ポッドキャストとは?B2Bマーケティングにおける音声メディアの可能性と限界

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この記事でわかること

  • ポッドキャストの定義と基本的な仕組み
  • ラジオ・YouTube・ブログとの違い
  • 国内利用実態調査に見るポッドキャストの現状
  • B2Bマーケティングにおける4つの活用パターン
  • ポッドキャストで期待できる効果と、その限界

「ポッドキャストを始めるべきか」。経営者やマーケティング担当者から、この相談を受ける機会が増えています。オトナルと朝日新聞社が共同で実施した「PODCAST REPORT IN JAPAN 第5回ポッドキャスト国内利用実態調査」(2025年2月発表)によると、国内のポッドキャスト利用率は17.2%に達し、TikTokに次いでNetflixやFacebook、雑誌を上回る水準となっています。

しかし、ポッドキャストは他のSNSなどと同様、万能ではありません。向いている企業と、そうでない企業がある。期待できる効果と、期待すべきでない効果がある。この記事では、ポッドキャストの基本を押さえながら、B2B企業にとっての現実的な可能性と限界を整理します。


ポッドキャストとは何か

ポッドキャストとは、インターネットを通じて配信される音声コンテンツの形式です。Apple Podcasts、Spotify、Amazon Music、YouTube Musicなど複数のプラットフォームで聴取でき、リスナーは好きな時間に、好きな場所で、好きなエピソードを選んで聴くことができます。

テレビやラジオのように放送時間に縛られることがなく、オンデマンドで聴取できる点が最大の特徴です。一度配信したエピソードはアーカイブとして残り続けるため、過去のコンテンツにも継続的にアクセスが可能となります。

他のメディアとの違い

ポッドキャストを理解するうえで、他のメディアとの違いを整理しておくと有用です。

ラジオとの違いは「オンデマンド性」にあります。ラジオは放送時間にリスナーが合わせる必要がありますが、ポッドキャストは逆で、リスナーの都合に合わせて聴取できる。通勤中、家事の合間、運転中など、リスナーが選んだタイミングで聴かれる傾向があります。

YouTubeとの違いは「メディア特性」です。動画は視覚的な情報を伝えるのに優れていますが、視聴には画面を見続ける必要がある。対してポッドキャストは音声のみのため、「ながら聴き」が可能です。前述の国内調査によると、ポッドキャストユーザーの87.1%が車の運転中や家事中など「ながら聴き」をしているという結果が出ています。

ブログとの違いは「情報の伝わり方」です。テキストは情報を正確に伝えられる一方、読み手の能動的な行為を必要とします。音声は、話者の人柄や熱意、ニュアンスを声のトーンや間合いを通じて伝えられる。文字では表現しにくい「人となり」を伝えるのに適したメディアといえます。


国内調査に見るポッドキャストの現状

国内のポッドキャスト利用状況について、最新の調査データを確認しておきます。オトナルと朝日新聞社の共同調査(2024年12月実施、2025年2月発表)から、主要なデータを抜粋します。

利用率の推移

国内のポッドキャスト利用率(月1回以上聴取する人の割合)は、調査開始時の2020年に14.2%でした。その後、着実に成長を続け、2024年には17.2%に達しています。

年代別では、15〜19歳が34.0%、20代が27.3%と若年層の利用率が高い傾向がある一方、30代以降も一定の利用率を維持しています。15〜29歳に限ると利用率は29.3%となり、Amazon Prime VideoやNetflixを上回る水準です。

聴取プラットフォーム

聴取プラットフォームの利用率では、YouTubeが1位、Spotifyが2位という結果が出ています。ポッドキャストは専用アプリだけでなく、YouTubeを通じて聴取される割合も高いことがわかります。

聴取頻度と番組数

ユーザー全体の約4割が週3回以上聴取しており、特に15〜19歳では48.0%が週3回以上と、他世代を上回る聴取頻度を示しています。定期的に聴いている番組数については、約5割のユーザーが3番組以上を聴取していると回答しました。

好まれる番組の長さ

番組の長さについては、ユーザー全体の約5割が30分未満の番組を好んで聴取しています。ただし、年代によって傾向は異なり、10代は約4割が20分未満の短い番組を好む一方、40代以上では40分以上の長い番組を好む傾向が見られます。

この年代差は、B2B企業にとって重要な示唆を含んでいます。経営者や意思決定者をターゲットとする場合、必ずしも短尺にこだわる必要はなく、テーマを深掘りした30分〜40分程度の番組でも受け入れられる可能性があります。


ポッドキャストが行動を促す力

B2B企業がポッドキャストに関心を持つべき理由のひとつは、リスナーの行動変容につながる可能性です。

同調査によると、ポッドキャストユーザーの約6割が「番組で聴いた情報を検索した経験がある」と回答しています。また、約4割が「番組で紹介された商品やサービスを購入した経験がある」という結果も出ています。

さらに興味深いのは、ポッドキャストユーザーの社会参加意識の高さです。調査によると、ポッドキャストユーザーの69.9%が「選挙へ行く」「選挙へ行くことが多い」と回答しており、非ユーザーを4.0ポイント上回っています。

これらのデータは、ポッドキャストリスナーが受動的な消費者ではなく、能動的に情報を求め、行動に移す傾向があることを示唆しています。B2Bマーケティングの観点では、「情報感度が高く、意思決定に積極的な層」にリーチできるメディアとして、ポッドキャストには一定の価値があると考えられます。


B2Bマーケティングにおける4つの活用パターン

B2B企業がポッドキャストを活用する目的は、大きく4つに分類できます。

1. 信頼構築

既存顧客や取引先との関係を深める手段としての活用です。経営者や専門家が自らの声で語ることで、テキストだけでは伝わりにくい人柄や価値観を伝えることができます。

音声メディアには「疑似社会的関係(パラソーシャル関係)」と呼ばれる心理効果があり、リスナーは繰り返し聴くホストに対して親近感を抱きやすくなるとされています。この特性は、顧客との長期的な関係構築を重視するB2Bビジネスにおいて、ひとつの強みになり得ます。

2. 専門性の確立

業界内でのオピニオンリーダーとしてのポジションを獲得する手段としての活用です。特定のテーマについて継続的にコンテンツを発信することで、「この分野ならこの会社」という認知を形成できる可能性があります。

国内調査では、40代以上のユーザーが40分以上の長尺番組を好む傾向が示されています。これは、専門的なテーマを深掘りするコンテンツにも一定の需要があることを意味します。

3. リード獲得

新規顧客との接点を作る手段としての活用です。ただし、ポッドキャストは即効性のあるリード獲得手段ではありません。SEO記事のように検索流入を狙うことは難しく、広告のような直接的なコンバージョンも期待しにくい。

むしろ、ポッドキャストが得意とするのは「長期的な関係構築を通じた信頼醸成」であり、その結果としてリードにつながるというプロセスです。前述の通り、6割のユーザーが番組で聴いた情報を検索し、4割が購入経験を持つというデータは、間接的なリード獲得効果の可能性を示しています。

4. 採用ブランディング

企業文化や社員の声を発信する手段としての活用です。社員へのインタビューや働き方の紹介など、採用広報的なコンテンツを音声で発信する企業も増えています。特に、中途採用や専門職採用において、企業理解を深めたい候補者に対して有効と考えられています。

ただし、採用への直接的な効果を期待するよりも、間接的なブランディング効果として捉える方が現実的です。


ポッドキャストの強みとメディア特性

ポッドキャストが他のメディアと異なる点として、リスナーの注意持続率の高さがあります。

複数の調査によると、ポッドキャストの平均完了率は約70%とされています。一方、20分以上の動画コンテンツの完了率は26%程度というデータがあります。90秒以下の短尺動画でも完了率は59%程度にとどまり、ポッドキャストの数字は際立っています。

この違いは、メディア特性に起因すると考えられます。動画は視覚情報も含むため視聴者の集中を要しますが、音声は「ながら聴き」が可能であり、リスナーの生活に自然に溶け込む。結果として、長尺のコンテンツでも最後まで聴かれやすい傾向があります。

国内調査でも、87.1%のユーザーが「ながら聴き」をしていると回答しており、この特性が完了率の高さを支えていると考えられます。


ポッドキャストの限界と注意点

ポッドキャストは有効な手段となり得ますが、万能ではありません。導入検討にあたって、限界と注意点を理解しておく必要があります。

即効性のある成果は期待しにくい

ポッドキャストは、短期間で大きな成果を出すことが難しいメディアです。検索エンジン経由の流入が限定的なため、新規リスナーの獲得には時間がかかります。広告のような即効性を期待するのではなく、中長期的なブランディング施策として位置づけるのが現実的です。

継続が前提となる

ポッドキャストは継続的な配信が前提のメディアです。単発のエピソード配信で効果を期待することは難しく、少なくとも週1回、あるいは隔週といったペースで継続することが求められます。企画・収録・編集・配信という一連のプロセスには、一定のリソースと体制が必要となります。

Listen Notesの統計によると、世界で約330万のポッドキャスト番組が存在しますが、定期的に更新されているアクティブな番組は約50万程度とされています。多くの番組が継続の壁を乗り越えられずに更新停止している現実があります。

効果測定が難しい

ポッドキャストの効果測定は、他のデジタルマーケティング施策と比較して難しい側面があります。ダウンロード数や再生回数は把握できますが、「誰が聴いたか」「聴いた結果どのような行動につながったか」を追跡することは容易ではありません。ROIを明確に示すことが難しいため、社内稟議を通す際にはこの点を考慮した説明が必要となります。

向いていない企業もある

すべての企業にポッドキャストが適しているわけではありません。たとえば、以下のような企業は慎重な検討が必要です。

  • 経営者や専門家が顔出し・声出しに消極的な企業
  • コンテンツの核となる独自の知見やストーリーが乏しい企業
  • リソース(人員・予算・時間)に余裕がない企業
  • 短期的な成果を求められている企業

自社にとっての適性を判断するために

ポッドキャスト導入の可否を検討する際、以下の問いが判断材料になります。

発信すべきコンテンツはあるか?
専門知識、業界の知見、経営者の哲学、顧客の成功事例など、継続的に発信できるテーマがあるかどうか。コンテンツの源泉がなければ、番組を継続することは困難です。

誰に届けたいのか?
ポッドキャストを聴くのはどのような層か。自社のターゲット顧客がポッドキャストを聴く習慣を持っているかどうか。国内調査によると、40代以上でも一定の利用率があり、特に長尺番組を好む傾向があります。

継続できる体制はあるか?
月2〜4本のエピソードを、最低でも半年から1年継続できる体制が組めるかどうか。社内リソースで対応するのか、外部に委託するのか。いずれにせよ、継続を前提とした計画が必要です。

何を成果とするか?
ダウンロード数か、ブランド認知か、顧客からの反応か、採用への効果か。成果指標を事前に定義しておくことで、継続の判断がしやすくなります。


まとめ

ポッドキャストは、B2Bマーケティングにおいて有効な選択肢となり得るメディアです。国内利用率は17.2%に達し、ユーザーの6割が聴いた情報を検索し、4割が購入経験を持つなど、行動変容につながる可能性を持っています。87%がながら聴きをしているという特性から、忙しいビジネスパーソンにもリーチしやすいメディアといえます。

一方で、即効性のある成果は期待しにくく、継続にはリソースと体制が必要です。効果測定も容易ではありません。ポッドキャストが自社に適しているかどうかは、発信すべきコンテンツの有無、ターゲットの聴取習慣、継続可能な体制、成果の定義という観点から検討する必要があります。

次の記事では、ポッドキャストのユーザー層について、国内調査データをもとに詳しく解説します。年代別の利用率や聴取目的の違いから、B2Bターゲットへのリーチ可能性を考察します。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
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