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営業担当が辞めると顧客も離れるのはなぜか。関係を会社に残す方法

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営業担当の退職や異動に伴って顧客との関係が途切れ、取引まで減ってしまう状況を繰り返していませんか?関係を担当者個人に預けたままにせず、顧客の事情や判断の背景を会社に残すことが、引き継ぎの土台です。

この記事では、担当交代が売上に与える影響と後任の選び方、交代後の結果を分ける条件について取り上げます。顧客との関係を会社に残す方法や、番組として記録を残す意味、引き継ぎに活用できる情報もお伝えします。

この記事でわかること

  • 担当交代後の顧客との年間売上の減少幅
  • 後任の業界経験や過去の成績による結果の違い
  • 担当交代が総売上の増加につながる条件
  • 顧客の情報や判断を引き継げるかという分かれ目
  • 顧客との関係が担当者個人に帰属している状態
  • 人と記録を通じて会社として関係を持つ方法
  • 番組で顧客の言葉や声を会社に残す意味
  • 引き継ぎで共有できる情報と記録だけでは補えない部分

担当が辞めると、その顧客との年間売上は13.2〜17.6%減っていた

Shi、Sridhar、Grewal、Lilien の4氏が、2017年に研究を発表しています。掲載は Journal of Marketing 第81巻2号です。

この研究が分析したのは、米国で電気部品を扱う卸売企業1社のBtoBの顧客データで、この企業は Fortune 500 に入る大企業です。研究チームは、担当交代を経験した830社の顧客と、経験していない1,615社の顧客を比較しています。対象企業の業種と顧客数の出どころは、2020年の Schmitz らの論文が先行研究を整理した表です。

研究チームは、営業担当が辞めて顧客を別の担当に割り振り直したときの影響を、差分の差分法という手法で測っています。担当が交代した顧客と交代していない顧客について、交代の前後の売上の変化を比べ、交代による差を推定する手法です。分析では、選択バイアスも補正しています。

条件その顧客との年間売上
営業担当が交代した場合13.2%から17.6%の減少
新たに採用した営業担当に引き継いだ場合既存の営業担当に引き継いだ場合より、損失を抑えにくい

推定値の幅で見ると、1割強から2割近くが落ちる計算です。著者らは、この分析を、営業担当を失ったときの損失を金額で見積もり、顧客を誰に割り振り直すかを決める手段として示しています。

後任を誰にするかで結果が変わる

同じ研究は、後任の属性による差も示しています。

新たに採用した営業担当に引き継いだ場合よりも、社内の既存の営業担当に引き継いだ場合のほうが、売上の減少は相対的に小さくなっています。既存の担当者のなかでも、辞めた担当と過去の業界の経験が近い人のほうが、損失を抑える効果は高いという結果です。

一方で、過去の成績が高い担当者に引き継いでも、成績が平均的な担当者や低い担当者と比べて、損失を抑える効果は高くないという結果も出ています。

後任の側に、その業界の文脈がどれだけ蓄積されているか。私たちは、ここが結果を分けていると考えています。

交代が増収につながる場合もある

一方で、担当の交代を損失としてだけ扱わない研究もあります。

Schmitz、Friess、Alavi、Habel の4氏は、Journal of Marketing に縦断研究を発表しました。論文は2019年10月にオンラインで公開され、2020年1月の第84巻1号に載っています。対象は欧州の大手物流企業1社のBtoB顧客2,040社で、分析に使われたのは2012年から2015年までの4年分の取引記録です。あわせて購買担当者273人への調査と、購買と営業の管理者11人へのインタビューも行われています。

売上の種類担当交代による変化
既存商材の再購買28.1%の減少
新規商材50.6%の増加

既存の取引は落ちる一方で、新しい商材の売上は増えるという結果です。研究チームの説明では、担当が替わると、新しい担当者と顧客があらためて知り合い、互いの取引の機会を探り直すきっかけが生まれます。後任が前任と違う経験や業界の知識を持っていれば、顧客がほかの商材を知るきっかけにもなるという説明です。

総売上への影響を大きく左右しているのは、交代の前の関係と、交代の後の関係づくりです。顧客がそれまでの取引から高い価値を得ていて、この先の価値も見込んでいる場合、顧客が交代のあとも取引を続け、広げようとする動機は強くなります。後任が関係づくりに長けていれば、その意欲はさらに高まるという結果です。研究では、交代の前の関係がよく、後任も関係づくりに長けているという条件がそろったとき、総売上が28.9%から41.1%増えると推定されました。

研究チームは、担当を意図的に交代させれば売上が伸びると結論づけないよう、経営者に強く求めています。総売上が増えるのは、関係の条件が整い、適切な後任を配置できる場合に限られるという注意です。

分かれ目はどこにあるか

2つの研究を並べると、分かれ目が見えてきます。

担当が持っていたのが「その人だけが知っている顧客の事情」であれば、交代とともに失われます。一方、担当が持っていたのが「会社として蓄積された文脈」であれば、後任へ渡せます。

Schmitz らも、先行研究をもとに、担当の交代は顧客についての知識を失わせ、顧客の信頼を弱めると説明しています。将来の取引についての不確実性を高めるおそれもあるという説明です。

Shi らの研究で業界の経験が近い後任のほうが損失を抑えられたのも、渡せる文脈の量が違うためだと私たちは考えています。Schmitz らの研究で総売上が増えたのも、交代の前から企業間の関係が強く、後任が関係づくりに長けている場合でした。

Schmitz らは実務への提言として、担当の退職や異動が近づいた段階で、その担当が受け持つ顧客を1社ずつ分析し、手を打つ順番を決めるよう勧めています。分析で見極めるのは、売上を失う危うさと伸ばせる余地です。既存の取引が大きく落ちると予測された顧客には、個別の対応や値引き、契約の更新などで、交代の前から企業間の結びつきを強めておくことも提言しています。

つまり問題の所在は、担当が辞めることそのものから少し離れたところにあります。問題になるのは、顧客との関係を支える情報や判断が、担当者個人の頭の中にしか残っていない状態です。

関係が個人に帰属している状態とは

たとえば、次のような情報が担当者個人にしか蓄積されていない状態です。

  • 先方のどの部署が、どの案件で発言力を持つか
  • 過去にどの提案が断られ、その理由は何だったか
  • 先方の担当者が個人として何を大事にしているか
  • 取引の中で起きた失敗と、その後の対応

CRMの定型項目に残せるのは、商談の進捗や決定事項までです。その背景にある判断や、顧客企業の社内の力関係は、誰かが自由記入の欄に書き込まない限り、記録に残りません。

顧客から見た会社への評価が、担当者その人を通して形づくられていることを示す研究もあります。韓国で銀行や保険、百貨店などのサービスを利用した199人を調べた2020年の研究では、担当者と接した回数は、会社への満足に直接は結びついていませんでした。接した回数は、担当者への満足を介して、会社への満足と結びついていたという結果です。

BtoBの購買の構造は、Gartner が少なくとも2021年から2023年まで、自社のサイトで紹介していました。複雑なBtoBの商材を買う場合、購買グループには6人から10人の意思決定者が含まれ、それぞれが独自に集めた4点から5点の情報を持ち寄ります。買い手が購入を検討する時間のうち、取引候補の会社と会う時間は17%です。複数の会社を比べている場合、1社の営業担当と過ごす時間は5%から6%にとどまるとされていました。

Gartner が2025年6月に公表した調査(2024年8月から9月、BtoBの買い手632人)では、61%が、購買のプロセス全体では、営業担当者を介さない購買体験を好むと回答しました。それでも、商品やサービスが自社に合うかを見極めるような、状況の理解が要る場面で買い手が求めていたのは、営業担当の意見です。

会社として関係を持つとはどういうことか

顧客との関係を会社の資産として残す方法として、ここでは2つを挙げます。

1つ目は、接点を持つ人を増やすことです。営業担当のほかに、技術の担当者や経営層が先方と会う場面を作ります。ただし、双方が追加の時間を割かなければ、この方法は続けられません。

2つ目は、関係の記録を会社の資産として残すことです。顧客側が重視する判断の基準や、その背景を、担当個人のメモから会社が持つ形へ移していきます。

2つ目の方法で使えるものの1つが、取材です。顧客側の経営者や担当者に話をうかがい、その内容を記録として残します。記録は会社の側に残るので、担当が交代したあとも、後任が顧客の理解をゼロから作り直す必要はありません。

取材の依頼が受け入れられやすい理由は、関連記事「取材の依頼はなぜ通るのか」で解説しています。

担当者が去ったあと、連絡が途切れた顧客との関係を立て直す方法は、関連記事「連絡が途切れた顧客と、もう一度つながる」にまとめました。

番組という形で関係を会社に残す

ポッドキャストの番組を持っている会社は、この記録を定例で作れます。

週1回配信で年48本の番組を持つ会社は、取引先の出演の承諾を得て、そのうち12回を取引先を招く回に充てられます。そうすれば、1年で最大12社の取引先について、先方の言葉による記録が残る計算です。

文字の議事録では、結論や決定事項が中心になりやすく、会話の間や声の強弱、ためらいといった手がかりは残りにくくなりがちです。音声であれば、先方がどの話題で言いよどんだか、どこに力を込めたかまでが残ります。後任が先方と向き合う前に聴き返し、話を進める手がかりにできるのも、この声の記録です。

音源は Spotify、Apple Podcasts、Amazon Music、KOEGURA の4媒体へ掲載されますので、社内の誰でも同じものを聴けます。

引き継ぎのときに何が渡せるか

番組があれば引き継ぎがうまくいく、という単純な話でもありません。

Shi らの研究が示しているのは、業界の経験が近い既存の担当者のほうが損失を抑えられた、という点です。記録があっても、後任がその文脈を読み解き、先方とあらためて信頼を築いていかなければ、関係は引き継げません。Schmitz らも、交代のあとの担当者には、顧客を深く知り、信頼を得るための、これまで以上の努力が求められると書いています。

それでも、引き継げるものが増えることが結果を分ける、と私たちは考えています。担当の頭の中にしかなかった文脈のうち、記録として引き継げる部分が広がるためです。

引き継ぎの前に、先方の経営者へ1本の取材を申し込む形もあります。前任と後任が2人で同席し、その回を最後の共同作業にする進め方です。

代が替わるときに何が消えるかは、代替わりとともに消える知恵をどう残すかをご覧ください。

取引先との関係を番組として会社に残したい場合は、アストライドの「既存顧客との関係づくりに音声を活用する」をご覧ください。

まとめ

2017年の研究では、営業担当が交代したあと、その顧客との年間売上が13.2%から17.6%減っていました。新たに採用した営業担当に引き継いだ場合は、社内の既存の担当者に引き継いだ場合より、損失を抑えにくい結果です。過去の成績が高い担当者に引き継いでも、損失を抑える効果は高くありませんでした。

ただし、交代が必ず損失になるとも限りません。欧州の物流企業のBtoB顧客2,040社を4年分のデータで追った研究では、既存商材の再購買が28.1%減る一方、新規商材の売上が50.6%増えていました。交代の前の関係がよく、後任が関係づくりに長けている条件では、総売上が28.9%から41.1%増えると推定されています。

分かれ目にあるのは、関係を支えていたものがどこに置かれているかです。担当の頭の中にしかなければ、交代とともに失われます。

顧客との関係を会社の資産として残す方法の1つが、先方の言葉を記録として残すことです。音声という形の記録であれば、どの話題で言いよどんだかという情報も後任へ引き継がれます。

主要な取引先を1社選び、その会社について「担当者以外の誰が、どの情報を把握しているか」を書き出してみてください。書き出せない情報や、担当者本人に聞かなければ分からない情報が、いま個人に預けている部分にあたります。

この記事からわかるQ&A

営業担当が辞めると、顧客の売上はどれくらい落ちますか

2017年に Journal of Marketing で発表された研究があります。分析の対象は、米国の電気部品の卸売企業1社(Fortune 500 に入る大企業)のBtoBの顧客データで、手法は差分の差分法です。営業担当が交代したあと、その顧客との年間売上は13.2%から17.6%減っていました。新たに採用した営業担当に引き継いだ場合は、社内の既存の営業担当に引き継いだ場合より、損失を抑えにくい結果でした。

後任は誰にするのがよいですか

同じ研究では、新たに採用した営業担当よりも、社内の既存の営業担当に引き継いだ場合のほうが、売上の減少は相対的に小さくなっています。既存の担当者のなかでも、辞めた担当と過去の業界の経験が近い人のほうが効果は高い結果です。過去の成績が高い人に引き継いでも、損失を抑える効果は高くありませんでした。

担当交代は必ず損失になりますか

必ず損失になるとは限りません。2020年に掲載された縦断研究は、欧州の大手物流企業のBtoB顧客2,040社を4年分のデータで追っています。既存商材の再購買売上は28.1%減る一方で、新規商材の売上は50.6%増えていました。交代の前の関係がよく、後任が関係づくりに長けている条件では、総売上が28.9%から41.1%増えると推定されています。なお、研究チームは、担当を意図的に交代させれば売上が伸びると結論づけないよう注意を促しています。

属人化はCRMを入れれば解消しますか

CRMの定型項目に残せるのは、商談の進捗や決定事項までです。先方のどの部署が発言力を持つか、過去にどの提案がなぜ断られたか、先方の担当者が個人として何を大事にしているか。この3つは、誰かが自由記入の欄に書き込まない限り残りません。記録の形そのものを変える必要があります。

音声で記録すると何が違いますか

文字の議事録では、結論や決定事項が中心になりがちです。音声であれば、先方がどの話題で言いよどんだか、どこに力を込めたかという情報まで記録に残ります。週1回配信で年48本の番組のうち、取引先の出演の承諾を得て12回を取引先を招く回に充てると、1年で最大12社ぶんの記録が会社に残る計算です。

出典

  • Shi, H., Sridhar, S., Grewal, R., & Lilien, G. L. (2017). “Sales Representative Departures and Customer Reassignment Strategies in Business-to-Business Markets.” Journal of Marketing, 81(2), 25–44. Fortune 500 に入る企業1社の顧客データを、選ばれ方の偏りを補正した差分の差分法で分析。営業担当の交代で年間売上の13.2〜17.6%が失われた。新規採用者は既存の営業担当より損失を抑えにくく、辞めた担当と過去の業界経験が近い既存の担当者のほうが有効だった。過去の成績が高い担当者は、平均的・低い担当者より有効ではなかった https://doi.org/10.1509/jm.15.0358
  • Schmitz, C., Friess, M., Alavi, S., & Habel, J. (2020). “Understanding the Impact of Relationship Disruptions.” Journal of Marketing, 84(1), 66–87(オンライン公開 2019年10月28日). 欧州の大手物流企業1社のBtoB顧客2,040社・2012〜2015年の取引記録、購買担当者273人への調査、購買・営業の管理者11人へのインタビュー。Shi ほか(2017)の対象を米国の電気部品の卸売企業(交代を経験した顧客830社、経験していない顧客1,615社)と整理している https://doi.org/10.1177/0022242919882630
  • Schmitz, C., Friess, M., Alavi, S., & Habel, J.「How to Protect B2B Customer Relationships After Sales Staff Departures」American Marketing Association, 2019年10月30日. 著者による研究の解説。既存商材の再購買売上28.1%減、新規商材の売上50.6%増、好条件で総売上28.9〜41.1%増。意図的な交代を確実な増収策と結論づけないよう注意し、交代の前に会社間の結びつきを強めるよう提言 https://www.ama.org/2019/10/30/how-to-protect-b2b-customer-relationships-after-sales-staff-departures/
  • Gartner「The B2B Buying Journey」(2023年6月時点の掲載内容。インターネットアーカイブで確認。2024年以降の同ページには掲載なし). 複雑なBtoB商材の購買グループには6〜10人の意思決定者が含まれ、それぞれが独自に集めた4〜5点の情報を持ち寄る。購入の検討時間のうち取引候補の会社と会う時間は17%、複数社を比べる場合に1社の営業担当と過ごす時間は5〜6% https://web.archive.org/web/20230601053137/https://www.gartner.com/en/sales/insights/b2b-buying-journey
  • Gartner「Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience」2025年6月25日. 2024年8〜9月、BtoBの買い手632人の調査。61%が全体として営業担当を介さない購買を好む一方、自社に合うかを見極めるような状況の理解が要る場面では営業担当の意見を求める https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-06-25-gartner-sales-survey-finds-61-percent-of-b2b-buyers-prefer-a-rep-free-buying-experience
  • Jung, L., & Park, S. (2020). “The effect of contact frequency with customers on relationship satisfaction.” Global Business & Finance Review, 25(3), 75–83. 韓国で銀行・保険・クレジットカード・百貨店などのサービスを利用した199人の調査。接触の頻度は会社への満足に直接は結びつかず(β = −.006)、担当者への満足を通じて結びついた(間接効果 β = .165) https://doi.org/10.17549/gbfr.2020.25.3.75
  • アストライド「ポッドキャストで新規開拓に取り組む|取材依頼から商談までの設計」CBN伴走支援の運用条件(2026年8月時点) https://ast-ride.com/service/service-podcast/networking/
  • アストライド「ポッドキャスト制作・運用代行 月15万円〜|収録は月1回|三重・全国対応」配信頻度別の年間本数・配信先4媒体(2026年10月6日に確認) https://ast-ride.com/service/service-podcast/

この記事の著者

纐纈智英

纐纈智英アストライド-Astride- 代表

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「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。

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