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社内報は読まれているのに、なぜ組織は変わらないのか。インナーブランディングの研究から考える、聞く社内報の役割

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社内報を配り、社員が読んでいることも確かめているのに、会社への愛着や仕事での行動が変わったかを、閲覧の状況だけで判断していませんか?社員が理念を知る段階と、理解して共感し、日々の判断に生かす段階を分けると、文字に加えて声で補う内容が見えてきます。

この記事では、理念の受け止め方に関する研究と、文字の社内報と聞く社内報の役割について取り上げます。音声にしても変わらないことと、始める前に社員へ聞く1問もお伝えします。

この記事でわかること

  • 社内広報に触れている社員の割合と、変化を感じた社員の割合
  • 理念を知っている社員と、日々の業務で実践している社員の差
  • インナーブランディングの研究が示す、理解と気持ちと行動の関係
  • 理念の背景を、文字だけでは伝えにくい理由
  • 社内報と聞く社内報の、役割の分け方
  • 聞く社内報だけでは変えられないことと運用上の注意点
  • 聞く社内報を始める前に、理念の浸透度を確かめる質問

社内広報の主な施策は社員の約8割が見ている。とくに変化はないと答えた社員は半数近い

社内広報のコンサルティングを行うタンシキの経営・広報研究所は、2026年2月25日に、全国の常勤役員と正規雇用者1,113名へインターネット調査を行いました。回答者のうち36.7%は従業員99人以下の会社に勤めており、中小企業の社員も多く含まれています。

社内掲示板やWeb社内報、社長・役員の講話といった主要な施策について、それを実施している会社の社員のおおむね8割が「毎回必ず見る」か「たまに見る」と答えました。「全く見ない」と答えた人は、1割を切っています。

同じ調査は、社内広報に触れて意識や行動がどう変わったかも聞いています。複数回答で集計した結果は、次のとおりです。

社内広報に触れて生じた変化(複数回答、n=1,113)割合
他部署の業務内容や、会社全体の動きがわかるようになった22.7%
会社の経営方針や将来のビジョンへの理解が深まった21.8%
業界動向や競合他社についての知識が増えた13.7%
「自分も会社の一員である」という所属意識が強まった10.0%
会社への愛着や誇り(ロイヤリティ)が高まった9.6%
経営層(社長・役員)への信頼感・親近感が増した8.7%
とくに変化はない/あてはまるものはない48.7%

上位に並ぶのは、他部署や会社全体の動き、経営方針といった「知ること」に関わる変化です。会社への愛着や誇りが高まったと答えた人は9.6%、経営層への信頼感や親近感が増した人は8.7%で、とくに変化はないと答えた人は半数近い48.7%でした。

社員は、社内報をはじめとする社内広報を通じて、会社の動きを知ってはいます。一方で、所属意識や愛着、経営層への信頼といった気持ちの変化を挙げた人は、どれも1割前後でした。

理念は「知っている」で止まりやすい

同じ調査は、勤務先に経営理念があるかどうかと、理念をどこまで理解し実践しているかも聞いています。勤務先に経営理念が「ある」と答えた人は53.6%です。

理念があると答えた人の理解と実践の度合いは、次のように分かれています。

理念への関わり方割合
内容を知っている(認知)52.8%
内容を理解している(理解)33.0%
内容を理解したうえで、共感している(共感)9.0%
理解・共感し、日々の業務で意識・実践している(行動)5.2%

この設問は4つから1つを選ぶ形式で、4つの割合の合計は100%です。日々の業務で意識し実践している人は5.2%で、共感している人の9.0%と合わせても14.2%にとどまりました。

理念がどこまで届いているかを測る尺度は、学術研究でも提案されています。廣川佳子と芳賀繁が企業従業員385名のデータをもとに作ったのは、理念の浸透を認知、共感的理解、行動の3つに分けて測る尺度です。尺度の使い方については、社内報が読まれないのはなぜかで詳しく記載しています。

インナーブランディングの研究が示す、理解と気持ちと行動の関係

インナーブランディングとは、会社が掲げる理念や約束を社員に理解してもらい、社員が日々の判断と行動でそれを示せるように働きかける取り組みのことです。海外の研究では、社内に向けたブランドの管理(internal brand management)として扱われています。

Piehler らの研究チームは、2016年に European Journal of Marketing 第50巻9/10号で結果を発表しています。対象は、オーストラリアのサービス業で働く社員375人へのオンライン調査です。

研究チームは、社員について次の4つを測りました。

  • ブランドの理解(ブランドを理解している度合い)
  • ブランドとの同一視(ブランドを自分と重ねて受け止めている度合い)
  • ブランドへのコミットメント(関わり続けようとする気持ち)
  • ブランド市民行動(ブランドを体現する行動)

分析では、ブランドの理解は、同一視とコミットメントを介してブランド市民行動と関連しており、行動との直接の関係も確かめられています。

研究チームは実務への示唆として、社員がブランドを理解していることが、気持ちと行動の土台になると述べています。対象が観光・ホスピタリティ業を中心とした1か国のデータである点は、研究チーム自身が今後の課題に挙げた制約です。

タンシキの調査と Piehler らの研究では、測っている項目がそれぞれ別です。それでも、社内広報で生じた変化の上位が「知ること」に集まり、理念を日々実践している人が5.2%だった結果は、理解を気持ちと行動へつなぐ部分に手当ての余地がある可能性を示しています。

理念の背景は、文字だけでは手がかりが足りない

経営理念の研究には、文字にした理念を、社員が自分の置かれた状況や経験(コンテクスト)を通して解釈するものとして捉える見方があります。野林晴彦は2023年に『経営哲学』第20巻1号で、この見方を記号論にもとづくコミュニケーションの模型で整理しました。

この見方に立てば、同じ理念の文章から社員が受け取る意味は、社員ごとに分かれます。理念が生まれた背景や、経営者がその言葉に込めた意図が共有されなければ、社員が理念を解釈する手がかりは、自分の職務の経験や、上司や同僚とのやり取りが中心です。

解釈の幅が大きく、すり合わせが要る連絡に、どの伝え方が向いているかを調べた研究もあります。Daft、Lengel、Trevino の3氏は1987年に、管理職へのフィールド調査の結果を MIS Quarterly で発表しました。

調査が示したのは、伝達の手段によって、伝えられる手がかりの豊かさが違うという点です。管理職には、解釈の幅が大きい連絡には手がかりの豊かな手段を選び、意味のはっきりした連絡には手がかりの少ない手段を選ぶ傾向がありました。成果の高い管理職ほど、連絡のあいまいさに応じて手段を使い分ける傾向が強いことも報告されています。

理念の背景や、方針を決めるまでに経営者がどの選択肢を比べ、なぜその方針を選んだのかは、社員ごとに解釈が分かれやすい連絡にあたります。文字の社内報だけでは、声の抑揚や話す速さ、間、ためらいといった手がかりは伝わりません。音声であれば、経営者の話し方や間の取り方を通じて、文章だけでは伝えにくい強調点を補えます。

声と文字で受け取られ方がどう違うかを調べた研究については、なぜ声だと理念が伝わるのかで詳しく記載しています。

社内報と聞く社内報は、伝えやすい情報が違う

社内報と聞く社内報は、伝える情報の性質に合わせて役割を分けて使えます。担当者が役割の分け方を決めるときの目安は、次の表のとおりです。

段階社内報(文字)で受け持つこと聞く社内報(音声)で受け持つこと
知る方針、制度、数字、人事の情報を、あとで探して確かめられる形で正確に伝える新しい方針の要点を、通勤や移動の時間に耳から知らせる
理解し、共感する決まったことと根拠の資料、図表、よくある質問を、読み返せる形で整理する経営者が、どの選択肢を比べてなぜ決めたのかを、自分の言葉で話す。他部署の社員が、自分の仕事の意味や工夫を話す
行動する手順、判断の基準、相談の窓口を、読み返せる形で示す配信のあとに話し合う問いを添え、職場で話題にするきっかけにする

知る段階で多くの社員が触れている手段は、社内報です。電通PRコンサルティングの企業広報戦略研究所が上場企業で働く1,000人に行った調査でも、自社の理念を知っていると答えた人が理念を目にする機会の1位は、社内報の60%でした。

聞く社内報は、理解から共感へ進む段階を補う手段の一つです。社内ラジオを聴いたことがある社員144名に行ったオトバンクの調査では、取り上げてほしいテーマとして、経営陣の考えや今後の方針が69%、他部署の仕事紹介が60%挙がっています。

行動の段階では、音声だけで完結させない設計が必要です。タンシキの調査で「上司や同僚との会話のきっかけ・ネタになった」と答えた人は9.4%でした。私たちは、配信を始める前に、各回の内容を職場で話し合うかどうか、話し合うなら誰がいつ場を設けるかを決めておくことをお勧めしています。

会議の外で交わされる会話について、研究が示したことは、社内ポッドキャストに、研究の裏づけはどこまであるかで詳しく記載しています。

企業ポッドキャストの使い道を聴き手別に整理した内容は、シリーズの1回目で確認できます。自社で聞く社内報を始めたい場合は、アストライドの「社内ポッドキャストの導入と運用」をご覧ください。

聞く社内報にしても変わらないこと

理念と、日々の評価や上司のふるまいが食い違っている会社では、経営者が音声で語っても、社員の受け止め方は変わりにくいままです。社員は、言葉に加えて、評価や配置、上司の対応といった日々の運営から、理念が本当に重んじられているかを読み取ります。

制度の改定や決算の数字のように、正確に確かめ直す必要がある情報は、音声で伝える場合も、文字や表で残しておくほうが社員にとって確実です。音声だけでは、聞き逃した箇所を探し、数字や条件を確かめ直すのに手間がかかります。

社内向けの音声配信が理念の浸透に与える効果を、効果の大きさまで比べて確かめた研究は、この記事のために調べた範囲では少数でした。聞く社内報を始めるのであれば、何を、いつ、誰に聞いて変化を確かめるかを、始める前に決めておく必要があります。

始める前に、社員に1つだけ聞いておく

聞く社内報を始めるかどうかを決める前に、社員へ次の1問を聞いてみてください。

  • 当社の経営理念について、いまのあなたにいちばん近いものを1つ選んでください。「内容を知らない」「内容を知っている」「内容を理解している」「理解したうえで共感している」「理解・共感し、日々の業務で意識・実践している」

回答の分布をタンシキの調査の数字と並べれば、担当者は自社の現在地をつかめます。ただし、対象者や調査の条件が違うため、厳密な比較には使えません。認知と理解の回答が多く、共感や実践の回答が少ない場合は、理念の文章を載せ直すことに加えて、経営者の判断の背景や現場の具体例を補う施策を考える余地があります。聞く社内報は、その施策の一つです。半年後に同じ1問を聞けば、担当者は回答の分布の変化を追えますが、その変化には配信のほかに、制度や組織の変化も影響します。

声と文字の違いを研究から確かめたい方はなぜ声だと理念が伝わるのかを、社内だけに音声を配る仕組みの手間を知りたい方はシリーズの次の記事をご覧ください。

まとめ

タンシキの調査では、社内掲示板やWeb社内報、社長・役員の講話といった主な施策を、実施している会社の社員のおおむね8割が見ています。一方で、会社への愛着や誇りが高まったと答えた人は9.6%で、とくに変化はないと答えた人は48.7%でした。

経営理念があると答えた人のうち、理念を日々の業務で意識し実践している人は5.2%で、共感している人を合わせても14.2%です。残りの85.8%の人は、認知か理解の段階にいます。

Piehler らの研究では、ブランドの理解が、同一視とコミットメントを介してブランド市民行動と関連していました。解釈の幅が大きい連絡ほど手がかりの豊かな手段が選ばれる傾向は、Daft らの管理職へのフィールド調査が報告しています。

担当者は、制度や数字のように正確に残す情報を社内報に、経営者の判断の背景や他部署の仕事の意味を聞く社内報に割り振れます。始める前に、理念についての1問を社員へ聞き、半年後に同じ1問で回答の変化を追ってください。

この記事からわかるQ&A

インナーブランディングとは何ですか

会社が掲げる理念や約束を社員に理解してもらい、社員が日々の判断と行動でそれを示せるように働きかける取り組みです。海外の研究では、社内に向けたブランドの管理(internal brand management)として扱われています。Piehler らの研究が報告したのは、ブランドの理解が、同一視やコミットメントを介して、ブランドを体現する行動と関連するという関係です。

社内報は読まれているのに、変化が見えないのはなぜですか

タンシキの調査では、社内広報に触れて生じた変化の上位が、他部署や会社全体の動き、経営方針への理解といった「知ること」です。愛着や誇りが高まった人は9.6%で、とくに変化はないと答えた人は48.7%でした。会社の動きを知ることと、愛着や日々の実践につなげることの間には、隔たりがあります。

社内報をやめて、聞く社内報に切り替えるべきですか

社内報は残したまま、役割を分けることをお勧めします。電通PRコンサルティングの企業広報戦略研究所の調査では、自社の理念を知っている人が理念を目にする機会の1位は、社内報の60%でした。制度や数字は社内報で、経営者がどの選択肢を比べてなぜ決めたのかは聞く社内報で届けると、社員は決まったことと判断の背景の両方を受け取れます。

聞く社内報を始めれば、理念は浸透しますか

社内向けの音声配信で理念の浸透を効果の大きさまで確かめた研究は、この記事のために調べた範囲では少数でした。同じ内容でも、声で聴いた人のほうが話し手を思慮深いと評価した、という実験はあります(Schroeder と Epley、2015年)。ただし、その実験が調べたのは採用の場面での評価で、理念の浸透は測っていません。浸透したかどうかは、認知・理解・共感・行動の段階を自社の社員に聞き、始める前と半年後で回答の分布を比べてください。

何を測ればよいですか

私たちがお勧めするのは、再生数に加えて、理念への関わり方を段階で聞く1問です。タンシキの調査は、理念について認知・理解・共感・行動の4段階で答えてもらう形式を使いました。より細かく測る場合は、廣川佳子と芳賀繁が作った、認知・共感的理解・行動の3つで測る17項目の尺度も使えます。

出典

  • 株式会社タンシキ 経営・広報研究所「社内広報の接触状況に関する実態調査(速報)」2026年2月25日実施、インターネット調査、全国の常勤役員・正規雇用者 n=1,113(従業員99人以下36.7%)。主要施策の接触率(毎回必ず見る+たまに見る)おおむね80%前後 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000180748.html
  • 同 単純集計報告書(PDF)。社内広報に触れたことによる意識・行動の変化(複数回答 n=1,113):他部署の業務内容や会社全体の動き22.7%/経営方針やビジョンへの理解21.8%/業界動向13.7%/所属意識10.0%/愛着や誇り9.6%/会話のきっかけ9.4%/経営層への信頼感・親近感8.7%/とくに変化はない48.7%。経営理念が「ある」53.6%、理解・実践度は認知52.8%/理解33.0%/共感9.0%/行動5.2% https://tanshiki.jp/wp-content/uploads/2026/03/internal_communications_survey_20260401.pdf
  • Piehler, R., King, C., Burmann, C., & Xiong, L. (2016). “The importance of employee brand understanding, brand identification, and brand commitment in realizing brand citizenship behaviour.” European Journal of Marketing, 50(9/10), 1575–1601. オーストラリアのサービス業で働く社員375人へのオンライン調査 https://doi.org/10.1108/EJM-11-2014-0725
  • 野林晴彦(2023)「『表象としての経営理念』に関する理論的検討」『経営哲学』20(1), 2–15 https://doi.org/10.50874/jmp.20.1_2
  • Daft, R. L., Lengel, R. H., & Trevino, L. K. (1987). “Message Equivocality, Media Selection, and Manager Performance: Implications for Information Systems.” MIS Quarterly, 11(3), 355–365. 中間・上位の管理職へのフィールド調査 https://doi.org/10.2307/248682
  • 廣川佳子・芳賀繁「経営理念浸透尺度の開発」『産業・組織心理学研究』第36巻2号、2022年、企業従業員 n=385、17項目3因子(認知・共感的理解・行動) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaiop/36/2/36_173/_article/-char/ja/
  • 電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所「インターナルブランディング調査」上場企業で働く1,000人が対象。自社の企業理念を知っていると答えた人が企業理念を目にする機会は、社内報60%、企業ウェブページ52%、社長のプレゼンテーション・メッセージ46%(Business Insider Japan、2023年11月27日の報道) https://www.businessinsider.jp/post-278832
  • 株式会社オトバンク「社内ラジオ利用調査レポート」2025年6月16〜19日実施、社内ラジオ導入企業の社員で再生実績がある人 n=144 https://note.com/audiobook/n/n7ceb4756b808
  • Schroeder, J., & Epley, N. (2015). “The Sound of Intellect: Speech Reveals a Thoughtful Mind, Increasing a Job Candidate’s Appeal.” Psychological Science, 26(6) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25926479/

この記事の著者

纐纈智英

纐纈智英アストライド-Astride- 代表

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「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。

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