なぜ声だと理念が伝わるのか。文字との違いを研究から確かめる

この記事でわかること
- 同じ言葉を文字と声で渡したときの行動の差
- 寄付の実験で出た金額の違い
- 話す速さと声の高さが変える印象
- 理念という言葉が文字に向かない理由
- 音声にしても変わらないこと
理念が社員に伝わらないというご相談を、私たちは繰り返しお受けしています。ほとんどの会社では、理念は文字の形で社員へ配られています。使われているのは、社内報、朝礼の資料、経営計画書、社内ポータルといった媒体です。この4つは、どれも文字を運ぶものにあたります。
同じ言葉を文字で渡した場合と、声で渡した場合で、受け手の側に何が起きるのか。この問いには、検証済みの実験がいくつも積み上がっています。金銭のやりとりを伴う実験でも、寄付を募る実験でも、声のほうが相手の行動を変えました。
この記事では、その差がどれだけの大きさで出ているのかを、研究者名と数値をつけて並べていきます。あわせて、声にしても変わらない範囲についても書いておきます。
同じ言葉でも、声で届くと相手の行動が変わる
私たちはまず、金銭のやりとりを伴う実験から見ていきます。
ズラブ・バブツィゼ、花木伸行、アダム・ジルベルシュテインの3氏が、2021年に実験の結果を発表しています。掲載は Economic Inquiry の第59巻4号1517〜1532頁です。論文の題は「Nonverbal content and trust: An experiment on digital communication」になります。
実験の作りはこうです。話し手41人が同じ内容を話し、その発話が3つの異なる形で受け手へ提示されます。提示の形は、逐語的に書き起こしたテキスト、音声、そして動画という3種類です。受け手217人は、それぞれの形で発話を受け取ったうえで、金銭的なリスクを伴う信頼ゲームを10ラウンド行います。
| 提示の形 | 相手に金銭を委ねた割合 |
|---|---|
| 動画 | 49.0% |
| 音声 | 44.4% |
| テキスト | 36.5% |
動画と音声のあいだには、統計的な差が出ていません(p=.289)。一方で、動画と音声はどちらもテキストより高い割合を示しています。言葉の中身は同じですから、この差を作ったのは声の有無ということになります。
約束の言葉を含まない発話だけを取り出した場合にも、同じ方向の結果が出ています。動画42%、音声34%、テキスト30%で、動画とテキストの差は統計的に有意でした(p=.020)。
寄付の実験でも、声のほうが多く集まった
同じ研究グループは、寄付を募る実験も行っています。作業論文の題は「Nonverbal cues and charitable giving」です。
研究グループは標準化した寄付の依頼文を用意し、テキスト・音声・動画の3つの形で提示しています。この実験には、オンラインで594人が参加しました。
| 提示の形 | 平均の寄付額 |
|---|---|
| テキスト | 1.02ユーロ |
| 音声 | 1.41ユーロ |
| 動画 | 1.22ユーロ |
音声のほうはテキストより38%多く、動画はテキストより20%多い金額になりました。この実験では、音声が動画のほうを上回っています。
ただし、この論文については査読誌への掲載を確認できていません。数値の扱いには、その前提を置いてお読みください。
何が差を生んでいるのか
差を作っているのは、声そのものに乗る情報です。専門の用語では、この情報をパラ言語と呼びます。
言葉そのものが持つ意味とは別に、声には抑揚、間の取り方、話す速さ、声の高さ、強勢が乗ります。文字に書き起こした時点で、この5つは全部落ちます。落ちた分だけ、読み手の側が受け取れる手がかりは減っていきます。
このパラ言語が何を伝えているのかを調べた研究は、1970年代から積み上がっています。次の2つが、その代表にあたります。
話す速さが、信頼の見え方を変える
ノーマン・ミラーらの研究チームが、1976年に「Speed of speech and persuasion」という論文を発表しています。掲載は Journal of Personality and Social Psychology の第34巻4号615〜624頁です。
2つのフィールド実験に、合計449人が参加しています。研究チームが操作したのは、話す速さと話し手の信頼性、そして話す速さとメッセージの複雑さの組み合わせでした。
速い話速のほうは、話し手の信頼性を高く見せ、説得の度合いも増やしています。二次的に報告された態度の得点では、遅い順に4.10、4.63、4.37という並びでした。この3つのうちでは、中くらいの速さが最も高い数値になります。
つまり、遅く話すことは不利に働きます。ただし、最も速ければよいというわけでもなさそうです。
声の高さと速さを実験で変えると
ウィリアム・アップル、リン・ストリーター、ロバート・クラウスの3氏も、1979年に関連する論文を発表しています。論文の題は「Effects of pitch and speech rate on personal attributions」です。掲載は同じ Journal of Personality and Social Psychology の第37巻5号715〜727頁になります。
研究チームは男性の話者による面接での回答を録音し、そのうえで音声を加工しています。加工の幅は、基本周波数が通常の上下20%、話す速さが通常の上下30%までです。研究チームはこの音声を、3つの実験で評価者に聴かせています。
| 加工の内容 | 評価の変化 |
|---|---|
| 声を高くする | より不誠実・弱い・神経質と評価される |
| 話す速さを遅くする | より不誠実・流暢でない・説得的でないと評価される |
話す内容は同じです。声の高さと速さの2つだけを変えた結果、話し手への評価のほうが変わりました。この研究は、パラ言語を扱う研究の基礎にあたるものとして、いまも引用され続けています。
声は「考えている人がいる」ことを伝える
もう1つ、話し手の思考の量が受け手の側に伝わるかどうかを調べた研究もあります。
シカゴ大学のジュリアナ・シュローダーとニコラス・エプリーは、2015年に Psychological Science の第26巻6号で実験を発表しました。同じ内容を読んだ評価者と聴いた評価者を比べたところ、聴いた側のほうが話し手を有能で思慮深く知的だと評価しています。
同じ研究チームは2017年に、意見が対立する場面を扱った実験も発表しています。掲載は Psychological Science の第28巻12号1745〜1762頁です。
この2つの実験が示したのは、声に乗る手がかりが、話し手の頭が働いていることを聴き手の側へ知らせるという点でした。文字のほうには、その手がかりが残っていません。
社内報での扱いについては、社内報が読まれないのはなぜかで詳しく記載しています。
理念という言葉が、とりわけ文字に向かない理由
ここまでの研究が示しているのは、文字にした時点で落ちる手がかりがあるという点です。この落ち方は、理念という言葉を扱う場面でとりわけ大きくなります。
理念の文章は、抽象度が高いところで作られています。「誠実」「挑戦」「地域とともに」といった語は、どの会社の理念にも入っているものです。文字で読んだ社員が受け取るのは、他社の理念ともほぼ同じ字面ということになります。
声で聴いた場合は、そこに違いが出ます。聴き手に届くのは、どの言葉で言いよどむか、どこで間を置くか、どの語を強く言うかという3つです。この3つは経営者ごとに違いますので、同じ「誠実」という語でも聞こえ方が変わります。
電通PRコンサルティングの企業広報戦略研究所が上場企業で働く1,000人へ行った調査では、企業理念を目にする機会の第1位は社内報で60%でした。社員が理念に触れる最大の入り口は、いまのところ文字の側に置かれています。
音声にしても変わらないこと
声にしさえすれば伝わる、という単純な話でもありません。
理念の中身が空疎であれば、声で聴いてもそのまま伝わります。むしろ、間の置き方や声の張りのほうから、話し手自身が信じていないことが伝わってしまいます。
社員が日々の場面で理念に反する扱いを受けている場合も、音声は事態を変えません。バブツィゼらの実験で差が出たのは、話し手と受け手のあいだに利害の対立がない場面でした。日々の扱いと理念の言葉が食い違っている会社では、声にすると矛盾が際立ちます。
もう1つ、聴かれるかどうかという問題も残ります。文字を読まない社員が、音声なら聴くとは限りません。移動や作業の時間に聴ける形へ置き直すところまでを、番組の設計に含める必要があります。
社内で試すときの順序
いきなり番組を作りはじめる前に、御社の社内で確かめられることがあります。
次の3つの順で試してみてください。1つ目は、経営者が理念について3分だけ話した音声を録り、数人の社員に聴いてもらうことです。2つ目は、それと同じ内容を文字にして、別の数人に読んでもらうことになります。3つ目は、両方の受け手に「社長が何を大事にしていると感じたか」を書いてもらうことです。
この3つを試していただくと、御社の場合にどれだけの差が出るのかが見えてきます。差が出ないのであれば、原因は媒体の側にはありません。
決める順序については、社内音声配信を始める前に決める5つで詳しく記載しています。
まとめ
同じ発話をテキスト・音声・動画で渡した実験では、相手に金銭を委ねた割合が動画49.0%、音声44.4%、テキスト36.5%という並びになりました。動画と音声のあいだに差はなく、どちらもテキストを上回っています。
寄付を募る実験では、平均の寄付額がテキスト1.02ユーロ、音声1.41ユーロ、動画1.22ユーロでした。音声で渡した場合の金額は、文字で渡した場合より38%多い水準でした。
差を作っているのは、声に乗るパラ言語です。抑揚、間、速さ、高さ、強勢という5つは、文字に書き起こした時点で全部落ちます。話す速さを遅くすると不誠実だと評価され、声を高くすると弱いと評価されることも、1970年代の実験で確かめられています。
理念の文章は抽象度が高いところで作られていますので、文字で読むと他社との差が出ません。どの言葉で言いよどみ、どこで間を置いたかという情報のほうは、声にそのまま残ります。
まずは経営者が理念について3分だけ話した音声を録り、同じ内容の文章と読み比べてもらってください。御社の場合に差が出るかどうかは、その読み比べで分かります。
この記事からわかるQ&A
音声にすると本当に伝わり方が変わりますか
同じ発話をテキスト・音声・動画で提示した実験では、相手に金銭を委ねた割合が動画49.0%、音声44.4%、テキスト36.5%になりました(Babutsidze ほか 2021、Economic Inquiry 59巻4号)。この数値は、話し手41人と受け手217人による信頼ゲーム10ラウンドの結果です。言葉の中身のほうは同じですので、差を作ったのは声の有無ということになります。
動画のほうが音声より効果は高いですか
上の信頼ゲームでは、動画49.0%と音声44.4%のあいだに統計的な差はありませんでした(p=.289)。寄付を募る別の実験では、平均の寄付額が音声1.41ユーロ、動画1.22ユーロで、音声のほうが上回っています。動画が常に有利という結果は、ここでは出ていません。
声の何が差を生んでいるのですか
パラ言語と呼ばれる手がかりです。抑揚、間の取り方、話す速さ、声の高さ、強勢の5つが声には乗り、文字に書き起こすと全部落ちます。1979年の実験では、基本周波数を上下20%、話す速さを上下30%まで加工したところ、内容が同じでも話し手への評価が変わりました。
話し方は速いほうがよいのですか
速いほうが有利ですが、最も速ければよいというわけでもありません。1976年の研究では合計449人が参加し、態度の得点は遅い順に4.10、4.63、4.37という並びでした。中くらいの速さが最も高い数値です。1979年の実験でも、遅い話速のほうは不誠実で説得的でないと評価されています。
音声にしても変わらないことはありますか
3つあります。理念の中身が空疎であれば、声で聴いてもそのまま伝わります。日々の扱いと理念の言葉が食い違っている場合は、声にすると矛盾が際立ちます。そして、文字を読まない社員が音声なら聴くとは限りません。移動や作業の時間に聴ける形へ置き直すところまでが必要になります。
出典
- Babutsidze, Z., Hanaki, N., & Zylbersztejn, A. (2021). “Nonverbal content and trust: An experiment on digital communication.” *Economic Inquiry*, 59(4), 1517–1532. 話し手41人の同一発話をテキスト・音声・動画で提示し、受け手217人が信頼ゲームを10ラウンド。相手に委ねた割合は動画49.0%・音声44.4%・テキスト36.5%(動画と音声の差は p=.289) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8451918/
- Babutsidze, Z., et al. “Nonverbal cues and charitable giving.”(作業論文・査読誌掲載は未確認)標準化した寄付依頼文をテキスト・音声・動画で提示、オンライン実験594人。平均寄付額はテキスト1.02ユーロ・音声1.41ユーロ・動画1.22ユーロ https://gate.cnrs.fr/
- Miller, N., Maruyama, G., Beaber, R. J., & Valone, K. (1976). “Speed of speech and persuasion.” *Journal of Personality and Social Psychology*, 34(4), 615–624. 2つのフィールド実験、合計449人。速い話速は話し手の信頼性を高く見せ説得を増した。態度得点は遅い順に4.10・4.63・4.37 https://citeseerx.ist.psu.edu/
- Apple, W., Streeter, L. A., & Krauss, R. M. (1979). “Effects of pitch and speech rate on personal attributions.” *Journal of Personality and Social Psychology*, 37(5), 715–727. 男性話者の面接回答を加工し、基本周波数を上下20%、話速を上下30%まで変えて3実験。高い声は不誠実・弱い・神経質、遅い話速は不誠実・流暢でない・説得的でないと評価された https://www.communicationcache.com/
- Schroeder, J., & Epley, N. (2015). “The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal.” *Psychological Science*, 26(6). 同じ内容を読んだ評価者より聴いた評価者のほうが、話し手を有能で思慮深く知的だと評価した https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25926479/
- Schroeder, J., Kardas, M., & Epley, N. (2017). “The Humanizing Voice: Speech Reveals, and Text Conceals, a More Thoughtful Mind in the Midst of Disagreement.” *Psychological Science*, 28(12), 1745–1762. 意見が対立する話題について4実験 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29068763/
- Taub, N., et al. (2024). “Trust and attitude toward information presented using text and audio.” *Heliyon*. 2つの研究とも、音声で提示した情報がテキストで提示した情報より高い信頼を得たと報告 https://www.cell.com/heliyon/home
- 電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所「企業理念の浸透に関する調査」上場企業で働く1,000人が対象。企業理念を目にする機会の第1位は社内報で60% https://www.dentsuprc.co.jp/csi/
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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