インタビュアーの視点 – 株式会社ポモナファーム|豊永翔平氏

三重県多気町に拠点を置く株式会社ポモナファーム。2017年設立の農業生産法人です。代表取締役の豊永翔平氏が開発した「モイスカルチャー」は、特殊繊維を重ねて土の物理性を完全再現し、湿度管理で作物を栽培する技術。従来の農業で使う水を10分の1に削減し、排水ゼロを実現しました。トマト、マイクロリーフ、世界中のトウガラシなど、多様な品目の栽培が可能です。

農業が直面する課題

2030年までに世界人口の半分が淡水へアクセスできなくなると言われています。水を際限なく使う農業技術は、おそらくこれからできなくなるはず。農業に適切な土は、世界中から毎年750億立方メートルぐらい失われている。砂漠化現象などがその大きな原因です。

一方で、水耕栽培などの既存技術では育てられる品目が極端に少ない。スーパーに行くとだいたい同じ品種ばかり並んでいる状態。モイスカルチャー技術は、根っこの空間の湿り気を1%ごとに調整できるため、極端に言えばどんな品目品種でも栽培ができます。

文明の衝突から農業へ

豊永氏は、小学校6年生の時にニューヨークで同時多発テロを目撃しました。

「文明の衝突みたいなのを小さいころ目の当たりにしたわけですけれども、その前後でタリバン政権がバーミヤンの遺跡とかを破壊しているのを見て、すごく世界中が悲しんでいた記憶が残っていて」

宗教観とか人種間とか国とかいろんなものを超えて、みんなが繋がるきっかけを、世界遺産や文化遺産が作っている。いわゆるその美しさという五感が世界をつなげていたように思った。

学生時代はずっと考古学を研究していた豊永氏。カンボジアで遺跡研究をしていた時、途上国にいる機会が多かった。

「子どもたちが遊んでいた川が5年後に遊べなくなるとか、地下水源を大量に使って地盤沈下が起きて遺跡が傾いていくとか、地球上にたまった窒素の量の排出源しかり、ほとんどが一次産業に起因していた事実を知って」

考古学で世界遺産を守りたいと考古学者を目指していたが、それだけでは解決できないと考えた。20世紀は石油戦争の時代と言われていて、21世紀はまさに水と食糧の戦争という時代になると言われている中で、小学校6年生の時に見た文明の衝突を再度引き起こさないようにするためには、これからの時代、農業はすごく大事なんじゃないか。

所有という概念からの解放

豊永氏はこう語ります。

「実は人類が不幸になったのは、農業のせいだと、考古学的にも文化人類学的にも言われていて。それはつまり農耕文明が始まると土地の所有という概念が始まり、当然水源の所有の概念も始まって、そこで食糧生産が興ってくると、今度は余剰が生まれて、それを次に支配するという概念が生まれて、そうすると格差が生まれて、争いが起きるという話」

だから、湿度で育てる農業は、こうした所有という概念から解放されて、世界中どこにでもある湿度みたいなもので食糧生産ができるようになれば、もう少し軽やかでちょっと違う生き方が生まれるんじゃないか。

「考古学をやってたときの気持ちと農業やってる時の気持ちは今もずっと一緒で、常に何か大きな…格好つけていうと、文明論の中で今を生きてるような」

豊永氏は考古学から農業へと転じましたが、その気持ちは変わらない。過去への挑戦でもあり、未来への挑戦でもある。すごく尊敬する昔の人々に対する、今の自分なりの回答の出し方。課題解決だけやってるわけではなくて、多分すごく好きなものを守ろうとしている。

植物と向き合う

「植物の気持ちを知るために、ここに泊まったりとかもするんです。夜は環境がどう変わっているか。たまにここに寝そべってみて、植物たちが見える光景を見てみるとか」

植物1本1本に全部個性があって、管理というのは、毎日朝のそういう会話から始まる。そこはやっぱり生き物だということを忘れちゃいけない。

「植物を全自動で育てられるようになったら、人間の子育ても全自動でできるみたいな。僕はそれとほぼ同意義だと思っている」

ポモナファームは糖度設計だけでなく、アミノ酸やビタミン、機能性を高めることに着目して栽培しています。そうすると味に深みが出る。

「おいしいよねと言われるものをたくさん作っていって、その背景に実は環境にいいんですよという順番じゃないと、なかなか消費行動というのは変わらないと思っているんです。人々にとってもやさしい野菜っていうのは、つまり地球環境にも優しいという、その両立をどう作っていくかを大事にしながら植物たちにも向き合っています」

若い世代が集まる場所

農場長は25歳。地元の高校を卒業して18歳で就職した若者もいる。最近はイギリスから22歳の人も来てくれた。すごく若いメンバーで今やっています。

「農業が目的で来ている若い子は、ほぼいないと思っていて。おそらくベースにあるのは、我々の世代みんな気候変動世代って言われていますが、こういった気候変動の環境をどうにかしたいとか、自分が住んでいる地域を創成したいとか、循環型社会をつくりたいとか、途上国の貧困解決をしたいみたいな。それぞれみんな目標があって、それに対する解決手段として、農業というのが適切な手段と感じて重なってるメンバーがほとんどではないかな」

若い人たちが働ける場所、働く選択肢が増えればいい。豊永氏はそう語ります。三重県多気町という地域で、グローバルな課題に向き合う若者たちが集まっている。


アストライドのミッション

豊永氏の言葉には、一貫した想いが流れています。考古学をやっていた時の気持ちと農業をやっている時の気持ちは、今もずっと一緒。小学校6年生の時に見た文明の衝突を再度引き起こさないようにするために、農業に向き合っている。

「世界中どこにでもある湿度みたいなもので食糧生産ができるようになれば、もう少し軽やかでちょっと違う生き方が生まれるんじゃないか」

この言葉には、土地や水源の所有から解放された世界への願いが込められています。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、数字やデータでは測れない「想い」こそが、事業を永続させる源泉であることを実感してきました。

豊永氏のように、過去への挑戦であり未来への挑戦でもある仕事に向き合う。その姿勢を映像として記録し、未来に伝えていくことが、私たちの使命です。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。