます。シカゴ大学の実験では、候補者が書いた文章を、訓練を受けた俳優だけでなく、訓練を受けていない一般の成人が読み上げた条件でも、文字で読まれた場合より高い評価が出ました。この実験で評価を分けたのは、声が乗っているかどうかでした。台本を用意する代わりに、聞き手のほうで質問を設計してください。
効果はどう測ればいいですか
再生数だけで測ると、経営者は続ける理由を社内へ説明しにくくなります。廣川・芳賀が2023年に『産業・組織心理学研究』第36巻2号で発表した経営理念浸透尺度は、正社員521名のWeb調査で検証され、認知・共感的理解・行動の3因子12項目にまとまりました。たとえば半年に1回この3つを社員へ聞けば、経営者は知っているだけの状態と行動に使われている状態を分けて把握できます。
社内音声配信をやめたほうがいいのは、どんな会社ですか
社員が書かれている内容そのものを疑っている会社です。紙面の記述と現場が見ている現実が食い違っている状態では、媒体を音声に変えても、社員に十分届かないおそれがあります。伝えたい内容が数値と図表で構成されている場合と、社長が話すことに強い抵抗を持っている場合も、先に別の手を検討してください。
出典
株式会社タンシキ 経営・広報研究所「社内広報の接触状況に関する実態調査」2026年2月25日調査、インターネット調査、全国の常勤役員・正規雇用者 n=1,113(従業員99人以下が36.7%)。速報(2026年4月1日公表) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000180748.html 、単純集計の調査レポート(閲覧理由 n=556、非閲覧理由 n=194) https://tanshiki.jp/wp-content/uploads/2026/03/internal_communications_survey_20260401.pdf 、最終版(2026年6月1日公表) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000180748.html
産業編集センター「Web社内報の閲覧率、”4割の壁”」2025年7月25日公開。同社のクライアント企業155社への調査、2022年11月〜2023年1月実施 https://www.shc.co.jp/column/6217/
株式会社電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所「第3回インターナルブランディング®調査」2023年11月13日公表。2023年6月13〜15日実施、インターネット調査、従業員100人以上の上場企業に勤める20〜69歳の1,000人。理念を目にする機会は、自社の理念を知っていると答えた769人への設問(複数回答、図表⑰) https://www.dentsuprc.co.jp/news/20231113/
株式会社Voicy「社内コミュニケーションに関する調査」2023年10月5日公表。2023年9月20〜22日実施、インターネット調査、Voicy のリスナー n=1,987 https://corp.voicy.jp/2023/10/05/10377/
株式会社Voicy「社内ラジオ白書2023」2023年4月13日公表。Voicy 声の社内報の利用企業53社、2019年1月〜2023年3月の利用状況 https://corp.voicy.jp/2023/04/13/10071/
株式会社オトバンク「社内ラジオ利用調査レポート」2025年7月10日公開。2025年6月16〜19日実施、自社調査、社内ラジオ導入企業の社員(再生実績がある人)n=144 https://note.com/audiobook/n/n7ceb4756b808
Schroeder, J., & Epley, N. (2015). “The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal.” Psychological Science, 26(6), 877–891. 仮想の雇用者(実験1〜3b)と、職業として採用に携わるリクルーター(実験4)が評価 https://doi.org/10.1177/0956797615572906
Schroeder, J., Kardas, M., & Epley, N. (2017). “The Humanizing Voice: Speech Reveals, and Text Conceals, a More Thoughtful Mind in the Midst of Disagreement.” Psychological Science, 28(12), 1745–1762. 意見の割れる話題と2016年の米大統領予備選挙での支持理由について4実験 https://doi.org/10.1177/0956797617713798
廣川佳子・芳賀繁「経営理念浸透尺度の開発」『産業・組織心理学研究』第36巻2号、173–187頁、2023年。経営理念のある会社に勤める正社員 n=521 のWeb調査で、認知・共感的理解・行動の3因子12項目 https://doi.org/10.32222/jaiop.36.2_173
トヨタイムズ「社内報90年 歴史を紐解いたらトヨタの原点が見えてきた」2023年11月27日 https://toyotatimes.jp/newscast/047.html
Business Insider Japan「トヨタがやめた「社内報」、実はオワコンじゃなかった。社長のプレゼンより影響大【上場企業1000人調査】」2023年11月27日。トヨタの紙の社内報の終刊を報じた読売新聞オンライン(2023年11月24日)を紹介 https://www.businessinsider.jp/post-278832