インタビュアーの視点 – 株式会社前田テクニカ|前田昌彦氏

1971年、三重県三重郡菰野町で有限会社前田鉄工所として創業した株式会社前田テクニカ。精密プレス・板金加工を手掛け、金属の板を切って、曲げて、くっつける工程で部品を製造。様々なメーカーに納品しています。2010年に代表取締役に就任した前田昌彦氏は、多品種少量生産に特化したサービスを展開しています。

プレス・板金加工業界の現在

日本のプレス・板金加工業界は、自動車、電機、鉄道、医療機器など多様な産業の基盤を支える製造業の要です。金属部品加工の専門業界として、日本のものづくりを支え続けてきました。

業界は大きな転換期を迎えています。顧客ニーズの多様化により少量多品種生産が急増。従来の大量生産型設備では対応困難となり、短納期での対応が必須に。1個からの対応を求める声が高まっています。

一方で深刻な課題も。熟練技能者の高齢化が進み、若手人材の確保は困難を極めます。技術継承の断絶、原材料価格の変動、競争激化——多くの企業が生き残りをかけた戦いを強いられています。

先代の経験が生んだ小ロット戦略

前田テクニカが多品種少量生産に特化した背景には、先代の経験があります。

「先代が事業を立ち上げたばかりの頃、実は結構大きなロットのものをやっていたんです。でも規模の小さい町工場がそういう大ロットの仕事をやっていると、その仕事が引き上げられたり、生産終了になったりすると、会社へのインパクトが大きすぎて大変だということが過去にあったみたいで。そこから小ロットに舵を切りました」

この転換を支えるのが、独自の技術です。通常の大規模生産向けプレス機とは異なり、人がものをセットしてボタンを押す「単発プレス」を主力に。金型交換に通常20分から1時間かかるところ、早いものは2分で完了する「QDC(Quick Die Change)」金型を活用。多品種少量生産を可能にしました。

プレス加工と汎用板金加工の「いいとこ取り」をした独自ソリューション「まぜプレ!?」を提案。量が少なすぎる部品はレーザー加工、外形切断だけプレス金型を活用するなど、柔軟な提案力が強みです。

JR山手線の扉にも

現在の主力は鉄道車両向け部品。扉の開閉装置制御ボックスの部品は、JR山手線にも採用されています。

「機械を動かすモーターだったり、エレベーターを動かすようなモーターだったり、そういうモーターの部品というのが一番主力になっています」

食品加工機械の部品、宇宙・防衛関係まで、1個や10個といった超少量にも対応。1500以上の金型を保管し、顧客の細やかなニーズに応えています。

「人と繋がることがすごく大事」

前田テクニカの経営の根底にあるのは、前田氏の「人とのかかわり」への想いです。

「やっぱり人と繋がっていることってすごく大事で、そこにすごく僕自身も助けられている部分がある。これからもそれを大切にしながら、自分というものをあるがままに出せる人でありたい」

社員にはできるだけ主役になって活躍してもらいたい——会社の成長と社員の成長が常に重なっていく会社でありたい。経営計画書の発表を続け、経営指針書の作成も全員参加型で進めています。

自社ブランド「Komonomono」の誕生

「社員が主役」という想いは、自社ブランドにも反映されています。

「Komonomono(コモノモノ)」は、金属の「硬い」「冷たい」イメージに対し、「和み」「優しさ」「楽しさ」を追求。小さいものと地元・菰野町を掛け合わせたネーミングが、企業の姿勢を象徴しています。

楽しさから生まれた「TOYMETAL」

自社ブランド「TOYMETAL(トイメタル)」は金属製の模型キット。生産の合間にできた隙間時間を利用し、ベテラン社員の「楽しみ」から始まりました。

「絵が上手なベテラン社員がいまして、仕事の合間に自分でデザイン・設計して、加工機を使って模型を作っていたんです。商売というより、『こんなものも作れるんですよ、この会社は』というアピール要素というか」

「絵を描くこと、自分で作ることが楽しい。こんなものも作れるのかという驚きの方が大きかった」

折り紙は四角い紙から無限の形を生み出す。板金も同じ。板から丸いものでも、頭の中にあるどんな形でも作れる——その楽しさが社員に伝わり、事業として成立しました。

顧客の笑顔がやる気を生む

「商品をお渡しすると、本当にその笑顔だったり、嬉しく喜んでいただいたりというところが、ダイレクトに伝わってきますので、それがみんなのやる気を上げているんじゃないかなと」

おじいさんやお父さんが、お孫さんや子どもに「こんなものが走っていたんだよ」と組み立てながら伝える。顧客から「こういうものがあったらいいな」という声を聞き、それを形にする。

自社ブランドは、社員の楽しさと顧客の喜びを結びつける仕組み。社員が創造性を発揮できる環境が、多品種少量生産を支える柔軟性と技術力のアピールにつながっています。

人の役に立つということ

「経営は人とのかかわりで。そういったことを実感できる場があったら、すごく幸せなことなんじゃないのかな。人の役に立っているということって、すごい価値がある。それがあるから、人って、自分の中に力が湧いてくるって言った、そういう感じもするんですね。そんなところを、うちの仕事を通じて、僕自身も社員も見つけられたらいいですね」

真面目で優しい社風が、自社商品の開発といった新しい取り組みを許容する土壌を作っています。「社員が主役になって活躍してほしい、それが会社の成長につながる」——この想いが、前田テクニカの経営を支えています。


アストライドのミッション

私はこれまで200社以上の経営者インタビューを制作してきました。その中で、前田テクニカのように「人とのかかわり」を軸に事業を展開する経営者とのご縁に恵まれてきました。

「人の役に立っているということって、すごい価値がある」——前田氏のこの言葉には、経営の本質が凝縮されています。社員の楽しさと顧客の喜びを結びつけ、ものづくりの新しい価値を創造する姿勢は、多くの企業にとって示唆に富むものです。

経営者の想いを映像として記録し、次の世代へ伝えること。それが現在の私たちアストライドの使命です。「経営は人とのかかわりで」という前田氏の想いを、社会へ届ける伴走者として、私たちはこれからも歩み続けます。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。