ポッドキャストで「信頼」を構築する:既存顧客・取引先との関係を深める方法

この記事でわかること
- 音声コンテンツが信頼構築に有効な心理学的・科学的根拠
- 既存顧客向けポッドキャストがもたらすビジネス上のメリット
- 取引先・パートナーとの関係を深める番組設計のポイント
- 顧客ロイヤルティを高める具体的なコンテンツ戦略
- 信頼構築の効果をどう測定するかという実践的な考え方
新規顧客の獲得コストは、既存顧客の維持コストの5倍かかるとも言われます。それにもかかわらず、多くの企業は新規開拓にリソースを集中させ、すでに関係のある顧客への継続的なアプローチを後回しにしがちです。
Forresterの調査によると、B2Bバイヤーは信頼する企業を他者に推奨する確率が2倍、プレミアム価格を支払う意向も約2倍高いことがわかっています。信頼は単なる感情的な絆ではなく、具体的なビジネス成果に直結する資産といえます。
本記事では、ポッドキャストが「信頼構築」に効果的な理由を掘り下げ、既存顧客・取引先との関係を深めるための実践的な活用法を解説します。
「信頼」はどのようなメカニズムで生まれるのか?
声が伝えるもの、文字が伝えられないもの
私たちは日常的に文字情報に触れていますが、コミュニケーションにおいて声が果たす役割は想像以上に大きいものがあります。
心理学者アルバート・メラビアンの研究は、感情や態度を伝える際に視覚情報が55%、聴覚情報が38%、言語情報が7%の影響を持つと示しました。この数値は特定の実験条件下でのものですが、声のトーン、抑揚、間の取り方といった「パラ言語情報」がコミュニケーションにおいて重要な役割を担っていることは、多くの研究者が認めるところです。
Nature Communications誌に掲載された研究では、話者の信頼性が韻律(声のピッチ、速度、強弱)によって決定されることが報告されています。聴き手は無意識のうちに、話し方から相手の誠実さや確実性を判断しているわけです。
テキストだけでは伝わりにくい「人となり」や「思い」が、声を通じて届く。これが音声メディアの本質的な強みです。
継続接触が生む親密感
心理学でよく知られる「単純接触効果」は、繰り返し接触することで対象への好意度が増すという現象です。ポッドキャストは、この効果を最大限に活かせるメディアといえます。
週1回、30分の番組を配信すれば、リスナーは年間で26時間以上、ホストの声に触れることになります。これは年に数回の営業訪問や、月1本のメールマガジンでは実現できない接触量です。
さらに重要なのは、その接触の「質」です。ポッドキャストの平均完了率は70〜80%と報告されており、Signal Hill Insightsの調査では、優れたブランデッドポッドキャストで80%以上の完了率を達成する例も多いとされています。動画コンテンツの完了率が12%程度といわれるなかで、音声コンテンツは圧倒的な「聴き通し率」を誇ります。
リスナーが45分の番組を最後まで聴くということは、45分間にわたって企業のメッセージに集中しているということ。これは単なるマーケティングではなく、関係構築そのものといえるでしょう。
「疑似社会的関係」という概念
メディア心理学の分野では、視聴者やリスナーがメディア上のパーソナリティに対して抱く一方向の親密感を「疑似社会的関係(parasocial relationship)」と呼びます。
ポッドキャストでは、ホストの声を繰り返し聴くことで、リスナーは実際に会ったことがなくてもホストをよく知っている人物のように感じ始めます。通勤電車のなかで、ジョギング中に、あるいは家事をしながら—プライベートな時間に「耳元で」語りかけられる体験が、この関係性を強化します。
B2Bの文脈でいえば、この関係性は「信頼の土台」として機能します。ポッドキャストを通じてホストの考え方や価値観を理解したリスナーは、その企業に対しても好意的な印象を持ちやすくなります。
既存顧客向けポッドキャストにはどのような価値があるか?
顧客維持と解約防止への貢献
SaaS企業をはじめ、サブスクリプションモデルを採用する企業にとって、解約率(チャーンレート)の低下は最重要課題のひとつです。既存顧客向けのポッドキャストは、この課題に対してユニークなアプローチを提供します。
ポッドキャストを通じて、製品の活用事例、業界トレンド、ベストプラクティスなどを継続的に届けることで、顧客は自社が「購入後も大切にされている」と感じることができます。これは、契約更新時の判断に少なからず影響を与える要素です。
また、製品やサービスの新機能、活用のヒントをポッドキャストで紹介することは、能動的なカスタマーサクセス施策としても機能します。顧客が製品の価値を十分に引き出せていない場合、解約のリスクは高まります。音声コンテンツで「こんな使い方もできる」と伝えることで、製品の活用度を高め、結果として解約を防ぐ効果が期待できます。
アップセル・クロスセルの機会創出
既存顧客向けポッドキャストは、押し売り感なく新しい製品やサービスを紹介する場としても活用できます。
たとえば、ゲストとして既存顧客を招き、自社の別製品を活用した成功事例を語ってもらうことで、リスナーに自然な形で製品の価値を伝えることができます。「この企業の他のサービスも試してみようか」という興味を喚起するうえで、第三者の声は営業資料よりも説得力を持つことがあります。
Forresterの調査では、信頼する企業に対して、現在購入している製品・サービスと無関係の製品も購入する意向があると回答したバイヤーは74%にのぼります。信頼があれば、提案の幅は広がります。
カスタマーサクセスとの連携
カスタマーサクセスチームが日常的に受ける質問や、よくある課題をポッドキャストで取り上げることで、1対1の対応に要する時間を削減できる可能性があります。
「FAQ的なコンテンツ」と聞くと味気なく感じるかもしれませんが、音声で伝えることで、単なる回答を超えた「理解と共感」を示すことができます。「この点で悩まれるお客様は多いですよね」という一言が入るだけで、リスナーは自分だけではないと安心し、企業への信頼を深めることがあります。
取引先・パートナーとの関係をどう深めるか?
業界知見の共有という価値提供
取引先やビジネスパートナーとの関係においても、ポッドキャストは有効なツールになり得ます。
自社が持つ業界知見、市場動向の分析、専門的なノウハウをポッドキャストで発信することは、取引先に対する継続的な価値提供として機能します。「この会社と付き合っていると、業界の最新情報が入ってくる」と思ってもらえれば、関係は自然と深まっていきます。
これは、いわば「無形の付加価値」です。製品やサービスの取引だけでなく、知識やインサイトを共有することで、取引関係は単なる売買を超えた「パートナーシップ」へと発展する可能性を持ちます。
ゲスト出演による関係強化
取引先のキーパーソンをポッドキャストにゲストとして招くことは、関係強化の強力な手段となり得ます。
ゲストとして出演することは、多くのビジネスパーソンにとって魅力的な機会です。自社の取り組みを発信できる場が提供され、業界内での認知向上にもつながります。招かれた側は、依頼主に対して好意的な印象を持ちやすくなります。
Fame社のデータによると、ゲストの約90日以内に顧客化するケースもあるとされています。収録前後のコミュニケーション、収録時の対話、配信後のフォローアップ—一連のプロセスを通じて関係が深まり、ビジネスにつながることは珍しくありません。
共同制作という選択肢
より踏み込んだ形として、取引先やパートナー企業との共同でのポッドキャスト制作も考えられます。
両社の専門性を掛け合わせることで、単独では制作できないコンテンツが生まれます。また、両社のリスナー基盤を共有することで、リーチを拡大できるメリットもあります。
共同制作には、企画段階からの擦り合わせ、制作負担の分担、配信方法の調整など、手間がかかる面もあります。ただ、そのプロセス自体が両社の協業を深め、単なる取引関係を超えた絆を生むことにつながります。
ロイヤルティ向上につなげるにはどう番組設計すればよいか?
ターゲットの明確化
既存顧客向けポッドキャストで最も避けるべきは、「誰に向けているのかわからない」番組になってしまうことです。
新規獲得を目的としたコンテンツと、既存顧客向けのコンテンツは、取り上げるべきテーマも深さも異なります。既存顧客はすでに自社製品を使っているため、基本的な説明は不要。むしろ、より高度な活用法や、業界の深いインサイトを求めている可能性があります。
番組を設計する際には、「すでに自社を知っている、使っている人が聴く」という前提で内容を組み立てる必要があります。
適切な頻度と尺の設定
既存顧客向けポッドキャストの場合、必ずしも週1回といった高頻度で配信する必要はありません。月1〜2回の配信でも、コンテンツの質が高ければ十分に効果を発揮します。
エピソードの長さについては、20〜30分程度を目安にする企業が多いようです。ただし、専門性の高いテーマを深掘りする場合は、45分〜1時間でも最後まで聴かれることは十分にあります。内容に見合った尺を設定することが重要です。
顧客の声を取り入れる
既存顧客向けだからこそ、顧客自身の声を番組に取り入れることが効果的です。
成功事例のインタビュー、製品に対するフィードバック、業界課題についてのディスカッション—顧客をゲストに招くことで、コンテンツの説得力が増すと同時に、出演した顧客との関係も深まります。
また、リスナーからの質問を募集し、番組内で回答するコーナーを設けることも、双方向性を生み出す方法のひとつです。
信頼構築の効果をどう測定するか?
直接的な指標
ポッドキャストの効果測定において、まず確認すべき指標がいくつかあります。
ダウンロード数・リスナー数は基本的な到達度を示します。ただし、数字の大小だけでなく、「対象顧客のうちどれだけが聴いているか」という視点も重要です。
完了率(リテンションレート)は、コンテンツが最後まで聴かれているかを示す指標です。Apple Podcasts ConnectやSpotify for Podcastersで確認できます。完了率が高ければ、内容がリスナーの関心に合っていると判断できます。
エピソードごとのパフォーマンス比較は、どのようなテーマ、ゲスト、フォーマットが好まれるかを把握するうえで有効です。
間接的な指標
信頼構築の効果は、数字だけでは測りにくい部分もあります。以下のような間接的なシグナルにも注目する価値があります。
顧客からの言及として、営業担当やカスタマーサクセスとの会話で「ポッドキャスト聴いています」という声があるかどうかは、重要なシグナルです。
契約更新率との相関を見る場合、ポッドキャストリスナーと非リスナーで契約更新率に差があるかを分析できれば、効果の一端が見えてきます。
リスナーアンケートの活用も有効です。定期的にアンケートを実施し、ポッドキャストが企業イメージや信頼感に与えている影響を定性的に把握することも有効な方法です。
長期的な視点で捉える
信頼構築は一朝一夕に成し遂げられるものではありません。ポッドキャストの効果を1〜2ヶ月で判断するのは時期尚早といえます。
少なくとも6ヶ月〜1年のスパンで、上記の指標の推移を追いながら評価することをお勧めします。短期的なROIだけでなく、「顧客との関係資産」という長期的な視点で捉えることが、信頼構築型ポッドキャストを評価するうえでは重要です。
まとめ
ポッドキャストは、新規顧客獲得のツールとしてだけでなく、既存顧客・取引先との関係を深める強力な手段となり得ます。
声が持つ信頼形成力、80%を超える高い完了率、継続接触による親密感の醸成—これらの特性は、B2Bビジネスにおける関係構築に最適といっても過言ではありません。
Forresterの調査が示すように、信頼を獲得した企業は、顧客からの推奨、プレミアム価格の受容、追加購入の意向において大きなアドバンテージを得ることができます。ポッドキャストは、その信頼を構築するための継続的な接点として機能します。
すでに関係のある顧客や取引先との絆を、声を通じてさらに深める。それが、ポッドキャストによる「信頼構築」という戦略です。
この記事からわかるQ&A
なぜ音声コンテンツは信頼構築に効果的なのですか?
声のトーン、抑揚、間の取り方といった「パラ言語情報」が、テキストでは伝わりにくい「人となり」や「誠実さ」を伝えるからです。Nature Communications誌の研究では、話者の信頼性が韻律(声のピッチ、速度、強弱)によって決定されることが報告されています。また、心理学の「単純接触効果」により、継続的に声を聴くことで親密感が醸成されます。
ポッドキャストの完了率はどれくらいですか?
ポッドキャストの平均完了率は70〜80%と報告されており、Signal Hill Insightsの調査では優れたブランデッドポッドキャストで80%以上の完了率を達成する例も多いとされています。動画コンテンツの完了率が12%程度といわれるなかで、音声コンテンツは圧倒的な「聴き通し率」を誇ります。
既存顧客向けポッドキャストにはどのようなビジネス上のメリットがありますか?
主に3つのメリットがあります。①解約防止:製品の活用事例やベストプラクティスを継続的に届けることで、顧客は「購入後も大切にされている」と感じます。②アップセル・クロスセルの機会創出:押し売り感なく新しい製品やサービスを紹介できます。③カスタマーサクセスとの連携:よくある質問や課題を取り上げることで、1対1の対応時間を削減できます。
信頼構築の効果はどのように測定できますか?
直接的な指標として、ダウンロード数・リスナー数、完了率(リテンションレート)、エピソードごとのパフォーマンス比較があります。間接的な指標としては、顧客からの言及(「ポッドキャスト聴いています」という声)、契約更新率との相関、リスナーアンケートの結果などが参考になります。
ポッドキャストの効果を評価するにはどれくらいの期間が必要ですか?
信頼構築は一朝一夕に成し遂げられるものではないため、1〜2ヶ月で判断するのは時期尚早です。少なくとも6ヶ月〜1年のスパンで指標の推移を追いながら評価することをお勧めします。短期的なROIだけでなく、「顧客との関係資産」という長期的な視点で捉えることが重要です。
引用・参考資料
- 医療法人社団 平成医会「メラビアンの法則とコミュニケーション」
- Forrester “The State of Global Business Buyer Trust In 2023/2024″(2024年1月)
- Signal Hill Insights “Measuring the Success of Branded Podcasts”(2024年3月)
- Fame “2025 B2B Podcasting Trends: Data, Insights, And What Actually Moves the Needle”(2025年)
- ナゾロジー「声の調子が人の信頼性を決定している」Nature Communications研究紹介(2024年6月)
- TAGLAB “Podcast Completion Rate”(2024年11月)
- B2B Marketing “B2B Podcast Marketing: Lessons from 2024 Winners”(2025年4月)
- ITN Business “The rise of B2B podcasting: how brands are building trust and reach”(2025年8月)
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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