インタビュアーの視点 – 株式会社ネーブル・ジャパン|濱岡正己氏

三重県松阪市に拠点を置くネーブル・ジャパン。松阪の有志が出資して設立された地域商社です。代表取締役社長の濱岡正己氏は、日本銀行での勤務を経て、第三銀行の声がかりで松阪へ移住。地方創生を担当する部署で働く中で、現在の事業に携わるようになりました。

地域商社という仕組み

1990年代のバブル崩壊以降、地方銀行のリスクマネー供給機能は低下しました。地方のベンチャーに対して、かつてのようにリスクマネーを供給する働きが薄らいでしまった。新たなリスクマネーを地方に流す仕組みを作っていくことが、これからの日本の課題ではないか。地域商社は、その解決策の一つとして誕生しました。

ネーブル・ジャパンは地域の商品・技術・人材を見出し、掛け合わせることで新たな価値を創造しています。濱岡氏はこう語ります。

「中長期的に見れば、ものを販売したり、もので人に来てもらうより、事業で大きくした方が、雇用面だとか経済面でインパクトが大きいだろうと。やっぱり日本の社会にとってプラスになるというものの、いわゆる知財と言いますか技術を持っている方をサポートしていこうというところに、どちらかというと重きを置いていますね」

感動が出発点

濱岡氏はもともと商売人ではありません。事業の出発点は数値や利益ではなく、「これはすごい」という感動です。

「まあ普通の人が見ても、これは石ころだと思うものなんかが、磨いてるうちに、いや本当にそこから、ね、いいものが出てくるような感じですね」

この感動が、プロジェクト選定の重要な基準となっています。

職人の想いを叶える

濱岡氏は、職人気質の人々への支援について、こう語ります。

「よく職人気質と言いますけれども、やっぱそういう方は、やっぱり自分の想いをやりたくて一人で頑張ってる方が多いのでですね。だが売れればいいとかそういうもんじゃないのでですね。ですから、やっぱりその方の想いや願いをどうか叶えていくかということを、同時に考えていかないと、うまくいかないということでですね」

売れればいいというものではない。その人の想いや願いをどう叶えていくか。この姿勢が、ネーブル・ジャパンの仕事を支えています。

経営破綻した技術を救う

ネーブル・ジャパンが支援する「超越技術」。自然分解し環境負荷を軽減するシリカコーティング技術は、東京大学の平野先生が論文化し、アメリカの学会誌で巻頭論文を飾った世界的な技術です。伊勢神宮の内宮の鳥居などに塗られており、撥水性と防虫性により20年経ってもほぼ腐食しないといいます。

しかし開発者の野皆さんの会社は、一度経営破綻してしまいました。経営破綻すると日本の社会では、銀行をはじめとして支援者がなかなか見つからなくなる。一方で、こういう素晴らしい技術を置いておくと、海外から買収の話も来てきます。

ネーブル・ジャパンは支援に入り、テクノジェンという新会社を設立。素晴らしい技術の海外流出を防ぎました。

地域資源を掛け合わせる

松阪市飯高町の洞窟農園で栽培されるサフランとハナビラタケ。これらを純米酒に漬けた健康酒は、ハナビラタケのエキスが褐色に染まる日本初の製品です。

明日香の飛矢会長から「ハナビラタケを使った酒なんか売ってもらったらいいんじゃないでしょうか」というアイディアがあり、濱岡氏が間に入って寒紅梅酒造につなぐ。地域の複数の関係者が協力し、新たな価値が生まれました。

人柄が紡ぐネットワーク

待里の平岡瞳氏は語ります。

「いつもニコニコしていらっしゃるんですね。その人柄の良さが、皆さん濱岡社長を起こしたって、いろんな方が、どのネットワークがまただんだん広がってくるんじゃないかなって思います」

濱岡氏の人柄が、多くの人との縁をつなぎ、支援の輪を広げています。

判断の分かれ目

最終的な判断基準について、濱岡氏はこう語ります。

「どれだけやっぱ、こちらが感動するかが、やっぱり長い目で見て、持続的な社会をつくっていくために、貢献できるかどうかというのは、僕な判断分かれ目になると思います」

感動するかどうか。長い目で見て、持続的な社会に貢献できるかどうか。この二つの基準が、すべての判断の根底にあります。


アストライドのミッション

「世界的に見ると、まぁ日本経済が必ずしも伸びてないんですけども、それを、再び元気にできる仕事に、今つけたということは、非常にありがたいと思ってますが、幸運だと思っています」

濱岡氏のこの言葉には、日本を元気にしたいという想いが込められています。普通の人が石ころだと思うものから、磨いているうちにいいものが出てくる。その感覚を大切にしながら、職人の想いを叶え、持続的な社会に貢献していく。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、数字やデータでは測れない「想い」こそが、事業を永続させる源泉であることを実感してきました。

濱岡氏のように、感動を出発点にし、長い目で見て社会に貢献する。その姿勢を映像として記録し、未来に伝えていくことが、私たちアストライドの使命です。像として記録し、企業の価値を可視化することで、地域企業の持続的成長を支援しています。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。