経営者の理念や事業に対する想いを、いつか記録しようと後回しにしていませんか?答えの要点は、本人の言葉を残す目的を決め、直接話を聞けるうちに記録の時期を考えることです。
この記事では、企業価値における無形資産の比率の変化とESG評価の現状、経営者の想いを社内・採用・後世のために映像で記録する意味について取り上げます。いま記録する理由と、残しておきたい言葉を考える手がかりもお伝えします。
この記事でわかること
- 無形資産の内容と企業価値に占める比率の変化
- ESG評価で報告されているAIによる文書分析の例
- 社内・採用・後世に向けて経営者の想いを記録する意味
- 本人から直接話を聞けるうちに記録する理由
- 表情や声、語りの間を映像で残す記録の価値
無形資産とは何か
無形資産には、特許や商標といった知的財産だけでなく、ブランド価値、組織文化、人的資本、顧客との関係性なども含まれます。財務諸表には直接現れませんが、企業の競争力や将来性を左右する重要な要素です。
日立総合計画研究所の分析によると、米国S&P500銘柄の企業価値に占める無形資産比率は2020年時点で90%に達しました。1975年には17%だったことを考えると、この変化の大きさがわかります。
一方、経済産業省「通商白書2022」によれば、日本企業の無形資産比率は約30%程度にとどまっており、米国・欧州企業の7割以上と比較すると低い水準にあります。
経営者の理念や哲学、事業に対する想いも、広い意味では無形資産の一部と考えられます。これらは数値化が難しく、従来の財務分析では捉えきれない領域です。上記の比率は企業価値に占める無形資産の割合を示しており、経営者の想いを映像に残すことの効果を示す数字とは区別する必要があります。
ESG評価におけるAIによる文書分析の例
ESG(環境・社会・ガバナンス)評価の分野では、AIを使った分析の例が報告されています。
野村資本市場研究所の報告によると、RepRisk(2006年より運用)やTruvalue Labsなどの評価機関は、自然言語処理技術(NLP)を活用してニュース記事やSNS、規制当局の発表などから企業のESGリスク情報を収集・分析しています。
日本経済新聞(2024年7月)は、ニッセイアセットマネジメントがナウキャスト社と協力し、生成AIを活用して統合報告書を分析する取り組みを報じました。
三菱総合研究所の2024年の研究では、企業のESGへの取り組みが全要素生産性(TFP)の向上を通じて中長期的に財務パフォーマンスを向上させる可能性が示されています。この研究は企業のESGへの取り組みを対象としており、経営者の想いを映像に残すことの効果を示した研究とは別です。
経営者の想いを映像として記録する意味
経営者の想いを映像として記録しておくと、以下のような場面で活用できます。
社内への理念浸透
経営者が自らの言葉で理念や想いを語る映像は、社内コミュニケーションのツールの一つです。パーソル総合研究所の調査では、従業員の約4割が自社の理念を「内容がふんわりしている」「綺麗ごとばかり」と感じていることが報告されています。
経営者が理念の背景や判断の理由を具体的に語れば、その内容を声や表情とともに記録でき、人柄や熱意を受け取る手がかりとなる可能性があります。
採用活動での活用
中小企業白書2024で示されたのは、製品・サービスを差別化している企業のほうが人材の応募を獲得できているという傾向です。経営者が企業の特徴や目指す方向性を語る映像は、求職者に対して企業の独自性を伝える手段の一つとなりえます。
後世への記録
経営者が交代したり、創業者が引退したりした後、その想いや哲学を振り返る資料として映像は価値を持つ可能性があります。映像に残るのは、文字だけでは伝わらない経営者の人柄や語り口です。
なぜ「今」なのか:時間とともに失われるもの
記録には「適切なタイミング」があります。
経営者の語りには、その時々の状況や心境が反映されることがあります。創業期の苦労、成長期の挑戦、転換期の決断。それぞれの局面で記録することで、その時点での受け止め方や判断の背景を具体的な言葉として残せる可能性も考えられます。
また、経営者の記憶や健康状態は、年齢を重ねる中で変化する可能性がある要素です。創業者の引退や世代交代、健康状態の変化によっては、創業時の想いや当時の判断の背景を本人から直接聞くことが難しくなる場合も考えられます。
「いつか記録しよう」と先延ばしにしている間に、引退や健康状態の変化によって、本人の話を記録する機会が失われる可能性があります。事業承継の準備が本格化した時点で、創業者が語れる状態にあるとは限らないため、直接話を聞けるうちに記録する時期を考えることが大切です。
中小企業庁は、2025年には約245万人の中小企業経営者が70歳を超えると推計していました。経営者の想いを記録する際には、本人から直接話を聞ける条件が変わる前に、残しておきたい言葉を聞く機会を設けることが大切です。
映像ならではの記録価値
記録の方法によって、残せるものは異なります。
経営者の想いを記録する方法の例は、社史の編纂、インタビュー記事、理念文書の作成などです。こうした記録方法のなかで、映像には独自の特徴があります。
非言語情報の保存
経営者の表情、声のトーン、話す際の間の取り方、手の動き。これらは文字では記録できない情報です。同じ言葉でも、どのような表情で、どのような語気で話したかによって、伝わる印象は大きく異なります。
再現性の高さ
映像は何度でも同じ内容を再生できます。活用する場面は、新入社員研修、取引先への説明、後継者への引き継ぎなどです。経営者自身がその場にいなくても、視聴した人は経営者の言葉を聞けます。
時代の記録
映像には、その時代の空気感も記録されます。10年後、20年後に見返す人にとっては、当時の経営者がどのような環境で、どのような課題に向き合っていたかを振り返る資料の一つです。
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おわりに
企業価値評価における無形資産の重要性は高まっています。経営者の理念や哲学、事業に対する想いも、その一部です。
経営者の想いを映像として記録することには、社内への理念浸透、採用活動での活用、後世への記録といった目的があります。ただし、引退や健康状態の変化によって本人から直接話を聞ける期間が限られる場合もあるため、記録する時期を考えておくことが大切です。
貴社では、経営者の想いをどのような形で記録していますか。そして、その記録は、いつ行う予定ですか。
この記事からわかるQ&A
無形資産の比率が高いことは、経営者の想いを映像に残す効果の根拠ですか?
企業価値に占める無形資産の比率と、経営者の想いを映像に残すことの効果は、区別して考える必要があります。本文で紹介した比率は、企業価値の構成を示す数字です。映像による記録が企業価値を高める効果を示した数字とは異なります。
ESG評価でのAI活用と、経営者の映像を記録することにはどのような関係がありますか?
本文で紹介しているAI活用は、ニュース記事や統合報告書などを分析する例です。これらの例から、経営者の映像が企業評価の対象になるとは判断できません。ESG評価の現状と、経営者の言葉を記録する目的は、分けて考える必要があります。
経営者の想いを記録する目的は、どう考えればよいですか?
社内で理念の背景を共有したいのか、採用活動で企業の特徴や目指す方向性を説明したいのか、後世に想いや哲学を残したいのかを考えます。誰が何のために見返すかを整理すると、記録する目的を選ぶ手がかりとなるはずです。創業期の苦労、転換期の決断、事業に対する想いなどから、その目的に沿って残しておきたい言葉を書き出してみてください。
引退や事業承継の時期が決まっていなくても、いま記録する意味はありますか?
引退の時期が決まっていなくても、記憶や健康状態が変化すれば、本人から直接話を聞く条件も変わる可能性があります。また、その時点での状況や心境を含めて記録する意味も考えられます。創業時の想いや判断の背景など、いま本人に聞いておきたいことを考えることが大切です。
社史や理念文書があっても、映像で記録する意味はありますか?
社史や理念文書も、それぞれ記録の役割を担う資料です。映像では、語られた言葉とともに、表情、声のトーン、話す際の間、手の動きも残せます。経営者が交代した後に、本人の語り口を含めて振り返る資料として使うことも、目的の一つです。
引用・参考資料
中小企業庁「事業承継に関する現状と課題」
日立総合計画研究所「米国S&P500企業の無形資産比率分析」
経済産業省「通商白書2022」
野村資本市場研究所「AIを活用したESG評価の動向」
日本経済新聞「生成AIを活用した統合報告書分析」(2024年7月)
國部克彦ほか『AIによるESG評価』中央経済社(2023年)
三菱総合研究所「ESGと企業パフォーマンスに関する研究」(2024年)
パーソル総合研究所「企業理念に関する従業員意識調査」
中小企業庁「中小企業白書2024」