インタビュアーの視点 – 日本SSピンポン協会|村井正治氏
SSピンポンは、視覚障がいのある人のために開発されたサウンドテーブルテニスを基礎にしたスポーツです。鈴の入った球、ラバーの貼っていないラケットを使用し、音を最大限に利用します。SSは「生涯スポーツ(Shougai Sports)」の略で、障がいの有無や年齢に関係なく、誰でも楽しむことができます。
三重県伊勢市で生まれたこのスポーツを、日本SSピンポン協会の代表・村井正治氏が普及・啓発しています。
障がい者スポーツの課題
日本の障がい者スポーツは、認知度の低さ、競技施設や指導者の不足、そして障がい者と健常者の分離という課題を抱えています。サウンドテーブルテニスも例外ではありません。
村井氏は、サウンドテーブルテニスの課題をこう語ります。
「サウンドテーブルテニスというのは、卓球台が一枚の板。専用の卓球台のあるところっていうのは、そうそうありませんので。気楽にサウンドテーブルテニスをしていることは難しい」
ルールが複雑で審判も難しく、競技人口が少なく継続が困難という課題もありました。
一般の卓球台で楽しめるように
そこで村井氏は、一般の卓球台を利用できるよう工夫しました。
「一般の卓球台を利用させてもらって、考えたのが枠をつけたり、ネットをつける。ネットの寸法が若干いろいろあるんで、これで調整できるようにしました」
通常のボールは転がす関係で邪魔になったり働きが悪かったりする。そういうところをなくす方法はないかと考えた結果が、今の「SSピンポン」だと村井氏は語ります。
「私自身がすごく楽しんでいて面白い。こんな面白いもの、もっと多くの人に勧めたいと思う」
SSピンポンの特徴
SSピンポンで使うボールは、一般の卓球ボールと大きさは同じ。違いは、中に4個の鈴が入っていること。打つと音がします。ラケットもラバーが張っていません。音を中心に大事にしているからです。
「最近は早いスピードで打ち合ったりすることもしています。目で見てもなかなか追いつきません。音で判断するしかない」
ルール上、打球音が重要になります。ラケットに「コン」と当たった音がしないと反則になる。それは、転がる音よりもラケットに当たった瞬間で、どの辺で当たって帰ってくるかを感じて反応するため。
「気配というかね、人の動きなんかもボールの音だけじゃなくて、そういうのも感じながら。チャンスボールが来たら打つ、というぐらいですけど」
障がい者と健常者の橋渡し
SSピンポンの大きな特徴は、視覚障がい者と晴眼者が互角に勝負できること。
「目の不自由な人と晴眼者の方と。その人も運動神経がかなりある方ですが、やり始めてもどっこいどっこいですね、勝ったり負けたり。障害者スポーツと健常者のスポーツの橋渡しができるスポーツです」
村井氏自身も視覚に障がいがあります。左目がわずかに見える程度、右目はほとんど見えない。交通事故が原因だったと語ります。
「本当に大変な思いをしましたけど、仲間の力で何とか動けるようになりました」
参加選手の声——28歳で失明して
映像には、SSピンポンに参加する選手の声も収められています。
「社会人になってから多発性硬化症という難病を発症しまして、28歳で失明しました。急にそういう障がいを持って、なかなかそれを受け入れることができなかったんですけど、この競技を知ってから、自分が前向きになれた。目標ができたというところで」
「見える人と、私、見えない私が、このボールを通じてともに楽しめるっていう。自分の中で作っていた障がいの壁をなくせたというか」
「ありがとう」という言葉
参加選手は、SSピンポンを通じて得た気づきをこう語ります。
「何かできることがあったらって言ってくださる気持ちに、思い切って甘えるというか、お願いするっていうことができるようになった時に、それを、何か協力できたことを喜びに感じてもらえるっていうことを知って。ともにその喜びを分かち合えるというか」
「ありがとうという言葉を、見えなくなってからたくさん言うようになって。自分自身もどんどん、人とのつながりで自分の世界が広がるんじゃないかなと思えるようになりました」
自然なかかわり
村井氏が目指すのは、「自然なかかわり」です。
「見える方が、障がいのある方を誘って、迎えに来て一緒に行こうっていう。スポーツで一緒に楽しむ目的で集まる中で、そういうふうに自然なかかわりというか。目的が先で関われるような環境が広がるといいなって思っています」
「障害者」という言葉について
村井氏は、「障害者」という言葉について、深い洞察を語ります。
「障害者と決めるのは、きっと健常者のほうが決める。障害者自身は、障害者というものを思っていない」
この言葉には、障がいを持つ当事者としての実感がこもっています。「障害者だからお手伝いします」という構図ではなく、スポーツを通じて自然に関わり合える環境を作りたい。それが村井氏の願いです。
小さな子供からおばあちゃんまで
「小さな子供さんから、おじいちゃんおばあちゃんまで楽しめる。それと、どこでもできる」
村井氏がSSピンポンに込めた想いは、シンプルです。いつまでもやっていけるスポーツ。障がいの有無や年齢に関係なく楽しめるスポーツ。三重県初ということで、「SSピンポン」という商標登録も行いました。
体育館には笑い声があふれていました。
アストライドのミッション
「自分の中で作っていた障がいの壁をなくせた」
この言葉に、私たちは深く心を動かされました。
SSピンポンは、単なるスポーツではありません。障がいの有無を超えて、人と人とがつながる場を生み出しています。村井正治氏が「自然なかかわり」という言葉で表現した世界観は、私たちが大切にしている価値観と響き合います。
私たちアストライドは、200社以上の経営者インタビューを通じて、経営者の想いを映像として記録し発信してきました。村井氏が「障害者と決めるのは健常者のほう」と語る深い洞察、参加選手が「ありがとうという言葉をたくさん言うようになった」と語る変化。これらの言葉は、映像だからこそ伝わる非言語的な力を持っています。
本映像では、SSピンポンというスポーツを通じて、人と人とがつながり、障がいの壁が取り除かれていく様子が記録されています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。





























