インタビュアーの視点 – 株式会社佐野テック|佐野貴代氏
株式会社佐野テックは、三重県菰野町に本社を構える1932年創業の老舗企業です。橋梁の伸縮装置や免震支承といったインフラ部品製造と、健康・環境配慮型建築事業を二本柱として展開しています。代表取締役社長の佐野貴代氏は、創業家の3代目として、90年続く企業の哲学を継承し、次世代へと繋いでいます。
インフラ部品製造業界の現状
日本のインフラ業界は、高度経済成長期に建設された橋梁や道路の老朽化が深刻な社会問題として浮上しています。2023年当時、コロナ禍からの回復期にあり、インフラの安全性を支える部品の重要性が改めて認識されていた時期でした。
一方で、インフラ事業は公共工事に依存する構造のため、国の予算や政策の変動により経営が左右されるリスクを常に抱えています。また、技術継承の難しさ、熟練技術者の高齢化という課題も業界全体で共有されています。
見えない部品が支えるインフラ
私たちが日常的に利用する橋や道路には、目に見えない部品が数多く使われています。
「高速道路ですとか、橋の上で雨の日とかちょっとねスリップしそうな感じになるんですけど、まあこういうフィンガータイプのジョイントを伸縮装置として使っています」
佐野社長はそう語ります。地震が起こった時に力を分散させる免震支承、橋と道路のつなぎ目である伸縮装置。これらの部品は、完成すると見えるのはごく一部で、大部分はコンクリートの中に埋め込まれます。
「いつも学生だとかに喋る時は、橋や道路をイメージした時に、名前がわからんけどついてるかな、もういっぱいあるはずだけど、それっていう話をいつもしています」
100点のものしか作っちゃダメ
佐野テックが製造するこれらの部品には、明確な品質基準があります。
「図面通りに作るんで、99点もなければ100以上でもいけないですね。100点のものしか作っちゃダメなんですよ。よし今日はサービスしようと言って何か余分なもんつけるわけにもいかないし」
ものづくりなので、寸法精度が入っているというのは当然100点、外観が綺麗というのも100点。それ以上となると、仕様には出ていないが、気づいてこうすれば現場の作業性が良くなるとか、施工される人たちのところまで考えられるというのが、プラスアルファの価値になる。
「お客さんに感動を届けるっていうのは、100点では感動は生まれないで。だから同じことをしっかりやり続ける」
お客さんから「こういうところを直してほしい」という要望があれば対応し、当社からも提案をして、もっとよりいいものを、簡単に言えば安くてもいいものを作る。この姿勢が、職人というよりは、プロの集団という感じを生み出しています。
損得じゃなくて善悪で判断する
佐野社長が貫く経営方針に、「損得じゃなくて善悪で判断しましょう」という言葉があります。
「なんかやってることに対して、あこれ人誰か不幸にしそうやなって思えばやめる。損得じゃなくて善悪で判断しましょうというのをいつも言ってるんで」
この判断基準は、経営のあらゆる場面で機能しています。
人が大事
佐野社長は、どんな人が働いているかが大事だと考えています。
「まあコンビニを一つ思い出しましょうって言って、右行って左行っても同じぐらいのところに、でもこっちは雰囲気悪くて、こっちは雰囲気良くて、同じもので同じ味売ってんのに、こっち赤字なんや、日本でって、なんでやと思うて。何が違うと思っていつも言ってて、店長を含めて人が違うだけなんですよ。そこだけなのだって、建物形みんな一緒じゃないよ」
だから、佐野テックもやはり人が大事。今働いている人たちをメインでいろいろ考えれば、全て解決する。
当社の7割の人は中途採用です。前職が医療事務の方や鍼灸師だった方など、畑違いの人が来ています。しかし、休みがきちっとあることや、雰囲気がいいことが魅力となっています。
「女性社長というのでまた男性の社長とは違ったあったかさというか優しさというか、そういう部分は感じるので、特に家庭と仕事の両立って永遠のテーマだと思うんですけど、まあそういう部分を家庭を優先しなさいよっていうので、有給取得率が当然すごく上がりましたし」
自分の子どもが働くことになったら
「自分の子どもが働くことになったら、この職場は安全と言える?」
佐野社長はそう問いかけます。この言葉の背景には、社員とその家族の幸せを実現したいという想いがあります。身近な人を思いやる姿勢が5Sを浸透させ、顧客の信頼と高品質な製品を生み出しています。
「社会っていうのは小さいコミュニティも含めてなんでも、社員さんとその家族、そこは幸せになれば自然にその人たちが属する地域というか、もう幸せになっていけばいいんだって」
この考え方が、佐野テックの「人と社会の幸せを想像する企業」という経営理念に結実しています。
今うちらがいなくてもできる会社を
佐野社長は、創業家の3代目として、どのように会社を牽引していくか模索していました。
「家族でも社員でも人は皆違う意見を持ってる。だから自分の考えで行動して良いのだ」
そう理解した時、3代目としての方針を打ち出しました。その方針の一つが、次世代への承継を見据えた考えです。
「私も含めて部課長もよく似た年代なんで、やめる時っておかしいけど一緒なんです。でもそれを待ってるんじゃなくて、今うちらがいなくてもできる会社を今すぐ作って欲しい」
「私、僕これしかできません」しかいないと、それはチームワークとしてはやっぱり協力できなくなってしまう。急に明日違う仕事をするぞと言われても、多分できる。毎日毎日自分が成長しているし、やることも増えているから変化している。誰一人変化していない人はいない。
「変化に対応できない人間はいなくて、みんなできてるんですよ、自然に。ちょっと仕事でミスして大変なんだけども、みんなで協力して、まあそれさえできれば」
健康とエコを軸にした建築事業
佐野テックは、建築事業も展開しています。
「佐野さんとこ建築やってんのってもう本当に今でも知り合いにも言われるんで、いつからやり始めたみたいな、ずっとですみたいな」
基本は家ってある程度決まっている。そうしたら何で差別化するかと言ったら、関わったのがうちの社員さんというのが一つと、もう一つは健康だとかエコというところで、F-CONという九州の会社が開発した風の出ない冷暖房を採用しています。
表面にセラミックで塗り込まれているのと、壁と天井も同じセラミックが入っているのが共鳴し合う。洞窟みたいな状態になって、夏入ると涼しく感じて、冬入ると暖かく感じる。熱交換がずっと壁と天井も同じ素材ということで、本体がないところも含めて全部ワンフロアが温まったり冷えたりする。
「ほんと爽やか、本当にいいものです」
アストライドのミッション
株式会社佐野テックの取り組みは、「損得じゃなくて善悪で判断する」という一つの哲学に集約されます。
「100点のものしか作っちゃダメ」という品質への絶対的なこだわり。しかし、100点では感動は生まれない。お客さんに感動を届けるために、同じことをしっかりやり続ける。この姿勢が、90年続く企業の魂となっています。
「自分の子どもが働くことになったら、この職場は安全と言える?」——この問いかけの背景には、社員とその家族の幸せを実現したいという想いがあります。
私たちアストライドは、200社以上の経営者インタビューを通じて、こうした経営者の想いに向き合ってきました。経営者の言葉を映像として記録し、次の世代へと伝えていくこと。それが、私たちの使命です。
佐野貴代氏の言葉には、3代目として創業者の想いを継承し、次世代にバトンを渡す覚悟が刻まれています。「今うちらがいなくてもできる会社を今すぐ作って欲しい」——この言葉は、この映像の中に確かに残されています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。
































