インタビュアーの視点 – 大田酒造|大田智洋氏、大田有輝氏

大田酒造は、三重県伊賀市で明治25年(1892年)から続く酒蔵です。主力銘柄「半蔵」は、2016年のG7伊勢志摩サミットで乾杯酒に選ばれ、国際的な舞台でその品質が認められました。現在は七代目杜氏・大田有輝氏が酒造りを担い、三重県産の酒米「神の穂」や「山田錦」を使った約30種類の「半蔵」を醸しています。

業界の現状

日本酒業界は、消費量の長期的な減少傾向に直面しています。若年層の日本酒離れ、ライフスタイルの変化、ビールやワインなど他のアルコール飲料との競争——こうした環境の中で、多くの酒蔵が生き残りをかけた模索を続けています。

一方で、吟醸酒や純米大吟醸といった高品質な日本酒への関心は高まり、地域の特色を活かした酒造りや、ワイングラスで楽しむ新しい飲み方の提案など、日本酒の価値を再定義する動きも広がっています。

地元の酒米を活かすという継承

大田酒造が2016年のG7伊勢志摩サミットで乾杯酒に選ばれた背景には、三重県産の酒米を使った酒造りへのこだわりがありました。「神の穂」や「うこん錦」といった地域の酒米を積極的に使い、その土地ならではの味わいを追求してきたことが評価されました。

七代目杜氏の大田有輝氏は、酒造りを学ぶため大学の短期大学部へ進学し、同じ三重県内の酒蔵で修業を積みました。その間にサミットでの採用が決まり、帰ってきた時には「半蔵」の名は一躍知れ渡っていた。その重圧を、大田氏は率直に語っています。

しかし、大田氏が大切にしているのは「あのサミットの半蔵」という過去の栄光ではありません。先代から受け継いだ「地元の酒米を使って、その個性を活かす」という想いとノウハウを、今の自分の酒造りにどう活かすか。その一点に集中しています。

約30種類の「半蔵」という多様性

「半蔵をください」——そう言われると、「どの半蔵ですか」と聞き返すことになる。専務取締役の大田智洋氏はそう笑います。現在、大田酒造が手がける「半蔵」は約30種類。同じ銘柄でありながら、使う酒米や精米歩合、製法によって、まったく異なる表情を見せます。

中でも大田氏が勧めるのは「純米大吟醸 神の穂」。三重県で開発された酒米「神の穂」を使い、手頃な価格ながら香りと味わいのバランスに優れた一本です。和食はもちろん、フレンチなど洋食とも相性がよく、日本酒の裾野を広げる存在になっています。

ワイングラスでも、燗でも

大田酒造の日本酒は、ワイングラスでおいしく飲める日本酒のコンペティションで、複数の商品が最高金賞や金賞を受賞しています。グラスを変えると香りの立ち方が変わり、口の中での広がり方も変わる。飲む前から楽しめる、という新しい日本酒体験を提案しています。

一方で、燗酒コンテストでも名古屋国税局長賞や最高金賞を受賞。冷酒でも燗でも、その酒質が高く評価されています。

大田氏自身、飲み方へのこだわりを押しつけることはありません。丹精込めて造った純米大吟醸を燗にして「おいしい」と言われても、「それも悪くない」と受け止める。その人にとっておいしい飲み方であれば、それでいい。そんな柔軟な姿勢が、大田酒造の酒造りには貫かれています。

「&」——人と人をつなぐ酒

知名度の高い「半蔵」でいきなり新しい挑戦をするのは難しい。そこで大田氏が試行錯誤の場として始めたのが「&」シリーズです。

「何かひとつ、自分の想いで仕込んでみたらどうか」という社長からの言葉がきっかけでした。酒米「雄町」を使いたいという蔵としての願いを形にし、「&」という独自の味わいを持つ酒が生まれました。このシリーズで試したことは、やがて「半蔵」全体の商品展開にも活かされていきます。

「&」という名前には、特別な意味が込められています。お酒があることで、料理と人の雰囲気が和らぐ。誰かと話すとき、お酒があることで話が膨らむ。人と人、料理と人をつなぐ「接続語」のような存在でありたい——そんな願いが、この名前には込められています。

人のつながりが生む縁

G7サミットをきっかけに、思いがけない縁も生まれました。サミットで使われた酒杯を手がけた清水醉月氏から、「醉月」という名前のお酒でコラボレーションしたいという提案があったことです。

大田氏は語ります。「半蔵を選んでいただける理由として、人のつながりが関係しているのではないか」と。それは父の代から築かれてきた、具体的には言葉にしにくい信頼の積み重ねです。

これからの時代も、人のつながりは大切——大田氏の言葉には、地域に根ざした酒蔵として歩んできた130年以上の重みがあります。

アストライドのミッション

「そのお酒を飲んでみよう、お酒を作っている人たちを思って飲んでみようって思ってもらえることが、いいことではないかと思うんです」

大田氏のこの言葉に、私は深く共感しました。

私はこれまで、200社以上の経営者インタビューに携わる中で、経営者一人ひとりの想いや価値観に触れてきました。大田氏が「自分の酒はこの飲み方しか嫌だと押し付けることはない」と語る姿勢、「その人が楽しくなれるのであれば、それでいい」と語る表情。こうした言葉は、映像だからこそ伝わる力を持っています。

アストライドは、経営者の想いをより広く届けるために、映像制作とその価値の発信に取り組んでいます。本映像では、地元の酒米を活かすという先代からの継承、多様な飲み方への柔軟な姿勢、そして「人と人をつなぐ酒でありたい」という願いが、大田氏自身の言葉で語られています。

130年以上続く酒蔵の想いを、次の世代へ。この映像が、大田酒造と皆様をつなぐ一杯のきっかけになれば幸いです。

記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英

アストライド代表。前職を含め地域企業を中心とした200社以上の経営者インタビュー映像を制作。現在は「左脳と右脳のハイブリッド」を掲げ、戦略設計から映像・Web・各種コンテンツ制作まで手がける。 これまで音楽家として楽曲提供、行政職員として12年間 制度運用・予算編成等に従事。その後、NPO法人、映像・マーケティング分野に転じ、現在に至る。現在は大学非常勤講師として映像編集ソフトの操作指導も行う。