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なぜ声だと理念が伝わるのか。文字との違いを研究から確かめる

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理念を社内報や資料に載せ、社員に読んでもらうことで伝えようとしていませんか?同じ言葉でも、声の抑揚や間、話す速さなどの手がかりが加わると、受け止め方や行動に差が出ることがあります。

この記事では、文字と声で同じ内容を示した実験と、話し手への信頼や印象に関わる声の手がかり、理念を文字だけで伝えにくい理由について取り上げます。音声にしても変わらないことと、社内で音声と文章を比べて確かめる順序もお伝えします。

この記事でわかること

  • 同じ言葉を文字と声で伝えたときの、受け手の行動の差
  • 内容をそろえた寄付の依頼で生じた、文字と声の差
  • 文字と声の差に関わる抑揚・間・速さ・高さ・強勢
  • 話す速さが話し手への信頼と説得に与える影響
  • 声の高さと話す速さによる話し手の印象の違い
  • 声で聴いたときの、話し手の考えや人となりの見え方
  • 抽象的な理念を文字だけでは伝えにくい理由
  • 音声にしても残る、理念への納得や聴かれ方の課題
  • 社内で同じ内容の音声と文章の受け止め方を比べる順序

同じ言葉でも、声で届くと相手の行動が変わる

まず、金銭を相手に委ねる判断を扱った実験から確かめます。

ザカリア・バブツィゼ、花木伸行、アダム・ジルベルシュテインの3氏は、2021年にこの実験の結果を報告しました。論文は Economic Inquiry 第59巻第4号、1517〜1532頁に掲載されています。論文のタイトルは「Nonverbal content and trust: An experiment on digital communication」で、実験は2017年4月から2018年2月にかけて、フランスのコートダジュール大学の実験室で行われました。

実験の設計は次のとおりです。研究チームは、先行する対面の実験で41人の話し手の発話を録画し、その内容をテキスト・音声・動画の3つの形式で参加者に提示しました。テキストには、発話を逐語的に書き起こした文章を使っています。受け手217人は、いずれか1つの形式で10人分の発話を順に受け取り、その都度、金銭的なリスクを伴う信頼ゲームで、相手に金銭を委ねるかどうかを決めました。参加者の大半は学生で、この結果を社員の受け止め方にそのまま当てはめるには留保が要ります。

提示の形相手に金銭を委ねた割合
動画49.0%
音声44.4%
テキスト36.5%

動画と音声の差は、統計的に有意ではありませんでした(p=.289)。一方で、動画も音声も、テキストより統計的に有意に高い割合でした(動画とテキストは p=.003、音声とテキストは p=.042)。テキストには、言いよどみや言い間違い、途中の間まで書き起こしてありました。発話の内容を3つの形式でそろえたうえで出た差ですから、音声とテキストの差には、声に含まれる手がかりの有無が関わっていると考えられます。

明示的な約束を含まない発話に限って分析した場合も、動画、音声、テキストの順に割合が高い傾向は同じでした。動画42%、音声34%、テキスト30%で、統計的に有意だったのは動画とテキストの差です(p=.020)。音声とテキストの差は、この場合には有意ではありませんでした。

寄付の実験でも、声のほうが多く集まった

バブツィゼと花木を共著者に含む研究チームは、寄付を募る実験も行っています。ジルベルシュテインら4人が2024年に Journal of Economic Psychology 第105巻(論文番号102769)に発表した論文で、タイトルは「Anonymity, nonverbal communication and prosociality in digitized interactions: An experiment on charitable giving」です。

研究チームは、慈善団体のメンバーによる、内容をそろえた寄付の依頼を用意し、テキスト・音声・動画の3つの形で提示しています。実験は2023年5月から9月にオンラインで行われ、594人が参加しました。参加者は、実験の中で得た金額から、0〜5ユーロの範囲で寄付する額を決めています。

提示の形平均の寄付額
テキスト1.02ユーロ
音声1.41ユーロ
動画1.22ユーロ

平均の寄付額は、音声がテキストより0.39ユーロ(約38%)多く、動画はテキストより約20%多くなりました。ただし、統計的に有意だったのは音声とテキストの差だけで、音声と動画の差は統計的に有意ではありませんでした。

上の数値の出典は、著者らが2024年2月に公開したワーキングペーパー版(GATE WP 2402)です。

何が差を生んでいるのか

音声とテキストの差に関わる要素の1つが、発話の内容とは別に声から伝わる情報です。研究では、こうした情報をパラ言語と呼びます。

声には、言葉の意味とは別に、抑揚、間の取り方、話す速さ、声の高さ、強勢といった手がかりがあります。このうち抑揚や話す速さ、声の高さ、強勢は、ふつうの文章では表しにくく、文字だけで伝えた場合には受け手に届きにくい手がかりです。

パラ言語が対人印象や説得に与える影響は、1970年代から研究されてきました。次に、話す速さと声の高さを扱った2つの研究を紹介します。

話す速さが、信頼の見え方を変える

ノーマン・ミラーらの研究チームが、1976年に「Speed of speech and persuasion」という論文を発表しました。論文は Journal of Personality and Social Psychology 第34巻第4号、615〜624頁に掲載されています。

研究チームは2つのフィールド実験を行いました。研究チームが操作したのは、話す速さと話し手の信頼性、そして話す速さとメッセージの複雑さの組み合わせです。

結果は、速く話すことが、話し手を信頼できそうだと受け止めさせる手がかりとして働き、速く話すほうが説得の効果も高まるというものでした。研究チームは、速い話し方で説得が増した理由を、聴き手が反論を組み立てる余裕を失ったためとは説明できなかったと報告しています。

つまり、この実験の範囲では、遅く話すことが説得に不利に働きました。

声の高さと話す速さは、話し手の印象をどう変えるか

ウィリアム・アップル、リン・ストリーター、ロバート・クラウスの3氏は、1979年に声の高さと話す速さを扱った実験を発表しています。論文のタイトルは「Effects of pitch and speech rate on personal attributions」です。論文は Journal of Personality and Social Psychology 第37巻第5号、715〜727頁に掲載されました。

研究チームは、男性の話者が面接で答えた録音を使い、声の高さと話す速さを加工しました。基本周波数は通常から上下20%、話す速さは通常から上下30%の範囲で変えています。加工した音声は、3つの実験で評価者に聴かせました。

加工の内容評価の変化
声を高くするより真実味が低く、弱く、神経質だと評価される
話す速さを遅くするより真実味が低く、流暢でなく、説得的でないと評価される

どの条件でも、話す内容は同じです。声の高さと話す速さを変えただけで、話し手への評価が変わりました。この研究は、声の高さや話す速さと対人印象の関係を扱った、初期の実験研究の1つです。

声で聴くと、話し手の考えや人となりが伝わりやすい

もう1つ、話し手がどれほど思慮深く、有能に見えるかに、声がどう関わるかを調べた研究もあります。

ジュリアナ・シュローダーとニコラス・エプリーの研究は、2015年に Psychological Science 第26巻第6号(877〜891頁)に掲載されています。求職者が自分を採用すべき理由を述べた同じ内容を、文字で読んだ評価者と音声で聴いた評価者を比べたところ、聴いた評価者のほうが求職者を有能で思慮深く知的だと評価し、採用への関心も高くなりました。

シュローダーとエプリーは、マイケル・カルダスとともに、2017年に政治や社会の意見が対立する場面を扱った研究も発表しています。掲載誌は Psychological Science 第28巻第12号、1745〜1762頁です。

この2つの研究が示したのは、声に含まれる手がかりが、話し手が考えをもつ人だという印象を聴き手に伝えやすいという点でした。文字だけでは、抑揚や間、声色といった手がかりは伝わりません。

社内報での扱いについては、社内報が読まれないのはなぜかで詳しく記載しています。

理念を、文字だけでは伝えにくい理由

ここまでの研究が示しているのは、文字だけで伝えると届きにくくなる手がかりがあるという点です。理念のように抽象度が高く、解釈の幅が大きい内容では、こうした手がかりの有無が受け止め方に影響する可能性があります。

理念の文章には、抽象度の高い言葉が多く使われます。「誠実」「挑戦」「地域とともに」は、企業の理念でよく用いられる語です。文字だけで読むと、他社の理念との違いや、その会社ならではの背景は読み取りにくくなります。

経営者自身の声で聴くと、文章だけでは得にくい話し方の手がかりが加わります。聴き手が受け取るのは、どの言葉で言いよどむか、どこで間を置くか、どの語を強く言うかといった手がかりです。こうした話し方には経営者ごとの違いが表れるため、同じ「誠実」という語でも、聴き手が受け取る重みは変わり得ます。

電通PRコンサルティングの企業広報戦略研究所が上場企業で働く1,000人を対象に行った「インターナルブランディング調査」(2023年11月に報道)では、自社の企業理念を知っていると答えた人が、理念を目にする機会として最も多く挙げたのは社内報で、60%でした。2位は企業ウェブページの52%、3位は社長のプレゼンテーション・メッセージの46%です。この調査では、社員が理念に触れる主な経路は、文字を中心とした社内のコミュニケーションでした。

音声にしても変わらないこと

声にしさえすれば伝わる、という単純な話でもありません。

理念の中身が日々の行動や判断と結びついていなければ、声で聴いても、社員の納得は得にくいというのが私たちの考えです。むしろ、間の置き方や声の張りが、話し手自身も確信を持っていないのではないか、という印象を与える可能性もあります。

社員が日々の業務や評価、上司とのやり取りのなかで、理念と矛盾する対応を受けている場合も、音声配信だけで社員の受け止め方を変えるのは困難です。日々の評価や意思決定が理念と食い違っている会社では、経営者の語りを加えることで、その矛盾がかえって際立つ可能性もあります。

もう1つ、そもそも聴かれるかどうかという課題も残ります。文章に時間を割けない社員が、音声なら聴くとは限りません。通勤や移動の時間に聴ける配信の方法や長さ、更新の頻度まで含めて、番組を設計する必要があります。

社内で試すときの順序

いきなり番組の制作を始める前に、音声と文章で受け止め方がどう違うかを、御社の社内で小さく確かめられます。

次の3つの順で試してみてください。1つ目は、経営者が理念について3分だけ話した音声を録り、数人の社員に聴いてもらうことです。2つ目に、それと同じ内容を文字にして、別の数人に読んでもらいます。3つ目は、両方の受け手に「社長が何を大事にしていると感じたか」を書いてもらうことです。

この3つを試していただくと、御社の社員にとって、音声と文章がどう受け止められやすいかという傾向をつかめます。差が出ないのであれば、原因は媒体の側にはありません。

決める順序については、社内音声配信を始める前に決める5つで詳しく記載しています。

社内報が読まれているのに組織が変わらない理由は、社内報は読まれているのに、なぜ組織は変わらないのかで取り上げました。社内だけに音声を配るときの方法と手間は、社内だけに音声を届けるとき、担当者には何が面倒になるのかで比べています。自社で聞く社内報を始めたい場合は、アストライドの「社内ポッドキャストの導入と運用」をご覧ください。

まとめ

同じ発話の内容をテキスト・音声・動画で提示した実験では、相手に金銭を委ねた割合が動画49.0%、音声44.4%、テキスト36.5%でした。動画と音声の差は統計的に有意でなかった一方、どちらもテキストを有意に上回っています。

寄付を募る実験では、平均の寄付額がテキスト1.02ユーロ、音声1.41ユーロ、動画1.22ユーロでした。統計的に有意だったのは、音声がテキストを0.39ユーロ(約38%)上回った差です。

差に関わる要因の1つと考えられるのが、声に含まれるパラ言語です。抑揚や間、速さ、高さ、強勢は、ふつうの文章では表しにくい手がかりにあたります。話す速さを遅くすると真実味が低いと評価され、声を高くすると弱いと評価されることは、1979年の実験で確かめられた結果です。

理念の文章には抽象度の高い言葉が多いため、文字だけで読むと、その会社ならではの背景が伝わりにくくなります。どの言葉で言いよどみ、どこで間を置いたかという手がかりを受け取れるのは、声で聴いたときです。

まずは経営者が理念について3分だけ話した音声を録り、同じ内容の文章と比べてもらってください。御社の社員の受け止め方の傾向は、その比較でつかめます。

この記事からわかるQ&A

音声にすると本当に伝わり方が変わりますか

同じ発話をテキスト・音声・動画で提示した実験では、相手に金銭を委ねた割合が動画49.0%、音声44.4%、テキスト36.5%でした(Babutsidze ほか 2021、Economic Inquiry 59巻4号)。この数値は、受け手217人が、話し手41人の発話をもとに、信頼ゲームで10回の判断をした結果です。発話の内容はそろえてあるため、音声とテキストの差には、声に含まれる手がかりの有無が関わっていると考えられます。

動画のほうが音声より効果は高いですか

上の信頼ゲームで、動画49.0%と音声44.4%の差は、統計的に有意ではありませんでした(p=.289)。寄付を募る別の実験(Zylbersztejn ほか 2024)でも、平均の寄付額は音声1.41ユーロ、動画1.22ユーロで、両者の差は統計的に有意ではありませんでした。動画が常に有利だという結果は、この2つの実験では出ていません。

声の何が差を生んでいるのですか

主な候補の1つが、パラ言語と呼ばれる手がかりです。声には抑揚、間の取り方、話す速さ、声の高さ、強勢が含まれ、このうち抑揚や速さ、高さ、強勢は、ふつうの文章ではうまく表せません。1979年の実験では、男性の話者の録音について、基本周波数を通常から上下20%、話す速さを通常から上下30%の範囲で加工したところ、内容が同じでも、真実味や説得力といった話し手への評価が変わりました。

話し方は速いほうがよいのですか

1976年に発表された2つのフィールド実験では、速く話すほうが話し手を信頼できそうだと受け止められ、説得の効果も高まりました(Miller ほか)。1979年の実験でも、話す速さを遅くした話し手は、真実味が低く、説得的でないと評価されています。ただし、どちらもそれぞれの実験の条件での結果で、速いほど伝わるとまでは言えません。

音声にしても変わらないことはありますか

音声にするだけでは変わらないことは、主に3つです。1つ目に、理念の中身が日々の行動や判断と結びついていなければ、声で聴いても社員の納得は得にくいと考えます。2つ目は、日々の評価や意思決定が理念と食い違っている場合で、経営者の語りを加えると、その矛盾がかえって際立つ可能性があることです。3つ目に、文章に時間を割けない社員が、音声なら聴くとは限りません。通勤や移動の時間に聴ける配信の方法や長さ、更新の頻度まで含めて、番組を設計する必要があります。

出典

  • Babutsidze, Z., Hanaki, N., & Zylbersztejn, A. (2021). “Nonverbal content and trust: An experiment on digital communication.” Economic Inquiry, 59(4), 1517–1532. 2017年4月〜2018年2月、フランスのコートダジュール大学の実験室。対面の実験で話し手41人が話した発話を、受け手217人がテキスト・音声・動画のいずれかで受け取り、信頼ゲームで10回判断。相手に委ねた割合は動画49.0%・音声44.4%・テキスト36.5%(動画と音声の差は p=.289、音声とテキストの差は p=.042)。著者公開版は大阪大学社会経済研究所 Discussion Paper No.1128 https://doi.org/10.1111/ecin.12998
  • Zylbersztejn, A., Babutsidze, Z., Hanaki, N., & Roul, M.-S. (2024). “Anonymity, nonverbal communication and prosociality in digitized interactions: An experiment on charitable giving.” Journal of Economic Psychology, 105, 102769. 2023年5〜9月のオンライン実験、594人。平均寄付額はテキスト1.02ユーロ・音声1.41ユーロ・動画1.22ユーロで、統計的に有意な差は音声とテキストのあいだだけ。数値は著者公開の作業論文版(GATE WP 2402、2024年2月)で確認 https://doi.org/10.1016/j.joep.2024.102769
  • Miller, N., Maruyama, G., Beaber, R. J., & Valone, K. (1976). “Speed of speech and persuasion.” Journal of Personality and Social Psychology, 34(4), 615–624. 2つのフィールド実験。話す速さは話し手の信頼性を高める手がかりとして働き、速い話し方は説得を強めた https://doi.org/10.1037/0022-3514.34.4.615
  • Apple, W., Streeter, L. A., & Krauss, R. M. (1979). “Effects of pitch and speech rate on personal attributions.” Journal of Personality and Social Psychology, 37(5), 715–727. 男性話者の面接回答を加工し、基本周波数を上下20%、話速を上下30%まで変えて3実験。高い声は不誠実・弱い・神経質、遅い話速は不誠実・流暢でない・説得的でないと評価された https://doi.org/10.1037/0022-3514.37.5.715
  • Schroeder, J., & Epley, N. (2015). “The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal.” Psychological Science, 26(6), 877–891. 仮想の採用担当者と実際の採用担当者が、候補者の話を聴くか読むかして評価。聴いた評価者のほうが、候補者を有能で思慮深く知的だと評価した https://doi.org/10.1177/0956797615572906
  • Schroeder, J., Kardas, M., & Epley, N. (2017). “The Humanizing Voice: Speech Reveals, and Text Conceals, a More Thoughtful Mind in the Midst of Disagreement.” Psychological Science, 28(12), 1745–1762. 意見が対立する話題について4実験 https://doi.org/10.1177/0956797617713798
  • 電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所「インターナルブランディング調査」上場企業で働く1,000人が対象。自社の企業理念を知っていると答えた人が企業理念を目にする機会は、社内報60%・企業ウェブページ52%・社長のプレゼンテーション・メッセージ46%(Business Insider Japan、2023年11月27日の報道) https://www.businessinsider.jp/post-278832

この記事の著者

纐纈智英

纐纈智英アストライド-Astride- 代表

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「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。

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