インタビュアーの視点 – 河田フェザー株式会社|河田敏勝氏

1891年、三重県多気郡明和町で創業した河田フェザー株式会社。創業130年を超える国内唯一の羽毛専業メーカーとして、世界最高品質の羽毛を追求し続けています。4代目代表取締役社長の河田敏勝氏は、1979年に父(3代目社長)が巻き起こしたダウンジャケットブームの歴史を継承。1994年には3ヶ月待ちという需要を生み出しました。

羽毛加工業界が直面する課題

羽毛加工業界は、複数の構造的課題を抱えています。高品質原毛の価格変動、品質管理と安全性への要求の高まり、サステナビリティへの対応、そして海外メーカーとの競争激化。消費者は無味無臭で安心安全な製品を求め、アトピーやアレルギーへの配慮も欠かせません。

こうした市場環境の中で、河田フェザーは独自の技術で差別化を実現してきました。世界最大の除塵機による不純物除去、大台ケ原山地の超軟水による洗浄、独自設計の機械による微細なホコリの徹底除去。これらの技術が世界最高品質を支えています。

ただし、河田フェザーの「世界最高品質の追求」は、市場への対応という側面だけでは語れません。その根底には、河田氏自身の「羽毛のことを全部知りたい」という探求心と、「100年、200年続くように」という永続性への願いがあります。この想いこそが、他社には真似できない品質を実現する原動力となっています。

経営者としては異例の学術探求

河田氏は、羽毛加工の経営者としては異例ともいえる学術的探求を続けてきました。大学院で設備や餌、タイミング、安全性を研究し、さらに安全性試験法の開発のために医学部へ入学。事業の直接利益には結びつかない投資ですが、長期的には競合との決定的な差別化につながっています。

「羽毛のことを全部知りたい」

この純粋な探求心が、徹底的な研究を支えています。羽毛について知らないことがあるのが嫌だという姿勢が、国内基準の倍となる2000mmの清浄度を実現。他社が到達し得ない「世界最高品質」への道を切り開きました。

自分たちが使いたいものを作る

「私が一番敏感なセンサーですから」

河田氏は、自らの感覚を信頼し、徹底的に「自分たちが使いたいもの」を作るという姿勢を貫いています。売上より利益、そして何より自分たちのアイデンティティを大切にする。この哲学が、独自の顧客層を形成してきました。

市場のニーズに応えながら、同時に河田氏自身の基準を妥協しない。その両立が、品質追求を可能にしています。

100年、200年先を見据えて

「私がいなくなっても100年、200年続くように」

河田氏はそう語ります。リサイクルダウンが自分より長く持つことを知りながら、その先を知りたいという探求心。1980年代から建設した工場は、将来の海外競争を見据え、「誰にもできない差別化」を実現する思想で設計されました。

リサイクルダウン事業は、品種の絶滅で二度と手に入らない希少な羽毛を回収・再加工する取り組みです。20年近く前に買って大量に保管してあるもの、それしか世界に良い羽は残っていない——「羽屋の遺産」として守るという使命感が、この事業を支えています。

明和町という土地が生む競争優位

河田フェザーの本社がある明和町は、山に囲まれ、雨が少なく、乾いた風が吹く土地です。この気候が羽毛の洗浄・乾燥に適しています。大台ケ原山地の超軟水は羽毛洗浄に理想的で、水と空気が重なる15平方キロの特殊環境が、河田フェザーの差別化要因となっています。

湿度が高いと羽毛が閉じてホコリが取れない——羽毛の性質を知り尽くしたからこそ選んだ立地。地域特性と技術の融合が、世界最高品質を実現しています。

独自技術の数々

世界最大の除塵機、超軟水洗浄、独自設計の機械群。特に洗濯脱水機は「お米のように飛ばしながら洗う」羽毛に優しい方法を採用しています。活性水素水による洗浄は、羽を傷めず、傷んだ部分を補修する効果も期待できます。

独自の風選機は風速を自在に調整し、残したいものだけを選別。子供の頃から羽毛に接してきた河田氏の経験と、「理想の機械がすっと思い浮かぶ」という直感が融合した技術です。


アストライドのミッション

河田フェザーの「世界最高品質の追求」。その根底にある「羽毛のことを全部知りたい」という探求心と、「100年、200年続くように」という願い。この想いが、世界最高品質を実現する原動力となっています。

羽毛について知らないことがあるのが嫌だという河田氏の姿勢は、単なるこだわりではありません。130年の歴史を背負い、さらに100年先を見据える経営者の覚悟そのものです。「羽屋の遺産」を守り、次世代へ継承していくという使命感。それは、経営者としての在り方を問いかけています。

私はこれまで200社以上の経営者インタビューに携わり、このような経営者の想いに向き合ってきました。数字では測れない「想い」こそが企業を永続させる——その実感を、映像という形で記録し、社会に届けることがいまのアストライドの使命です。

経営者の言葉には、その人が歩んできた道のりと、これから歩もうとする道筋が刻まれています。河田敏勝氏の言葉もまた、130年の歴史と100年先の未来を結ぶ架け橋として、この映像の中に残されています。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。