ポッドキャスト制作におけるマイク選定——アストライドがAKG C414 XLSを選んだ理由

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この記事でわかること

  • マイク選定において「人気」ではなく「声との相性」を重視すべき理由
  • スペクトログラム分析による声の特性把握の方法
  • AKG C414 XLSの周波数特性と採用理由
  • 他の候補マイクを検討・却下した経緯
  • 収録・後処理における運用上の工夫

ポッドキャストの音質を決める要素のひとつがマイクです。マイクの周波数特性と話者の声質が組み合わさることで、リスナーに届く印象が変わります。

YouTubeやポッドキャスト界隈で「定番」とされるマイクは数多く存在します。SHURE SM7dBはJoe Rogan(アメリカのコメディアン・ポッドキャスター)の使用で知られ、多くのクリエイターが推薦しています。しかし、「人気がある」ことと「自分の声に合う」ことは別の問題です。

アストライドでは、マイク選定にあたってひとつの原則を置きました。自分の声を分析し、その特性に合う周波数特性を持つマイクを選ぶこと。この記事では、その選定プロセスを記録します。


自分の声を知る——スペクトログラム分析

マイク選定の第一歩は、自分の声を客観的に把握することです。iZotope RX11を使い、スペクトログラム分析を行いました。

分析結果

特性詳細
基本周波数(F0)100Hz〜200Hz(日本人男性として標準〜やや低め)
倍音構造7kHz付近まで倍音が持続(一般男性は4-5kHzで減衰することが多い)
問題帯域2kHz〜3.5kHzに強い倍音成分
共鳴特性鼻腔共鳴が優位

7kHzまで倍音が持続する声は「通りやすい」「明瞭」という印象を与えます。一方で、2kHz〜3.5kHzの倍音成分が強いと「鼻声」として認識されやすくなります。この帯域はEQで触ると不自然になりやすいため、収録段階での対処が望ましいと判断しました。

声の印象への影響

スペクトログラムの特性は、リスナーに以下のような印象を与えます。

  • 高域倍音が豊富 → 「明瞭」「通る声」
  • 鼻腔共鳴が強い → 「知的」「理性的」
  • 低域が安定 → 「落ち着き」「信頼感」
  • 2kHz〜3.5kHzの強調 → 「シャープ」「エッジがある」

情報を正確に、信頼性をもって届ける声としては理想的な特性があります。ただし、2kHz〜3.5kHz帯域の強調を抑えないと、長時間のリスニングで「聴き疲れ」を招く可能性があります。


マイク選定のアプローチ——検討した候補と却下理由

声の分析結果をもとに、複数のマイクを検討しました。

検討・却下したマイク

マイク周波数特性却下理由
SHURE SM7dBフラット(2-5kHz)解像度が不足、オフアクシス(軸外れ)に弱い
Neumann TLM 1033-15kHzに+5dBブースト高域が過度にハーシュ(きつい印象)になる
AKG C414 XLII3-10kHzにリフト鼻声帯域を強調してしまう
Neumann U87 Ai中高域にブースト鼻声を強調、価格対効果にも疑問

SM7dBは「定番」として広く使われていますが、もともとはボーカル収録やナレーション向けのダイナミックマイクであり、コンデンサーマイクと比較すると解像度に差があります。内蔵プリアンプは「ゲイン不足」という運用上の問題を解決するものであり、音質そのものを向上させるわけではありません。

SHURE ( シュア ) / SM7dB(引用:サウンドハウス様)
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/335768

一方、Neumann TLM 103やC414 XLIIは高品質なマイクですが、高域にブーストがかかる設計のため、もともと高域倍音が豊富な声との相性が良くありませんでした。

NEUMANN ( ノイマン ) / TLM 103 Studio Set(引用:サウンドハウス様)
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/267855/

AKG ( アーカーゲー ) / C414 XLII(引用:サウンドハウス様)
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/156034/


AKG C414 XLSを選んだ理由

周波数特性の相性

C414 XLSは「リファレンスマイク」として設計されており、以下の特性を持っています。

  • 1kHz〜2kHzにディップ — 鼻声として認識される帯域を自然に軽減
  • フラットな基本特性 — 声を「素直に」録り、後処理の自由度を確保
  • 高域の控えめなブースト — 明瞭さを維持しつつ、過度な強調を回避
  • 9つの指向性パターン — 収録環境に応じた柔軟な対応が可能

AKG ( アーカーゲー ) / C414 XLS(引用:サウンドハウス様)
https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/156048/

声との相性(まとめ)

声の特性C414 XLSの対応相性
2kHz〜3.5kHzに強い倍音1kHz〜2kHzにディップ◎ 鼻声を自然に軽減
7kHzまで倍音が持続高域ブーストが控えめ◎ 過度な強調を回避
EQで触りにくい帯域フラットなリファレンス設計◎ 素直に録れる

マイク側で問題帯域を自然に抑えてくれるため、後処理でEQを過度にかける必要がありません。録音段階で「ちょうどいい」音になることが、C414 XLSを選んだ最大の理由です。


運用での工夫

ホストとゲストの音質統一

現在、ゲスト収録にもC414 XLSを使用しています。ホストとゲストで同じマイクを使うことで、音質に一貫性が生まれ、ポストプロダクションの工程が効率化されます。異なるマイクを混在させると、EQや音量調整の手間が増大します。

iZotope RX11との連携

C414 XLSで「素直に」録音された音声は、RX11での後処理が効果的に機能します。マイク側で過度な色付けがされていないため、Voice De-noise、De-ess、Loudness Controlなどの処理を自然に適用できます。

コンデンサーマイクの利点

ダイナミックマイク(SM7dB等)と比較した場合、コンデンサーマイクには以下の利点があります。

  • 感度の高さ — 多少の頭の動きをカバーできる
  • 解像度 — 声のニュアンス・微細な表現を捉える
  • 周波数特性の広さ — 20Hz〜20kHzをカバー

将来的な選択肢

さらなる品質向上を目指す場合、以下のマイクが候補となります。

  1. Neumann TLM 170 R — 中域にディップがあり、シビラント(歯擦音が強い)な声への対応力が高い
  2. Sennheiser MKH 40/8040 — 究極のフラット特性、RFバイアス技術による安定性
  3. Brauner Phanthera — ウォームだがプレゼンスピークがない、ドイツ製ハンドメイド

まとめ

マイク選定で重要なのは、「評判」や「人気」ではなく、自分の声を分析し、その特性に合うマイクを選ぶことです。

アストライドがAKG C414 XLSを採用した理由は、以下の3点に集約されます。

  1. 声との相性 — 鼻腔共鳴が強く高域倍音が豊富な声に対し、1-2kHzのディップが自然な軽減効果をもたらす
  2. リファレンス品質 — フラットな特性により、後処理の自由度を確保できる
  3. 運用効率 — ホスト・ゲストの音質統一、RX11との相性

「売れているマイクを買う」ではなく「自分の声に合うマイクを選ぶ」。この考え方が、アストライドの音声品質に対する姿勢の基盤となっています。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
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