インタビュアーの視点 – 食肉加工屋 FUCHITEI|泓昂溫氏
三重県いなべ市「にぎわいの森」内の食肉加工屋FUCHITEI。代表取締役の泓昂溫氏は、30年間フランス料理の経験を積み、いなべの豚やジビエを使ったテリーヌ、ソーセージなどの食肉加工品を製造・販売しています。食品添加物を使用しない手作り製品にこだわり、間伐材を使用した薪での調理で持続可能な調理法を実践しています。
食肉加工業界の構造変化
日本の食肉加工業界は、2022年時点で約1.2兆円規模の市場を形成しています。ハム・ソーセージ類は家庭の食卓に欠かせない食材として定着し、手軽さと保存性から安定した需要を維持しています。
一方で、新たな潮流も生まれています。無添加・低添加製品への需要拡大、地元産食材を使った高付加価値商品、フランス料理のシャルキュトリなど専門性の高い製品への関心。六次産業化の推進と持続可能性への関心の高まりが、業界に変化をもたらしています。
フランスの風と空気を感じて
泓氏は、小さい頃からフランス料理の料理人になりたいという夢を持っていました。高校を卒業してすぐにホテルに入り、フランス料理を学んだ。日本のフランス料理のレベルは高かったが、フランス人と接して、フランス人の方がどんな思いでフランス料理を作っているのか、風というか空気というか、そういうものを感じる必要があると思った。
フランスの山間部で働いた経験が、泓氏の料理観を形作りました。
「テリーヌですとか、ハムですとか、ベーコンですとか、普通一般の方々も作ってるんですね。結構クルーズみたいな感じで、肉がバーンときても、それこそ測らずに、もう本当に目分量で適当にバーンと作るんですね。でもねぇ、すごくおいしいですよ」
郷土料理というか、そういったものにひかれた。普段の生活でこういう料理なんだなと。そういうものを食べたフランスの子供たちが大きくなって、フランス料理を作っている。やっぱりそういうものはある。
テリーヌという「足し算」の料理
30年間のフランス料理経験の中で、泓氏が最も惹かれたのはテリーヌでした。
「フランス料理は足し算なのかなというふうに思っていまして、テリーヌが結構そういった要素を持っているもので、もう何でも加えられる」
素材の持っている甘みをそのまま生かしたい。中に入る素材によって表情が変わってくる。火を入れることによって出てくる香りもある。そういったものを一番いい状態で出したい。
この想いが、無添加・手作り製品へのこだわりにつながっています。
生産者に一番近い場所で作る
泓氏の仕事のスタイルを支えているのは、「生産者に一番近い場所で作る」という姿勢です。
「野菜にしかり、肉にしかり、本来であればいいものもいますし、そこで作るということが、すごく自分の中で一番腑に落ちるというか、当然というか」
物自体は本当にいい状態でどこへでも多分いけると思う。しかし、距離が離れれば離れるほど、やっぱりいろんな気持ちって離れる。顔を突き合わせて話せることが一番重要。今日はこんな感じだったとか、今度こうしてあらいいなぁとか。そういったやりとりを通じて、仕事のスタイルができている。
いなべにいる意味。それは、生産者に一番近い場所にいることで、こういう店ができて、こういうことをやりたいんだなということが伝わるようなお店作り。
間伐材の薪で調理する理由
店内でソーセージをホットドッグに仕上げる時には、薪の火を使っています。
「フランスには暖炉があったりですとか、そこで冬になると火が炊かれていて、目の前に少しなんかこんでるようなものが置かれて」
炭ではなく薪というところにも意味がある。炭だと温度が高い。薪の温度が、パンとソーセージを焼く温度に一番適している。
この薪は、いなべの山や隣の方から出る間伐材を使用しています。持続可能な調理法というものを考えて、より負担のかからないことができないかというところから、薪を使って調理している。
森の中で生えているものを食べるくらいが
泓氏の哲学は、自然との調和にあります。
「森の中で生えているものを食べるくらいがちょうどいいかなと思うんですけども」
人間は商売を考えると、うまくして量を作って、うまく売りたいと考える。しかし、もっと自然らしい農業だったりとか、そういったものに向かっていければいいなと思う。
「添加物のいっぱい入ったものをお客さんがバンバン買うのは、これは投票と同じで、それを支援して応援していることになっているんですね。そこをまずどこに投資するべきかというのはすごく大事だと思いますね」
食べるものによって、今後の生活とか、今後の未来まで変わるぐらい食べ物は大切。
縄文時代の理想
泓氏の理想は、縄文時代にあります。
「それぞれが好きなことをやって成り立つ世界っていうか。やらない人に対して、なんでやらないんだとも言わない。その人がやりたくて、例えば魚をとってきたら、じゃあそれを魚みんなで分けましょう。食べたい人は食べればいい。僕は魚がとるのが好きだからとってくるけど、別にそれはみんなに与えるからっていう感覚」
ずっと寝てても別に問題はない。その人は寝たいから寝るんでも。寝ている人に対して、お前何で寝てるの、魚をとってこいよと誰一人も言わない。そういう世界というか、好きなことをやって過ごせば一番いい。それで誰かが周りが喜べば、そんな素晴らしいことないと思う。
好きなことに没頭する幸せ
泓氏は、自分の幸せについてこう語っています。
「美味しいものを作って、それを食べてもらって、そのお客さんが笑った時とか、それだけが何か楽しいみたいなもので」
自分の好きなことに没頭して、楽しかったって思える人生の方がやっぱりいいなと思う。それが一番幸せかなって。
この言葉に、泓氏の30年間のフランス料理経験と、いなべの地で食肉加工屋を営む意味が凝縮されています。
アストライドのミッション
株式会社ふちていの取り組みは、「好きなことをして人が喜んでくれたら、それほど幸せなことはない」という一つの哲学に集約されます。
生産者に一番近い場所で作る。間伐材の薪で調理する。添加物を使わない。これらの選択は、泓氏の「無理なく、自然に逆らわず、あるものをあるべき姿で受け入れる」という価値観から生まれています。
私はこれまで200社以上の経営者インタビューに携わり、こうした経営者の想いに向き合ってきました。数字では測れない「想い」こそが、企業を永続させる源泉である——その信念のもと、経営者の言葉を映像として記録し、次の世代へと伝えていくことが、アストライドの使命です。
泓昂溫氏の言葉には、フランスで感じた風や空気、30年間の料理経験、そしていなべの地で生産者と顔を突き合わせて作る喜びが刻まれています。「自分の好きなことに没頭して、楽しかったって思える人生の方がいい」——この言葉は、この映像の中に確かに残されています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。




























