動画とポッドキャストを、どちらが優れているかだけで選ぼうとしていませんか?選び分ける基準は、購買のどの段階で、どの立場の相手に、何を理解してもらいたいかです。
この記事では、公表資料からわかる動画の手応えとポッドキャストの聴かれ方、比較候補の絞られ方を踏まえた、購買段階に応じた使い分けについて取り上げます。制作にかかる手間の違いと、両方を使う場合の収録や長さの設計、効果の測り方もお伝えします。
この記事でわかること
動画と音声を同じ条件で比べた調査の有無と比較の限界
BtoB企業が動画活用で効果を実感した場面
ポッドキャストが聴かれる場面と、ながら聴取の割合
買い手が検討する候補数と、情報収集に使う情報源
購買段階と相手の立場に応じた動画と音声の選び方
動画と音声の制作工程と編集にかかる手間の違い
動画と音声を併用する場合の収録と長さの設計
動画と音声の効果を測る指標と、商談での確認方法
目次
動画と音声を同じ条件で比べた調査の有無 BtoBの動画で効果を実感した場面の1位は商談 ポッドキャストが活用されるのは、画面を見続けられない時間 買い手が検討する候補の数と、検討段階の情報源 どこの段階を見据えるかを選択の基準にする 制作にかかる手間の違い 動画と音声を併用する場合の進め方 効果の測り方 まとめ この記事からわかるQ&A 出典
動画と音声を同じ条件で比べた調査の有無
まず、比較にあたっての前提と限界を整理します。
同じ番組、同じ尺、同じ流入条件で、YouTubeの視聴完了率とポッドキャストの聴取完了率を全国規模で比較した国内公開調査は確認できませんでした。2026年10月5日時点で確認できた範囲は、ウェブ上で公開されている調査会社・制作会社の調査と、配信サービスの公式説明に限られます。
比べにくい理由は2つあります。1つ目は、動画と音声とで指標の定義や計測方法が異なる点です。Spotifyは、30秒以上再生された回数を「再生」と数え、公開から7日間にエピソードの95%以上まで再生した人の割合を「完了率」としています。YouTubeのアナリティクスにある平均視聴時間の数字は、1回の再生あたりに見られた時間の平均です。御社が2つの媒体の数字を並べるときは、それぞれの定義に照らして読む必要があります。
2つ目は、視聴者の集まり方の違いです。株式会社オトバンクのポッドキャスト事業PitPaが2023年1月30日に公開した記事に、自社が制作する対談番組1つの数字が載っています。YouTubeでは、ゲストやテーマに話題性がある回ほどおすすめ表示に載りやすく、チャンネル登録していない人の視聴が約8割に達する回もあるという内容です。同記事では、同じ番組のポッドキャストには、ゲストやテーマによる変動が比較的小さく、継続して聴くリスナーが一定数いるとされています。
聴かれる場所も、配信サービスごとに分かれています。オトナルと朝日新聞社の調査では、ポッドキャストを聴くときに使うサービスの1位がYouTubeで37.3%、2位がSpotifyです。同じ番組でも、どのサービスで接した人かによって集まり方が違い、完了率もその影響を受けると私たちは考えています。
「音声は動画の2倍の再生率」「音声の編集は動画の3分の1」という数字も、出どころは同じPitPaの記事にあります。2倍は、先ほどの対談番組1つで、聴かれた時間をエピソードの長さで割った「再生率」を比べた結果です。3分の1は、30分番組の編集にかかる時間について、PitPaが実務の目安として示した値から来ています。どちらの数字も、1社が自社の1番組と自社の編集工程をもとに示した値です。御社の計画にそのまま当てはめないでください。
BtoBの動画で効果を実感した場面の1位は商談
動画制作会社の株式会社Lumiiが、BtoB企業で動画を活用している営業・マーケティング担当者402人へ調査を行っています。調査は2025年1月16日から22日にオンラインで行われ、2025年2月3日に結果が公開されました。
最も効果を実感した場面 割合 商談 34.3% リード獲得 25.6% 製品・サービスの活用支援 20.1%
動画を制作する目的の上位は、認知の獲得の44.0%と、理解の促進の32.3%です。動画の活用で商談の受注率が高まったと感じる担当者は、「非常にそう感じる」14.4%と「ややそう感じる」35.3%を合わせて49.7%に上ります。この49.7%は、担当者が自分の実感として答えた割合です。
商談が1位に来た理由は、動画が持っている性質にあると私は考えています。表情、製品、図解、現場のように、画面を見なければ伝わらない情報を届けたい場面で、先に選ぶべきなのは動画のほうです。
ポッドキャストが活用されるのは、画面を見続けられない時間
オトナルと朝日新聞社は、2025年12月5日と6日に、国内のポッドキャストの利用実態をインターネットで調べています。対象は全国の15歳から69歳の男女10,000人と、その中から人口構成比で抽出した、ポッドキャストを日常的に聴く800人です。結果のレポートは、2026年2月24日に公開されました。
10,000人のうち、ポッドキャストを月に1回以上聴く人の割合は18.2%です。年代別に見ると、15〜19歳では40.5%、20代では28.8%と、若い年代の割合が高くなっています。月に1回以上聴くポッドキャストユーザーに限ると、何かをしながら聴く人が80.8%を占めました。
オトナルはリリースの中で、ポッドキャストが聴かれる場面として、家事や通勤、運動中のように視覚情報に触れられない場面を挙げています。通勤や移動、家事、運動など、画面を見続けられない時間に接触機会をつくれる点が、音声の強みです。
ポッドキャストの利用環境と聴取シーンの変化については、別記事「ポッドキャストの20年 」で解説しています。
買い手が検討する候補の数と、検討段階の情報源
ITコミュニケーションズとB2Bマーケティングが、BtoBの購買行動について共同で調査し、2025年7月15日に結果を公表しています。調査は2025年5月27日と28日に、インターネットで行われました。対象は、2022年から2025年までの3年あまりの間に、勤務先で製品やサービスを購入・導入するときの検討や意思決定に関わった会社員517人です。
検討の段階で集めた主な情報源は、各種Webメディア49.3%、提供企業のWebサイト35.4%、雑誌・専門誌31.1%、展示会25.7%の順です。
検討のときに具体的に比べた製品・サービスの数は、「1つ」が16.8%、「2つ」が31.9%、「3つ」が32.7%で、合わせて81.4%が3つ以内です。「1つ」と答えた人は、発注・導入したものだけを検討し、ほかと比べていません。2つか3つに絞って比べた回答だけでも64.6%を占め、3つ以内の割合は2022年の前回調査の68.1%から上がりました。
ワンマーケティングが2025年11月10日に発表した「顧客企業の購買プロセス白書2025」でも、同じ向きの結果が出ています。白書のもとになった調査は、全国の20〜65歳の経営者、役員、購買・契約担当者(正社員)600人へ、2025年9月30日から10月1日にインターネットで行われました。
営業担当者との初回面談の時点で、候補が「ほぼ決まっている」は29%、「いくつかの候補に絞り込まれている」は56%です。合わせて85%が、営業担当者に会う前に候補を絞っており、2020年の調査の79%から増えています。
同じ白書では、1つの取引に関わる人数の平均が、300万円未満の取引で5.6人、中価格帯で14.4人、高価格帯で18.3人です。ワンマーケティングによると、情報を集める人、技術を評価する人、承認する人とでは判断の基準が違うため、企業は立場に合わせた情報を並行して用意する必要があります。
候補に残るには、購買初期から比較検討の段階まで、情報収集者、技術評価者、承認者など、それぞれの立場に合う情報を用意しておくことが重要です。
どこの段階を見据えるかを選択の基準にする
ここまでの調査結果を踏まえると、動画と音声は優劣で選ぶより、購買プロセス上の役割で使い分けるほうが実務的です。使い分けを決めるときは、購買のどの段階で、どの立場の相手に何を理解してほしいかから考えてください。
次の表は、ここまでの調査結果を踏まえた、動画と音声の役割分担の一例です。表に書いた動画と音声の長さは、私たちが組むときの目安として示しています。
購買段階 動画の役割 音声の役割 課題認識・認知 短尺動画による、経営者、現場、製品、導入実績などの視覚的な紹介 音声で業界課題や考え方を掘り下げ、短い切り抜きをSNSやメールで配信する 比較・検討 製品の仕組み、導入プロセス、事例、図解を用いて、候補比較に必要な情報を伝える 判断の背景にある考え方を、時間をかけて伝える 商談 Lumiiの調査で34.3%が最も効果を実感した場面。営業の場で実際に見せる 商談前後の理解補助として活用し、論点の予習・復習を支援する 導入後・継続関係 更新の負担が大きく、続けにくくなりやすい 定期配信を通じて、移動・作業時間にも継続的な接点をつくる
動画は比較検討、製品理解、商談支援に向き、音声は継続接点の形成や理解の深化に向きます。この分け方は、Lumiiの調査にある動画の手応え、オトナルと朝日新聞社の調査にある聴き方、残る2つの調査にある候補の絞り方を重ねて、私たちが組んだ設計です。
制作にかかる手間の違い
工数についても、公表されている目安があります。PitPaが2023年1月30日の記事で示した実務の目安では、30分番組の編集にかかる時間は、音声が2〜4時間、YouTube向けの動画が8〜12時間です。
この数字を、一般の価格表として読まないでください。PitPaが、自社で制作するときの工程の差を示すために出した参考の値です。
PitPaは差の理由として、動画では音声と同じ工程にカット割り、サムネイル制作、テロップ作成が加わる点を挙げています。音声なら切り取れるフィラー(「えー」「あのー」などのつなぎ言葉)も、映像では画面が細切れになるため、編集が難しくなるという説明です。音声の工程として、PitPaはノイズ除去、フィラーや使わない部分のカット、BGMと効果音の挿入、全体をまとめて音圧を整えるミックスの4つを挙げています。
アストライドのポッドキャスト制作では、収録を月1回にまとめ、半日で1か月分を録ります。料金表の配信本数は、月1回のプランで年12本、月2回で年24本、週1回で年48本です。料金の基準にしている番組尺は15分で、実際の番組の長さは話の密度に合わせて決めています。1エピソードあたりの収録は30分ほどです。
動画と音声を併用する場合の進め方
この節は、動画と音声の両方をお考えの会社に向けた内容です。動画と音声の両方を考える会社は、1回の収録から音声と映像の両方を制作する方法を検討できます。ポッドキャスト制作で対応している形は、音声に静止画を付けた形と、映像も収録するビデオポッドキャストの2通りです。
収録の場にカメラを入れておけば、1回の収録で音声と映像の両方が残ります。別々に企画して別々に収録した場合、出演者の予定を押さえる日も、収録に立ち会う時間も2回分が必要です。
聴き手の側を見ると、ポッドキャストユーザーの多くは映像つきの番組も見ています。オトナルと朝日新聞社の調査では、収録風景などの映像を加えたビデオポッドキャストを月に1回以上見る人が、ポッドキャストユーザーの76.2%です。
気をつけていただきたいのは、動画と音声の長さの設計です。動画と音声それぞれに必要な長さは、届ける相手と、視聴・聴取する場面から決めます。同じ収録素材から、短尺動画と音声エピソードを制作する場合は、それぞれに必要な尺を逆算して収録時間を設計してください。
効果の測り方
動画と音声の完了率を、そのまま横並びで比較することはお勧めしません。Spotifyの完了率は、公開から7日間で95%以上まで再生した人の割合です。YouTubeのアナリティクスで近い数字は、1回の再生で動画の何%が見られたかの平均にあたります。先にお伝えしたとおり、動画と音声とで視聴者の集まり方が違う点も、比べない理由の1つです。
代わりに見ていただきたい数字の1つ目は、平均の視聴・聴取時間です。Spotify for Creatorsではエピソードの平均再生時間を、YouTube Analyticsでは平均視聴時間を確認できます。2つ目は、商談まで進んだ人がどちらの媒体に触れていたかという確認です。
購買の検討段階でポッドキャストがどこまで寄与したかを測った国内の公開調査は、見つかっていません。確認した範囲は、2026年10月5日時点でウェブ上に公開されている資料です。御社で確かめる場合は、商談の場で「番組を聴いていましたか」と質問するところから始めてください。営業担当者が答えを商談の記録に残しておけば、御社は受注した案件と失注した案件とで、番組に触れていた人の割合を比べられます。
測れる範囲については、ポッドキャストの成果はどこまで測れるか で詳しく記載しています。
まとめ
動画を活用するBtoB企業の担当者402人へのLumiiの調査では、最も効果を実感した場面が商談で34.3%、次いでリード獲得で25.6%です。動画を制作する目的は、認知の獲得が44.0%、理解の促進が32.3%と上位に並んでいます。
オトナルと朝日新聞社の調査では、15〜69歳の10,000人のうち、月に1回以上ポッドキャストを聴く人が18.2%です。そのポッドキャストユーザーの80.8%は、何かをしながら聴いています。通勤や移動、家事、運動など、画面を見続けられない時間に接触機会をつくれる点が、音声の強みです。
ITコミュニケーションズとB2Bマーケティングの調査では、検討のときに比べた製品・サービスが3つ以内だった回答が81.4%です。ワンマーケティングの白書では、高価格帯の取引に関わる人数の平均が18.3人に上ります。御社が候補に残るために、購買の初期から用意しておきたいのは、立場の違う相手それぞれに届く情報です。
動画と音声を同じ条件で比べた国内の公開調査は、2026年10月5日時点で見当たりません。流通している「2倍」「3分の1」という数字は、PitPaが2023年1月に公開した、自社制作の1番組の事例と実務の目安です。
選ぶ基準は、優劣よりも、購買のどの段階でどの立場の相手に届けるかにあると私は考えています。画面を見なければ伝わらないものは動画へ、移動や作業の時間へ届けたいものは音声へ。両方を配信する場合は、1回の収録から短尺動画と音声エピソードの両方を作る方法も検討できます。
この記事からわかるQ&A
動画と音声、どちらのほうが手応えがありますか
同じ条件で比べた国内の公開調査は、2026年10月5日時点で見当たりません。計測の定義が媒体ごとに違い、視聴者の集まり方も違っているためです。BtoB企業で動画を活用する担当者402人へのLumiiの調査では、最も効果を実感した場面の1位が商談で34.3%でした。オトナルと朝日新聞社の調査では、ポッドキャストユーザーの80.8%が何かをしながら聴いています。購買のどの段階で、どの立場の相手に届けるかで選び分けてください。
どちらから始めるべきですか
製品の説明や図解が伝わらないという課題なら動画から、接点が続かないという課題なら音声から始めるのが順序だと考えます。ITコミュニケーションズとB2Bマーケティングの調査では、検討のときに比べた製品・サービスが3つ以内だった回答が81.4%でした。候補に残る段階で、御社の情報が買い手にどこまで届いているかを先に確かめてください。
音声のほうが安いと聞きました
PitPaが2023年1月30日の記事で示した実務の目安では、30分番組の編集にかかる時間は、音声が2〜4時間、YouTube向けの動画が8〜12時間です。1社が自社の工程の差を示すために出した参考の値で、一般の価格表とは性格が違います。動画では、音声と同じ工程にカット割り、サムネイル制作、テロップ作成が加わり、その分だけ編集の時間が長くなるという説明です。
両方をやる場合、どう進めますか
動画と音声の両方を配信する場合は、1回の収録から両方を制作する方法を検討できます。収録の場にカメラを入れておけば、同じ収録で音声と映像の両方が残るためです。動画と音声それぞれに必要な長さは、届ける相手と、視聴・聴取する場面から決めてください。同じ収録素材から短尺動画と音声エピソードを制作する場合は、それぞれに必要な尺を逆算して収録時間を設計する必要があります。
効果はどう測ればよいですか
動画と音声の完了率を、そのまま横並びで比較することはお勧めしません。Spotifyの完了率は、公開から7日間で95%以上まで再生した人の割合です。YouTubeで近い数字は、1回の再生で動画の何%が見られたかの平均で、数え方が違います。代わりに、平均の視聴・聴取時間と、商談まで進んだ人が触れていた媒体の2つを見てください。購買への寄与を測った国内の公開調査は、2026年10月5日時点で見つかっていません。御社では、商談で「番組を聴いていましたか」と営業担当者が尋ねるところから始められます。
出典