「彼らの人生も一緒に生きている」─ 三重県から始まる人材派遣業の革命

津市あのつ台の静かな工業団地に、人材派遣業界の常識を覆す企業があります。株式会社パーソナックの鈴木昇社長は、インタビューの冒頭からこう断言しました。「ただ単に人は派遣して儲ける仕事やなしに、彼らの人生も一緒に生きているんだということを理解しないと」。この言葉に、同社の経営哲学のすべてが集約されています。

人材派遣業を取り巻く環境

2022年当時、日本の非正規雇用者は全労働者の約4割に達し、人材派遣業界は空前の規模に拡大していました。しかし、その実態は「安かろう」の価格競争に明け暮れ、派遣労働者の技術向上や処遇改善は派遣先企業任せというのが業界の常識でした。三重県という製造業の一大集積地においても、この構造は変わりません。中部圏の自動車産業、航空宇宙産業を支える多くの派遣会社が、短期的な利益を追求する中で、パーソナックだけが異なる道を歩んでいました。

「給料払いながら教育する」という逆転発想

同社の研修施設を訪れると、航空機エンジンの実機が目に入ります。「これ実際に使われているものですね。こういう作業っていうのはいらっしゃる部分の一部」と鈴木社長が説明する機材は、2000万円を超える本物のエンジン。一般的な派遣会社であれば、このような設備投資は考えられません。派遣労働者の教育は派遣先で行うものというのが業界の常識だからです。

しかし、パーソナックは違います。「ちゃんとお金を支払いしながら教育するわけですので、普通の派遣会社はこのことを給料払いながら教育しませんので」。この先行投資型の教育システムこそが、同社の競争力の源泉となっています。基礎的なマナーから専門技術まで、有給研修を経て現場に送り出される派遣スタッフは、文字通り「即戦力」として評価されます。

JAL整備士が築いた教育の基盤

この教育システムの背景には、多くの優秀なスタッフの存在があります。航空機エンジン専任講師 竹下修司さんは、1972年に日本航空に入社し、羽田と成田で20年以上にわたって航空機整備に従事。こうした経験を持つスタッフが、同社の教育哲学を具体化しています。「基本が一番大事なんですよ。基本ができてないと応用っていうのも正しくできない」という信念は、お客様の命を預かる航空機整備の現場で培われたものです。

航空機エンジンの分解組み立て、工具の正しい使用順序、そして何より安全への意識。これらの知識と技術を、派遣スタッフに惜しみなく伝承しています。三菱重工、川崎重工、そしてJALという異なる組織で蓄積した「それぞれのやり方」を統合し、より深い教育を実現している点も特筆すべきです。

3年継続で生まれる好循環

同社のビジネスモデルの真骨頂は、3年継続を前提とした長期的な視点にあります。鈴木社長は語ります。「今まで8カ月で辞めたのが、3年いてくれれば教育費用が4分の1になるわけなんですね」。この数字の背景には、深い人間洞察があります。

「100社面接しました、全部落ちました」という人材を受け入れる際、鈴木社長は担当者にこう指示します。「彼が仕事できるようにするためにはどうすればいいか考えろ」。この姿勢が、派遣スタッフの定着率向上と技術力向上の両立を実現しています。教育投資の回収期間が短縮される一方で、派遣先企業には質の高い人材を継続的に提供でき、派遣スタッフ自身も技術向上という形で恩恵を受けます。

時代を超える価値

2022年のインタビューから3年が経過した現在、パーソナックの先見性はさらに明確になっています。製造業のデジタル化が加速し、単純労働から技術労働へのシフトが進む中で、同社の教育投資型モデルは時代の要請に応えています。

「これだけ4割も非正規社員が増えてくる」という社会情勢の中で、「安ければいいんじゃない」という価格競争からの脱却を図る同社の姿勢は、持続可能な雇用社会への一つの回答かもしれません。人材派遣業が単なる労働力の需給調整機能を超え、人材の価値向上に貢献する産業へと進化する可能性を、パーソナックは実証しているのではないでしょうか。

鈴木社長の「彼らの人生も一緒に生きている」という言葉は、雇用の未来を考える上で重要な示唆を与えています。技術の進歩によって働き方が変化する時代だからこそ、人間としての成長を支援する企業の価値は、ますます高まっていくと思われます。