HomePodcast Programデザイン審美眼#33 その契約書で、いいデザイナーは黙って去る ── 知的財産権の扱い方
デザイン審美眼 2026.08.13 14分56秒

#33 その契約書で、いいデザイナーは黙って去る ── 知的財産権の扱い方

的場仁利

メインMC

纐纈智英

MC

今日のテーマは「契約と知的財産権」です。デザインと契約の第3回、的場仁利さんが「一番シビアな話」と前置きして語ります。結論は、すべてを買い取ろうとするのは正解ではない。知的財産に関する法律の本来の意図は、企業の中に囲われた知恵を社会に出してもらうことにあり、デザイナーの権利を守るためでも、企業が独占するためでもありません。そして企業に都合のいい契約書を見た上質なクリエイターは、何も言わずに取引を見送る。それが一番の損失だという話です。

このエピソードで話していること

  • 知的財産に関する法律の本来の意図は、企業の中に独占されている知恵を社会に出してもらい、国を活性化させること。そのために一定期間の独占的な権利を与えている。「デザイナーの権利を守るため」も「企業が独占するため」もズレた理解で、本当に独占したいなら特許は申請しない方がいい
  • 権利には財産権と人格権の2つがある。財産権はビジネスのためのもので、複製権や公衆送信権が含まれる。人格権はデザイナーの尊厳を守るもので、公表権・氏名表示権・同一性保持権があり、販売も譲渡も相続もできない
  • ところが実際の契約書は「一切の権利は発注者に完全に移転する」「著作者人格権を行使しない」と一律に書かれていることが多い。本来引き剥がせないはずの権利まで引き剥がせるかのような内容になっている契約書が、企業側から出てくるもののほとんどを占める
  • 買取か利用許諾かの判断基準は、権利を持つことではなく「その成果物で自社がどう展開するか」という目的。ロゴや基幹システムのUIなど、将来自社のコア資産になり他社へのライセンスもありうるものは買取や権利譲渡。キャンペーンや広告、特定の媒体でしか使わないイラスト・写真は利用許諾にとどめる
  • 買取や権利不行使にはプラス料金がかかり、コストが上がる。さらに権利を持てばトラブルも引き受ける——そのイラストが似ていると争いになったとき、対応するのは権利者である自社。上質なデザイナーは契約書を見て「ここを書き換えてください」と言ってくるか、何も言わずに取引を見送る。後者こそが一番の損失

こんな方におすすめ

  • デザイナーやクリエイターに外注している経営者・発注担当の方
  • 自社の業務委託契約書の権利条項を、一度見直したい
  • 「お金を払ったのだから権利は自社のもの」と考えてきた
  • 著作権と著作者人格権の違いを整理したいデザイナー・クリエイター
  • 優秀なクリエイターとの取引がなぜか続かないと感じている

このエピソードからわかるQ&A

知的財産に関する法律は、何のためにあるのですか?

企業の中に独占されている知恵を社会に出してもらい、国を活性化させることが本来の意図です。出してもらう代わりに一定期間の独占的な権利を与えています。「デザイナーの権利を守るため」「企業が独占するため」という理解は、どちらも本来の趣旨からはズレています。

財産権と著作者人格権は何が違うのですか?

財産権はビジネスのための権利で、複製権や公衆送信権が含まれ、譲渡できます。著作者人格権は制作者の尊厳を守るための権利で、公表権・氏名表示権・同一性保持権があり、販売も譲渡も相続もできません。

成果物の権利は買い取るべきですか、利用許諾にとどめるべきですか?

判断基準は「その成果物で自社がどう展開するか」という目的です。ロゴや基幹システムのUIなど将来的に自社のコア資産になり、他社へのライセンスもありうるものは買取や権利譲渡。キャンペーンや広告など特定の媒体でしか使わないものは利用許諾にとどめるのが基本です。

権利をすべて買い取ると、どんなリスクがありますか?

まず買取や権利不行使にはプラス料金がかかり、コストが上がります。さらに権利者となることでトラブルも引き受けます。たとえばその成果物が他の作品と似ていると争いになった場合、対応するのは権利を持つ自社です。

契約書のどこを見直せばよいですか?

「一切の権利は発注者に完全に移転する」「著作者人格権を行使しない」といった一律の条項です。本来引き剥がせない権利まで含んでいないか確認します。上質なクリエイターは契約書を見て何も言わずに取引を見送ることがあり、それが企業にとって一番の損失になります。

メインMC

的場仁利

Mat N. Studio代表

https://japan-designers.jp/profile/1453/

タイポグラフィーの論客として、多数のデザイン書に携わる。高校でデザインを学び、大学で技術経営を専攻。営業職として年間1億円超の案件を担当した経験も持つ。現在は本・冊子・パッケージのデザイン、タイポグラフィ執筆を手がける傍ら、浮世絵・春画をモチーフにしたアートプロジェクト「艶絵グレース」のクリエイティブディレクターを務める。中部デザイン協会75年誌のブックデザイン・編集に携わるなど、デザインと経営の両面に精通。公益社団法人日本グラフィックデザイン協会会員、アドビ コミュニティエキスパート。

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纐纈智英

アストライド-Astride- 代表

「左脳と右脳のハイブリッド」を武器に、人の心の深層に迫るインタビュアー。行政職員として12年間、予算編成や徴収業務に従事した論理性と、音楽コンテストでグランプリを受賞した芸術的感性を併せ持つ。Adobeコミュニティエキスパートとして活動。これまでに200社以上の経営者インタビューを重ね、本人すら気づいていない「言葉にならない想い」を引き出し、ひとつの物語として残してきた。

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