インタビュアーの視点 – 宇野重工株式会社|宇野雄介氏
三重県松阪市に本社を置く宇野重工株式会社。4代目社長の宇野雄介氏が率いるこの企業は、橋梁、水門、ダムゲートという社会インフラの根幹を支える事業を展開しています。「時空を超えて地域に密着した企業である」と自らを定義する同社は、1973年に製造した歩道橋が50年後の今も「ホント大したもんやわ」と評価される品質を守り続けています。
インフラ業界の現状
2022年の取材当時、日本のインフラ業界は大きな転換点を迎えていました。高度成長期に建設された社会インフラの老朽化が深刻化し、新規建設から維持管理・更新へと需要の軸足が移りつつありました。
「地元で賄えるものは基本的には地元で賄う」という公共工事の基本方針のもと、地域に根ざした技術力を持つ企業への期待が高まっています。
同社の競合は、三菱、三井、住友といった総合重工メーカーです。しかし宇野社長は明確に棲み分けを意識しています。「他社が全体最適できたとしてもうちは1点で行く」「他社がやりたがらない細くて手作業であるとか手間のかかる仕事っていうのをさせてもらっています」と語ります。
50年前の仕事が教えてくれたこと
宇野重工の企業哲学を象徴する出来事が、2022年に実施された歩道橋の架け替え工事です。1973年に同社が製造した歩道橋の撤去工事を請け負った際、工場スタッフからこんな声が上がりました。
「50年前に作ったもんやけどホント大したもんやわ」 「すごく丁寧に仕事がしてあるし、すごいものもいいものが作ってある」
当初、宇野社長はこの撤去工事を「望む仕事ではない」と考えていました。しかし、スタッフのこの評価を聞いた瞬間、考えが一変します。
「これは何か僕がこの工事を仕方ないとして仕事するのはちょっと馬鹿げたことやなと思って」「これは素晴らしい仕事になるとその時初めて気付いた」と宇野社長は振り返ります。
「これ作った当初、知ってたのは父だけでした」という言葉には、4代にわたって受け継がれてきた技術と記憶の貴重さが込められています。
農機具から橋梁へ
同社のルーツは農機具製造にあります。宇野社長の祖父が創業した会社は、鍬や鎌といった農機具から始まり、田んぼの水門、そして橋梁へと事業領域を拡大してきました。
昭和41年頃に「やったことのないもの」として製造した製品が、現在の技術者から「大したもんや」と評価される。この事実が、挑戦する精神の価値を物語っています。
「やったことないことっていうのはあっ僕らもこれからその可能性も十二分にあるんで」と宇野社長は語ります。大手企業が効率性を追求する中で、手間をかけた丁寧なものづくりこそが、時代を超える価値を生み出すという確信があります。
手間のかかる仕事を引き受ける理由
宇野社長は「他社がやりたがらない、手間のかかる仕事」をあえて引き受けるといいます。大手企業が標準化された大規模な仕事に注力する中で、必然的に生まれる隙間。しかし、それは単に余儀なくされた選択ではありませんでした。
そこには自社の歩んできた歴史とこれから進むべき未来を見据えた、静かで揺るぎない覚悟が秘められています。その「手間」を、お客様との深い関係を築くための得がたい機会として捉えています。
古くなったインフラの保守や修繕。地道で、それでいて社会に欠かすことのできない領域です。
時空を超えた地域密着企業
同社は自らを「時空を超えた地域に密着した企業である」と定義しています。
50年前の製品が現在も高く評価される品質。4代にわたる技術継承。地域の社会インフラを支え続ける使命感。これらすべてが「時空を超える」という表現に込められています。
社会インフラという人々の暮らしの基盤を支える事業において、宇野重工が守る「時間をかけて丁寧に作る」という姿勢。その価値が50年後の人々に「大したもんや」と言わせる品質を生み出しています。
ONE UNOという思想
宇野社長は「ONE UNO」という思想を大切にしています。社長と社員が顔を合わせ、一対一で対話する時間を大切にする。4代目としてすべてを背負う覚悟を持つ一方で、最終的な決断に至るまでの想いを分かち合い、共に未来へ進む仲間を育む。宇野社長なりの社員との向き合い方です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)への強い意欲も、受け継がれてきた伝統を未来の言葉に変換し、その価値を増幅させるための手段として捉えられています。
アストライドのミッション
宇野重工の物語は、私たちに大切な問いを投げかけています。
あなたの会社の「当たり前」の中に、まだ言葉にされていない価値は眠っていませんか。それは、他の誰にも真似のできない特別な技術や、長年のこだわりかもしれません。お客様との間に築いてきた、目には見えない信頼という名の絆かもしれません。
過去の仕事は、未来を照らす道標になり得ます。受け継いできた伝統は、他にはない未来を築くための確かな土台となります。
私たちアストライドは、映像という形あるものを作ることだけではなく、経営者の挑戦に寄り添い、未来へと続く物語を紡ぎ出す伴走者であることを使命としています。経営者の想いを映像として記録し、その価値を社会に還元していきます。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。
































