インタビュアーの視点 – 有限会社西口神具店|西口直孝氏
有限会社西口神具店は、三重県度会郡玉城町に工房を構える神棚製作の専門店です。親子4代にわたり、木曽檜を使用した高品質な神棚や神具、御霊舎を製作しています。伊勢神宮のお膝元という立地で、三代目宮師・西口直孝氏が事業を継承しています。全国青年技能大会では金メダル・銅メダルを獲得するなど、その技術力は高く評価されています。
神具・神棚業界の現状
日本の神具・神棚市場は約500億円の規模を有しますが、若年層の神棚離れや核家族化により、需要は減少傾向にあります。量販店での低価格神棚の販売が増加する中、手作り神棚と量産神棚の価格差が課題となっています。宮師の高齢化と後継者不足も深刻で、技術継承が困難な状況が続いています。
このような業界環境の中で、西口神具店は独自の姿勢を貫いています。
宮師という仕事
「宮師っていうのは自分で言い出した言葉なんですけど、大工さんでも建具屋さんでも器用な方はみんな神棚ぐらい簡単に作れますよ。私らはお宮をやっているから違うんです」
西口氏は、自らを「宮師」と呼びます。神棚を作る職人は多くいますが、西口氏が作るのは単なる箱ではなく、神の社(やしろ)である「お宮」です。だから「違う」のだと。この「宮師」という言葉には、神棚づくりに対する西口氏の姿勢が凝縮されています。
神様を収める箱を作っている
「本当は神棚ではなく御札の方に手を合わせていただいているんですけど、手を合わせて拝んでくれる場所をお祀りする。やっぱりそれなりに心してものづくりしないと」
「やっぱり自分ができる精一杯のことだけはさせていただく。何十年もお祀りしていただく。だからごまかしやまやかしは絶対しない」
西口氏の言葉には、神棚づくりへの深い責任感が込められています。神様を収める箱を作っている。その自覚が、西口氏の仕事の根底にあります。
木曽檜へのこだわり
「うちは神棚に関しては、もう完全に木曽檜だけを使っております。樹齢にしたら250年から300年、目の細かい、育ちの悪い木ですね。最高の木です、木曽檜っていうのは」
「お伊勢さんを大切にしている方が神棚をお祀りしますので、極力木曽の檜を使って作っていかないといかんとは思っております」
伊勢神宮の式年遷宮で使われる木曽檜と同じ材を使用すること。それは、伊勢の精神性との一体化を意味しています。樹齢250年から300年の「育ちの悪い木」こそが最高の木材。その選択には、西口氏の木に対する深い理解があります。
刃物を研ぐということ
「宮師の技術の基本は、もうとにかく道具、刃物を研ぐっていうことです。徹底的にそこをやります。そこからです」
「刃物を研ぐくらい誰だってできるんですよ。ただ一生懸命やるかやらんかだけの違い。ほとんどみんな完璧に研げるようになる前に仕事を始めてしまうんです」
「鑿(のみ)っていう道具があるんですけど、それが砥石にピタッとくっつくぐらいまっすぐ研げるんですね。おそらくできる方はほとんどおらへんと思います」
西口氏にとって「研ぎ」は、仕事の準備段階ではありません。それは、神と向き合うための精神を整える、最も重要で根源的な鍛錬そのものです。一生懸命やるかやらんかだけの違い。その言葉には、職人としての矜持が込められています。
我々が作った神棚は違うというプライド
「神様を収める箱を作っているんですよ。やっぱり汚れを嫌うので、できる限りきれいな——それはやっぱり心がけですね。綺麗で精一杯やっている、そういうものにお祀りしていただきたいんです」
「見た目はほとんど変わらないですけど、我々が作った神棚は違うよっていうくらいのプライドを持ってやっとるんですよ、仕事」
見た目はほとんど変わらない。しかし、西口氏が作る神棚には、目に見えない何かが宿っています。それは、神様を収める箱を作っているという自覚から生まれる、職人としてのプライドです。
技術の継承
映像では、西口氏の息子さんも登場します。小さい頃からカンナを握り、ノコギリを持ち、職人の世界に触れてきた息子さんは、父である直孝氏についてこう語ります。
「30年もやってきた職人です。技術を見て盗めということを言わない人で、自分のわかっていることは全部教えてくれる。だからわからんのに自分が適当なことをするとやっぱり怒られますね。『わからんことは聞いて』って」
これは、単に技術を効率的に伝達しているのではありません。それは、知識に対する「誠実さ」そのものを継承しようとする、強い意志の表れです。わからんことは聞いて。その言葉には、職人としての真摯な姿勢が込められています。
やおよろずの神様
「日本の場合は宗教というよりむしろ文化ですね。やおよろずの神様ですよ。あっち向いてもこっち向いても神様がおる。手を合わせたらいいわけですから。そういうふわっとした文化思想が、やっぱり日本人の中には流れていると思います」
「北海道から沖縄まで気候も生活も食べるものも全然違うんですね。神様の祀り方なんていうのは、みんなそれぞれの家、それぞれの形で、自分なりに決めていけばいいので」
西口氏の言葉には、日本の精神文化への深い理解があります。やおよろずの神様。それぞれの家、それぞれの形で。そうした「ふわっとした文化思想」こそが、日本人の中に流れているものだと西口氏は語ります。
量販店との違い
「電話とかでかかってきて『量販店で8000円で買えるところ、あんたとこは10万もするけどどこが違うの』って。『一緒ですよね。神棚には変わりないからね、どちらでもいいですよ』」
「何も意識しない、気もつけないよりも、なんかの拍子でお祀りいただいたら、まあそういう意識でいいんじゃないですか」
量販店の神棚でも神棚に変わりはない。西口氏はそう語ります。しかし、その一方で、息子さんからはこんなエピソードも語られました。
「適当なことやってた時に、値段を見てこいと言われました。うちの売ってる神棚、50万円で売られてて『それ自分が買うか』って」
いまの仕事は50万円の神棚に見合っているか。その問いは、西口氏の仕事に対する姿勢の原点です。
神棚のある生活
「若い時はみんな忘れているものなんですけど、40代50代になるとふと戻ってくる。やっぱり作っとってよかったなと思います」
「神棚のある生活。ちょっと手を合わせる。そんなことが素直にできるような私生活も豊かじゃないかなと。それくらい心に余裕があってもいいんじゃないかなって」
西口氏の言葉には、神棚のある生活への想いが込められています。手を合わせることが素直にできる心豊かな暮らし。それくらい心に余裕があってもいい。それが、西口氏が願う姿です。
神棚を作ってお客さんの顔を見てありがとうございますと言われたら嬉しい
「神棚を作ってお客さんの顔を見てありがとうございますと言われたら嬉しいです」
西口氏のこの言葉には、職人としての喜びが素直に表れています。神様を収める箱を作り、お客さんに喜んでいただく。その循環の中に、西口氏の仕事の本質があります。
アストライドのミッション
「やっぱり自分ができる精一杯のことだけはさせていただく。何十年もお祀りしていただく。だからごまかしやまやかしは絶対しない」
西口直孝氏のこの言葉に、私たちは深く共感します。
私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、経営者の想いを映像として記録し発信してきました。西口氏が「神様を収める箱を作っている」という責任感から、ごまかしやまやかしを絶対にしない姿勢で神棚を作り続けているように、私たちもまた、経営者の想いを誠実に記録し、未来に継承していくことを目指しています。
「神棚のある生活。ちょっと手を合わせる。そんなことが素直にできるような私生活も豊かじゃないかなと」——西口氏のこの言葉には、日本の精神文化への深い想いが込められています。その想いを映像として記録し、未来に届けること。それが、私たちの果たすべき役割です。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。

































