過去に取引のあった顧客へ連絡する理由が見つからず、名刺を保管したままにしていませんか?関係を再開するには、売り手の都合で掘り起こすよりも、相手が連絡を受ける理由をつくることが大切です。
この記事では、既存顧客との関係が利益に与える影響と、取材の依頼をきっかけに関係を再開する方法について取り上げます。依頼から再商談までの流れや、この方法が向かない相手、関係の再開を確かめる指標もお伝えします。
この記事でわかること
既存顧客の維持が利益に与える影響と研究の事例
「掘り起こし」という言い方が見落としている、相手の立場
名刺の情報と実際の関係に隔たりが生まれる理由
メールマガジンで関係を保つための条件と限界
取材の依頼が既存顧客に対して働く仕組みと研究の裏づけ
顧客をゲストに招き、導入事例と関係の両方を残す方法
取材の依頼から再商談までを計画するための6段階
取材を起点とした関係の再開が向かない相手と会社
関係の再開を確かめる指標と、測定上の注意点
目次
既存顧客との関係は、利益にどう影響するのか 「掘り起こし」という言い方が見落としている、相手の立場 名刺の束が、資産にならない理由 メールマガジンという経路と、その限界 取材の依頼が、既存顧客に対して働く仕組み 顧客をゲストに招くと、導入事例と関係の両方が残る 依頼から再商談までの6段階 この方法が向かない相手と、向かない会社 何を測るか まとめ この記事からわかるQ&A 出典
既存顧客との関係は、利益にどう影響するのか
まず、既存顧客の維持が経営の数字にどれほどの意味を持つのかを、公表されている研究や企業の例から確かめます。
フレデリック・ライクヘルドとアール・サッサーは、1990年に「Zero Defections」と題した論文を Harvard Business Review の9-10月号に発表しました。2人の主張は、利益を出せる顧客を1人でも多く引き留めれば、サービスの品質と利益の両方が高まるというものでした。
論文によると、毎年、顧客の15〜20%が離脱する企業は珍しくありません。そのうえで2人は、顧客の離脱をわずか5%減らした結果として、ある銀行の支店網で利益が85%、保険の代理店で50%、自動車整備のチェーンで30%増えた例を挙げています。デラウェア州のクレジットカード会社MBNAアメリカが確かめたのは、離脱率を5%改善すると、顧客1人あたりの平均価値が125%を超えて高まるという関係です。
数値の読み方には注意が要ります。これらは業種も規模も異なる個別の企業の実測で、どの会社でも同じ倍率が出るとは限りません。論文も、離脱率と利益の関係の形は業種によって異なるとしたうえで、一般に離脱率が下がるほど利益は上がると述べています。
この論文が同時に指摘したのは、離脱した顧客の声を聞くことの価値でした。MBNAアメリカでは1982年、不満の手紙が続いたことを受けて、社長が300人の従業員全員を集め、すべての顧客を満足させて引き留めると宣言し、その後は離脱した顧客から意見を集めて、商品や業務の手続きを改善していきました。
8年後、MBNAアメリカで1年に離れる顧客はおよそ5%となり、業界平均の半分にまで下がりました。買収をしないまま、業界順位は38位から4位へ上がり、利益は16倍に増えています。
論文は、離れた顧客を探す理由の1つは取り戻すことだとしながら、より大事な理由は、離れた顧客だけが見せてくれる事業の姿を知ることだと書いています。離れた理由を聞けば、自社のどこが足りていないかと、どこへ資源を向けるべきかが見えてくる、というのが論文の考え方です。ライクヘルドはその後、2003年に同誌で「The One Number You Need to Grow」を発表し、顧客推奨の指標づくりへ進みました。
「掘り起こし」という言い方が見落としている、相手の立場
新しい商材ができた、期末の数字が足りない、担当者が代わった。休眠顧客へ連絡する理由として挙がりやすいこうした事情は、どれも送り手の側の事情です。
相手の立場から見ると、この連絡は数年ぶりに届いた売り込みです。前回の取引から時間が空いているぶん、相手にとっての心理的な距離は初対面に近いと私たちは考えています。送り手が関係は残っていると思っていても、相手が同じように思っているかは分かりません。
ここに、再開の設計が要る理由があります。必要なのは、相手を掘り出す作業よりも、相手が連絡を受ける理由をつくる作業です。
調査会社の Gartner は、2024年8〜9月にBtoBの買い手632人へ調査を行い、2025年6月に結果を公表しました。61%が、営業担当者を介さずに買うことを全体として好むと答えています。73%は、自分に関係のない売り込みを送ってくる供給企業を積極的に避けていると答えました。
同じ調査で、買い手が売り手の意見を求めると答えたのは、自社に合う商品かどうかを見極める場面でした。そこで勧めたいのは、売り手の都合で連絡のタイミングを見計らうよりも、相手が自社に合うかを確かめたくなったときに、相談先の候補として思い出してもらえる関係を築くことです。
名刺の束が、資産にならない理由
多くの会社には、過去の取引先と交換した名刺が、社内のどこかに保管されています。この名刺の束は、置いておくだけでは資産になりません。
理由は2つあります。1つ目は、名刺が過去の一時点の情報だという点です。数年のあいだに担当者の異動や部署の統合、会社の合併が起これば、名刺に記された内容の一部は実態と合わなくなります。
2つ目は、名刺が一方向の情報だという点です。こちらが相手を知っていても、相手がこちらを覚えているかどうかまでは分かりません。保有している名刺の数と、実際に保てている関係の数は、分けて考える必要があります。
名刺の保有数と再取引の関係を直接確かめた国内の調査や研究を、私たちは見つけられませんでした。ここから先は、私たちの見立てです。
名刺の束を資産へ変えるために要るのは、定期的に相手へ届く経路です。継続して情報が届いていれば、相手に必要が生じたとき、相談先の候補として思い出してもらいやすくなります。届いていなければ、名刺は連絡先の記録のままです。
私たちは、届けるべき相手は、これまで交換してきた名刺の中にいると考えています。営業に伺ったもののタイミングが合わずにそのままになっている方や、会合で名刺を交換しただけで、こちらのことがよく伝わらなかった方です。
展示会で交換した名刺がその後の関係につながりにくい理由は、展示会で交換した名刺が、なぜその後につながらないのか で整理しています。
メールマガジンという経路と、その限界
過去の取引先や既存顧客に定期的に届く経路として、メールマガジンは費用を抑えて始めやすい手段です。手元の名刺を出発点にできるので、ほかの経路より準備に手間がかかりません。
個人情報保護委員会は、事業者の従業者であることを明らかにしたうえで名刺を交換した場合、その連絡先へ自社の広告宣伝のメールを送ることは「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」に該当すると説明しています(同委員会のQ&A、2021年9月更新)。あわせて同委員会は、受信を拒む連絡を受けたときの対応など、特定電子メール法をはじめとするほかの法令も守る必要があるとしています。
メールマガジンが関係を保つのに役立つかどうかを決めるのは、内容の設計です。自社の新商品や実績の告知だけを並べたメールは、受け取った相手から見れば広告で、読まれないまま配信停止や迷惑メールの報告につながるおそれがあります。
Google は、迷惑メールとして報告されることが多い送信元からのメールは、次も迷惑メールに振り分けられやすくなり、報告が重なると送信元のドメインの評価も下がると説明しています。Gmail のアカウント宛てに1日5,000通を超えて送る送信者には、2024年2月から、ワンクリックで配信を止められる仕組みなどが求められるようになりました。
反対に、読む価値のある内容が入っていれば、メールマガジンは関係を保つ経路として役に立ちます。読まれ方を左右するのは、業界の動きの整理、他社が直面している課題、経営者自身が最近考えていることなど、相手の判断に役立つ情報が入っているかどうかです。
私たちは、売り込みのメールの代わりに、番組のお知らせを入口に、相手の仕事に役立つ話を定期的に届けることを勧めており、アストライドも制作した番組をホームページとメールマガジンでお知らせしています。
そのため、メールマガジンには編集の工程が欠かせません。私たちの考えでは、読まれるかどうかを分けるのは、書き手が思いついた順に書いた文章か、読み手の関心から並べ直した文章かの違いです。誰に向けて書き、読み手にどんな気づきや判断材料を持ち帰ってもらうのか。この2点を決める作業が、編集にあたります。
編集を省いた配信を続けると、迷惑メールの報告が重なり、いざ大事な知らせを送るときに届かなくなるおそれがあります。その意味で、編集を省いたメールマガジンは、送っていない状態より悪い結果を招きかねません。
メールマガジンに音声を組み合わせたときに何が変わるかは、メールマガジンに音声を足すと、何が変わるか で解説しています。
取材の依頼が、既存顧客に対して働く仕組み
メールマガジンが関係を保つ経路だとすれば、関係を次の段階へ進めるには、別の接点も用意しなければなりません。私たちが勧めるのは、取材の依頼です。
アメリカの社会学者アルヴィン・ガウルドナーは、1960年に「相互性の規範」という考え方を、American Sociological Review の第25巻2号で提示しました。ガウルドナーによると、この規範は、普遍的な形では2つの最小限の要求を含みます。1つは自分を助けてくれた人を助けること、もう1つは自分を助けてくれた人を害さないことです。
取材の依頼は、この規範に沿った申し出だと私たちは考えています。依頼する側が求めるのは相手の時間で、その代わりに差し出すのは、相手が自らの考えを語る機会と、その内容を公開コンテンツとして残すことです。連絡が途切れていた相手にも、この申し出は数年ぶりの売り込みとは別のものとして受け止められやすくなります。
依頼が通ったあとの動きにも、参考になる研究があります。スタンフォード大学のジョナサン・フリードマンとスコット・フレイザーは、1966年に「フット・イン・ザ・ドア」と呼ばれる現象を報告しました。掲載誌は Journal of Personality and Social Psychology の第4巻2号です。
1つ目の実験の対象は、カリフォルニア州パロアルトの主婦156人でした。家庭で使う石けんについて、電話で短い質問に答えた人のうち、3日後に調査員を自宅へ2時間ほど迎える大きな依頼に応じた人は半数を超えています。最初から大きな依頼だけを受けた人では、応じた割合は23%未満でした。2つ目の実験では、2つの依頼を別々の人が数週間あけて頼んだ場合にも、同じ傾向が見られています。
著者たちは、どの依頼も非営利とみられる団体からのものだったと書き、商品を売り込む場面でも同じ手法が通用するかは、まだ確かめられていないとしています。この研究から言えるのは、小さな依頼に応じた経験が、その後の依頼に応じる割合を高める傾向があった、という範囲です。
1時間の取材に応じた相手にとって、その後に届く近況の連絡や短い相談は、最初の依頼より小さな申し出です。ただし、取材という名目で商談を始める意図があると相手が察すれば、相互性の規範に沿った申し出という前提は崩れます。
顧客をゲストに招くと、導入事例と関係の両方が残る
既存顧客を取材するという形には、もう1つの利点があります。1回の時間から、関係とコンテンツの両方が残る点です。
米国のジェームズ・カーバリーは、2019年12月に出した著書『Content-Based Networking』で、偶然の出会いや交流会に頼らず、関係を築きたい相手と接点をつくる方法として、この考え方を紹介しました。著書の紹介文によれば、この考え方を広めた場は、カーバリーの会社 Sweet Fish Media と、自身のポッドキャスト番組「B2B Growth」です。Sweet Fish Media は、BtoB企業の動画ポッドキャストの制作を請け負っています。
顧客の承諾と公開範囲の合意があれば、顧客を招いた回は導入事例としても使えます。自社が書いた事例紹介は自社の主張で、顧客本人が語った内容は顧客自身の言葉です。読み手や聴き手の受け止め方も、自社の事例紹介とは変わってきます。
Demand Gen Report が2018年に、BtoB企業の役員から部長クラスまでのおよそ170人に尋ねた調査では、79%が好むコンテンツの形式として事例紹介を挙げ、64%が事例紹介を同僚と共有すると答えました。また、購買の初期の段階でポッドキャストを好むと答えた人も64%いました。
内容を文字で読むか、本人の声で聞くかによっても、話し手の受け取られ方は変わります。シカゴ大学の Schroeder と Epley の実験(2015年)では、採用担当者などが就職希望者の売り込みを、文字で読んだ場合より声で聞いた場合のほうが、その人をより有能で、思慮深く、知的だと評価しました。意見が対立する話題でも、相手の考えを声で聞いた人は、同じ内容を読んだ人より、相手の思考力をより高く評価しています(2017年)。
公開後は、取材を受けた相手が出演回を自社の媒体で共有すれば、自社の発信とは別の経路で、相手の会社の関係者にまで内容が届きます。
コンテンツとしての需要は、ほかの調査にも表れています。Edelman と LinkedIn による2024年の報告書が対象にしたのは、7か国の管理職層およそ3,500人です。意思決定者と経営層の75%が、ある専門的な知見の発信(ソートリーダーシップ)のコンテンツをきっかけに、それまで検討していなかった製品やサービスを調べたと答えました。
国内の状況も見ておきます。オトナルと朝日新聞社が2026年2月に公表した第6回調査(2025年12月実施)では、15〜69歳の1万人のうち、月に1回以上ポッドキャストを聴く人は18.2%で、前年の調査から1ポイント増えました。2020年の第1回調査では14.2%でした。月に1回以上聴く人800人に尋ねた結果では、66.4%が番組で聴いた商品や場所、サービスを検索した経験があり、54.8%が、番組で紹介された商品を買ったり、その場所を訪れたりした経験があると答えました。
依頼から再商談までの6段階
既存顧客との関係を再開するまでの流れは、大きく6つの段階に分かれます。
第1段階は、対象の選定です。過去の取引の規模だけで選ぶと、話す材料の少ない相手が混ざります。相手の会社の最近の事業や発信を調べたうえで、聞きたいことがある相手を選んでください。
第2段階は、依頼です。文面には、番組や媒体の趣旨と掲載先、なぜその相手なのか、当日の質問、公開の範囲と時期の4点を書きます。自社のサービスの説明と商談の希望は、この段階では書きません。
第3段階は、収録です。聞き役に徹してください。収録のあいだに相手が口にした課題に対して、その場で営業の提案を始めると、取材の場が商談の場に変わってしまいます。
第4段階は、公開と共有です。公開した回のURLを相手へ送り、相手の会社が使ってよい範囲(自社のサイトやSNSでの共有など)を伝えてください。相手が自社の媒体で共有したとき、関係は取引先から発信の協力者へと広がります。
第5段階は、継続の接点づくりです。メールマガジンを送ってよいか相手の同意を確かめたうえで配信先に加え、配信を止める方法も示して、以後の号が届く状態にしておきます。ここが途切れれば、取材は一度きりの出来事で終わり、関係の再開には至りません。
第6段階で、ようやく再商談に入ります。相手の会社に必要が生じたとき、最初に思い出してもらえる相手になっていることが、この段階の目標です。こちらから商談を切り出すことを前提にした設計にはしないでください。
この方法が向かない相手と、向かない会社
すべての既存顧客に、取材を起点に関係を再開するこの方法が合うとは限りません。
対象から外すのは、取引が途切れた理由がこちらの側の失敗にある相手です。トラブルの記憶が残っている状態で取材を申し込むと、相手はそれを取り繕いの試みとして受け取るおそれがあります。この場合に先に行うべきなのは、取材よりも、事実の確認と説明です。
自社の競合企業との取引が深まっている相手も、慎重な扱いが必要です。公開を前提とした取材に出ることは、相手にとって、こちらとの関係を外部に示すことになります。先方の事情を先に確かめてください。
送り手の側の条件もあります。番組や媒体が実在し、過去の回が公開されていることが条件です。単発の依頼のためだけに番組を立ち上げても、媒体としての信頼や公開の実績は積み上がりません。
配信と連絡と制作を続ける体制を組めない会社にも向きません。第5段階の継続の接点が抜けると、それまでに費やした時間が次につながらないまま終わります。
何を測るか
この取り組みの効果を再商談の件数だけで測ると、経営者は判断を誤ります。取材から再商談までの期間は長く、その間に相手の会社の優先順位や担当者も変わるためです。
追いやすい指標は4つあります。依頼に対する承諾の割合、公開した回を相手が自社の媒体で共有した割合、メールマガジンのリンクのクリックや返信の割合、そして相手から自発的に相談や問い合わせが来た件数です。
メールの開封率は、補助の数字として扱ってください。Mailchimp によると、Apple のメールアプリでプライバシー保護の機能を使っている受信者のメールは、実際には開かれていなくても開封として数えられることがあり、Google も、開封率の低さだけでは、届いているかどうかや迷惑メールに振り分けられたかどうかは分からないとしています。
4つのうち、相手から自発的に相談や問い合わせが来た件数は、関係が一方向の発信で終わらずに、再び始まったかどうかを見る目安です。
ライクヘルドとサッサーが論じたとおり、離れた理由を聞くこと自体が改善策を考える手がかりになり、取材の後の対話で、取引が途切れた背景を率直に尋ねられる関係ができていれば、それだけで自社の課題が1つ見えてきます。
取引が途切れた顧客をゲストに招く番組を始めたい場合は、アストライドの「既存顧客との関係づくりに音声を活用する」 をご覧ください。
まとめ
顧客の離脱を5%減らした例として、ある銀行の支店網では利益が85%、保険の代理店では50%、自動車整備のチェーンでは30%増えました。既存顧客を引き留められるかどうかで、利益は大きく変わります。
一方で、休眠顧客の掘り起こしという言い方が指しているのは、送り手の都合から設計された働きかけです。相手の立場から見れば、その連絡は数年ぶりに届いた売り込みにすぎません。必要なのは、相手が連絡を受ける理由をつくることです。
名刺の束は、それ自体では資産になりません。相手が必要になったときに思い出す候補に入る条件は、定期的に届く経路です。メールマガジンはその経路として始めやすい一方、編集を省けば、いざというときに届かなくなるおそれがあります。
関係を一歩進める手段が、取材の依頼です。相互性の規範に沿った申し出なので、数年ぶりの連絡でも売り込みとは別のものとして届きやすくなりますが、取材という名目で商談を始める意図があると相手が察すれば、この前提は崩れます。
最初にやることを1つだけ挙げるなら、過去3年で取引が途切れた顧客を5社書き出し、その5社それぞれについて、相手の会社のいまの取り組みを踏まえて「いま聞いてみたいこと」を1つずつ書いてみてください。書けない相手が混ざっているなら、その相手に対して先に要るのは依頼よりも、相手を知り直す時間のほうです。
この記事からわかるQ&A
数年ぶりに連絡して、迷惑がられませんか
連絡の中身によって受け取られ方が変わります。新商品の案内であれば、相手にとっては数年ぶりの売り込みです。取材の依頼は、ガウルドナーが1960年に American Sociological Review で示した相互性の規範に沿った申し出だと私たちは考えています。相手が受け取るのは、自分の考えを語る場と公開されるコンテンツです。依頼の文面には、所要時間、当日の質問、公開の範囲と時期を書いておいてください。
メールマガジンを送るだけでは足りませんか
メールマガジンは関係を保つ経路として役立つ一方、関係を一歩進める力までは持ちません。編集を省いて自社の告知だけを並べると、読まれないまま配信の停止や迷惑メールの報告を招き、次のメールも届きにくくなるおそれがあります。関係を保つ経路としてのメールマガジンと、関係を進める手段としての取材を分けて設計してください。
取材した内容は、事例紹介として使えますか
使えます。自社が書いた事例紹介と、顧客本人が語った内容では受け取られ方が変わるためです。Demand Gen Report が2018年にBtoB企業のおよそ170人に尋ねた調査では、79%が好む形式として事例紹介を挙げ、64%が購買の初期の段階ではポッドキャストを好むと答えました。公開の範囲と時期、相手の会社で使ってよい範囲は、依頼の段階で相手と合意しておいてください。
効果はどう測ればいいですか
再商談の件数だけで測ると、経営者は判断を誤ります。依頼の承諾件数、相手が自社の媒体で共有した件数、メールマガジンのクリックや返信の件数、相手から連絡が来た件数の4つが、追いやすい指標です。再商談は、これらより後に現れる数字として扱ってください。開封率については、実際には読まれていないメールも開封として数えられることがあり、補助の数字にとどまります。ライクヘルドとサッサーの論文では、離脱を5%減らした銀行の支店網で利益が85%増えました。
やらないほうがいいのは、どんな場合ですか
取引が途切れた理由が、こちらの側の失敗にある相手です。トラブルの記憶が残っている状態で取材を申し込むと、相手はそれを取り繕いの試みとして受け取るおそれがあります。この場合に先に要るのは、取材よりも、事実の確認と説明です。
出典
Reichheld, F. F., & Sasser, W. E. (1990). “Zero Defections: Quality Comes to Services.” Harvard Business Review, 68(5), 105–111(1990年9-10月号)。顧客の離脱を5%減らした例として、銀行の支店網で利益85%増、保険の代理店で50%増、自動車整備チェーンで30%増。MBNAアメリカは離脱率の5%の改善で顧客1人あたりの平均の価値が125%超増加。同社の離脱率は約5%で業界平均の半分、業界順位は38位から4位、利益は16倍 https://hbr.org/1990/09/zero-defections-quality-comes-to-services
Reichheld, F. F. (2003). “The One Number You Need to Grow.” Harvard Business Review(2003年12月号) https://hbr.org/2003/12/the-one-number-you-need-to-grow
Gouldner, A. W. (1960). “The Norm of Reciprocity: A Preliminary Statement.” American Sociological Review, 25(2), 161–178. 相互性の規範を提示した論文 https://doi.org/10.2307/2092623
Freedman, J. L., & Fraser, S. C. (1966). “Compliance without pressure: The foot-in-the-door technique.” Journal of Personality and Social Psychology, 4(2), 195–202. スタンフォード大学。2つの実験で、小さな依頼に応じた人が後の大きな依頼にも応じやすいことを示した。依頼はいずれも非営利とみられる団体によるもの https://doi.org/10.1037/h0023552
Gartner(2025年6月25日)”Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience”. 2024年8〜9月、BtoBの買い手632人への調査。61%が営業担当者を介さない購買を好み、73%が関係のない売り込みを送る供給企業を積極的に避ける https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-06-25-gartner-sales-survey-finds-61-percent-of-b2b-buyers-prefer-a-rep-free-buying-experience
Carbary, J. (2019). Content-Based Networking: How to Instantly Connect with Anyone You Want to Know. Lioncrest Publishing(2019年12月18日). 著者は Sweet Fish Media とポッドキャスト番組「B2B Growth」を通じてこの考え方を広めた https://www.amazon.com/Content-Based-Networking-Instantly-Connect-Anyone-ebook/dp/B082VWVQRY
Demand Gen Report “2018 Content Preferences Survey Report”. BtoB企業の役員から部長クラスのおよそ170人が対象。好む形式として事例紹介79%、同僚と共有する形式として事例紹介64%、購買の初期の段階でポッドキャストを好む64% https://www.demandgenreport.com/resources/2018-content-preferences-survey-report/4979/
Edelman × LinkedIn “2024 B2B Thought Leadership Impact Report”. 7か国の管理職層およそ3,500人が対象。意思決定者と経営層の75%が、あるソートリーダーシップのコンテンツをきっかけに、それまで検討していなかった製品・サービスを調べたと回答 https://www.edelman.com/sites/g/files/aatuss191/files/2024-02/_2024%20Edelman-LinkedIn%20B2B%20Thought%20Leadership%20Impact%20Report%20Final.pdf
オトナル×朝日新聞社「PODCAST REPORT IN JAPAN 第6回ポッドキャスト国内利用実態調査」2026年2月25日公表。2025年12月5〜6日実施、15〜69歳の10,000人と、月1回以上聴く800人。月間利用率18.2%(前年から1ポイント増、2020年は14.2%)、番組で聴いた内容の検索経験66.4%、購入・訪問経験54.8% https://otonal.co.jp/news/50748
Schroeder, J., & Epley, N. (2015). “The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal.” Psychological Science, 26(6), 877–891 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25926479/
Schroeder, J., Kardas, M., & Epley, N. (2017). “The Humanizing Voice: Speech Reveals, and Text Conceals, a More Thoughtful Mind in the Midst of Disagreement.” Psychological Science, 28(12), 1745–1762 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29068763/
個人情報保護委員会「名刺交換により取得した連絡先に対して、自社の広告宣伝のための冊子や電子メールを送ることはできますか」(Q&A、令和3年9月更新) https://www.ppc.go.jp/all_faq_index/faq1-q4-16
Google “Email sender guidelines”(Gmail ヘルプ。2024年2月1日から送信者の要件を適用) https://support.google.com/mail/answer/81126?hl=en
Mailchimp “Apple Mail Privacy Protection (MPP) FAQs” https://mailchimp.com/help/apple-privacy-faq/