私は2018年から2023年までの5年間、毎週、経営者インタビューの映像を制作してきました。訪問した会社は250社を超え、直接お話をうかがった経営者は200名を超えています。
その250社の中には、代替わりを控えた会社も、代替わりを終えたばかりの会社もありました。そこで私が見てきたのは、引き継ぎ書に書ききれないものが必ず残るという光景です。
この記事では、そこで消えていくものが何なのかについて書いていきます。あわせて、それを言葉にして残すまでの手順もお伝えします。
引き継ぎ書に書けることと書けないこと
私ははじめに、書けることと書けないことを並べてお示しします。
| 書けること | 書けないこと |
|---|---|
| 取引先の一覧と契約条件 | どの相手をどこまで信用してよいか |
| 設備の型番と保守の履歴 | なぜその機械を選んだか |
| 業務の手順書 | 手順を外してよい場面はどこか |
| 決裁の記録 | なぜそう決めたのか |
右の列に並んだ4つの項目は、どれも判断にあたる部分です。判断そのものは手順に落ちませんので、引き継ぎ書には書かれないまま残ります。
営業の引き継ぎで同じことが起きる仕組みは、営業担当が辞めると顧客も離れるのはなぜかにまとめています。
代替わりで消えるもの
先代が現場を離れた時点で、右の列にあったものは会社から消えていきます。
同じ場面に立った後継者は、そこで答えを持っていません。過去の決裁書類には決めた内容が残っていますが、なぜそう決めたのかまでは書かれていないためです。
私が対談の中でうかがってきたのは、この決めた理由のほうでした。経営者の方はなぜその設備を、その年に入れられたのか。なぜその取引先との付き合いを、条件が悪くなっても続けてこられたのか。
判断の理由が語られる場は、会社の中にほとんど置かれていません。日々の業務では、決めた内容を伝えるだけで足りるためです。
財務諸表に載らない部分については、財務諸表に載らない資産で詳しく記載しています。
現場の勘も同じ形で消える
会社から消えるのは、経営者の判断にかぎりません。現場に立つ方の勘も、同じ形で残らずに消えていきます。
職人の方が材料の状態を見て加減を変える場面があります。営業の方が取引先からの電話の調子で、その日の対応を変える場面もあります。この2つは、手順書へ書こうとすると「経験による」の一言に縮んでしまいます。
書けない理由は、その判断が本人の中でも言葉になっていないためです。長く同じ仕事をしてきた方ほど、その判断は考える前に手が動く形で身についています。
社内の人が聞き出しにくい理由
「では社内で聞き取ればよい」と、多くの方はお考えになります。ただ、ここには難しさがあります。
社内の方が先代へ質問する場合、その答えをあらかじめ知っている部分が出てきます。その方は知っていることを聞かずに済ませてしまいますので、そこは言葉として残りません。
もうひとつは、社内での関係の問題にあたります。日々顔を合わせる相手に対して、「なぜそう決めたのですか」と改めて聞く場面は作りにくいところがあります。
私が社外の人間として対談の席に座ってきたのは、この2つを外すためでもありました。私はその会社の答えを知りませんので、聞かずに済ませる質問がありません。
言葉になるまでの時間
こうした話は、対談の冒頭では出てきません。
最初の10分から20分のあいだは、よそゆきの言葉が続きます。30分を過ぎたあたりから、相手の言葉がその人自身のものへ変わります。判断の理由が出てくるのは、この変わり目より後になります。
言葉が変わる場面については、対談で相手の言葉が変わるのは30分を過ぎてからで詳しく記載しています。
私が1回の対談に1時間から2時間をいただいてきたのは、この変わり目より先に時間を残しておくためでした。
聞く順番を決めておく
判断の理由を引き出す場合、質問の順番が結果を分けます。
私は現在の仕事のお話から入り、過去へ戻り、これからの話で閉じる順番を取っています。現在の話を40分ほどしたあとに過去へ戻ると、今との違いが具体で出てきます。
「あのころは営業も自分ひとりでした」「その設備を入れたのは3年前です」といった具体は、こちらから聞かずとも話の中へ入ってきます。
質問の順番については、聴く順番を設計するで詳しく記載しています。
音声という形で残す
判断の理由を残す器として、音声という形には向いているところがあります。
文章にする場合、話した内容を整えなおす作業がそこへ入ります。整えた文章は読みやすくなりますが、話し手の迷いや言い直しは落ちます。音声という形であれば、そこがそのまま残ります。
1エピソードあたりの収録は30分程度で、そこから15分の番組を作ります。月1回配信で年12本の番組であれば、1年で12本ぶんの判断の理由が音源として残る計算です。
社外へ出したくない内容であれば、御社は公開の範囲を絞る形も取れます。社内向けの番組であれば、御社は公開範囲を4段階からお選びいただけます。
代替わりを金融機関へ説明する場面については、株主と金融機関に向けた音声発信という選択肢で詳しく記載しています。
何本くらい要るか
何本あれば足りるという数字を、私は持っていません。ここは見積もりの考え方としてお読みください。
先代が下してきた大きな判断を、後継者の側で10個ほど書き出してみてください。書き出す領域は、設備、取引先、人事、資金の4つです。この4つの領域から2つか3つずつ挙げていただくと、書き出す数は合計で10個ほどに落ち着きます。
その10個を月1回配信で扱った場合、御社は10本÷12ヶ月=1年弱でひととおり残せます。週1回配信であれば、御社は年48本のうち10本をここへ充てる形になります。
始める時期について
代替わりの前と後で比べた場合、前のほうが判断の理由は取りやすくなります。
先代が現場にいるあいだであれば、その方は判断の場面を具体で思い出していただけます。現場を離れて時間が経つと、話の細部は丸くなっていきます。
アストライドの立ち上げは、契約から第1回の公開まで6週間です。最低契約期間の6ヶ月は、その第1回の公開日から数えます。月1回配信であれば、御社はこの6ヶ月で1本×6ヶ月=6本を残せる計算です。
半年という区切りをどこから数えるかは、最低契約期間を6ヶ月にしている理由をご覧ください。
まとめ
引き継ぎ書に書けるのは、取引先の一覧、設備の型番、業務の手順、決裁の記録です。書けないのは、どの相手をどこまで信用してよいか、なぜその機械を選んだか、手順を外してよい場面はどこか、なぜそう決めたのかという4つになります。
書けない4つの項目は、どれも判断にあたる部分です。判断そのものは手順に落ちませんので、先代が現場を離れた時点で会社から消えていきます。
社内の方が聞き取る形には、難しさが2つあります。1つ目は答えをあらかじめ知っている部分を聞かずに済ませてしまうこと、2つ目は日々顔を合わせる相手に改めて聞く場面を作りにくいことです。
判断の理由が語られるのは、対談で30分を過ぎたあとです。音声で残す場合、1エピソードあたりの収録は30分程度で、そこから15分の番組を作ります。
もし代替わりが視野に入っておられるなら、先代が下してきた大きな判断を10個ほど書き出してみてください。書き出す領域は設備、取引先、人事、資金の4つで、それぞれから2つか3つずつ挙げると合計10個ほどになります。
この記事からわかるQ&A
引き継ぎ書では足りないのですか
引き継ぎ書に書けるのは4つです。書けるのは、取引先の一覧と契約条件、設備の型番と保守の履歴、業務の手順書、そして決裁の記録の4つです。書けないのも4つです。どの相手をどこまで信用してよいか、なぜその機械を選んだか、手順を外してよい場面はどこか、なぜそう決めたのかの4つが、そこにあたります。この4つは判断にあたりますので、手順の形には落ちません。
社内で聞き取る形ではだめですか
社内で聞き取る形には、難しさが2つあります。ひとつは、社内の方が答えをあらかじめ知っている部分を聞かずに済ませてしまうことです。もうひとつは、日々顔を合わせる相手に対して「なぜそう決めたのですか」と改めて聞く場面を作りにくいことになります。私は250社を超える会社を社外の人間としてたずねてきましたので、聞かずに済ませる質問がありません。
どれくらいの時間がかかりますか
私は1回の対談に1時間から2時間をいただいてきました。最初の10分から20分はよそゆきの言葉が続き、30分を過ぎたあたりから相手の言葉がその人自身のものへ変わります。ポッドキャストの場合、1エピソードあたりの収録は30分程度で、そこから15分の番組を作ります。立ち上げは契約から第1回の公開まで6週間で、最低契約期間の6ヶ月はその公開日から数えます。
何本くらい残せばよいですか
何本あれば足りるという数字を、私は持っていません。ひとつの目安として、先代が下してきた大きな判断を10個ほど書き出してみてください。書き出す領域は設備、取引先、人事、資金の4つです。月1回配信で年12本の番組であれば、御社は10本÷12ヶ月=1年弱でひととおり残せます。
社外に出したくない話はどうなりますか
御社は、公開の範囲を絞る形を取れます。社内向けの番組であれば、御社は公開範囲を4段階からお選びいただけます。公開の前には、私たちが編集を終えた音源をお送りします。社外へ出せない話が残っていないかを、そこでご確認ください。
出典
- 纐纈智英「CBN営業戦略」講演台本 v17(2026年6月18日/伝七ステーションでの2018年から2023年まで5年間・毎週の経営者インタビュー制作、訪問250社以上・経営者200名超、1〜2時間の対談を10〜15分へ編集、対談で大事にしてきた3つ、言葉が変わる30分過ぎの場面)
- アストライド「社内ポッドキャストの導入と運用|条件・社内工数・費用」公開範囲4段階・収録日3〜4時間(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/internal/
- アストライド「ポッドキャスト制作・運用代行 月15万円〜|収録は月1回|三重・全国対応」番組尺15分・配信頻度別の年間本数・立ち上げ期間6週間・最低契約期間6ヶ月(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/
- アストライド「ポッドキャスト番組制作のご提案」2026年6月26日版・全18ページ p3(取材先の選定から質問設計までの一気通貫、経営者本人すら気づいていなかった想いを言葉に変えてきたこと)
- アストライド「経営者インタビュー」インタビュー実績200社以上(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-interview/
記事を書いた人

アストライド代表 纐纈 智英
アストライド代表。「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した「論理的思考(左脳)」と、音楽コンテストでグランプリを受賞するなど「芸術的感性(右脳)」を併せ持つ、異色のバックグラウンド。これまでに200社以上の経営者インタビューを行った経験を活かし、経営者すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出して映像化する。

私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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