インタビュアーの視点 – 株式会社アスリードプラス|谷水洋介氏
株式会社アスリードプラスは、三重県鳥羽市に位置する障がい福祉サービス事業所です。代表取締役の谷水洋介氏は、障がい福祉サービス事業、余暇支援事業、企画・スポーツ事業の三つを柱に事業を展開しています。
障がい福祉サービス事業「五っぽ(いっぽ)」では、生活介護事業と就労継続支援B型事業を提供。利用者が制作した商品を販売するアンテナショップや、地元のコーヒーとスイーツにこだわったカフェなど、地域に開かれた拠点を構えています。
障がい福祉サービス業界の現状
日本の障がい福祉サービス市場は約3兆円の規模を有します。障がい者総数は約964万人、サービス利用者数は約200万人。就労継続支援事業所は全国に約1.5万事業所が存在します。
この業界が抱える課題は複合的です。障がい者の就労率は依然として低く、就労継続支援事業所の多くが収益性に苦しんでいます。地域共生社会の実現においても、障がい者と地域住民の交流不足、偏見や差別、受け入れ体制の未整備といった壁が立ちはだかっている状況があります。
こうした環境の中で、多くの事業所は効率化を追求し、あらかじめ用意された作業を利用者に割り当てるスタイルを採用しています。しかし、アスリードプラスが選んだ道は異なるものでした。
原体験から生まれた想い
谷水氏には、身内に障がいを持つ家族がいます。その経験が、福祉への関わりを決定づけました。
「家族の目線で見ていても、殻の中にいるよりは、まず知ってもらわないと何も始まらない」
この言葉には、障がいのある人々が社会から見えにくい存在になってしまうことへの危機感が滲んでいます。自分にできることを発信し、社会と接点を持つ。その一歩を踏み出すきっかけをつくりたい。この想いが、アスリードプラスの事業の根幹をなしています。
谷水氏は以前の勤務先で11年間にわたり、障がい福祉、児童福祉、高齢者福祉、地域福祉、ボランティア業務など、福祉全般に携わってきました。その経験を経て、障がい児・者と地域住民が交流できる場を提供する余暇支援団体「鳥羽アスリード」を発足。より質の高い取り組みと新たなサービスの創出を目指し、2020年2月に株式会社アスリードプラスを設立しました。
個性を起点とした就労支援
アスリードプラスの支援は、「この仕事があるからやってください」というスタイルとは根本的に異なります。
「その人はどういう能力を持っているのか。そこから入って、その人に合う仕事を僕が開拓していく」
谷水氏はこう語ります。利用者一人ひとりの特性を観察し、強みを見出し、その能力が活きる仕事を外に探しに行く。この姿勢が、利用者のやりがいと自信につながっています。
読み書きが苦手でも、記憶力に優れている方がいます。教科書を読み聞かせると、内容がすっと頭に入り、すらすらと読めるようになる。精神障がいのある方の中には、パソコンのタイピングが驚くほど速い方もいます。ロータリークラブの総会でICレコーダーを使って録音し、その音声を聞いて文書化する。そうした仕事を任せることができます。
ダウン症の方が描く絵には独特の魅力があります。その絵をデザインとして商品化し、鞄や帽子、マスクなどを制作。アンテナショップで販売しています。決まった作業をこなすのではなく、その人の個性が価値となる。この発想の転換が、アスリードプラスの支援を特徴づけています。
「見える場所に立つ」という選択
「みんなが地域に溶け込んでいくためには、見える場所に立てないといけない」
谷水氏がアンテナショップを人通りのある場所に構えたのは、この考えに基づいています。利用者が制作した作品を展示販売する空間であり、他の事業所の作品も併せて紹介しています。
カフェでは地元のコーヒー豆を挽き、水出しアイスコーヒーを提供。鳥羽のチーズケーキやシフォンケーキなど、地域のスイーツにもこだわっています。ショップカードを置くことで、地元の他店舗への誘導も図り、福祉と地域経済の連携を実現しています。
10年近く働いていなかった方が、カフェで働くことで生き生きとした表情を取り戻した事例もあります。
身だしなみにも気を配ります。ワックスをつけて髪型を整え、かっこよくなりたい、可愛くなりたい、おしゃれをしたいという利用者の思いを形にする。障がい特性ゆえに自発的に一歩を踏み出せない方の背中を押してあげることが、自分たちの役目だと谷水氏は考えています。
「今まで人に見られたくないという気持ちが、見てほしいという気持ちに変わる。外に出ると、自分自身も変わるし、周りも変わる。地域も変わっていく」
「五っぽ」という名前に込められた想い
障がい福祉サービス事業所「五っぽ(いっぽ)」という名前には、地域の歴史が刻まれています。
かつてこの地区で、障がいのある方たちが過ごす場所を自分たちの手でつくってきた方がいました。「五生(いつお)」さんという名前のその方は、作業所を立ち上げるために奔走し、人々を集め、場所を整えてきました。
その方が亡くなられた後も、その想いを受け継ぎたいという声がありました。「サポートしてくれる存在がいるから、僕らは一歩進んだときに五歩進んでいる」。その意味を込めて、この名前がつけられました。
豆腐屋さんを復興させる
谷水氏が計画しているプロジェクトがあります。地元で何十年も愛されてきた豆腐屋さんが、高齢のお母さんの体力的な限界から閉店を余儀なくされました。その建物を託されたとき、パン屋でも食堂でも何でもいいからと言われたそうです。
しかし谷水氏は、豆腐屋としての復興を選びました。
「お母さんがやってきた場所。それを全く別のものにしても面白くない。利用者の手によって豆腐屋さんを復興させる。そうしたら、地域の人たちの見方も変わると思う」
地域の歴史や文化を大切にしながら、障がいのある方々が活躍できる場を創出する。この取り組みは、アスリードプラスの姿勢を象徴するものといえます。
環境が整えば、障がいは障がいでなくなる
「何をもって障がいなのか」
谷水氏が問いかけます。
「もし社会の環境がちゃんと整備されれば、障がいは障がいでなくなる。僕らが社会において、障がい者の方たちの障がいになってはならない」
この言葉には、障がいを個人の問題としてではなく、社会との関係性の中で捉える視点が込められています。受け入れる環境が整っていないことが、障がいを生み出している。その環境を変えていくことが、自分たちの使命だという信念があります。
利用者の個性や特技を見出し、その能力を活かせる仕事を開拓する。アンテナショップやカフェを通じて、利用者が「見える場所」に立てるようにする。地域の人々との交流の中で、障がいへの理解が広がり、受け入れる土壌が育まれていく。
アスリードプラスの取り組みは、障がい福祉サービス事業、余暇支援事業、企画・スポーツ事業の三つの柱を通じて、地域共生社会の実現を目指しています。
アストライドのミッション
「僕らが社会において、障がい者の方たちの障がいになってはならない」
谷水氏のこの言葉に、私は深く心を動かされました。
障がいとは何か。それは個人に帰属する固定的な属性ではなく、社会との関係性の中で生まれるもの。環境が整えば、障がいは障がいでなくなる。この視座は、福祉の本質を問い直すものであり、私たちの社会のあり方そのものへの問いかけでもあります。
私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、経営者一人ひとりの想いや価値観に触れてきました。谷水氏が「その人はどういう能力を持っているのか。そこから入る」と語る瞬間、身内に障がいを持つ家族がいるという原体験から生まれた信念について語る表情。これらの言葉は、映像だからこそ伝わる力を持っています。
アスリードプラスの取り組みには、効率性や生産性という尺度では測れない価値があります。一人ひとりの個性を見出し、その能力が活きる仕事を開拓していく。その過程で生まれる利用者の笑顔や自信、地域の人々の意識の変化。こうした変化は数値化できるものではありませんが、確かに存在し、確かに社会を変えていきます。
アストライドは、経営者の想いをより広く届けるために、映像制作とその価値の発信に取り組んでいます。本映像では、障がい福祉サービスの現場で日々実践されている「個性を活かす支援」の姿が、谷水氏自身の言葉で語られています。
「外に出ると、自分自身も変わるし、周りも変わる。地域も変わっていく」
この言葉が示す可能性を、一人でも多くの方に届けたい。それが、この映像をアーカイブし、言葉として紡ぎ直す私たちの使命だと考えています。
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。





























