インタビュアーの視点 – 丸芳奥野建築株式会社|奥野芳彦氏
「200年300年というオーダーで建物を残していかないといけない」
丸芳奥野建築株式会社の奥野芳彦社長が語るこの言葉には、数世紀先を見据えた経営哲学が宿っています。
伊勢神宮のお膝元、三重県伊勢市。1300年間続く神道文化の中心地で培われた職人気質と技術継承の土壌が、同社のDNAを形成しています。昭和49年の創業から住宅建築でスタートし、菩提寺の新築依頼をきっかけに寺院建築の道へ歩み始めました。地域の声に応える形で事業が発展してきた歴史があります。
2022年の取材当時、コロナ禍によって寺院と檀家の関係は大きな変化を迫られていました。法要の簡素化や参拝自粛により、地域コミュニティの結束を支えてきた寺院の役割が問い直される時代。一方で、文化財保護への意識の高まりや、精神的な拠り所としての寺院への再評価も進んでいました。
まっすぐ割れずに
寺院建築の核心は、屋根の美しい曲線にあります。
「お寺がお寺らしいのは、やっぱり屋根の形状かな」と奥野社長は語ります。この曲線を生み出す技術には驚くべき複雑さが隠されています。
何センチという数値では表現できない曲線を、職人は長年の経験と直感で刻んでいきます。「どれぐらいの位置からその反りを始めるかは、やる大工さんによって違ってくる」という言葉。ここには機械では代替できない人間の感性と技術が息づいています。
特に印象的なのは、材料への徹底したこだわりです。欅という硬い木材の乾燥に5年から10年をかけます。割れが生じるリスクを承知の上で安いうちに木材を購入し、じっくりと乾燥させます。
「10年経つと大体使えるなという安心感がある」
木材一つ一つを選び抜く姿勢に、職人たちの矜持があります。まっすぐ割れずに、という願いを込めて。
見えないところにすごい仕事
「改修工事をさせてもらった時に、見えないところにすごい仕事してあるなというのがわかって楽しい」
奥野社長のこの言葉には、同社の技術観の本質が凝縮されています。
継手や仕口といった、完成後は隠れてしまう部分にこそ、真の技術力が発揮されます。見えない部分への情熱が、200年300年という耐久性を支える基盤となっています。日本古来から現存する木造建築が、その証です。
「上棟式で屋根ができてしまうとホッとすると同時に、なんかそのうれしさがある」
長い制作プロセスを経た達成感の深さが、奥野社長の言葉から伝わってきます。
昔の工法と今の工法を使いながら
「昔の工法と今の工法を使いながら作るというのが私の使命」
奥野社長はそう語ります。伝統を守ることと革新を追求すること。同社では両者を有機的に融合させる道を選択しています。
「当時の技術にはもうほぼ近づけるか、もしくは越せるんじゃないか」
この確信に基づいた技術継承は、過去への回帰ではなく、未来への架け橋として機能しています。人間の英知と現代技術を調和させる。その実践が、寺院建築の現場で日々行われています。
檀家さんとの距離を縮める
「檀家さんとお寺さんとの距離がちょっと遠くなったかなと思うので、それを建物を通して縮めるようなことができれば」
奥野社長のこの言葉には、建築という手段を通じて地域コミュニティの再生に貢献したいという、強い社会的使命感が込められています。
建物は単なる構造物ではありません。人と人を結ぶ媒体です。物理的な空間が心理的な距離に影響を与える。その想いが、寺院建築への情熱を支えています。
200年後の人々が感謝をもって仰ぎ見る建物を、今この瞬間に生み出す。その長期的視野を持った事業が、丸芳奥野建築の本質です。四半期の業績ではなく、数百年先を見据えた意思決定。持続可能という言葉の真の意味が、ここにあります。
アストライドのミッション
「200年300年というオーダーで建物を残していかないといけない」
奥野社長のこの言葉は、私たちに時間軸の価値を考えさせます。見えないところにすごい仕事をする。昔の工法と今の工法を使いながら、未来へ架け橋を築く。その想いが、世代を超えて受け継がれる価値を生み出しています。
私たちアストライドは、経営者の想いを映像として記録し、その価値を未来に伝えていきます。見過ごされがちな価値に光を当て、その声なき声に耳を澄ませる伴走者として、地域企業の持続的成長を支援しています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。

































