インタビュアーの視点 – 一般財団法人伊勢志摩国立公園協会|滋野峻氏
一般財団法人伊勢志摩国立公園協会は、三重県鳥羽市の鳥羽ビジターセンターを拠点に、伊勢志摩国立公園の管理・運営を担っています。鳥羽市と志摩市の全域、伊勢市と南伊勢町の一部を含む6万ヘクタールの広大なエリア。民有地の割合が96%以上と高く、地域住民との協力が不可欠な公園です。
事務局長の滋野峻氏は1947年生まれ。伊勢志摩国立公園が指定を受けた1946年の翌年に生まれました。
観光業界の転換期
2020年、新型コロナウイルス感染症の影響により、日本の観光業界は大きな変化を迎えました。従来の「観光地巡り」から「体験型観光」「エコツーリズム」へ。自然体験や文化体験を重視する観光客が増加しています。
一方で、観光業界のデジタル化も進み、AR/VR技術やオンライン予約システムを活用して「より効率的に体験を提供する」方向に進んでいます。
伊勢志摩国立公園の指定経緯
伊勢志摩国立公園が指定を受けたのは1946年。その経緯には、戦後の政教分離という歴史的背景があります。
「伊勢神宮というのは、戦前は国が管理してましたよね。まあ、ですけど、いわば国が守ってくれていたわけなんですけど、戦後になって政教分離という中で、独立した形になってまいります。そうすると、自分たちで自分の身を守らなければいけないというような、そういう状況になったわけなんです」
戦後の混乱期、神宮が御遷宮のために大正期から育ててきた御用材が勝手に切り倒されたり、池の鯉が捕まえて食べられたり、境内のチャボまでが捕まえられる。これでは伊勢神宮の伝統文化をつないでいくことができないと、国立公園法による保護を選択したとのことです。
神宮と海女文化
滋野氏はこう語ります。
「神宮と海女文化、この2つは、人々の営みの中でね、残していくべきものだと思うんですよね。その海女さんの考え方というのは、自分たちが自然から頂いているその恵みを取りすぎずに、足りる分だけしか取らないと。おそらくですね、これは僕の勝手な解釈なんですけども、あの神宮さんの考え方にもつながっているかなと思っています」
伊勢神宮は基本的に自給自足。御遷宮で取り壊された柱や壁の板も、次にどこで使うかが決められている。内宮から持ってきた鳥居は、磨き直して外宮の鳥居になる。外宮の鳥居は、桑名の鳥居に。自然環境とその歴史文化がちょうど折り合っているところに魅力を感じると、滋野氏は語ります。
目的だけを追い求めてきた時代
滋野氏は、鳥羽水族館の営業担当として、高度経済成長期に全国を飛び回りました。
「水族館時代、東京にセールスに行った時も、周りを歩く人よりも早く歩きたくて、1分1秒でも早く着きたいと。なんか、こう、ええ、その目的だけを一生懸命、多く追い求めてきた時代かなあというふうに思うんですね」
しかし、現在の滋野氏が選んだのは、エコツアーで参加者と共に地域を歩き、時間をかけて景色を見て、感じるアプローチ。観光業界がデジタル化による効率化を追求する中、滋野氏はあえて「時間をかける」ことを選んでいます。
車で通り過ぎていては気づかない風景
「そんな中で、今、エコツアーで皆さんをご案内して歩いてますとね、またちょっと違う風景が見えてくるんですよね。まあ、路地裏をちょっと覗いてみたら、おじいさんが日向ぼっこをしていて、『今日はいい天気やなぁ』という、そんな挨拶を交わしたりとかですね。あるいは、景色も見方が変わってくるんですよね。車でスーッと通り過ぎたんで、あ、気が付かないような景色がたくさんあります」
エコツアーでは、景色を見て楽しんでもらうだけでなく、そこに住む人々の生活をお話しして、理解を深めてもらう。そこにあるがままのものを観光客に提供していくと、滋野氏は語ります。
人生の新しい歩き方
「なんか、こう、自分の人生の新しい歩き方といいますかね、そんなものが、こう、なんか、こう、できてくるような、そんな気もしますよね。まあ、あの、そういったことを皆さんに伝えていきたいなあという」
滋野氏が伝えたいのは、単なる観光の楽しみ方ではありません。時間をかけて歩き、見て、感じることで、車で通り過ぎていては気づけなかった景色や人々の営みに出会える。この発見を、皆さんに伝えていきたいと語ります。
アストライドのミッション
滋野氏の言葉には、一貫した想いが流れています。国立公園が指定を受けた翌年に生まれ、高度経済成長期を駆け抜け、そして今、エコツアーで地域を歩く。
「自分の人生の新しい歩き方ができてくるような気がする」
この言葉には、目的だけを追い求めてきた時代を経て見出した、新しい価値観が込められています。
これまで200社以上の経営者インタビューに携わる中で、数字やデータでは測れない「想い」こそが、事業を永続させる源泉であることを実感してきました。
滋野氏のように、時間をかけて歩くことで見えてくる風景がある。その風景を次の世代に伝えていこうとする姿勢を映像として記録し、未来に伝えていくことが、私たちの使命です。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。



























