インタビュアーの視点 – 名産伊勢肉 豚捨|森大亮氏
明治42年、三重県伊勢市で創業した名産伊勢肉 豚捨。4代目の森大亮氏は、老舗精肉店として「名産伊勢肉」の看板を守り続けています。
「知らない人は『豚肉の料理屋さんかな』という傾向もあるかもしれませんが、看板通り『名産伊勢肉』というブランドで商売しています」
森氏はそう語ります。
精肉店・和牛業界の現状
日本の精肉店・和牛業界では、松阪牛や神戸牛など、地域ブランド和牛が観光需要とギフト需要で重要な役割を担っています。高級和牛の等級(A5など)が価格と品質の指標として重視され、消費者は等級の高い和牛を求める傾向があります。
このような業界環境の中で、豚捨は「等級にこだわらない」という姿勢を貫いています。
必ずしもA5がおいしいわけではない
「必ずしもそのA5がおいしいかというと、そうではない」
豚捨では等級を一切つけていません。
「うちは牛一頭からそのままさばいてお肉にするところまでやっていますので、等級は一切つけていない。食べておいしい肉、それがうちの基準です」
客観的な格付け基準より、自社の味の基準を優先する——森氏の言葉には、業界の常識とは異なる姿勢が貫かれています。
生産者との信頼関係
「昔はその仕入れ先の農家も10軒ほどあったんですけど、なかなか後継者不足であったり、いろんなことでその農家も廃業されているところが増えてくるので、まあ今は1軒だけ。長い付き合いでさせてもらっています」
長年の信頼関係により、肉の味は安定してきています。
「ここ数年は本当に肉の味は安定してきていると思います。農家さんの立場もわかってやってもらっているので、それでずっと仕事をさせてもらっている。これからもそこは曲げないなと、自分でも多分曲げないと思います」
長期肥育とドライエイジング
生産者との専属契約により、32〜35カ月という長期肥育を実現しています。
「肥育期間はうちはちょっと長めで、出荷月齢が32から35カ月ぐらい。やっぱり肥育期間が長いんで、それはうま味成分というのは凝縮されると思いますし」
「今流行りのドライエイジングは熟成期間が短いですね。でも、うちの肉は生きているうちにすでに熟成が進んでいる。長期肥育という、すごく重要な」
コストはかかりますが、その分だけ味わい深い牛肉を提供できます。
伊勢牛——松阪牛のルーツ
「松阪牛の歴史を語る中で、『伊勢牛』という記載があるので、昔はやっぱり、伊勢国の牛だから伊勢牛と言われていたんだなぁというのは、そこらへんにも残っています」
森氏の曽祖父、捨吉は、昔味噌村というところで養豚業をやっていました。「これからは牛肉の時代だ」ということで肉屋を始めたのが、豚捨の始まりです。
「あまり歴史とか昔の過去とか、若い頃は全く興味なかったんですけど、自分が歳を重ねてくると、人は過去の上に生きているんやなっていうのは実感してきます」
郷土への愛着
「この辺のエリア、外宮のエリアの人は、外宮が遊び場やったんです。勾玉池とか、せんぐう館の周りにズブズブ入ってて、ザリガニを撮ったり。普通に、近所の氏神様があるみたいな感覚で。このエリアの人間はそういう意識でしたね」
森氏は、子供の頃から外宮を身近に感じながら育ってきました。
「あって当たり前のような神宮があることがすごくありがたいと思えること。たぶんみんな口には出さないけど、その想いを持っていると思います」
地元を自慢できる店
東京のKITTE丸の内に出店した際、嬉しいことがありました。
「三重県や伊勢の人が、東京在住・関東在住の方で、お客さんを連れてきて、『俺の地元の、有名なとこなんや』って、自慢げにしていただける。それが相当嬉しかったので、そういう意味でも、KITTE丸の内に出した意味はあったのかなと思います」
三重県出身の方が地元を自慢できる店になっている。森氏にとって、それは大きな喜びです。
ブランド化への意志
「豚捨という名前を、今までの信用と信頼の上に立たせてブランド化したいなと思っています」
森氏は、明確な意志を持っています。等級にこだわらず、生産者との信頼関係のもと、伊勢肉のおいしさを届ける。その姿勢を守り続けながら、豚捨というブランドを次世代に継承していく。
アストライドのミッション
「これからもそこは曲げないなと、自分でも多分曲げないと思います」
生産者との信頼関係について語る森大亮氏のこの言葉は、私たちアストライドの使命と重なります。
私たちアストライドは、これまで200社以上の経営者インタビューに携わった経験を活かして、経営者の想いを映像として記録し発信することを使命としています。森氏が「等級にこだわらず、生産者との信頼関係のもと、伊勢肉のおいしさを届けたい」と語るように、私たちもまた、数字や指標では測れない経営者の想いを、映像として記録し、未来に継承していくことを目指しています。
「人は過去の上に生きているんやなっていうのは実感してきます」という森氏の言葉。その想いを映像として記録し、次世代に継承していくこと。それが、私たちの果たすべき役割です。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。




























