HomePodcast Programガンジス川でスクロール#22 パンツまで脱いだ相手に、もっと脱げとは言えない ── 買ってもらう側から見た調達
ガンジス川でスクロール 2026.08.27 23分11秒

#22 パンツまで脱いだ相手に、もっと脱げとは言えない ── 買ってもらう側から見た調達

内藤健司

メインMC

纐纈智英

MC

今日のテーマは「サプライヤーから見た調達」です。8月ひと月をかけて話してきた調達の最終回。内藤健司さんはアイシンでは買う側に、KPMGでは買ってもらう側に立ってきました。今回は後者、つまり売り込まれる側ではなく売り込む側から見た景色です。開口一番の言葉は「めっちゃ舐められてますよ」。大手の調達担当者に寄ってくるのは、その人ではなく会社の看板です。では、その看板の下で何を売ればいいのか。

このエピソードで話していること

  • トヨタ、アイシン、デンソーといったビッグネームには、仕事をしたい人が向こうから寄ってくる。アパレルでファーストリテイリングに営業が集まるのと同じ構造で、その人と取引したいのではなく、その会社と取引したいから来ている。ところが本人は、自分がすごいから寄ってきていると勘違いしてしまう。そんなにあなたのことを見てはいませんよ——そこを理解できると、コミュニケーションの取り方が変わる
  • 内藤健司さんが23歳のとき、OJTでついた定年間近の先輩に毎日言われ続けた言葉がある。いま電話を取ってくれただろう、なんでか分かるか、お前がアイシンだからだぞ。メールが返ってくるのも、車のローンが低金利で組めたのも同じ理由だ。お前の実力は何もない。人格否定にも聞こえるが、会社の看板は外せない以上、会社ではなく自分を売るしかないと気持ちが変わった。当時20代後半だった取引先の相手が、いまは社長や副社長になっていて、電話一本、LINE一本で話せる関係が残っている
  • 人として好かれると、理屈ではないところでプラスが出る。本当はいくらでやれるのかという「本当のところ」は、本当に仲良くならないと聞けない。しかも聞いた話は上司には言えない。自分の中で留めておける人間関係がなければ、バラしやがってと信頼はゼロになる。逆にそこが成り立てば、アイシンの内藤さんだからではなく、内藤さんだからここまで喋る、という関係になる
  • サプライヤー側の状態を、服にたとえて話す。うちは腹を全部見せる、パンツまで脱ぐからあとはうまくやっといて、と限界まで出してくる相手がいる。Tシャツも靴下も手袋まで脱いだら不審者なので、服を着せてあげる。余裕のあるときはコートまで着られて、コートが着られたなら次の合理化のときに脱げる。逆に、パンツも履いていない相手に、もっと脱げと言っても無理な話。そういう関係を上手に作れる調達が、サプライヤーから一番ありがたがられ、この人に偉くなってほしいと思われる
  • 調達の仕事は、サプライヤーの利益が上がるように動くこと。買い叩くのではなく、ともに発展していくためのハブになる。一番喜ばれるのは、数が出る車の仕事を高い単価で発注すること。余剰資金がなければ、どの会社も新しい設備を買うことも新しい挑戦をすることもできない。自社の原価率を考えるのは原価の担当、自社の品質を考えるのは品質課で、サプライヤーのことを考える理由があるのは調達だけ。理論値ではまだ高いですね、と言うだけの作業なら、その仕事に学歴は要らない。付加価値は人間関係の構築であり、調達が動いていいよと言える組織であってほしい

こんな方におすすめ

  • 大手メーカーの調達・購買部門で働いている方、これから配属される方
  • 大手企業に部品や資材を納めている、サプライヤー側の経営者・営業担当
  • 価格交渉が毎回同じところで止まってしまう、と感じている
  • 製造業のサプライチェーンを、コストではなく関係の側から見直したい
  • 大手企業の看板の下で、自分は何を積み上げているのかを考えたい

このエピソードからわかるQ&A

サプライヤーから見ると、大手の調達担当者はどう映っていますか?

率直に言えば「舐められている」と内藤健司さんは話します。トヨタやアイシン、デンソーといった会社には仕事をしたい人が向こうから寄ってきますが、それは会社の看板があるからで、その人と取引したいわけではありません。そこを取り違えると、コミュニケーションがずれていきます。

「お前の実力は何もない」とはどういう意味ですか?

内藤健司さんが23歳のとき、OJTでついた先輩から毎日言われた言葉です。電話を取ってもらえるのも、メールが返ってくるのも、車のローンが低金利で組めるのも会社のおかげだ、という指摘でした。会社の看板は外せない以上、会社ではなく自分を売るしかないという意識に変わったといいます。

サプライヤーと本音で話せる関係は、どうすれば作れますか?

本当はいくらでやれるのかという話は、本当に仲良くならないと聞けません。しかも聞いた内容は上司に言えないことが多く、自分の中で留めておける関係が前提になります。話がそのまま社内に広がってしまえば、信頼はゼロになります。

エピソード内で出てくる「服」のたとえは何を指していますか?

サプライヤーがどこまで原価を開示し、どこまで値下げの余地を残しているかを服にたとえた表現です。パンツまで脱ぐ=限界まで出している状態、コートを着られる=次の合理化のときに脱げる余地がある状態を指します。パンツも履いていない相手に、もっと脱げとは言えません。

調達の付加価値はどこにありますか?

人間関係の構築です。理論値ではまだ高いですね、と伝えるだけの作業なら、その仕事に高い学歴は要りません。自社の原価率を考えるのは原価の担当、自社の品質を考えるのは品質課で、サプライヤーの利益を考える理由があるのは調達だけだからです。

メインMC

内藤健司

みなりパートナーズ株式会社 代表取締役

https://minari-partners.co.jp/

アイシン(旧アイシン精機)で13年間、製造業の調達業務に従事。うちインド駐在4年を含む現場経験を持つ。その後KPMGコンサルティングでシニアマネージャーとして5年間を経て、2025年に独立。現在はサプライチェーン戦略・調達コスト削減・インド北部における業務支援を専門とする。インド企業・インド人との直接的なパイプを持ち、日本人ネットワーク経由ではない現場のリアルを知り尽くした実践者。美術学生サポート財団 理事長。著書に『それでもWin-Winなコンサル転職』。

MC

纐纈智英

アストライド-Astride- 代表

「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。

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