自社について話すとき、機能・実績・価格を並べたサービス紹介をしていませんか?語り手が何を見て何に迷い、何を選んだかまで話せば、聞き手は判断の経緯を受け取れます。
この記事では、自社の話が営業トークになる理由と、ナラティブで語ったときの聞き手の受け取り方について取り上げます。企業が語れる題材の種類に加え、ポッドキャストで判断の経緯を話す意義と、聞き手と一緒に言葉を探す方法もお伝えします。
この記事でわかること
自社紹介が営業トークになる理由
ナラティブの意味と、説明との違い
物語を聞く人の受け取り方と、その限界
企業が語れるナラティブの題材
ポッドキャストで判断の経緯を語る意義
目次
自社のことを話すと営業トークになる理由 ナラティブとは何か 説明・ストーリー・ナラティブの違い 物語に入り込んだ聞き手に起きること B2Bの買い手も、個人にとっての価値で判断している 企業が語れるナラティブの種類 ポッドキャストで判断の経緯を語る意義 ナラティブにしても変わらないこと 語る題材の書き出し方と、聞き手が入ると出てくる言葉 まとめ この記事からわかるQ&A 出典
自社のことを話すと営業トークになる理由
経営者や担当者は、自社を紹介するとき、相手に選んでもらうための根拠として機能・実績・価格を挙げます。話す内容をこの根拠だけに絞ると、聞き手は会社が何を提供するかを確認できても、経営者がなぜその事業や方法を選んだかまでは分かりません。自社について語っているつもりでも、話し手はサービスの説明を続けています。
聞き手は、話の内容とともに、話し手が何のために話しているかも判断します。売り込みだと受け取った聞き手は、話し手が自社に有利な情報を選んでいる可能性を考え、説明をそのまま受け取るとは限りません。経営者が根拠を増やしても、聞き手は売り手の意図を踏まえて評価する場合があります。
フリースタッドとライトは1994年、こうした受け取り方を説得知識モデルとして整理しました。このモデルによれば、聞き手は広告や販売の試みを経験するなかで、説得する側の目標や手口について知識を育て、その知識を使って説得に対処します。両氏はこの論文で、聞き手が商品や売り手への態度を更新していく過程を、考え方の枠組みとして示しました。
この枠組みを使うと、経営者や担当者は、聞き手が説明を割り引いて聞く理由を考えられます。ただし、説得の意図に気づいた聞き手も、話をすべて拒むとは限りません。聞き手は意図を踏まえながら内容を評価するため、発信する側も、納得してもらうための根拠と、自分の判断を知ってもらうための語りを分けて考えます。
ナラティブとは何か
ナラティブは、人が語る行為と、その人が語った物語の両方を指す言葉です。企業の発信で使うときは、出来事に加えて、語り手がその出来事をどう捉えたかまで含めて考えると扱いやすくなります。経営者の場合、自分の視点から何を見て、何に迷い、何を選んだかを語る行為と、そうして語った物語がナラティブです。
ブルーナーが示した2つの思考の様式
心理学者のブルーナーは、1986年の著書『Actual Minds, Possible Worlds』で、人の思考の様式を論じています。ブルーナーは、思考の様式を、論理・科学の様式と物語の様式の2つに分けました。ブルーナーは、一方の様式をもう一方へそのまま置き換えられるとは考えていません。
論理・科学の様式で考える人は論証を形式的・経験的な証明によって確かめ、物語の様式で考える人は登場人物の行為や経験を、本当らしいかどうかで受け止めます。ブルーナーは、論証は真であることで、物語は本当らしさで相手を納得させる、と説明しました。
企業の発信に当てはめると、担当者は機能や実績を説明するとき、相手が確かめられる根拠を示します。経営者が判断の経緯を語るときは、結論だけで話を終える必要はありません。聞き手がその状況で何を考えて選んだかを追えるように、経営者は当時の状況と自分が見ていた選択肢を先に言葉にします。
宇田川元一氏の「語り手の解釈の枠組み」
宇田川元一氏は、2019年10月18日の『日本の人事部』のインタビューで、著書『他者と働く』での言葉の使い方を説明しています。本の中でのナラティヴの位置づけは、「語り手の解釈の枠組み」です。宇田川氏の説明では、その枠組みは、自身の仕事上の役割や社会的な立場、職業の規範、置かれている環境の文化を通じて形づくられます。
経営者と社員が同じ出来事について語る場合でも、担当する役割によって、二人が注目する点は同じとは限りません。担当者が経営者に話を聞くときに、出来事の確認に加えて、どの立場から何を重要だと捉えたかも尋ねれば、担当者はその人の解釈まで確かめられます。
説明・ストーリー・ナラティブの違い
この記事では、機能・実績・価格を並べて相手を納得させようとする話し方を、説明と呼びます。これに対してナラティブは、語り手が判断に至る経緯を、自分の視点から話す語り方です。同じサービスについて話していても、話し手が何を語り、聞き手が何を確かめるかで、2つは分かれます。
本田哲也氏は、東洋経済オンラインの対談(2022年3月31日表示)で、企業コミュニケーションにおけるストーリーとナラティブを区別しています。本田氏の区別の中心は、誰が主役になり、誰と物語をつくるかの違いです。本田氏はこれまでの企業の発信について「ステージも、そこに上がる主役も自社だった」と述べ、いまは「主役は顧客(他者)」だと説明しています。
区分 話し手が中心にする内容 聞き手との関わり 説明 経営者や担当者が、機能・実績・価格などの根拠を並べる 聞き手が、示された条件や主張を評価する ストーリー 本田氏の区別では、企業が自社を主役にして物語を語る 企業が一方的に話し、聞き手が受け取る ナラティブ 語り手が、自分の視点で経験や判断の経緯を語る。本田氏の区別では、顧客などの他者も主役として関わる 語り手と他者が相互に作用しながら、共に物語を紡ぐ
本田氏は、ナラティブが「共につくる」「共に紡ぐ」構造を持つ点を、ストーリーとの最大の違いに挙げています。この区別は、本田氏の企業コミュニケーション論での整理です。宇田川氏は語り手の解釈に、本田氏は他者との関わりに注目しており、2人はナラティブの別の側面を説明しています。
経営者が自分の判断を語るときも、担当者は、顧客や社員がその出来事をどう捉えたかを切り分けて扱います。経営者が他者の解釈まで自分の言葉で決めてしまうと、聞き手は当事者それぞれの視点を確かめられません。企業について語るときには、誰の経験を誰が語っているかをはっきりさせておく必要があります。
経営者が選んだ理由まで話せば、聞き手は機能の説明に加えて、各社の判断を比べる材料も得られるはずです。同業他社との違いを示す方法については、同業他社と同じに見えてしまう会社が、違いを示す方法 で詳しく記載しています。
物語に入り込んだ聞き手に起きること
研究者たちは、聞き手や読者が物語の世界に入り込む度合いに注目し、物語を受け取った人の反応を調べてきました。この節では、聞き手の側で起きる反応を扱います。私は、研究の数値を、経営者が抱く想いの値打ちを測るためには使いません。
グリーンとブロックは2000年、主に大学生が文章を読む実験を報告しています。主要な実験は4つで、参加者はそれぞれ97人、69人、274人、258人でした。物語の世界に入り込む度合いが高い読者ほど物語に沿った信念を持ち、主人公を好意的に評価する、という関係を研究者は確かめています。
実験2では、入り込む度合いの高い読者ほど、物語の中の不自然な点を指摘した数が少なくなりました。聞き手の受け取り方を考えるときは、主人公への評価と、内容を批判的に点検する反応を分けておく必要があります。企業の発信を担当する人も、好意的に受け取られたかと、事実を理解してもらえたかを、同じ物差しでは測れません。
ファン・ラーらは2014年、公刊・未公刊の76本の論文から132の効果量を統合したメタ分析を報告しています。メタ分析は、研究者が複数の研究の結果をまとめて、全体の傾向を調べる方法です。研究者たちは、物語の世界に入り込む度合いについて、次の関係を確かめました。
感情の反応とは、.57の正の関係
態度とは、.44の正の関係
意図とは、.31の正の関係
信念とは、.26の正の関係
物語の主張に対する批判的な考えとは、−.20の負の関係
これらの値は、入り込む度合いと各反応の関係の大きさを表しています。5つの関係のうち最も大きいのは、感情の反応との関係(.57)です。
経営者や担当者が当時の状況、迷った点、選んだ理由を含めて語れば、聞き手は判断を追うための材料を得られます。
B2Bの買い手も、個人にとっての価値で判断している
企業間取引の買い手も、業務上の成果とともに、自分個人にとっての便益を評価しています。CEBのマーケティング・リーダーシップ・カウンシルとGoogleは、2013年の白書でこの点を分析しました。両者はB2Bの買い手3,000人に36ブランド・7カテゴリーについて尋ね、B2Bマーケティング組織50社への聞き取りも行っています。
両者は70を超えるブランドの便益を、業務上の価値と個人にとっての価値に分けています。業務上の価値は機能的な便益や業務上の成果、個人にとっての価値は職業上・社会的・感情的・自己イメージ上の便益です。そのうえで両者は、検討・購入・割増価格の支払い・推奨などの商業的な成果への影響を分析しています。
商業的な成果への影響は、業務上の価値で21.4%、個人にとっての価値で42.6%でした。白書はこの結果を、個人にとっての価値がおよそ2倍の影響を持つと説明しています。個人にとっての価値を認める買い手では、購入する意向を示した割合が71.0%で、認めない買い手の22.6%を上回りました。その差は48.4ポイントです。
経営者が自社について語るときは、聞き手が業務上の条件と、個人としての便益の両方を判断している点を踏まえます。ただし、買い手の気持ちを経営者や担当者が決めつけて話してよいことにはなりません。顧客の語りを扱うときには、本人が何を重要だと捉え、どのような経緯で選んだかを、本人に確かめます。
企業が語れるナラティブの種類
経営者や担当者は、創業の大きな出来事に加えて、日々の判断、失敗、社員や顧客との関わりからも題材を探せます。次の表は、自社の題材を書き出すための整理です。研究者が定めた分類として扱わず、誰の視点で何を語れるかを考える手がかりとして使ってください。
種類 語る人と、書き出す内容 経緯を確かめる着眼点 創業の経緯 創業者が、事業を始める前に見ていた状況や動機を語る 何に迷い、なぜ始めると決めたか 判断の経緯 経営者や担当者が、選択肢と選んだ理由を語る 何を優先し、何を選ばなかったか 失敗と迷い 当事者が、見込みと実際の違いと、その後の判断を語る 当時は何が分からず、どこから考えを改めたか 社員の語り 社員が、自分の役割から見た仕事や判断を語る 経営者と同じ出来事を、どの立場から捉えたか 顧客の語り 顧客が、自分の状況と、検討・選択の経緯を語る 本人は何を重要だと捉え、どう判断したか 地域の語り 経営者や当事者が、地域との関わりを自分の経験から語る 地域で何を見て、自社の仕事をどう捉えたか
創業の経緯と地域の語りに関する資金・正統性の研究については、創業の物語は、資金と正統性をどこまで左右するか で詳しく記載しています。この表に挙げた6種類は、経営者や担当者が題材を探すための分類です。
組織の物語には共通の型も現れる
マーティンらは1983年、組織の物語における独自性のパラドックスを論じました。組織の人々は自社がほかと違うと主張する一方で、多様な組織でほぼ同じ形の物語を語っている、という指摘です。
経営者や担当者が創業の苦労や失敗といった題材の種類だけで自社の独自性を示そうとすると、その話は、ほかの会社とよく似た型の物語に収まりがちです。ただし、当事者が見た状況、迷った選択肢、選んだ理由まで同じかどうかは、題材の種類だけでは判断できません。自社を語る言葉の違いは、機能の説明より、判断の経緯の語りに出ると私は考えています。
失敗や迷いの語りを考える際には、短所にも触れる広告を調べたアイゼンドのメタ分析も参照できます。経営者が聞き手の評価を得るために失敗を演出することと、当事者の経緯を確かめることは、別の作業です。
ポッドキャストで判断の経緯を語る意義
経営者はポッドキャストで、結論に加えて、結論に至るまでの動機や迷いを順に話せます。担当者が機能・実績・価格に話を絞る前に、経営者が判断したときの前提を聞く時間を取れることも、番組で語る利点の一つです。
音声の物語への関与を調べた実験
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのリチャードソンらの研究チームは2020年、18〜55歳の102人を対象にした実験を報告しています。参加者は8作品の情動的な場面のうち、4場面をオーディオブックで、4場面を映画・テレビ版で体験しました。同じ場面を音声と映像の両方で体験した参加者はいません。
参加者の自己申告では、映像での没入が約15%高くなりました。一方で、音声を聴いた参加者は平均心拍が約2拍/分高く、皮膚の電気的な反応も高まっています。研究者たちは、自己申告と身体の反応を分けて、物語への関与を調べました。
この結果から、経営者や担当者は、音声の物語を聴く人の関与の深さを考えられます。
声と文字の違いについては、なぜ声だと理念が伝わるのか で詳しく記載しています。この節の話題は、聞き手が音声の物語にどう関与するかと、経営者が経緯を語る時間の2つです。
判断を語るための時間
経営者が判断の経緯を話すには、その前提となった状況や、選ばなかった案にも触れる必要があります。ポッドキャストは、話し手がこうした経緯に時間を使う構成を検討できる媒体です。経営者や担当者には、番組の長さを先に決めず、何を語るためにどれだけの時間が要るかから考える方法もあります。
担当者は、経営者の話を聞きながら、状況・迷い・選択のどこがまだ言葉になっていないかを確かめます。経営者にとって、聞き手からの質問は、自分が当然だと思っていた前提を言葉にするきっかけの一つです。自社紹介が営業トークになってしまう場合、経営者や担当者は、話す内容を判断の経緯まで広げるところから始められます。
ナラティブにしても変わらないこと
経営者が物語として語っても、聞き手の反論が残る場合があります。モイヤー=グゼとナビは2010年、物語への関与と、説得への抵抗の関係を分けて調べた実験を報告しました。対象は米国の大学生367人で、参加者は約30分のテレビ番組を視聴し、2週間後には353人が回答しています。
参加者は、10代の予定外の妊娠を扱うドラマか、10代の親を取材したニュース形式の番組を視聴しています。研究者たちは、説得の意図を感じにくいことと、登場人物を身近に感じる関係が、押しつけられたと感じて反発することの低さと関係していたと報告しました。登場人物に自分を重ねることと、反論を思い浮かべることの少なさとの関係も、研究者たちは確かめています。
一方で研究者たちは、予測に反して、物語の世界に入り込む度合いと反論の多さとの関係も見つけました。聞き手は登場人物に関わりながら、その話に反論を思い浮かべることもあります。経営者や担当者は、物語にすれば反発も反論も減る、と一括りに説明できません。
短所に触れる訴求も、条件で結果が変わる
アイゼンドは2006年、1960年から2004年初めまでの研究を統合したメタ分析を報告しています。短所にも触れる両面のメッセージは、片面のメッセージに比べて、受け手の態度などの説得の指標が全体として高く、その関係の大きさは.068でした。
説得の指標を変えた条件は5つで、否定的な情報の量、属性の質、否定的な情報を示す位置、肯定と否定の属性の関係、売り手が自分から短所を示したかでした。否定的な情報の量とブランドへの態度の間には、曲線の関係もありました。そのため経営者は、短所を多く語るほど評価されるとは考えず、判断の経緯を理解してもらうのに必要な範囲で、失敗や迷いを語ります。
説明と語りは、それぞれの役割を持つ
ブルーナーは、物語のほうが論証より説得力が高いという優劣を述べていません。ブルーナーの議論の中心は、人が経験を理解するときの、互いに置き換えられない2つの思考の様式です。経営者や担当者も、機能・実績・価格の説明と、判断の経緯の語りを、目的に応じて使い分けます。
聞き手は、経営者の語りを理解したあとも、自分に必要な条件を確かめます。語り方をどれだけ工夫しても、経営者は事実の確認や条件の説明を省けません。話す側は、自社がどう判断してきたかを聞き手が検討できるよう、その材料を示します。
語る題材の書き出し方と、聞き手が入ると出てくる言葉
経営者や担当者は、最初から公開用の文章を仕上げようとせず、出来事と判断のメモから始められます。創業・判断・失敗と迷い・社員・顧客・地域の種類に分けて、思い当たる出来事を書き出してみてください。その時点で理由を説明できない題材も、担当者は候補として残しておきます。
経営者や担当者が、6つの種類ごとに、思い当たる出来事を短く書く。
書いた人が、その出来事を実際に経験した人の名前や役割を書き添える。
当事者が、出来事の当時に見ていた状況と、比べていた選択肢を書き足す。
当事者が、迷った点と選んだ理由、いまの捉え方を言葉にして書く。
担当者が、本人への確認が必要な部分と、まだ言葉になっていない部分を分ける。
経営者は、いまの機能や実績について書いたメモにも、その判断をした理由を書き足せます。担当者が確認する点は、結論だけで話が終わっていないか、当事者の視点が分かるかの2つです。社員や顧客の話についても、担当者は本人の解釈を代わりに決めず、誰に確かめるかをはっきりさせます。
前提を確かめてから掘り下げる
私は経営者にお話をうかがうとき、最初に前提を話していただき、互いの前提を確かめ合ってから掘り下げます。こちらの認識が誤っていれば、その差がそのまま次の質問のきっかけです。聞き手が知らない点を確かめていくうちに、経営者は自分が当然だと考えていた背景まで言葉にできる場合があります。
聞き手が答えの方向を先に決めてしまうことに、私は気をつけています。相手はその方向を感じ取り、こちらがほしそうな答えに合わせて話そうとしてくださるためです。それは相手なりの配慮ですが、その方自身の言葉は出にくくなると私は考えています。
経営者にお話ししていただきたい中身として、私は、事業の裏側にある動機・迷い・哲学、創業の苦労や決断の前夜を挙げています。経営者の想いは、私の考えでは、企業の独自性を形づくる要素の一つです。経営者の想いを言葉にして残す話については、財務諸表に載らない資産 で詳しく記載しています。
何をどう語るかを一緒に考える相手
ポッドキャストは番組の目的がはっきりしているため、アストライドは特に初回の放送の前に、丹念にヒアリングを行います。番組「ガンジス川でスクロール」の準備では、アストライドは何度か打ち合わせを重ね、何をどのように伝えるかを調整しました。経営者が何を語るかを考える段階から、アストライドはお話をうかがい、何をどのように語るかを一緒に考えます。
自分だけでは判断の理由を書き出しにくい場合は、アストライドとの対話も選択肢に入れられます。社員の方にお話をうかがうことも可能です。
まとめ
自社紹介が営業トークになるときは、機能・実績・価格の結論に加えて、何を見て、何に迷い、何を選んだかを語ってみてください。聞き手はその人の視点から判断の経緯を受け取れますが、物語にしても反論や条件の確認は残ります。
まず、自社が語れる題材を10個ほど書き出してみてください。創業・判断・失敗と迷い・社員・顧客・地域に分け、当事者と選んだ理由を添えると、話す候補が見えてきます。自分だけでは言葉にしにくい部分が残ったときは、アストライドにご相談ください。
番組で自社を語りたい場合は、アストライドのポッドキャスト番組制作 のページをご覧ください。
この記事からわかるQ&A
ナラティブと営業トークは、どう違いますか?
営業トークで、経営者や担当者は機能・実績・価格などを示して相手を納得させようとします。ナラティブは、語り手が何を見て、何に迷い、何を選んだかを、そのときの視点から話す語り方です。説明とナラティブを見分けるときは、話の中心が相手を納得させるための根拠か、語り手が判断に至る経緯かを確かめます。
売り込みだと気づいた聞き手は、必ず話を拒みますか?
フリースタッドとライトが1994年に示した説得知識モデルでは、聞き手は説得する側の目標や手口についての知識を使って対処します。このモデルは、聞き手が必ず拒むとは述べていません。聞き手は意図を踏まえながら、商品や売り手への態度を更新していきます。
物語の世界に入り込むと、反論は減りますか?
モイヤー=グゼとナビは2010年の実験(米国の大学生367人)で、登場人物に自分を重ねることと、反論を思い浮かべることの少なさとの関係を確かめています。一方で、物語の世界に入り込む度合いは、予測に反して反論の多さと関係していました。物語にすれば反論が減る、と一括りに考えることはできません。
B2Bでも、買い手は個人にとっての便益で判断しますか?
CEBとGoogleは2013年、B2Bの買い手3,000人の調査と、マーケティング組織50社への聞き取りをもとに分析しています。商業的な成果への影響は、業務上の価値で21.4%、職業上・社会的・感情的・自己イメージ上の便益にあたる個人にとっての価値で42.6%でした。
創業の特別な出来事がなくても、題材は見つかりますか?
経営者や担当者は、日々の判断、失敗と迷い、社員・顧客・地域との関わりからも候補を書き出せます。マーティンらの1983年の研究は、多様な組織でほぼ同じ形の物語が語られていることを指摘しました。題材の種類が同じでも、当事者が見た状況と選んだ理由まで確かめれば、経営者は自社の判断の経緯として語れます。
出典
ブルーナー(Jerome Bruner)、1986年、『Actual Minds, Possible Worlds』、Harvard University Press、第2章「Two Modes of Thought」11〜13頁。思考の様式についての理論の議論。https://www.hup.harvard.edu/books/9780674003668
宇田川元一、2019年10月18日、「組織のわかりあえない対立を読み解く ナラティヴ・アプローチで人事が果たしうる支援とは」、『日本の人事部』。宇田川氏へのインタビュー。https://jinjibu.jp/article/detl/keyperson/2173/
本田哲也ほか、2022年3月31日表示、「企業変革を浸透させる『ナラティブ』とは? 1社での課題解決が困難な今こそ必要な発想」、東洋経済オンライン(PwCコンサルティングの広告企画)。対談記事。https://toyokeizai.net/articles/-/508175
Friestad, M., Wright, P.、1994年、「The Persuasion Knowledge Model: How People Cope with Persuasion Attempts」、Journal of Consumer Research、21巻1号、1〜31頁。説得への対処を整理した理論の論文。https://www.jstor.org/stable/2489738
Green, M. C., Brock, T. C.、2000年、「The Role of Transportation in the Persuasiveness of Public Narratives」、Journal of Personality and Social Psychology、79巻5号、701〜721頁。主に大学生が文章を読む実験。主要な4つの実験の参加者は97人、69人、274人、258人。
van Laer, T., de Ruyter, K., Visconti, L. M., Wetzels, M.、2014年、「The Extended Transportation-Imagery Model」、Journal of Consumer Research、40巻5号、797〜817頁。公刊・未公刊の76本の論文、132の効果量のメタ分析。https://openaccess.city.ac.uk/id/eprint/6755/1/SSRN-id2033192.pdf
Moyer-Gusé, E., Nabi, R. L.、2010年、「Explaining the Effects of Narrative in an Entertainment Television Program: Overcoming Resistance to Persuasion」、Human Communication Research、36巻1号、26〜52頁。米国の大学生367人(2週間後の回答者353人)が約30分のドラマかニュース形式の番組を視聴した実験。https://terpconnect.umd.edu/~nan/738readings/Moyer-Guse%20%20Nabi%202010%20effects%20of%20narrative.pdf
CEB Marketing Leadership Council、Google、2013年、「From Promotion to Emotion: Connecting B2B Customers to Brands」、白書。B2Bの買い手3,000人(36ブランド・7カテゴリー)の調査と、B2Bマーケティング組織50社への聞き取り。https://www.thinkwithgoogle.com/qs/documents/3988/promotion-emotion-b2b_articles_q5pm53H.pdf
Martin, J., Feldman, M. S., Hatch, M. J., Sitkin, S. B.、1983年、「The Uniqueness Paradox in Organizational Stories」、Administrative Science Quarterly、28巻3号、438〜453頁。多様な組織で語られる物語の共通性を論じた研究。https://www.gsb.stanford.edu/faculty-research/publications/uniqueness-paradox-organizational-stories
Eisend, M.、2006年、「Two-sided Advertising: A Meta-analysis」、International Journal of Research in Marketing、23巻2号、187〜198頁。1960年から2004年初めまでの研究を統合したメタ分析。https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0167811606000267
Richardson, D. C. ほか、2020年、「Engagement in video and audio narratives: contrasting self-report and physiological measures」、Scientific Reports、10巻、11298。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究チームの実験。18〜55歳の102人が8作品のうち4場面を音声、4場面を映像で体験。https://www.nature.com/articles/s41598-020-68253-2