インタビュアーの視点 – なかむら珈房|中村純也氏
なかむら珈房は、三重県伊勢市に位置する自家焙煎珈琲豆専門店です。代表の中村純也氏が、世界最高水準のスペシャルティコーヒーを取り扱い、農園指定、品種指定で仕入れ、職人の技で焙煎しています。「1杯の珈琲で幸せになってほしい」という想いを込めて、豆の個性を引き出す焙煎を行っています。
コーヒー業界の背景
日本のコーヒー市場は約1.5兆円規模。コーヒー豆価格の変動が激しく、大手チェーン店との競争も激化しています。効率化を追求する店が多い中、なかむら珈房は、世界流通量の約5%〜7%しかないスペシャルティコーヒーにこだわり続けています。
スペシャルティコーヒーとは
「今僕が取り扱っているのはスペシャルティコーヒー。世界のコーヒー流通量の中でも、だいたい約5%から7%ぐらいと言われている品質のもの。コーヒー全体で見ると、まだまだ少ない状態のものだと思います」
中村氏が語るスペシャルティコーヒーとは、世界基準のカッピングで80点以上を獲得し、生産者までたどり着けるトレーサビリティを持つ生豆のこと。
「単純にまず味が評価されるというところですね。世界基準のカッピングという評価方法があって、80点以上。そしてトレーサビリティ、きちんと生産者までたどり着ける品質管理。その部分を活かしている豆というのが一番大事です」
父が始めた18年前
なかむら珈房の歴史は、18年前に遡ります。
「父が始めたのが18年前ですかね。このあたりで自分が飲みたいコーヒーがないというところから、美味しいコーヒーを飲みたいなっていうのがスタートですね」
最初はフライパンのようなもので焙煎を始めた。やがて機械を導入し、「中村さんのコーヒー」として地域に認知されていった。おかげ横丁やおはらい町ともつながりができた。
「ちょっとずつお父さんのコーヒーが美味しいって認知されてきているんだなと思いました。でも全く、僕自身はコーヒーを飲まない人間だったんで。何かやったらなーみたいな感じでしたね」
焙煎へのこだわり
焙煎はなかむら珈房の生命線。約13分で焼き上げます。
「焙煎はもうほぼ毎日やってますね。それ以外の仕事やってないんちゃうかっていうぐらい。夏場は暑さ地獄ですよ」
父の味とは違うが、お客様から「美味しい」と言ってもらえる。その言葉が、さらなる技術向上への原動力になりました。
「『お父さんとちょっと味違うけど、美味しいよね』とか言ってもらうと、じゃあもうちょっと自分らしくなれるかなっていうところを、プラスに持っていけた。それが今につながってくるのかなと思いますね」
1分ごとのデータ確認
「1分ごとにデータを確認していきます。浅煎りが好きなんですけど、焙煎のギリギリのところで焼けるので。強火で焼いたり、弱火で焼いたり。豆の種類や温度の状態によって全然変わってきます。味のバランスの取り方とか、結構難しくて」
「焼きたい」という想い
中村氏の言葉は、シンプルで力強い。
「焼きたいんですよ。単純に焼きたいです」
「僕、料理とかしないんでアレなんですけど、自分がやって味が作られていく。それってすごく面白くないですか。お肉を焼くのと同じで、コーヒーも生焼けがあったり、焦げたりすることがある。この前お肉焼いたんですよ、めちゃくちゃ硬かったんですよ。ゴムみたいになって」
「なんかこう、自分が作る、自分が作るって。それが面白いじゃないですか」
鮮度管理が一番のこだわり
「焙煎すると一気に劣化して、コーヒーの味の変化が起こってくるので、僕が一番こだわっているのは鮮度管理ですね。焼いた豆の。こだわりなのか偏屈なのかわからないですけど」
「中村さんのコーヒー」というブランド
喫茶店やカフェが「中村さんのコーヒー」と呼んでくれる。そのスタイルを崩さないようにしたい。
「今のところ『中村さんのコーヒー』とか言って、名前もブランド化じゃないですけど、喫茶店やカフェが言ってくれてるんで。どちらかというと、そのスタイルを崩さないようにきちんとしたものを自分のところで提供したいし、卸しているお店も間違いのないようにきちんとしたコーヒーを出せるように、こっちも協力しているという部分で」
生産者との信頼関係
中村氏は、コーヒーをワインや日本酒に例えます。
「結局、生産者さんが良い豆を作ってくれる。向こうの人は、僕らが買ってくれることによって、普段1000円で売っていたものが2000円で買ってもらえるとか。僕らとしても適正なお金を出しているつもりだし、その味に対して。農家さんがどんどん良いものを作ってもらえる。お互いのウィンウィンというか。それが一番、根底にありますね」
ブラジルでの出会い
コーヒー鑑定士の資格を取得するため、ブラジルへ渡りました。1週間、農園で勉強した経験が、今の仕入れにつながっています。
「向こうのコーヒー生産者さんと関わる中で、友達じゃないけど、信頼関係を常に持っている状態なんで安心感がある。トレーサビリティを保ちながら仕入れているという感覚なので、中途半端なことをすると生産者さんに悪いなっていう気持ちですかね」
構えすぎず、楽しむ
中村氏が理想とするコーヒーの楽しみ方。
「気づいてほしいっていうのはありますけどね。フランス料理を食べるみたいに『食べるぞ』って構えるんじゃなくて。やっぱこう、『このコーヒー何?』って聞いて、『どこどこさんのコーヒーです』ってなると、何も考えてなかったフラットな状態からコーヒーにハマっちゃうというか。それが理想的ですね。構えすぎず、楽しむ」
アストライドのミッション
「中途半端なことをすると生産者さんに悪い」
中村純也氏のこの言葉に、私は深く心を動かされました。
地球の裏側、ブラジルで育まれた信頼関係。1週間の農園での学びが、「中村さんのコーヒー」というブランドの根底にある責任感を形作っています。父が18年前に「このあたりで自分が飲みたいコーヒーがない」という想いから始めた焙煎。その想いは息子へと受け継がれ、今も毎日、焙煎が行われています。
私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、経営者一人ひとりの想いや価値観に触れてきました。中村氏が「焼きたいんですよ。単純に焼きたいです」と語る瞬間、「構えすぎず、楽しむ」と語る表情。これらの言葉は、映像だからこそ伝わる力を持っています。
アストライドは、経営者の想いをより広く届けるために、映像制作とその価値の発信に取り組んでいます。本映像では、スペシャルティコーヒーへのこだわり、父から受け継いだ焙煎への情熱、そしてブラジルの生産者との信頼関係が、中村純也氏自身の言葉で語られています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。




























