経営者を出演させるときの負担と、公開前の確認

この記事でわかること
- 経営者の労働時間と休日の実態
- 収録30分の裏にある見えないコスト
- 炎上の内容で最も多い区分
- 顔出しの効果を示す調査の有無
- 公開前の確認をどこまでにするか
番組に経営者が出演する形を、私たちはよくご提案します。そのときに必ず出てくるのが、社長の時間をどれだけ取るのかという問いです。
稟議の場でこの問いに答えられなければ、企画は前へ進みません。そして「収録は30分です」という説明だけで通してしまうと、後から社内の不信を招きます。
この記事では、中小企業庁の小規模企業白書とIDEATECHの調査、エルテスの炎上レポートをもとに、拘束時間と公開前の確認について整理します。
経営者の1日は、9時間26分です
中小企業庁の2018年版小規模企業白書に、押さえておきたい数字があります。
| 区分 | 平均実労働時間 |
|---|---|
| 小規模事業者の経営者 | 1日9時間26分 |
| 従業員5〜29人規模の一般労働者 | 1日8時間16分 |
| 人手不足へ「経営者の労働時間を増やして対応」と答えた層 | 1日10時間8分 |
週の平均休日数は1.17日です。74.5%が、週に1日と回答しています。
2020年版の小規模企業白書では、経営者は企業勤務者に比べて、労働時間や家庭・プライベートとの両立への満足度が低い傾向も示されました。
中小企業の社長の多くは、おそらくこの水準の中にいらっしゃいます。その方から時間をいただく企画である以上、制作側は拘束の総量を先に示すのが筋だと私は考えています。
収録30分の裏にある見えないコストはどのようなものか
弊社の番組では、1エピソードあたりの収録が30分程度です。ただし経営者の拘束時間は、この30分では終わりません。
下の表は、経営者に出演していただく場合に見積もっておくべき工程です。時間は制作の一般的な工程から置いた目安であり、会社ごとに変わります。
| 工程 | 標準化しておくこと | 経営者の関与 |
|---|---|---|
| 企画 | テーマ、公開の目的、言ってよい範囲、触れない論点 | 30〜45分 |
| 事前取材 | 制作側が論点・事実・エピソードを先に集めておく | 45〜60分 |
| 収録 | 1回で複数本を収録し、言い直しの箇所だけ撮り直す | 60〜90分 |
| 内容確認 | 完成した映像より先に、文字起こしと論点表を確認する | 15〜30分 |
| 最終承認 | 対外的な発言として出してよいかだけを決裁する | 10〜15分 |
御社の社長の拘束は、これらを合計して1回あたり2時間40分から4時間の幅になります。「30分の収録です」と伝えながら数時間を使わせる設計は、私たちは避けています。
負担を抑える形が1つあります。私たちがご提案するのは、四半期に1回、90分の収録で3本から6本をまとめて録る組み方です。年4回の収録で年12本から24本まで届きますから、月1回の呼び出しは要らなくなります。
制作会社を選ばれる際の見積の読み方は、ポッドキャスト制作会社の選び方にまとめています。
顔を出せば信頼が上がる、という調査は残念ながらない
ここは正確にお伝えしておきます。
「経営者が顔を出すと、BtoBの信頼が何パーセント上がる」と直接立証した、代表性の高い国内調査を、私たちは確認できませんでした。顔出し・動画・ポッドキャスト・経営者発信を切り分けた大規模な公的調査も乏しい状況です。
ですから「トップの顔出し=信頼向上」という言い方は、出所のたどれない一般論として扱ってください。稟議の資料へ書かれる場合も、因果を断定せず、信頼の形成を補助し得る仮説として提示されるのが安全です。
近い資料であれば、IDEATECHの調査があります。対象は、製品・サービスの選定・導入・発注に関与したビジネスパーソン109人です。条件が同じであれば52.3%が「情報の分かりやすさ」で取引先を決めるという結果でした。
この数字が示しているのは、顔そのものの効果とは別のことです。判断の基準や一次の情報を、責任の所在がわかる形で分かりやすく届けられるかどうかという点になります。経営者の出演を、その装置として設計するのが実務にかないます。
何を話していただくか
前の節の数字から、話していただく中身も決まってきます。
出演の場でお願いしたいのは、事業上の判断、うまくいかなかった経験、顧客への約束という3つになります。この3つは、経営者ご本人の言葉でなければ具体性が出ません。
反対に避けていただきたいのは、会社案内の読み上げと、業界の一般論です。どちらも他の人が話せる内容であり、経営者の時間を使う理由が立ちません。
買い手の側の事情も見ておきます。ワンマーケティングの購買プロセス白書では、初回の営業面談の時点で候補がほぼ決まっている買い手が29%、いくつかに絞り込んでいる買い手が56%でした。合計85%が、会う前に候補を絞っています。
会う前に判断されるのであれば、御社は判断の材料を先に出しておくほかありません。経営者の言葉は、その材料として最も置き換えのきかないものになります。
炎上の内容で、最も多い区分
公開前の確認を設計するために、リスクの中身も見ておきます。
エルテスが2025年5月に集計した結果では、炎上の対象の77%が企業・団体です。企業・団体に対する炎上の内容も見ておきます。同社の集計は「顧客クレーム・批判」と「不適切発言・行為、失言」を、それぞれ42%と示しています。
ここで注意していただきたいのは、この数字の性格です。炎上の件数には公的な統一統計がなく、民間各社が独自の定義と収集対象で集計しています。ですから読み手は「年間で何件」という数字を、一般的な発生確率として扱えません。
それでも、失言が炎上の主要な区分の1つであるという事実は変わりません。収録の前に、触れない論点を決めておく作業が要ります。
公開前の確認は、全文レビューにしない
確認の工程で最も起きやすいのが、経営者に完成した映像を全部見せて、細かい言い回しの修正が返ってくるという流れです。御社がこの流れに入られた場合、社長は確認だけで毎回1時間以上を使うことになります。
私たちがお勧めしているのは、次の3点に絞る形です。
1つ目は、完成品より先に文字起こしと論点表を見ていただくことです。文字であれば、社長は15分から30分で目を通せます。
2つ目は、確認の対象を「変更した箇所」と「リスクのある箇所」に限ることです。全文を読み直していただく必要はなくなります。
3つ目は、最終の承認では対外的な発言として出してよいかだけを決裁していただくことです。表現の好き嫌いは、制作側の責任で引き取ります。
この形にすると、経営者の確認は1本あたり25分から45分に収まります。年12本であれば、確認の総量は年5時間から9時間という計算です。
収録した素材の使い道も、先に決める
出演していただいた素材を、番組の配信だけで終わらせるのはもったいないところです。同じ素材は、記事、短い尺の動画、営業の場で使う資料まで広がります。
ただし、使い道は収録の前に決めてください。後から用途を足そうとすると、社外の出演者がいる場合に権利の確認からやり直しになります。
測れる範囲と運用の設計については、ポッドキャストの成果は、どこまで測れるのかもあわせてご覧ください。
まとめ
中小企業庁の2018年版小規模企業白書では、小規模事業者の経営者の平均実労働時間が1日9時間26分でした。従業員5〜29人規模の一般労働者の8時間16分より長く、週の平均休日数は1.17日、74.5%が週1日と回答しています。
経営者の拘束は、収録の30分では終わりません。企画・事前取材・収録・内容確認・最終承認という5つの工程を積み上げた合計は、1回あたり2時間40分から4時間の幅です。四半期に1回90分の収録で3本から6本をまとめる組み方であれば、御社は年4回まで呼び出しを減らせます。
「顔を出せば信頼が上がる」と直接立証した代表性の高い国内調査は、私たちは確認できませんでした。IDEATECHの調査が示しているのは、条件が同じなら52.3%が情報の分かりやすさで取引先を決めるという点です。
エルテスの2025年5月の集計では、企業・団体への炎上の内容で「不適切発言・行為、失言」が42%を占めました。触れない論点を収録の前に決めておいてください。
公開前の確認は、全文レビューにしないでください。社長には文字起こしと論点表を先に見ていただき、確認の対象は変更箇所とリスク箇所へ絞ります。この形であれば、確認は1本あたり25分から45分に収まります。経営者の時間をどう守るかまで含めて設計するのが、続く番組の条件だと私は考えています。
この記事からわかるQ&A
経営者の拘束時間は、どのくらい見ておけばよいですか
御社の見積りは、収録の30分だけでは終わりません。工程ごとの目安は、企画30〜45分、事前取材45〜60分、収録60〜90分、内容確認15〜30分、最終承認10〜15分です。これらを積み上げた合計は、1回あたり2時間40分から4時間の幅になります。中小企業庁の2018年版小規模企業白書では、小規模事業者の経営者の平均実労働時間が1日9時間26分でした。総量を先に示してください。
社長の負担を減らす方法はありますか
私たちは、四半期に1回、90分の収録で3本から6本をまとめて録る組み方をお勧めします。年4回の収録で年12本から24本まで届きますから、月1回の呼び出しが要らなくなります。同白書では週の平均休日数が1.17日、74.5%が週1日という結果でした。呼び出しの回数を減らす設計が、そのまま社長の負担軽減につながります。
顔を出せば信頼が上がるのですか
その因果を直接立証した、代表性の高い国内調査を私たちは確認できませんでした。出所のたどれない一般論として扱ってください。IDEATECHが選定・導入・発注に関与した109人へ行った調査では、条件が同じなら52.3%が情報の分かりやすさで取引先を決めるという結果でした。判断の材料を分かりやすく届ける設計が要点になります。
炎上が心配です
エルテスが2025年5月に集計した結果では、炎上の対象の77%が企業・団体です。企業・団体への炎上の内容は、「顧客クレーム・批判」42%、「不適切発言・行為、失言」42%でした。ただし炎上の件数には公的な統一統計がなく、発生確率としては扱えません。触れない論点を収録の前に決めておく作業が、現実的な備えになります。
公開前の確認は、どこまでやりますか
完成した映像の全文レビューは避けてください。文字起こしと論点表を先に見ていただき、確認の対象を変更箇所とリスク箇所へ限り、最終承認では対外的な発言として出してよいかだけを決裁していただく形です。御社がこの3点に絞られると、確認は1本あたり25分から45分、年12本で年5時間から9時間に収まります。
出典
- 中小企業庁「2018年版 小規模企業白書」小規模事業者の経営者の平均実労働時間は1日9時間26分。従業員5〜29人規模の一般労働者の平均は8時間16分。人手不足へ「経営者の労働時間を増やし対応」と答えた層は平均10時間8分。週平均休日数1.17日、74.5%が週1日 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/
- 中小企業庁「2020年版 小規模企業白書」経営者は企業勤務者に比べ、労働時間や家庭・プライベートとの両立への満足度が低い傾向を示している https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/
- IDEATECH「BtoB企業における『信頼発信』と意思決定への影響調査(企業間取引の決定要因調査2025)」製品・サービスの選定・導入・発注に過去1年以内に関与したビジネスパーソン109人が対象のインターネット調査。条件が同じ場合、52.3%が「情報の分かりやすさ」で取引先を決める。経営者出演や顔出しの効果を測った調査ではない https://ideatech.jp/
- エルテス「ネット炎上レポート」2025年5月集計。通常時より批判投稿量が有意に多い状態を炎上と定義し、複数媒体を常時監視して抽出。炎上対象の77%が企業・団体。企業・団体への炎上内容は「顧客クレーム・批判」42%、「不適切発言・行為、失言」42%。炎上件数に公的な統一統計はなく、民間各社が独自定義・独自の収集対象で集計している https://eltes.co.jp/
- ワンマーケティング「BtoB購買プロセス白書 2025年度版」全国の仕入・購買・契約関与者600人が対象。初回営業面談の時点で候補が「ほぼ決まっている」29%、「いくつかに絞り込んでいる」56%。情報源は候補企業のWebサイト38.5%、検索エンジン32.2% https://www.onemarketing.jp/
- アストライド「ポッドキャスト制作・運用代行 月15万円〜|収録は月1回|三重・全国対応」月1回=年12本/月2回=年24本/週1回=年48本、番組尺15分、1エピソードの収録は30分程度。配信先はSpotify・Apple Podcasts・Amazon Music・KOEGURA(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/
- アストライド「経営者インタビュー映像制作」代表・纐纈智英は前職で2018年から2023年までの5年間、250社以上を訪問し200名超の経営者へインタビューを行い、1〜2時間の対談を10〜15分の映像へ編集して毎週配信した https://ast-ride.com/service/service-interview/
- アストライド「ポッドキャスト制作会社の選び方。見積の内訳と3つの契約条件」見積の読み方と、契約前に確かめる3点を整理した記事 https://ast-ride.com/knowledge/15940/
- アストライド「ポッドキャストの成果は、どこまで測れるのか」再生数・完了率・商談化の測り方と、測れない範囲を整理した記事 https://ast-ride.com/knowledge/14898/
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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