#36 ボツ案は、誰のものか ── 「もったいないから」で手をつけない
的場仁利
メインMC
纐纈智英
MC
今日のテーマは「コンペで不採用になった案の権利」です。せっかく出してもらったのだから、気に入った部分だけ採用案に足そう。別のデザイナーにこの要素を組み込んでもらおう——悪気なく、なんとなく行われてしまうことがあります。ですが的場仁利さんは、ボツ案の権利は当然デザイナー側に残っていると言います。しかも著作者人格権は、そもそも譲渡できません。募集要項の一文が、いいつくり手を遠ざけていることがあります。
このエピソードで話していること
- 冒頭は8月5日に東京・大崎で開かれたAdobe Community Expertのサマーミートアップ2026の報告。日頃からAdobe製品の啓蒙やサポートコミュニティでの支援をしている人たちが年に2回、全国から集まる会で、北海道からも京都からも参加者が来ていた。的場仁利さんは登壇し、纐纈智英は第一人者たちの凄みを前に、自分にできる部分をしっかりやろうと考えたという
- 不採用になった提案に対して、もったいないので気に入った部分だけ採用案にプラスして使おう、別のデザイナーにこの要素を組み込んで使ってもらおう——そういうことが悪気なく行われる。だが形になったものもならないものも、アイデアやクリエイティブの権利は生み出した側に帰属するのが本来の形で、ボツ案の権利は当然デザイナーの側に残っている。軽い気持ちで流用すると、知らず知らずのうちに応募してくれた方の権利を軽視することになる
- 的場仁利さんが所属する公益社団法人日本グラフィックデザイン協会(JAGDA)の権利保全委員会は、「コンペティションのガイドライン」という冊子を作っている。要点は2つに尽きる。金額——採用になった場合の報酬が正当なものであるか。そして権利。応募作はすべて当社の権利になります、著作者人格権も買い取ります、といった条件になっている場合が結構あるが、人格権はそもそも譲渡できないものなので根本的におかしい。主催する側も応募する側も「そういうものなのかな」と思ってしまうと問題になる
- 混同されているものが2つある。ひとつは、業者を選定するためのコンペなのか、クリエイティブを採用するコンペなのか。業者選定なら入札に近いが、入札のイメージのままクリエイティブを募っているところが多い。もうひとつは、社内の従業員からアイデアを集める場合との違いで、これはインハウスなので混ぜて使ってよい。大事なのは要件を明確に書き出して示すこと。応募する側にも伝わり、広く募ってより良い形にしていける
- その企業にとっては常識でも、世の中の常識は別にある。広告系の仕事をしているデザイナーの集まりでは、あそこのコンペはやばい、という話で持ちきりになる。悪意なく進めた施策が、お酒のつまみにされている状態は避けたほうがいい。目に見えない価値を尊重することが巡り巡って自社の信頼につながり、デザイナーに限らず協力会社と長く良い仕事を作っていける企業になっていく
こんな方におすすめ
- デザインやアイデアのコンペを主催している、企業の担当者・自治体やイベントの事務局
- 募集要項に「応募作の権利は当社に帰属」と書いてよいのか迷ったことがある
- 不採用になった提案を、もったいないから活かせないかと考えたことがある
- コンペに応募するかどうかを、条件を読んで判断しているデザイナー・制作者
- 社内公募と外部コンペを、同じ感覚で運用してしまっている
このエピソードからわかるQ&A
コンペで不採用になった案の権利は、誰にありますか?
生み出したデザイナー側に残ります。形になったものもならないものも、アイデアやクリエイティブの権利は生み出した側に帰属するのが本来の形です。主催者が採用したのは採用案であって、不採用案の権利まで手に入れたわけではありません。
ボツ案の良い部分だけを、採用案に足して使ってもいいですか?
権利者の許諾なしに行うべきではありません。もったいないから、いいものにしたいからという善意で行われがちですが、応募してくださった方の権利を軽視することになります。仕組みが知られると、ちゃんとしたクリエイターから距離を置かれる可能性もあります。
募集要項に「応募作の権利はすべて当社に帰属」と書いてもいいですか?
著作者人格権については根本的に成り立ちません。人格権は譲渡できない権利だからです。JAGDAの「コンペティションのガイドライン」でも、報酬が正当かという金額の問題と並んで、権利の書き方が要点として挙げられています。
業者を選ぶコンペと、クリエイティブを選ぶコンペは違いますか?
違います。業者選定は入札に近い性質ですが、入札のイメージのままクリエイティブを募っている主催者が少なくありません。どちらの目的なのかを明確にし、要件を書き出して示すことが大切です。
社内の従業員からアイデアを集める場合も、同じ扱いになりますか?
別物です。インハウスであれば集めたアイデアを混ぜて使ってかまいません。外部に広く募るコンペと社内公募を同じ感覚で運用してしまうと、混乱のもとになります。
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メインMC
的場仁利
Mat N. Studio代表
https://japan-designers.jp/profile/1453/
タイポグラフィーの論客として、多数のデザイン書に携わる。高校でデザインを学び、大学で技術経営を専攻。営業職として年間1億円超の案件を担当した経験も持つ。現在は本・冊子・パッケージのデザイン、タイポグラフィ執筆を手がける傍ら、浮世絵・春画をモチーフにしたアートプロジェクト「艶絵グレース」のクリエイティブディレクターを務める。中部デザイン協会75年誌のブックデザイン・編集に携わるなど、デザインと経営の両面に精通。公益社団法人日本グラフィックデザイン協会会員、アドビ コミュニティエキスパート。
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纐纈智英
アストライド-Astride- 代表
「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。
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私たちアストライドは、経営者のインタビュー映像の制作に圧倒的な強みを持っています。
課題や要件が明確でなくても問題ございませんので、お気軽にご相談ください。
アストライドは、代表・纐纈が200社以上の経営者インタビューで培ってきたノウハウと対話力を軸に、BtoBマーケティングの視点からクライアント様それぞれのステージに合わせた各種クリエイティブをご提案・制作します。

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